“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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第一章(14)こうして家族は死んでいく

(っ……ワーニス――?)

 

 彩李との戦闘中、ミアは初めて意識を外側へと向けた。

 その方向は――ワーニスやアリファと一緒に、よくピクニックに行っていた山の方向だ。

 

 そこから……スッ――と、不意に何かが消える(・・・・・・)ような感覚を覚えた。

 否……何かが、ではない――これは魔力だ。

 ――自分の知っているワーニスの魔力が消えた感覚だ。

 

(いや……まだ少しだが魔力が残って――)

 

「――ぁあ……ッ!!」

 

 ミアの思考を裂くように彩李が剣を振るってくる。

 ワーニスの事が気掛かりで動きが鈍くなっているのか防ぎ切れずに体を数ヶ所裂かれてしまう……チッ、と舌打ちし、後方へと飛び退く。

 

「……悪いな、急用ができた――!」

 

 魔力の球が撃たれ、彩李はソレを切り裂こうと剣を振るうが……当たる直前にカッ――! と、まるで閃光弾のように弾ける。

 

「!? これは――?」

 

 数秒間の閃光。

 目元を覆っていた腕を退()けて辺りを見渡すが、ミアの姿はもう何処にもない。

 

「……引いたのか? ……急用ができた、とは言ってたが……」

 

 ふぅ、と深呼吸をし、剣や黒衣を消滅させる。

 ……戦場跡を見渡すが、人はもちろん、建物にも一切の被害はなかった。

 被害があるのは地面のコンクリートくらいだ……目的以外には危害を加えないミアらしい戦いの跡と言えよう。

 

「メイナは何かわかるか……?」

 

 先ほどから一言も発していない『中』にいる少女に声をかける。

 ……しかし、

 

「? ……メイナ?」

 

 声をかけても反応がない。

 気配は感じるので、『中』にいるのは確定なのだが……、

 

「どうした?」

 

『(――――。すまぬ彩李……今、集中していてな、あまり話せんのじゃ)』

 

「? わ、わかった……後でな」

 

          ◆

 

 彩李との念話を終えたメイナは集中を続ける……今までにない集中力で目を伏せている。

 

(……ミアとの戦闘中、遠くの方で強い魔力の反応があった……ワーニスやアリファ、ミアよりも強い……禍々(まがまが)しい魔力)

 

 その魔力の近くにはワーニスやアリファの魔力もある――不思議な事に、先ほどワーニスの魔力が一気に弱まった……ミアが戦いを止めたのはその時だった。

 

(それともう一つ……)

 

 魔力での判別が難しい……つまりは魔力を会得(えとく)していない人間だ――その人間の気配すらも禍々しい魔力の傍にある。

 

(誰かはまだわからんが……“嫌な予感”がするのう)

 

 嫌な予感……それに備える為に魔力や気配の事を感知し続ける――その為の集中だ。

 

「雲行きが怪しくなってきたのう……」

 

          ◆

 

「ワーニス!」

 

 一〇分もしないうちに(くだん)の山に辿り着いた。

 ……今にも消えようとしているワーニスの魔力はこの山にある。

 戦闘の痛みも、傷が広がるのも気に止めずワーニスを探し山の中を探し回る。

 

「 ……   …………  ……、  ミ、……ア  」

 

 掠れた虫の(いき)だった……。

 背中に氷を差し込まれたような感覚にしがみつかれ、声のする方へと何度も転びそうになりながら駆けつける。

 木々を抜け、街を見下ろせる場へと辿り着く。

 

 そこは三人だけの秘密の場所。

 ミアにとっても、楽しかった記憶しかない思い出の場所。

 

「……………………あ…………」

 

 ……そこは真っ赤に変わり果てた秘密の場所。

 ミアにとっても、楽しかった記憶しかない思い出の場所は、二つに切り分けられた『彼』の上半身と下半身の切断面から溢れる血によって変色しており……ここが思い出の場所で――

 

「――ワーニスッ!!」

 

 ……その場で処理されたように死にかけているのがワーニスだとは信じたくなかった。

 

 感情に振り回されるまま上半身を抱き起こすも、瞳に生気など存在せず……血もほとんどが流れ出てしまったのか、切断面の鮮血(せんけつ)も傷口がこんなに開いていることなど嘘のように微量しか漏れでていなかった。

 

「ッ――!! くそ……! くそ……っ!! 何の冗談だ……ッ――ワーニス! しっかりするんだ、ワーニス!!」

 

「……ぁ……、っ、か……」

 

 普通ならばもう死んでいる出血量。

 しかし彼らはコルバにより生み出された魔物(まもの)

 血こそ出てはいるが、命とも言えるものは、この体を構成している『魔力』だ。

 だからこそまだ(・・)生きてはいる……が、この傷ではその魔力さえも大量に失われていく。

 

 こうして抱き起こしている上半身のみならず、

 離れたところに落ちている下半身からも……その形がボロボロに分解されるように――体から魔力が粒子となって(くう)に溶け消えているところを見ても、それは明らかだった。

 

 ……体を繋ぐ手段も、傷を防ぐ手段も彼らは持ち得ない……だから――

 

「げほっ! ぅ…………、死ぬ前に……来てくれて、よかったぜ……」

 

 ……彼は、ここで終わり(・・・)だ。

 

「死ぬ前、って……なに、バカな事を――」

 

「……聴け、ミア」

 

 苦しげに……しかし芯の通った声に言葉を止められてしまう。

 血生臭さに鼻腔(びこう)を侵される中、ワーニスの言葉を聴こうと何とか落ち着きを取り戻す。

 

「俺を、こうしたのは……コルバ、だ。

 アリファがコルバの指示で、仲の良い子どもの友だちを、人質として連れてくるように、言われたらしくてな……名前は……新芽(にいめ)恵弥(めぐや)、と言ったか……。

 でも……アリファは嫌だったらしくてな……俺が提案して、一緒に魔法少女のところへ(くだ)ろうとしたとこにコルバが現れて……はっ、助けようとした俺は、このザマだ……、が、うっ――!」

 

「ワーニス……っ!!」

 

 一際大きい吐血……それを顔面に浴びて……、

 ……さぁ……と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ――っ――」

 

 それが何を意味しているのか……同じ魔物であるミアにわからない筈がない。

 

「アイツらが何処へ行ったかはわからねぇ……だけど、このままにはしちゃおけねぇ……ッ――」

 

 流した血が固まり、鼻腔に粘りつく臭いが付着した手を胸元に置かれたミアの手に重ね……今にも呼吸が止まる、酸素を吸えなくなる喉から声を絞り出す。

 

「……頼む、ミア。

 アリファ(アイツ)を……俺たちの“妹”を、救ってくれ……」

 

 ……懇願(こんがん)であり、願い。

 無論、断ったりしない。胸に浮かぶのは肯定の意だけ。

 だけど、まるで()き止められたように喉元から言葉が出ない……、

 

「……っ」

 

 ……できたのは、その手を強く握り返すこと。

 それだけでも十分答えになったのか、ワーニスは安らかな笑みを浮かべて――

 

「……お前の泣いてるところ(・・・・・・・・・・)……初めて見たな(・・・・・・)――」

 

「……え?」

 

 悲しみ(ソレ)が、言葉の出ない理由だった。

 一度も泣いた事のないミアの……生まれて初めての、心を溶かすような悲しみ。

 

 家族を喪うというのはこういう事なのだと……、

 “言葉”よりも先に“涙”が溢れるのだと……埋まる事のない喪失感と共に、彼女は思い知った……。

 

「――――」

 

 光に変わっていく手で……最期(さいご)にワーニスはその涙を(ぬぐ)い、

 

「ぁ――――」

 

 消えていく最期の瞬間まで、ワーニスは微笑んでいて――

 

 

 

       ――“今は泣け(・・・・)”……。

 

 

 

 ……ミアを支える言葉を(のこ)して、

 ――――大切な家族は光となって消えた……。

 

「あ……あぁ……!」

 

 拭ってくれていた手を掴もうとするが……手遅れだと告げるようにすり抜けるだけ、

 体は消え、光は散り、確かに有った筈の温もりさえ冷めていく……もう、そこに……ワーニスという命は何処にも存在していなかった。

 

「……ワー……ニス……!」

 

 体から力が抜けていく。

 感じた事のない脱力感に全身を沈められ、だらん……と、行き場を失くした腕が左右に落ちる。

 しかし――こつん(・・・)、と……何かが指先に触れた。

 

「……これ、は……」

 

 千切れた鎖(・・・・・)

 ワーニスが武器としていた鎖だ。

 ……千切れたというよりは切り裂かれたと言うべきか。

 どうしてこうなっているのかなど、先ほどのワーニスの言葉から推測すれば明らかだ。

 

「コルバ――ッ」

 

 ギリ……ッ! ……歯が欠けんばかりに噛み締める。

 (あるじ)が死に、自らも後を追おうとしている鎖を強く握り、

 

「……お前もやるせないだろう……ワーニス……っ」

 

 自身の魔力を流し、鎖が消えるのを遅らせる。

 

「もう少しだけ……私の傍にいてくれ……」

 

 祈るように、胸元に消えかけの鎖を抱きしめて……泣いて、泣き崩れて――――彼女は立ち上がった。

 

 ――そうだ……自分にはやるべきことがある。

 

「……」

 

 もう一度だけ、辺りを見渡す。

 血に染まった思い出の場所。

 変わり果てた場所ではあるが、記憶を思い返せば、今もそこで三人は笑いあいながらお弁当を食べている。

 

「……じゃあな――」

 

 ここは三人だけの秘密の場所だ。他の誰とも来るつもりはない。

 

 一人でも欠けた以上……もう二度と、ここに来ることはない。

 ――だから、

 

「ありがとう。さようなら――」

 

 たくさんの思い出に感謝を告げて、今生の別れを惜しんだ――。

 

          ◆

 

 アリファや恵弥と別れてから一時間が経過していた。

 夢華(ゆめか)は街を駆け抜け、その外れにある森に飛び込み、なおも速度を落とさずに走り続ける。

 

「はぁ……! はぁ……ッ! ――ッ、く……っ!」

 

 玉のような汗を額に浮かばせながら、一心不乱(いっしんふらん)に森を駆け抜ける。

 

「……恵弥ちゃん――!!」

 

 夢華はこれまでにないほどに焦っていた。

 原因はつい先ほどスマホに届いたメール。

 メールの差出人は自分と連絡先を交換していた恵弥だったため『どうしたんだろう……?』……そんな気持ちでメールを開いた。

 

 ……届いたメールには文章と写真が一つずつ。

 

 『魔法少女……街外れにある山に一人で来い』

 

 その一文と共に添付(てんぷ)された写真には……大粒の涙を流しながらこちらを見る、『何か』に入れられた恵弥の姿があった。

 

 ……それが脅迫メールだというのは明らかだった。

 メールを見た瞬間、血相を変えて夢華は指定された場所へと走り出した。

 

(私が魔法少女という事を知ってる……ってことはノクスの連中には違いない――だけど、なんで私と恵弥ちゃんの関係を知ってるの……!?)

 

 ……もうすぐ、大きな魔力のある場所だ……。

 体中に魔力を駆け巡らせ、一秒でも早く辿り着く為に前へ前へと踏み出していく。

 

「無事でいてね、恵弥ちゃん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた先で……自分の無力さを知り、絶望することになる…………。

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