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「うーん、久々の休暇は良いな」
条約締結に向けた秘密会議から一日が経過した。
明日はブルムンド王と条約を締結するための会議があるし、今日ぐらいは休んでも怒られないだろう。
とはいえ、前世と違ってテレビもスマホもないこの世界では、町を散歩するくらいしかやることがなさそうだ。
まあ、それはそれで他国の文化を知る良い機会になるだろう。
「国に帰ったら、娯楽を増やすのもありかもしれないな」
娯楽が発展すれば人々の満足度も上がるだろうし、何より経済が活発になって国の利益も増すことになる。
お互いに利益があるのだから、俺の身勝手な行動だとは思われないはずだ。
「まあ、詳しいことは国に帰ってからタケルと話そうか……ん?誰だ?」
「私よ、リムルさん」
「俺たちもいるぜ」
部屋のドアをノックする音が聞こえたので、誰かと思えばエレンたちだった。
それにしても、こんな朝早くから一体何の用だ?
「今日は特に用事がないなら、お祭りに行かないかって誘いに来たの」
「お祭り?町が慌ただしい様子なのはちらほら見かけたけど、祭りを開くような雰囲気には見えなかったぞ?」
「まあ、確かにそうよね。一応、お祭りという名目ではあるけど、元々は祈りを捧げるための儀式だったらしいし」
ふーん、儀式か……
前世では儀式と聞くと、何かと厄介なことに巻き込まれるイメージがあったからな。
今では祭りとして形骸化しているようにも思えるが、それでも少し気になるところではある。
「何より、この儀式はタケルさんたち【三賢人】が始めたものなのよ」
「えっ!? それを早く言ってくれよ!!」
儀式の詳しい内容は知らないが、そうと分かれば参加しない理由がなくなってしまったじゃないか。
この儀式について調べれば、もしかしたらタケルの行動原理を理解する手掛かりが得られるかもしれないからな。
「じゃあ、お祭りに参加するってことで決まりね?」
「今日は色々な国から商人が集まるから、美味い飯もたくさん食えるっすよ」
ふーん。元々は儀式だったものが祭りになっただけあって、商売に目ざとい商人たちにとっても稼ぎ時というわけか。
そうなると、屋台を巡るだけでもかなり楽しめそうだな。
「よし、分かった。行くとしようか」
「良かった! 私たちだけじゃ高くて買えないものもあったから、ようやく食べられるわ!!」
「よし、これでようやく目当てのものが食えるっす!!」
……いや、屋台を巡るとは言ったが、別に奢るとは言ってないぞ?
今日開催されるという祭りは、イースター祭というものらしい。
元々は、イースターと呼ばれる不思議な力が宿っているという巨大な石に祈りを捧げる、月に一度の儀式だったそうだ。
ちなみに、ブルムンド王国だけで行われるわけではなく、毎月開催する国を変えて行われているらしい。
当初は祈りを捧げるだけの静かな儀式だったため、人は集まるものの厳かな雰囲気の中で執り行われていたという。
しかし、毎月のようにタケルを支持するファンがこぞって集まるようになったためか、いつしか商人たちまで集まるようになり、今では祭りとして大々的に開催されるようになったんだとか。
「まあ、とにかくこの時期は美味しい料理が食べられるんすよ」
「私もこのために頑張って稼いだと言っても過言じゃないわ!!」
いや、お前たちの稼ぎって、俺たちから横流しされたものを売って得た金が大半だろ。
まあ、そのためには危険なジュラの大森林を歩かなければならなかったわけだし、それなりに苦労はあったのかもしれないが。
「と、とにかく、早速色々食べてみましょうよ!」
「俺、スシが食べたいっす!!」
……ん? 今、スシって言ったか?
俺の聞き間違いでなければ、日本でもお馴染みの…あの寿司だよな?
「あっ、寿司っていうのはっすね、こう……ご飯の上に魚の切り身を乗せて握ったものっすよ」
「滅多に食べられないけど、その分すっごく美味しいのよ!!」
はい、俺の知っている寿司で確定しました。
日本人がちょくちょくこの世界に来ているらしいし、寿司が広まっていてもおかしくはないか。
「早めに行かないと売り切れちゃうのよ」
「そうなのか。なら、早く行かないとな」
その言葉を合図に、俺たちは素早く身支度を整え、寿司が売られているという屋台へと向かった。
寿司屋というイメージからはかけ離れたテントのような簡素な屋台だったが、開店までまだ二時間もあるというのにすでにかなりの行列ができていた。
どうやら相当な人気店らしい。
「多分、いつも通りならまだ買えるはずよ」
「そうか……なら、楽しみだな」
それから開店して自分たちの順番が来るまで、俺たちはこの国について色々と話していた。
あそこのパン屋が美味しいだとか、あそこの質屋は詐欺まがいのことをしているだとか、そんな他愛もない話だ。
ありふれた日常の一幕。
それでいて、この世界で暮らす人々の生活を感じられる時間は、思いのほか楽しかった。
俺が人間だったらこういう生活を送るのも悪くなかったかもしれない。
……そんなことを思ってしまうくらいには。
「リムルさん、順番が来たわよ」
「あっ、ああ、そうか」
どうやら、少し妙なことを考えてしまっていたらしい。
今はひとまず忘れておこう。
ここの寿司屋では寿司セットのみを販売しているらしく注文に時間がかからない分、思ったよりもスムーズに順番が回ってきた。
セットの量も他の屋台の料理を食べられるようにという配慮なのか、それほど多くはない。
「いただきます」
白い身が美しい寿司ネタに醤油を数滴垂らし、口の中へと運ぶ。
脂がとろけて、とても美味し……
……ん?
いや、待てよ。
なんだか、酢の風味が強くないか?
どうしてだ?
【解。魚を長期保存するため、酢で締めているものと思われます】
ああ、そういうことか。
なるほど、保存技術が発達していないこの世界では、魚を酢で締めることで長持ちさせているわけだ。
これはこれで工夫が凝らされているし、十分美味しい。
美味しいんだが……やっぱり、寿司は生の魚で食べたいよな。
そのうち生魚を素早く、かつ安全に運べる仕組みを整えてみるのもいいかもしれない。
「まったく、こんな予想外のところでホームシックにさせられるとはな……」