━━━夢を見た。
赤、白、黒、黄、紫、緑、青。光が7つに別れて、闇が7つに別れて。ほんの少しだけ、まるでケーキを切った時に包丁に着いたクリームレベルの少ない残滓がそこに残っていた。酷い言い方をすれば残りカスだ。そしてその残滓は大いなる存在によって別の世界へとはじき出される夢。弾き出された、ってのは言い方が悪いかもしれない。自分の力で包んで、他の世界で生きられるようにって願いを込めながら出したんだ。
残滓はその世界では生きられないほど弱くて、周りに存在している物…わかりやすく言えば、魔素だけで潰れてしまいかねなかったからだ。
まぁ…そんなこんなで種は世界の扉を超えて見知らぬ異世界へと旅立った。そしてその道中…色々な世界がまるでプラネタリウムが如く見えるような空間の狭間に、『蒼』を見て…………俺は目が覚めたのであった。
「お、目が覚めたか?」
「………………知らない天井どころか知らない超巨大水餅?」
雰囲気的にどこかの家に寝転がっている俺。そして視界の端には透明感のある丸っこそうな物体。これは一体…?今気の所為じゃなければ、ここから声がしたような…?
,
「━━━お、目が覚めたか?」
「………………………………超巨大水餅?」
「独特な感性してるね、君……俺はスライム。スライムのリムル=テンペストだ」
灰色の首まで伸びた若干くせっ毛のある髪。年齢は見た目からして大体15~20くらいか?灰色の髪、というのはまぁ光の加減でそう見えなくもない…格好もこの世界じゃあんまり見ないようなオシャレな服装だから、異世界人ではあるかもしれない…が、この色合いは光加減関係なく灰色である。大賢者曰く…
《記憶から参照。光の加減によって見える、という場合ならば前世の世界ではありえます。しかし誰が、どこからどう見ても灰色というのは色素の関係上存在しません》
とのこと。ならばこの世界の人間か?という話になるのだが……ここから厄介。なんとこの人物は俺が吐き出したのだ。それが俺に起きた異変。
大賢者に聞いても『彼女』以外の人間を飲み込んだ記録は無い、と言う言葉。のにも関わらず、俺の体から吐き出されたのである。そして気絶している間に大賢者に解析してもらったが…結果として、不思議な事となっている。
《……
人間だよね?どう見ても。擬態してる、っていう感じでもなさそうなのだが…ここから更に変なことが起こっている。影にいたランガに匂いを嗅いで貰ったところ『同族の匂い』と返ってきた。しかし当然の事ながら本人…本犬?も困惑しており、俺も困惑していた。
更に困惑することに、その際大賢者がこいつを牙狼族と言い始めたのだ。正確には追加された、と言った具合に。
「……スライム、確かにぽよぽよしてるけど…目どこ?」
「人間的な眼球はないよ………で、お前何者?なんで俺の中にいたの?」
当然、怪しむしかない。ソウエイの分身も影の中にいてくれたので、ベニマルを連れてきてもらう様に頼んでいる。敵対するということは無いだろうが…あいつを連れてきてもらってくれれば、荒事の際は楽である。
「……?いや、体積考えてくださいよ。俺の体、貴方より大きいじゃん。入るわけない…」
「細かい事はいいんだよ……で、どうなんだ?」
「……いや、知りませんよ。直前まで自分が何してたかもちょっと今思い出せませんし……」
《目の前の人物からは、敵意を感じません》
そうなんだよな…そもそも気絶してたし……とは言っても、その場で種族がコロコロ変わるような奴が信じられないのも事実で…俺より強い、のだろうか。しかしそれなら俺の中に入るより、俺を殺す方が楽だと思う。そのせいで余計に謎が深まる
《体内では存在を感知できませんでした。故にその気があるならば害を成せたと推測します》
こうやって軽く話してても、敵意は感じないけど…怪しすぎるんだよなぁ……大賢者の解析も上手く働かなくて、吐き出すまで存在を認知出来ない。余りにも恐ろしい。
…しかし、他のやつがいれば種族が増えて俺の時はスライムだけ…か。まるでその場にいるヤツらの種族を写し取ってるみたいだな。
《━━━前世の知識から、目の前の人物の特徴と部分一致した種族名を仮定させます》
お、そう来たか。まぁ一々種族がうつり変わったら面倒だしな。まぁ何でもいいよ。とりあえず俺たちの種族じゃなかったら。
《
あぁ、もう1人の自分で見たら死んじゃうって奴?オカルト的な話だけど、最近だと病気による異常って話も出てたんだっけ…まぁ確かにその場にいる種族を写し取ってるって話なら違和感は無い…か?
「……で、お前の名前は?」
「名前」
「うん」
「あー、ちょっと待ってくださいねぇ………………………………………」
長いな。自分の名前思い出すことってある?それとも恥ずかしがってる?いや、目の前で唸ってるな…多分これ困ってるな。恥ずかしがってるとかじゃなくて。
「…いや、待ってくださいよ…マジで…」
「…思い出せないのか?」
「…記憶喪失ネタとかじゃないんすよ、マジでちょっと待って…」
うーん…ほんとに悪いやつじゃなさそうだなぁとしみじみ思う。まぁそしたらそうだな……
「名前、いるか?」
「………渾名って事ですね?」
「そうしよう。なんかお前悪いやつじゃなさそうだし、この街にしばらく住むといいよ。仮に保護責任者とかいても、この様子じゃどこにも行けないしな」
そもそもここジュラの森だからね。見た感じ武器も持ってない防具もない、服装は前世の俺のいた世界の服に似てて……………ちょっと待てよ。さすがに改めて考えるとおかしいな?
「お前、こっちの世界の人間か?それとも別の世界の人間か?」
「…そういや、改めて思ったんですけど…なんでスライムなのに喋れるんです?」
「いやいやこっちの聞いたこと答えてくれよ……因みに俺が喋れるのは企業秘密」
「なるほど……うーん…?ちょっとわかんないですね」
他人事のようにこいつ話していやがる…!何と言うか滅茶苦茶マイペースだなこいつ!!記憶喪失ってもっとこう焦るもんじゃないの!?
《記憶が無い為、自分の事だと認識していないのかもしれません》
そのパターンか……んー、けど俺の元いた世界…異世界人の若者の様な服装に対して異世界人ではありえない髪の色…服装は向こうなのに、肉体はこっちなのは明らかおかしいだろ。
しかも生前の俺が着てたことのある服…って訳でもない。いや覚えがないだけで着てたのかもしれないけど、それはそれでおかしくない?それだとこいつ、俺の記憶から服を作ったってことになるし……うーん…まぁ深く考えてもしょうがないことかな、今は。
「…にしたって、平然としすぎじゃないか?」
「現実味が無い、ってのが大きいかもしれませんね」
まぁ確かに起きたら異世界で目の前で喋るスライムが居て記憶喪失で……って言うのは、情報量は多い…か。それで処理しきれてないからこうもなる…のか?まぁなる、ってことにしておくか…何だかんだ俺もこっちに転生してからすぐの時もこんな感じだった気がするし。
「…あ、じゃあこれ聞くか…『僕は悪いスライムじゃないよ』!」
「あ、それ知ってます。ゲームのやつですね…って事は?」
「ま、そういう事だ」
ふむ…自分のことは分からないのに、そういうのは分かるんだな…?変な所抜け落ちてるもんだが、記憶喪失なんてなった事ないし周りにもいなかったからこういう事もあるのだろうか…
「……ま、いいか。とりあえずあだ名付けるから……」
まぁとりあえず呼び名を考えてやらないと不便だしな…記憶喪失の治し方なんて個人で別れそうなイメージあるし今は考えず…いや待って、名付けにならないかこれ?
《性質的には魔物に近い種族と推測されますので、名づけ成り得ます》
だよね!いやまぁ1人くらいなら何とかなるだろ……色々喰って俺の魔素量も増えているしさ!そうだなぁ…灰色の髪にドッペルゲンガーという仮種族…灰色ドッペルゲンガー…うん、決めた。
「今日からお前はハイドだ!」
「ハイド……意味ってありますか?」
「灰色の髪だから………………って…うん…?」
「…?どうしたんですか?」
謎の少年ことハイドは不思議そうに顔を見つめてくる。うん、なんかおかしいと思ったら…魔素が取られてない。つまり名づけになってないって事だ。名付けには付ける側と付けられる側がどっちも合意してないといけないはずだが………この様子で流石に合意してないなんてことは無いだろ。ちょっと大賢者?どういうこと?
《……不明》
分からないときたか……だが種族は兎も角としても、明らかに魔物の筈なのに名付けしても影響がないとはどういう事だろう…既に俺より強い誰かに名づけされててそれを忘れて………いやいや、流石にそれはないだろ。そもそもさっきまで俺の中にいたんだぜこいつ。
「うーん……いや、なんでもないよ。とりあえず、しばらくはこの街にいるといいさ。その間にどうするか考えとくといいよ………けど出来れば人手が足りないから働いて欲しいな!服と住むところは暫くはここでいいからさ!!」
「まぁ衣食住用意されるならこっちとしても構わない……というか、流石にやる事やりますよ。働かざる者食うべからずですし」
そんな言葉知ってるなんてな……やっぱこいつ異世界人だよな…でも髪の色とかはこっち側、と。なんかもう…よくわからん存在すぎるな…あ!転移してきて髪の色が変色したとか!?
《恐らく》
じゃあまぁ……いいか!そういう事で!そうでもしとかないと余計に訳分からんくなる!詳しく考えるのは後々!!
「とりあえずこれから仲間たちに紹介するから!」
「あ、はい」
…突然だったが、俺達は新たな仲間を迎えた。不思議な奴ではあるが、悪い奴ではないと信じたい。その事を踏まえて仲間達に紹介をして…これからハイドをどうするか決めていく所存である。
しかしスライムに生まれ変わって幾星霜…も経ってないけど。中から人が出てくるなんてなぁ…………あれ?俺子持ちになった?
《単為生殖では無いかつ他者と関係を持っていない為血縁関係にはなりません》
わかって言ってんだよこの野郎。しかもそれどっちにしても俺が産む側じゃねぇか。冗談で言ってるだけだっての。まぁ…こいつもここを楽しんでくれたらいいな。俺はそう願いつつ、街の案内をしながらハイドを皆に紹介していくのであった。
スキルとかはゆっくり出していきます