志都児出てねぇ…
ファイル4.ゔーっ!!!
「大丈夫、知与ちゃん?」
「は、はい…。その、見てはいないので…」
米花町のとあるデパートにて。たまたま近場で首吊り死体が見つかったとのことで、警察の検証が終わるまで拘束されてしまった恋太郎と、その彼女の一人…
恋太郎は米花に慣れていない知与を慰めるべく、懸命に寄り添う。
「自殺…ではないな。恐らく…」
「ええ。確実に他殺でしょうなぁ」
「ねぇねぇ、小五郎のおじさん。この窓にある傷はなぁに?」
「こらっ!ちょろちょろしてんじゃねぇ!」
「……………」
ぴくっ、と知与が顔を上げる。その視線を横切ったのは、死体があるだろう部屋から摘み出された小学生。
流石に大人しくなるか、と思うも束の間、その小学生は近くを通った警官に話しかけた。
「ねえねえ、おまわりさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい、坊や?」
「……………ゔ」
事件にまつわる情報を聞き出そうとする小学生。それに答える警官。
知与は本能が疼くかのように顔を歪め、低く唸り始める。
「っ、まさか…っ!!」
「あ、こら、坊や!!」
「………………ゔうう…」
何か致命的なことに気づいたのだろう、現場へと駆け出す小学生。
それを見た瞬間、知与は一瞬にしてその小学生…江戸川 コナンを羽交締めにした。
「殺人現場に小学生ゔーーーッ!!!!」
「うぉおああああっ!?!?」
「コナン君!?」
「お、お嬢さん!?急にどうした!?」
至極もっともな指摘を叫ぶ知与。その光景に戸惑う小五郎たちに、恋太郎がなんとも言えない顔で声をかける。
「その、彼女は乱れてるものを見ると正さずにはいられないタチなんです…」
「み、乱れて…?」
「今回の場合だと、殺人事件の捜査に小学生が加わってることへの倫理的な乱れが許せなかったのかと…」
「「「あー…」」」
確かに乱れてるわ。
犯人含め、ここにいるほぼ全員の心が一致した瞬間だった。
「ちょ、は、離して…」
「ゔーーーーーーーーーーーー!!!!!」
その後、コナンはなんとか知与から解放され、無事に事件を解決に導いた。
ファイル5.米花町フード
「はぁー…」
「むぅー…」
「どうかした、二人とも?」
私立お花の蜜大学附属高等学校、その屋上にて。すっかり恋太郎ファミリーの溜まり場となったこの場所で皆が思い思いに過ごす中、深いため息が二人分響く。
モンスター彼氏はそれが
「実は紅葉たち、今度の休みに話題のパン屋さんに行こうと思ってるのです」
「話題のパン屋…って、もしかして…」
「そ。米花町の」
米花町。因縁深い町の名前に、恋太郎の表情に戦慄が走る。
何を隠そう、この二人は恋太郎とのデートで訪れた米花町にて、何度か事件に遭っているのだ。
その苦い思い出の数々を振り返ったのか、胡桃と紅葉が見るからに気落ちした様子でため息の理由を語り始める。
「ほら、あそこの町の店って、思い立って行くと絶対に事件起きるじゃん。
だから、今回は近場のパン屋で我慢しようかなって二人で話してて…」
「紅葉も流石に死体は見たくないのです…。死後硬直で揉み心地が悪そうですし…」
「検死でも揉んだりしねぇんだよ」
「パンに毒でも入れられたら、美味しく食べれないだろうし…」
「宿儺の器か」
近くにいた
恋太郎はそれを前にして、声を張り上げた。
「よし、わかった!俺がなんとかするよ!」
「な、なんとかするって…」
「大丈夫なんですか、恋太郎先輩?」
「大丈夫。俺に任せて欲しい」
彼が何をするのかはもちろん、それがうまく行くのか、胡桃たちにはわからない。
しかし、彼女らには、いつだって自信を持って言えることがある。
こうなった時の愛城 恋太郎は、世界一頼もしい。
♦︎♦︎♦︎♦︎
時は過ぎ、休日の午前3時。胡桃たちが楽しみにしているパン屋に怪しい影が近づく。
「くっくっくっ…。最初からこうすればよかったんだわ…」
その影は、50代近くの女性だった。彼女が提げるカバンの中には、怪しげな箱が見えている。
その中身は、爬虫類の餌として売り出されている、世界一嫌われているだろう害虫。
彼女はそれをパン屋に放つことで、店の評判を下げようとしていた。
「私の店を潰した恨み、とくと味わうがい…」
彼女が害虫を放とうとしているパン屋の店主は、もともと女性が経営していたパン屋の職人…その娘だった。
父が年齢の関係で引退し、他店で研鑽を重ねてパン職人となった彼女を後釜にと女性は考えていたが、彼女はこれを拒否。
それから数ヶ月後、彼女は父をアドバイザーに据え、自分の店を開いたのだ。
売り上げは根こそぎ奪われ、女性は店を失った。その理由がこのパン屋の店主にあると筋違いにも程がある恨みを募らせ、彼女は報復に出たのである。
これで憎き店は潰れるだろう。その未来を想起し、扉を開く。
「ハァイ、ハンニン」
瞬間。その奥からバケモノの声が響いた。
ばぁん!!と、反射的に裏口の扉を閉める。
今のはなんだ。この世のものとは思えないほどに悍ましい声と殺気を漏らす何かが、パン屋のバックヤードに佇んでいた。
まさか、計画がバレたのだろうか。いや、ターゲットはこの時間、仕込みに夢中で、バックヤードに佇むなんてあり得ない。
オープンしたばかりの店だ。新しく雇ったバイトがそこに居る、なんてことも考えられない。
女性は冷や汗を拭い、もう一度扉を開く。
「み、見間違いよね。多分見間違い…。まだアイツは仕込みちゅ…」
「ハァイ、ハンニン」
「…………………………」
見間違いじゃない。いる。
全身から黒いオーラを立ち上らせ、これ以上なく釣り上がった目でこちらを睨む太眉の化け物。それが女性を射殺さんばかりに睨め付けている。
化け物は息を吸い込み、呆然とする女性へと駆け出した。
「ブッ殺してやる!!!!!!!」
「いぎゃぁぁああああああっ!?!?!?」
明朝。彼女は「パン屋怖い、パン屋怖い」と怯えながら警察に出頭したという。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「おいっひぃい〜〜〜〜〜っ♡!!!」
「Oh…。赤子ほっぺのようなふわもち触感…」
その日の昼頃。店内のイートインスペースにて、恍惚の表情を浮かべ、焼きたてのパンを堪能する二人を邪魔するものはいなかった。
ファイル6.本気
「頼む、匿ってくれ!!」
アメリカから日本に帰国したコナンの父…工藤優作の悲鳴が、コナンと阿笠がくつろぐ阿笠邸のリビングに轟く。
かつて見たことがないほどに狼狽する彼を前に、コナンと阿笠が声を震わせた。
「なっ…!?」
「ど、どうしたんじゃね!?」
まさか、黒の組織か。そう思うも束の間、優作はバツが悪そうに目を逸らす。
「じ、実は、ある原稿の締め切りが来週末なんだが…、その、あまり進んでなくてだな…」
「オイオイ…」
「なんじゃ、いつものことじゃないか」
「ち、違うんだ!これは1番遅れたらダメなやつなんだ!!あ、ああ、半分も進んでないと知られたら…」
締切をすっぽかすなんて、今に始まった話じゃないだろうに。
二人がそう呆れていると、阿笠邸のインターホンが鳴り響いた。
『すみませーん。工藤優作の担当編集のものですがー』
「おや、お迎えのようじゃな」
「ひ、ひぃいっ!?き、来てしまった…!!」
「そんなビビるこたないだろ…」
阿笠が応対に向かうと同時、恐怖のあまりゴミ箱に頭から突っ込む優作。これが世界的なミステリー作家だとは誰も思わないだろう。
こんな父親見たくなかった。コナンが情けない気持ちになっていると、応対していた阿笠がひょっこりと顔を出す。
「おぉい、担当さんが呼んどるぞー」
「わ、私はいないと伝えてくれ!!」
「いや、もうバレとるだろうに…。あ、よければ上がってくだされ」
「では、失礼します」
阿笠が呼ぶと同時、サングラスにスーツという、漫画の中でしか見ないような出立ちの女性が姿を現す。
絶望と恐怖のあまりガッタガタと震えてゴミを撒き散らす優作に歩み寄った彼女は、彼が頭に被ったゴミ箱を引っこ抜き、顔を近づけた。
「先生」
「…………………」
「言いましたよね。『本気で書いてくれ』と」
「………………はい」
女性の表情は変わらない。だが、明らかに纏う雰囲気が剣呑なものへと変わっていった。
「貴様はァ!!!この程度の進捗で、本気で作品を書いてると言えるのかァ!!!!」
スーツの女性から放たれたとは思えぬほどの怒号が阿笠邸を大きく揺らす。
その怒号に阿笠とコナンがひっくり返るも、優作は慣れているのか、震えたまま弁明を始める。
「か、書いているとも」
「嘘言うな知ってるぞお前!!アメリカで事件に首突っ込んで執筆サボってやがったな!?つまり執筆は妥協したってことだろ!?」
「してない!そのようなことは決して!!」
「いいやしている!!なぜなら本気で書けば今頃50回は私に見せに来ているからだ!!」
「いくら私でもそんなの無理だぞ!?」
「他の作家さんはやっている!!!!」
「………………」
そう言われると弱いのだろう、押し黙ってしまう優作。
しかし、女性は手心加えることなく怒号を重ねに重ねていく。
「妥協は万死に値する!!罰として500回は死ぬ量の原稿を書け!!!今すぐ!!!!」
「ぐ、具体的に、どのくらい…」
「良しと言うまで書け!!本気で書け!!!読者様に魂の一片まで絞り出した渾身の一作を届けるつもりで書け!!!もうこれ書いたら腹切って内臓ぶちまけて死ぬくらいの覚悟が詰まった作品を今!!本気で書けぇえええ!!!!」
「は、はぁいっ!!!!」
慌ててノートパソコンを立ち上げ、ががが、と執筆を始める優作。
彼の様子を見て満足したのか、それとも邪魔にならないように気を遣ったのか、彼女は先ほどまでの喧しい態度を潜め、コナンたちに深々と頭を下げる。
「………すみません、大変見苦しいものを見せてしまい…」
「い、いえ、お構いなく…」
「ちなみに、どこの出版社の方ですかな…?」
阿笠が問うと、女性は目にも止まらぬ速さで名刺を取り出し、彼に差し出した。
「本気出版です」
伊院 知与…恋太郎が誇る「彼女」。恋太郎のいとこで、中学1年生。運命の人だと発覚した時は流石の恋太郎も動揺した。母を早くに亡くし、父と二人暮らし。メガネに三つ編みと見た目通りの委員長気質で、乱れや歪みを見ると我慢できずに正してしまう。登場初期は恋太郎ファミリーに対して何度も発作を起こしていたが、今は慣れてある程度は許容できる寛容さが育まれている。育んでいいものかは知らない。世界一可愛い(モンスター彼氏評価)
江戸川 コナン…「ゔーっ!」された人。「ゔーっ!」される理由が自分でも「そりゃそうだわ」と薄々感じていたことのため、これ以降、知与に苦手意識を持つようになった。尚、改めようにも致命的な証拠が自分の手元にだけ転がり込んできたりするので改められない。主人公だもんね、仕方ないね。
原賀 胡桃…恋太郎が誇る「彼女」。ヘッドホンにパーカー、鋭い目とクールな印象が強いが、その実は底抜けの腹ぺこ少女。壊滅的に燃費が悪く、何気ない会話から連想ゲームの如く食べ物を思い浮かべ、それを求めイライラしてしまう体質。ファミリー内では常識人寄りで、ツッコミ役として活躍している。食事している間は人が変わる。どちらも世界一可愛い(モンスター彼氏評価)
茂見 紅葉…恋太郎が誇る「彼女」。ヒーラー枠。感触フェチで柔らかなもの…特に女性の肉体の感触を好んでいる。それ故、女体を揉んで癒やすプロのマッサージ師を目指している。彼女に揉まれると記憶の前後が定かでなくなるほどに気持ちがいいらしい。慢性的に女体を揉みたい欲求…揉み欲に支配されてる。世界一可愛い(モンスター彼氏評価)
愛城 恋太郎…我らがモンスター彼氏。隣町の深夜のパン屋に居た理由は不明だが、ちゃんと許可取ってることだけは確か。
本気グループ…「提供する全品質を本気で」がモットーの企業グループ。須藤育の遠い血縁が経営している。その行き過ぎたおもてなし精神は、お客様を歓迎するあまり殺しかねないほどにトンチキで苛烈なサービスを提供する。「本気出版」は本二次創作作者が「多分あるだろうな」と思って出してるだけなので、原作には存在しない。
工藤優作…よりによって本気グループ傘下の出版社と契約したのが運の尽き。本気で書かないと殺しにくる勢いで詰めてくる担当編集をつけられてしまった。遠い海外に逃げたのに秒で追いつかれたことがある。同じ飛行機には乗っていなかったはずなのに。