竜姫の弟子 新進のコラレ   作:通勤

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 祝、フリーレン第二期放送。


必殺の代名詞であった魔法

 今日は久しぶりに、直接教えたい事があると師匠に呼ばれて、街の近くの草原を訪れる事になりました。空は程々に雲が流れ、快晴というわけではありませんが、良い日和だと言えるでしょう。

 

「大陸魔法協会に目を付けられた以上、お主にも最低限の自衛程度なら、出来るようになってもらわねばならなくなった。正直気乗りせんが、『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を覚えてもらう」

 

 師匠は、杖に体を預ける様にして、気怠げに立ちながら言いました。

 

「ずっと思ってたんですけど、何でそこまで『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』を教えるのを嫌がってるんですか?」

 

 これまで何度か師匠に直接教えを請おうとしましたが、その度に適当にはぐらかされ、流されてきました。

 

「ふむ……お主、実際に戦ってどう思った?」

 

「えっ……?」

 

 師匠の問いの意味が、一瞬分かりませんでした。戦いの感想が何故、一般攻撃魔法を教えない理由になるのか。けど、わざわざ聞くということは何か意味があるはず。魔族との戦いを思い返します。

 そう、あの時は何もかもが無我夢中で、必死に魔族に喰らいつこうとして、そして……

 

「怖かった……」

 

 搾り出すように私は呟きました。間近に迫る死の実感、今思い出しても凍えるように血の気が引いて、身体が震えます。すると、ふわりと柔らかく師匠に抱き締められました。

 

「そうだな……お主はそれで良い、それが人として正しい。だが、余は違う。余は殺す事も殺される事にも何の忌避感も無い。どう足掻いても戦場から離れられない……戦いなど、そんな者に任せておけば良い」

 

 その声色はどこかか細く、しかし重みを伴っていました。師匠が頑なに踏み込まれるのを嫌っている過去、その重みの一端が見えた気がしました。

 

「そんなわけ……そんなわけないじゃないですか……! 怖くないって、ならなんでそんなに辛そうなんですか……!? 辛いなら辛いって言って下さい。頼りないかもしれないですけど、それでも……!」

 

「ふぅ……辛くないのは事実だ。だが……その気遣いには感謝する。ありがとう……」

 

 師匠はどこか諦めたように息を吐き、目を閉じました。

 

「さて……では、まずは見本だ。『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

 師匠が杖を空に向けて突き出すと、収束した魔力の光線が放たれました。相当加減しているのか、基本的な魔法らしい随分と平凡なものです。わたしも同じように空へ杖を向け、魔法を使います。

 

一般攻撃魔法(ゾルトラーク)

 

「はぁ……お主……随分と練習していたようだな……これはこれで話は早いか……まぁ、良い」

 

 師匠と同じように光線が空へ向かって放たれました。その様子を見た師匠は、じとりと目を細め、声を低めました

 

「『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』、これの最も秀でている点は何だと思う?」

 

「え……」

 

 わたしは言葉に詰まりました。『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』の最も優れている点、それは術式の簡潔さからくる速さでしょう。しかし、わざわざそんな分かり切った答えの問題なんて出すでしょうか? ……いや、師匠は子ども扱いというかなんというか、割とそういうことをしてきます。

 

「……速さでしょうか?」

 

「そうだ。今、現在であればそれが正しい」

 

「現在であれば……? どういうことですか?」

 

 どうやら、合っていたようです。しかし現在であればという言葉が気になります。

 

「そうだな。では、この魔法の歴史、それをその始まりから話していくとしよう」

 

 そう言って、師匠が軽く空気を小突くように杖を振るうと、魔族の姿が投影されました。『小さな幻を作る魔法』わたしも得意な師匠が編み出した魔法です。

 そこに映し出木のたのは、頬まで裂けたかのような大きな口、眼球の姿のうかがい知れない細い目、そして山羊の様な角の異様な姿の魔族です。実際の大きさは分かりませんが、恐らく相当大柄だと思えます。

 

「今から50年……いや100だったか……? まぁ良い、それはさして重要では無い。クヴァールという名の魔族が猛威を振るった」

 

 クヴァール……それがこの魔族の名前なのでしょう。

 

「そ奴の魔法に、当時の人類のありとあらゆる魔法に対する防護策が、完全に無力だった。恐らく魔族込みであったとしても、当時それを防ぐことが出来たのはマハトや魔王など、極少数の者だけだっただろう。それが人を殺す魔法、今広く攻撃に用いられる一般攻撃魔法の原型だ」

 

 人を殺す魔法、恐ろしく物々しい響きです。当時から他にも攻撃魔法はあり、それらによって犠牲になったであろう人も大勢いるでしょうに、その代名詞となっている。

 

「それが解明、研究され人類に広く扱われていく様になる。だがこの当時の『人を殺す魔法(ゾルトラーク)は今のように速い魔法ではなく、むしろ遅い魔法だった」

 

「速い必要が無いから、ですね」

 

 ありとあらゆる防御が無意味なら、防御の隙間を縫うための速さなんて必要ありません。

 

「そうだ、当時の『人を殺す魔法(ゾルトラーク)の強さは、魔法防御を貫通するその特性にあった。実演して見せよう」

 

 師匠は小さな木の的を取り出すと、地面に置き、呪文を唱えます。

 

(ダヴ)第十階位の守(ツェンド・レ・アレ)防御(シルド)防御(シルド)強化(ディッグ)――強盾(バルクリエ)

 

 もやのような魔法のベールが、的を覆います。師匠は小石を掴み、それに投げました。ひゅっと音を立てて飛んだ石は、ベールに触れると勢いを失って地面に落ちました。

 それを確認した師匠は、今度は的に向かって杖を向けます。

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 杖の先端から放たれた光線が、的を弾き飛ばしました。それは極めて出力を絞られ、事実として的の表面には小さな傷だけ、威力からすれば的に掛かった防御魔法に防がれてしまうはずです。

 

「このように人を殺す魔法は、魔法防御を擦り抜ける様に貫通し、正に必殺の代名詞だった。しかし、やがて防御魔法や防具の耐魔法加工の発展により、その優位性は消失する。当然、それに対抗し『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』もまた様々なアプローチで、研究が進んだ。単純に威力を上げ貫通力を上げるという、分かりやすい方法も初期には盛んに取られたが、結局、現在主流であるように、速度を上げ防御の隙間を縫う方法が選ばれた」

 

「つまり……いや……違う……」

 

 問いの答えは両方とも、現在であれば速度、過去であれば威力と言いかけて、言葉に詰まりました。わざわざ行った答えが分かり切ったような問題。一般攻撃魔法と呼ばれるまで研究、発展が行われた魔法。

 

「そう……」

 

 師匠が私に教えてくれた『小さな幻を作る魔法』それを師匠は魔法使いの全てが試されると言いました。一般攻撃魔法もまたそうではないでしょうか。つまり……

 

「拡張性……極めて応用が利く点、それこそが今も昔も変わらない『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』の優れている点です」

 

「その通りだ」

 

 師匠は満足そうに、目を細めて頷きました。

 

「そしてその上で、『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』に余が出した結論、それがこれだ」

 

 そう言うと、師匠は大仰に腕を開いて杖を構えました。

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 杖の先端を中心に花弁のように配置された魔法陣から、無数の光線が濁流のような勢いで連射されました。洗礼や鮮やかさといった言葉とは無縁の、荒々しい粗野なやり方、思わず私の口から言葉が漏れます。

 

「魔法使いの戦い方じゃない……」

 

 そう、これを例えるのであれば、力自慢の巨漢がただただ技術も何もなく、力任せに武器をやたらめったら振り回すようなもの、知性も何もあったものじゃない、頭の悪いやり方、けどこれが歴戦の魔法使いが、長い時間を掛けてたどり着いたものであると、知ったうえで考えると、ある種の合理性が伺えます。

 防がれてしまうのであれば防がれればいいと割り切って、威力や精度を切り捨て速度に振って、相手に防御を強制させる。この速度であれば相手は、反撃ができませんし、魔族たちを一撃で消し飛ばしたあの魔法のように、師匠であれば現代の防御魔法を容易く貫通できる魔法が使えます。

 

「これが、余の『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』。しかし、あくまでこれは余のやり方。『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の強みは応用が利く事、お主はお主のやり方を模索しろ」

 

 わたしの『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』、今すぐには思いつきませんが、そもそも人類も師匠も、長い時間を掛けて形にしてきたもの。これから時間を掛けて形にしていく事になるはずです。

 

「分かりました、師匠。ところで、師匠はクヴァールと戦った事があるんですか?」

 

「いや、余は奴と対峙した事は無い」

 

 これは意外でした。死の代名詞とまで言えるほどの被害を出した魔族、当然師匠も戦ったものだと思ったのですが。

 

「それは何故ですか?」

 

「まず、余が南方へ移動してきたのは、魔王が討たれた後の事で、活動範囲が奴とは被っていなかったのが1つ。それと、余が討つべきではないと、友に止められたからだ」

 

「倒してはいけない? それと友達ですか……?」

 

 師匠の友人、師匠は相変わらず過去をあまり語ってくれませんから、気になる言葉です。

 

「討ってはならぬ言葉の意味は、後になってみれば簡単なことだった。『|人を殺す魔法《ゾルトラーク』は、人が魔族に対抗するための剣として、必要だったから。しかし、それは後になってからの事、あ奴は誰よりも先を見通す目を持っていた」

 

「その人は一体……?」

 

「ふふ……そうだな、その質問に答えるのはいつかまたの機会にしよう。恐らくはそう先では無いはずだ」

 

 師匠はやっぱりというかなんというか、意味深にはぐらかしてしまいました。

 

 

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