精々頑張れ()
「ざけんなや」
──魔虚羅が出たわ。ドブカスが。
思わず辞世の句を詠むとある日の昼下がり。
(さらば。我が人生の誇りよ……)
脳裏にクソコラが過る中、俺は思い返す。
十種影法術と呼ばれる術式がある。
呪術界御三家・禪院家相伝、影を媒体に十種類の式神を顕現させられる術式だ。使いこなす為に六眼必須の無下限呪術や、血液を操る赤血操術と比較すると、かなり当たりの部類と呼んで差し支えない術式である。
強みは何と言っても、それぞれ違う能力を持つ十種類の式神だ。
それだけで十個分の術式を持っているに等しい──とまで言うと過言かもしれないが、影に潜行したり頭数を増やしたりできる副次的能力を加味すれば、まあ……実際術式十個分はあるだろう。目を大きくするだけの術式とかあるしね。
「順序があるじゃん」
しかし、式神を顕現させるにはルールが存在する。
と言っても、内容は至ってシンプルだ。要は自分(と式神)だけでぶっ倒した式神じゃないと召喚できないというものだ。
術者には最初玉犬と呼ばれる二頭一対のお犬様が配られる。要は初期配布式神だ。爪と牙での攻撃。嗅覚による索敵。攻撃にも支援にも役立つ、昨今のソシャゲに見習ってほしい有能式神である。あとカワイイ。ぶっちゃけこれだけでもうプライスレスだ。
「なんで玉犬じゃないんだよ……! お犬様が良かった……! ナデナデモフモフしたかった……!」
「……ガコンッ!」
「待て。今何に適応した?」
だがしかし、十種影法術の式神には一体だけ場違いな式神がある。
歴代十種影法術師の中でこれを調伏できた者は誰一人居ない最強の式神──そう言えば聞こえはいい。
けれども、調伏が無理ゲー過ぎて儀式巻き込み自爆特攻が正規運用みたいにされているのは違うと思う。
その式神の名は──
玉犬や鵺など二文字までが精々な名前の中、驚異の十文字を誇る最強の式神だ。だからなんだよって話だが、それくらいこの魔虚羅が
さらっと挙げるだけでも呪霊特攻の退魔の剣、指十五本分の宿儺と殴り合える膂力と耐久力といったオーバースペックだ。作中でも天井組である宿儺と五条にしか倒せておらず、最強と呼ぶに相応しい式神である事実は疑いようもない。
だからこそ、玉犬を召喚したつもりなのに魔虚羅が出てきて俺は辞世の句を詠むに至った。音量上げろ、生前葬だ。
いや待て誤解だ。俺はちゃんと玉犬の手影作ったんだ。
なのに魔虚羅が出てきた。なんで?
俺は誓って布瑠部由良由良していない。俺は軽率に由良由良したがる伏黒とは違う。フルフルするのもユラユラするのもチンチンくらいだ。
「あの……」
おかしい。
本当に調伏の儀が始まっているなら、俺はすでに容赦ない裏拳を食らってこの世からサヨナラバイバイしている頃合いだ。だからこそ現実逃避していたのが、一向に魔虚羅が襲ってくる気配がない。
「魔虚羅さ……あ、いえ、魔虚羅様でお間違いないでしょうか……?」
恐れ多くて呼び捨てにはできない。
罷り間違っても『マコーラ』なんて茶化して呼ぶのもだ。
おい、『ビビり過ぎw』とかほざいているそこのお前。目の前に魔虚羅に立たれたことのある奴だけが俺を馬鹿にしろ。上半身に集中している異形部分取り除いたとしても二メートル超えてるんだぞ、この異戒神将。身長175㎝の伏黒(宿儺入り)を捕まった宇宙人扱いする巨人ぞ? 今際の際に立っている気分だ。
「そのぉ~……誠に恐縮ではございますが、私は玉犬を呼んだつもりでして……」
「……」
「お呼びした手前誠に申し訳ないのですが、あの、今回は手違いだったということでお帰りいただきたく存じます……」
「……ガコンッ!」
魔虚羅の法陣が廻った。
と思ったら、見上げんばかりの巨体が瞬く間に足元の影に溶け込むように消えていった。
……いっ。
「生き延びた!!」
汚い虹夏ちゃんではないが、俺は命拾いした。
魔虚羅の調伏に巻き込まれて生きてるとは……ラッキーボーイだぜぇ☆
「なにはともあれ、これで……!」
今度こそ玉犬を召喚できる。
俺は正直、魔虚羅にそこまでこだわりはない。
いや、魔虚羅強いよ?
そりゃあ使役できたら呪霊サークルや羂索相手にもやり合えるかもしれないけど、俺はもうちょっと現実的な浪漫を追い求めたい。
ほら、宿儺がやってた
九つの式神の力をも宿した最強の魔虚羅! ……みたいなのも夢はあるが、あれは結局魔虚羅を調伏できてこそだから妄想の域を出ない。
男という生き物は浪漫十割も好きだが、現実的な範疇での理想の運用を考えるのも大好きなのだ。故に、魔虚羅はある意味その浪漫に不要だった。
「最初は何を調伏しようか。鵺? いや、あれは最初に調伏するにはハードル高いな……となると脱兎か蝦蟇あたりか。あっ、他には大蛇も居たな」
理想の十種影法術運用に胸を膨らませながら手影を作る。無論、細心の注意を払ってだ。今度誤って呼び出そうものなら、さっきは素直に帰って下さった魔虚羅様もブチ切れ必至である。
最初のはきっと術式が発現して浮かれ過ぎた余り、自然とうわ言で布瑠部由良由良してしまったに違いない。
「犬の形、犬の形……」
手と影の最終確認が取れた。
格好こそ違うが、俺は今現場猫の気分だ。世の中のミスは指差し呼称で改善できるということを証明してやる!
「ヨシ! 来い──玉犬!」
呪力を込める。
影に命が宿る。
そして──!
「どうして」
結論からまず述べよう。
また魔虚羅が出てきた。
何を見てヨシ! って言ったんですか?
「十種影法術コールセンターはどこだ。歴代十種影法術師を全員呼んで来い。禪院集合だ」
二度目の魔虚羅降臨だ。
流石の俺も一周回って冷静になる。
いいか、一周回ってだ。
勘違いするなよ?
「いや、これはもう
眼前に聳え立つ巨体を見上げながら、半ばヤケクソ気味に俺は強い語気で詰め寄る。
「俺は玉犬呼んだじゃん? なのにマコーラが出てきたら話違くない? それはもうさぁ、式神さんサイドの伝達に問題でしょ。ラーメン頼んだのにチャーハン出てくるようなもんよ?」
自分でも何で魔虚羅に詰めているのか分からないが、ここで引き下がってしまっては終わるような気がするので止めない。止められない。止まったら──死ぬ。
「もう何年目? 十種影法術できてからもうだいぶ長いでしょ? そろそろ新人気分はやめてもらわないと。話聞かれて『分からないですぅ~』はもう通じないよ?」
「……ガコンッ!」
「そのガコンッ! っていうのやめな? それが通じるの新人までよ?」
心なしか肩を落とす魔虚羅の法陣が廻っている。
どうやら式神にも人の心はあるようだ。人の心とかあるんか?
「……俺の十種影法術がバグってるのか?」
魔虚羅と二人きり、気まずい空気の中で思案を巡らせる。
俺は確かに玉犬を呼んだ。
なのに、呼び出されたのは魔虚羅だった。
この直視したくない現実。真っ先に思いついた問題はそれだった。
呪術の歴史は長い。それ故に時折、バグのような存在が生まれることもしばしばある。最たる例が伏黒甚爾──天与呪縛のフィジカルギフテッドであり、完全に呪力から解き放たれた理の外に立つ天与の暴君だ。
彼のようなバグが誕生する以上、最初の式神が魔虚羅な十種影法術師が生まれてもおかしい話ではないだろう。
「やり直しだ」
と思っていたのか?
宿儺をして『
百鬼夜行も渋谷事変もezだわ。
死滅回游も羂索が開催先延ばしにするレベルだろ。そのくらいこの魔虚羅という式神は無法なのだ。
嫌だよ、一話から伏黒が魔虚羅使う呪術廻戦。
三巻打ち切りコースまっしぐらよ。
「ねえ魔虚羅。今からでも玉犬になれない?」
自分でも無理難題を言っている自覚はある。
たぶん史上初だよ。魔虚羅に『玉犬になって』って頼んだ人間は。
「お願いだからさ……頼むよ……」
「……ガコンッ!」
「えっ? 待って待って今の会話のどこで適応する要素が……うわっ、なんか魔虚羅に毛が生えてきた!?」
また法陣が廻ったかと思えば、途端に魔虚羅の全身にフワフワの毛が生えてきた。
何とも艶のある白い毛だ。毛の質感だけで言えば、俺が懇願した玉犬と大差ないレベルだろう──たぶん。だって俺本物の玉犬見たことないもん。魔虚羅出てきたんだもん。
「お、おぉ……」
目の前に立つ全身毛むくじゃらの魔虚羅を見上げ、俺は得も言われぬ声を漏らす。
「いやぁ……あのぉ……ホントごめんだけどさ、率直な感想言っていい? ……キモッ」
「ガコンッ!」
「あっ、やっぱ悪口に適応してたんだ」
やけにガコンガコンすると思っていたら、どうやら悪口にも適応していたらしい。
どうすんの? それじゃ禪院家じゃやってけないよ? ……いや、魔虚羅なら全員黙らせられるか。杞憂だったわ。
「えっ? 一応聞いとくんだけどさ……それで玉犬のつもり?」
「……ガコンッ!」
「適応したってことは図星か……」
なんとも分かりやすい魔虚羅だ。
意思疎通が図れないものとばかり思っていたから、これは正直に助かる。
「いや、何も助かってないんだよ。今の自分の姿を見てみ? それを玉犬と言い張るのはもう玉犬に失礼よ?」
「……ガコンッ!」
「いやガコンッ! じゃなくてさ」
この魔虚羅、心に来る度いちいち適応を挟んでくる。
なんだかだんだん彼が心配になってきた。こんなにも心が弱くて魔虚羅がやっていけるのだろうか? 彼は魔虚羅界でもあっち側ではない立ち位置の魔虚羅なのかもしれない。
……いや? だからこそか!
「玉犬ぐらいの強さしかない魔虚羅だから出てきたのか! そうだ! きっとそうに違いない!」
『ぽぽぽぽぽ──ぽあ゛ッッ!?』
「あっ、なんでもないですすみませんでした」
不意に近づいてきた呪霊が魔虚羅の腕の一振りで血煙と化した。
あの呪霊、うちで飼っている呪霊でもかなり強い方だった気がする。それが一撃。うん、皆まで言ってくれるな。
「……いや、待て」
そう言えばまだ試していないことがある。
俺は玉犬を呼んだはずだ。
なのに出てきたのは魔虚羅だったが、本来玉犬とは二頭一対の式神。
「もう一体の玉犬! 黒が居ない!」
「どうして」
膝を折った俺の前には、二体の魔虚羅が立っていた。
白い魔虚羅と黒い魔虚羅。筋骨隆々なその体躯も相まって、仁王像を前にしているような気分だ。
いや、ちゃうねん。
「なんで二体目出てくるんだよ……!」
俺は玉犬を呼んだ。
ホントなんだって。
でも、出てきたのは魔虚羅。
しかも白黒の二体一対ときた。
これはもう認めるしかない。
「なに!? ねえ、貴方達マジで玉犬ポジなの!?」
正確には『玉犬(白)(魔虚羅)』と『玉犬(黒)(魔虚羅)』だ。
頭おかしくなるわ。片方やられたら『玉犬(渾)(魔虚羅)』にでもなるのかよ。
こんな初期配布式神が居てたまるかよ!
「なんでだよ……なんで玉犬じゃないんだよ……! 何丹念に望みを潰してくれちゃってんだよ……!」
『……』
「ちゃんとした玉犬が良かった……! シロとクロって可愛がりたかった……! 両側に侍らせてモフりたかった……!』
『……ガコンッ!』
「ええねんて! 適応したところで毛が生えるだけだろうがッ! ッ……なに!? 骨格が変わって四つ足に!?」
再び適応を開始する魔虚羅(達)。
俺は、もしかすると魔虚羅を見誤っていたのかもしれない。魔虚羅は名実共に最強の式神。あらゆる事象に適応する最強の後出し虫拳!
「まさか──!」
アニメでは水中への適応に鰓を生やすという解で答えていた。そこで二つほど可能性が浮上する。
このまま魔虚羅の適応が完了して玉犬へと至る可能性。
だが、勿論そうならない可能性だって十分にある。
つまり──どちらもありうる。そんだけだ。
「いや、顔が魔虚羅のままじゃねえか!」
魔虚羅顔の犬が完成した。
白黒の二体、どっちもだ。控えめに言ってキモイ。
「ざけんな! だったらデフォルトの姿の方がマシだわ! いや、ホント怖っ!? 魔虚羅顔の人面犬怖っ! 呪霊より怖いんだが!?」
『……ガコンッ!』
「いい加減言葉のナイフに適応しろ! あと、二体分だから『ガコンッ!』がステレオで喧しいんだよ!」
左右で法陣を廻す魔虚羅に叱咤を飛ばし、適応を促す。
「そうそうそうそう! やればできるじゃん!」
そして、数度の適応を経た後──完成した。
真の玉犬(白)(魔虚羅)と玉犬(黒)(魔虚羅)が。見た目は完全に玉犬そのもの。パッと見のオリジナルとの違いを上げれば頭上に法陣があるか否かだくらい。何回も
「よ~しよしよし! あぁ~、このモフモフが堪らないんじゃあ~」
ようやく満足のいく玉犬が完成し、俺もご満悦だ。
なんと遠い回り道を歩まされたことも忘れて思う存分にモフる。このお犬様が魔虚羅である現実から目を逸らせば完璧な手触りだ。
さて……これでスタートラインだ。
ここから俺の十種影法術師ライフが始まる!
……いや、待てよ。
「……これ、他の式神調伏しようとしたら何出てくるんだ?」
まさか魔虚羅が出てくるわけ……ないよな?
玉犬が魔虚羅だったせいで、今の俺は疑心暗鬼状態だ。
助けて、俺の中の鹿紫雲一……駄目だ。『どちらもありうる。そんだけだ』しか言ってくれない。この雷神、背中を押してくれねえ。
「…………………………まあ、魔虚羅居るし大丈夫か」
物は試しだ。
どうせ周りには呪霊しか居ないだろうし。ちょっと暴れたところで問題あるめえ。
「ふぅ……よし、来い!」
「
「カスがッッッ!!! 空気読めやッッッ!!!」
この後、魔虚羅に殴り飛ばされた直哉を全力で介護する調伏の儀をこなす羽目になった。
ちなみに禪院家の呪霊部屋は更地になった。
勿論、調伏の儀も無効となった。
ざけんなや。女見下す。ドブカスが
登場キャラ+α
・
呪術廻戦の世界に転生した元男。真希と真依の姉。
ある日、直哉に虐められていた妹達を庇った結果、折檻として呪霊部屋にぶち込まれたが術式が発現して難を逃れた。ただし初期配布式神が魔虚羅だった。
これは呪術廻戦という世界で『作中キャラを死なせたくないなぁ~』という当人の思考が、『式神が強化される(魔虚羅になる)代わり、作中の苦難をほぼほぼ全部請け負う』という死滅回游並みの無理難題の縛りが成立した結果。なのでこの後、彼女は泣きながら宿儺や羂索などの天井組と一人で戦わされる。ケツとタッパがデカい。
『退け!! 俺はお姉ちゃんだぞ!!』
術式:十種影法術(魔虚羅)
無理難題の縛りを結んだ結果、バグった十種影法術。
式神が全員魔虚羅になっている。脱兎も魔虚羅。蝦蟇も魔虚羅。大蛇も魔虚羅。鵺も満象も円鹿も貫牛も虎葬も皆魔虚羅。魔虚羅は当然魔虚羅。皆~んな魔虚羅。
呪霊サークルは泣いていい。
・禪院 直哉
皆のドブカス。
物見遊山でカスムーブ決めようとしたら調伏の儀に巻き込まれて脱兎(魔虚羅)に殴り飛ばされた。取り柄のお顔もグズグズやね。
その後、何かにつけて真呼を潰そうと画策するも鵺(魔虚羅)に電撃を食らわせられたり、満象(魔虚羅)に水を浴びせられたりして失敗に終わる。一番のトラウマは脱兎(魔虚羅)に投射呪法を適応された結果、24fpsで囲まれて殴られた時。
『ざけんなや。魔虚羅ばっかのドブカスが……!』
・禪院真希&真依
世界最強の姉を持つ羽目になった双子。常にボディーガード(魔虚羅)が傍に居るようになった結果、大抵のことには取り乱さぬ平常心を獲得した。表面上はツンツンしているが、なんやかんや守ってくれるお姉ちゃんが大好き。
・禪院 扇
作中第三位の炎使い。
真呼真希真依の父親。娘に相伝が発現したことをいいことに当主になろうと画策したものの、魔虚羅に強めにビンタされた。野望は潰えた。
『何度でも言うぞ。私が前当主に選ばれなかったのは、オマエ達のせいだ』
・躯倶留隊
禪院家の戦闘集団。真呼の便宜によって待遇改善がされた。
躯倶留隊の真呼レビュー
A『歴代十種影法術師が調伏できなかった魔虚羅を調伏した(してた?)人。なんか常に影からガコンガコン言ってて怖い』
B『妹想いのお姉ちゃん。意外と俺達にも優しい。でも妹になにかあると魔虚羅セ○ムが出てくる。怖い』
C『魔虚羅頼りかと思いきや普通に強い。術式抜きで扇さんより強い。なんか魔虚羅纏ってた時もある。怖い』
・羂索
作中のだいたいの黒幕。
『笑っちゃうよね』タハー