朱雀が召集シグナルを受け向かったのは、幻獣界でも特に時空間の歪みが激しい「虚無の荒野」だった。
朱雀は、そこに麒麟の残滓の気配はないと知るが、王の指令を無視できない。
「青龍め。俺を罠にかけようというのか…」
朱雀は変身を解かずに待ち構える。
その時、虚無の荒野の歪みから、強化された幻獣兵ゾルダの大群が現れた。
その中央には、青龍の配下である知略型の上級武将・白澤(ハクタク)が立っていた。
白澤の装甲は、他の武将とは異なり、古の書物を思わせる厳かで知的な意匠を持ち、その眼は万物を見通すかのような冷たさを湛えていた。
「朱雀様。青龍様より伝言です。『貴殿の忠誠心を疑う者はいない。だが、王命を無視して反逆者と交戦を繰り返す貴殿を、我々は「忠臣の皮を被った弱点」と見なさざるを得ない』とのこと。」
白澤は、全てを知り尽くした知識人のような無感情な口調で告げる。
朱雀は激しく怒りの炎を燃やす。
青龍の罠の目的は、朱雀を倒すことではなく、疲弊させ、「処刑」の正当な口実を作ることだった。 ゾルダの波が朱雀を襲う。
一騎当千の朱雀も、時空間の歪みを利用したゾルダの予測不能な攻撃に、次第に追い込まれていく。
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「やはり白澤(ハクタク)が動いたか!」
橙野隊長はモニターを見て歯噛みする。
「奴は万物の知識を持ち、特に悪霊の類に精通している。朱雀のいる『虚無の荒野』は、奴が時空間ノイズを増幅させ、救援信号も届かないよう調整している!青龍は、朱雀を孤立させ、消耗させようとしている!」
(モニターの隅に、白澤の結界の構造図が閃く。橙野は冷静に、その図を指さす。) 「行かなきゃ!朱雀は一人で戦っているんだ!」
レッドが叫ぶ。
「吼輔。救援に行くのはいい。だが、あのノイズの中で、朱雀に『真実』を伝えるのは不可能だ。今、必要なのは、『信頼』だ。」
橙野隊長は、レッドに特別な指示を出した。
「吼輔。お前たちが行って朱雀と合流しろ。そして、『救いの手』ではなく、『対等な力』として、共に戦え。白澤の知略と青龍の陰謀は、この『共闘』を『反逆の確証』として捉えるだろう。
だが、それこそが、朱雀が青龍に『偽りの服従』をするための最高の口実となる! 朱雀の忠誠心を打ち破るのは、お前たちの魂の共鳴しかない!」
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ニャーレンジャーが虚無の荒野に到着した時、朱雀は既に満身創痍だった。
「朱雀!」
レッドが叫び、ゾルダを薙ぎ払う。
「白澤の罠だ!俺たちはお前を助けに来た!」
「余計な真似を!反逆者の救援など…!」
朱雀は反発するが、体は限界に近かった。
「反逆者だと?お前が王の支配に気づいて葛藤していることは、俺の炎が知っている!」
レッドは、朱雀の真横に立ち、背中を合わせる。
「…無駄な情熱だ、ライオン。」
「無駄じゃない!命を懸けている奴に、無駄な情熱なんてねぇんだよ!」
レッドは咆哮し、ライオン・フレイム・バーストを放ち、周囲のゾルダを一掃する。 朱雀は、レッドの「炎」が、自分と同じ「戦友」の熱量を持っていることを感じた。 その瞬間、上空にいた白澤(ハクタク)が、笑みを浮かべる。
「面白い。忠臣と反逆者が背中を合わせるとは。朱雀様。貴殿の忠誠心は、我々の『ルール』にとって最も都合の良い『反逆の証拠』となります。」
「私は、青龍様個人の野望には興味がありません。私の忠誠は、『万物の知識と秩序のルール』にあります。
青龍様の提案は、現状で最も効率的に帝国の崩壊を防ぐ『秩序の維持』であると結論付けました。
感情に揺らぐ貴殿は、その秩序にとって、既に不要な『危険な変数』なのです。」
白澤は、荒野の時空間ノイズを一気に集中させ、超重力場を発生させた。
「ぐっ…!重い…!体が…動かねぇ…!」
レッドが膝をつく。
装甲が悲鳴を上げる。
「これが…青龍の罠の全容か…!白澤!貴様は真実を知っているはずだ!」
朱雀も、重力に押しつぶされそうになりながらも、レッドの前に立つ。
「退け!これは私の…忠誠心の試練だ!」
「違う!これは『処刑の口実』だ!お前の命は、王の忠誠心のためだけにあるんじゃない!」
レッドは、歯を食いしばり、朱雀に語りかける。
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超重力場の中で、朱雀はレッドの姿を見た。
自己犠牲もいとわない彼の純粋な情熱は、朱雀がかつて信じていた黄龍皇帝陛下の理想そのものだった。
朱雀は、重力に抗いながら、初めてレッドに本音をぶつける。
「ライオン…!お前の情熱は、真の王の光に等しい…。だが、私には『忠誠心』という名の責務がある。私は…王を救うために、この場で裏切り者となるわけにはいかないのだ!」
「王を救うだと?お前はもう、自分自身を犠牲にしている!」
レッドは、最後の力を振り絞り、自身の炎のエネルギーを朱雀に託す。
「朱雀!お前の忠誠心は、俺たちが引き継ぐ!だから、生きてくれ!」
レッドの熱量が朱雀の装甲を貫く。
朱雀は、そのエネルギーによって一時的に重力場を振り払い、白澤を睨みつけた。 「白澤!青龍に伝えろ!私の忠誠心は…裏切りではない!」
朱雀は、レッドから受け取ったエネルギーで一瞬だけ力を増し、超重力場を打ち破った。
白澤は驚き、ゾルダと共に静かに撤退する。
その表情には、知略の勝利と共に、朱雀というイレギュラーに対する微かな計算外の興味が浮かんでいた。
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その様子を、荒野から遠く離れた別の高台から、白虎の配下、特務隊の鋼牙が冷徹に見つめていた。
彼の持つ高性能な監視装置には、朱雀とレッドが炎の力を共有する瞬間が鮮明に記録されていた。
(鋼牙の心の声:白澤の野郎は、ルール通りに朱雀を追い込んだ。だが、あのライオンの『情熱』は、ルールを超えた『感情的な力』だ。朱雀が、忠誠心の壁の中で、あのライオンに『共鳴』したことは、秩序を乱す不純物だ。)
(鋼牙の心の声:クソッ、俺の頭の中の『秩序』が軋む。『忠誠心』とは、一体何なんだ。『命の対価』を払って達成されるのか、それとも『命の輝き』を賭ける『誓い』によって初めて成立するのか。このノイズは、俺の使命そのものに対する、最初の亀裂となるかもしれない…)
鋼牙は、朱雀の行動を「反逆の確証」として記録しつつも、レッドの自己犠牲的な行動と、それに呼応した朱雀の「真の王の光」という言葉に、微かな『計算外のノイズ』を感じていた。
彼の頭の中の『秩序』と、目の前の『情熱』が、静かに衝突し始めた瞬間だった。
重力場が消滅し、朱雀は装甲を解いた。彼は、気を失いかけたレッドを抱きかかえる。
(朱雀の心の声:ライオンよ…お前と私の炎は、同じ魂を持っている…。もし私が王への忠誠心を捨てたなら、次に私が助けるのは…お前の命だ。)
この共闘により、朱雀は「忠誠心」の壁の中に、「ライバル」への深い尊敬と絆という亀裂を刻み込んだのだった。
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朱雀は、気を失ったレッドを、幻獣界の辺境にある古い麒麟の神殿跡へと運び込んでいた。
「なぜ…反逆者のお前を助けた…」
朱雀は、レッドの無防備な顔を見つめながら、自身の葛藤に苦しむ。
その時、レッドが意識を取り戻した。
「朱雀…お前、俺を助けてくれたのか…」
「黙れ。これは…戦いの場を整えるためだ。私は王命を果たす。お前を討つ、その日まで、お前を無様な姿で死なせるわけにはいかん。」
朱雀は、目を合わせずに冷たく突き放す。
「違う!」
レッドは立ち上がり、朱雀にまっすぐ向き合う。
「お前は、俺の情熱を信じたんだ!お前の炎は、王の命令じゃなくて、俺の命を守るために燃えたんだ!」
朱雀は反論できない。
朱雀が麒麟に次ぐ炎の使い手であるからこそ、偽りの王の闇の炎と、レッドの純粋な命の炎の違いを、肌で感じ取っていた。
レッドはさらに踏み込む。
「お前は、『忠誠心』と引き換えに、自分の魂を殺している。王への真の忠誠ってのは、生きた魂で誓うもんだろ?命の対価を払ってまで守ろうとする、その王は、本当にお前の『命』を求めているのか?」
朱雀の脳裏に、かつて黄龍皇帝陛下から直接受けた「教え」が蘇る。
(回想:黄龍皇帝陛下:「朱雀。私の帝位は、お前たちの『命の輝き』の上に築かれる。決して、お前たちの『命の対価』を求めるものではない。」)
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朱雀は膝から崩れ落ちた。
彼の炎のオーラが、怒りではなく、悲しみに揺らぎ始める。
「違う…皇帝は…あんな冷たい炎ではなかった…!」
朱雀は、真の王の光を知っているが故に、偽りの忠誠心に縛られていた。
「皇帝は、命を賭けることを望んではいない。
皇帝は、私たち四方武将の『命の誓い』を望んでいた!」
レッドは、静かに朱雀の肩に手を置く。
「朱雀。お前が命をかけて守ろうとしているその忠誠心は、もう、王には届かない。俺たちが、皇帝の『真の炎』を受け継いでいる。
俺たちの炎こそが、王を救う唯一の道だ。」
朱雀は、レッドの目を見た。
そこに映るのは、憎むべき反逆者ではなく、自分の魂の炎を共有する唯一無二のライバルだった。
「ライオン…」
「お前は強い。俺の知る限り、誰よりも。だから、お前の命を、『処刑の口実』で終わらせるわけにはいかない。生きろ。そして、俺たちと共に皇帝を救え!」
朱雀は、ついに「忠誠心の呪縛」を断ち切った。
彼の炎は、悲しみを乗り越え、新たな決意の光を放ち始めた。
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朱雀は立ち上がり、レッドと向き合う。
「ライオン。貴様の情熱に、私の魂は打ち負かされた。だが、私はまだ、皇帝への『責務』を捨てることはできない。」
「どういうことだ?」
レッドが問う。
「青龍の策略は、私の『裏切り』という偽りの証拠を集めている。
私が今、お前たちと共に立てば、黄龍皇帝陛下への反逆者として、青龍に正式な処刑の口実を与えることになる。」
朱雀は、自己犠牲の覚悟を固めていた。
「私は、皇帝の真の敵(ゲヘナ)が誰であるかを暴くため、そして、お前たちの安全を確保するために、一度は『反逆者』として裁かれる道を選ぶ。」
朱雀は、レッドと固く握手をする。
「ライオン。もし、私がこの命を懸けて『忠誠心』の責務を果たすことになれば…貴様こそが、王を救う『真の炎』となるのだ。
私の炎は、お前の情熱と共に、必ず王を救うだろう!」
二人の炎の使い手は、ライバルとして、そして命を誓い合った戦友として、最後の誓いを交わした。
朱雀の炎は、すでに命を懸けた「対価」を支払う覚悟を決めていた。
—第14話 炎の誓い、命の