こんにちは、ハイドです。俺達の街が国となり、テンペストという名前となりました。それからというもの、街は良くも悪くも活気づいており皆さん大忙し。
俺も子供達に勉強を教える傍ら、時間の空いた時に行商人の方からちょっとした勉強も受けています。金額の計算の仕方や、商売のコツなんかも教わってる。
その傍らでリムルさんが『いきなり金銭触れさせるのもなぁ、なんか代わりのもの用意しとかないとな』という言葉から、別案を出せまいかと色んな人が頭を悩ませています。
降って湧いた話とはいえ、乗らねばならなかった国の話。とはいえ段階をすっ飛ばしたというのも事実なので、金銭管理などの知識はまだまだ不足気味な訳で…弱肉強食、物々交換が当たり前の魔物からしてみれば、金銭管理は単に手間のかかるものではあるだろう。慣れたら便利ではあるが……
《実際、これから人間との付き合いも増えるのですから覚えないといけないことではあります》
「だよね…」
前よりもはるかに賑わい始めた街を見て、俺はそう呟く。先生もそう思っているのなら、俺のこの考えに間違いはないだろう。とは言っても…だ。元々別案を出して慣れていくつもりだったのに対して、いきなり吹っ飛んでしまったから全てが間に合っていない。
リムルさんの仕事は爆増、俺も先生と一緒に可能なものを手伝ってはいるがそれでも追いついていない。
いちばん忙しいのはおそらく建築業とかになってくるのだろうけど、要するにゲルドさん達の方だ。リムルさんと違って寝る必要がある筈なのだが、如何せんワーカーホリック過ぎて皆働いている。
「まぁ俺は単に仕事がないだけなんだけど……」
仕事量で言えばゴブタ君やリグルさんより少ないだろう。教えて貰いに行くのも自主的にやってる事、リムルさんからは人が多くなってきたから所謂セミナーの教師をして欲しい、と言うのを頼まれているが…それ自体ももっと先の話だ。
「……ん?」
《どうかしましたか?》
「気のせいかリムルさんの気配増えてない?」
《………なって、ますね…》
新しく作られた議事堂、そこに元々リムルさんの気配があった。そしてもう1つの気配は反対側の森の方にあった。それと同時に、明らかにやばそうな気配がもうひとつ。
良く辿れば、そこにはテンペストの中でも有数の猛者たちが…あ、リムルさんの気配も森に行き始めた。
「……ちょっと、覗きに行くか」
《えぇ》
そうして俺は謎の気配の元へと走り始めるのであった。
,
「━━━パパは殺させません!!」
「スライムに娘ができるわけが無いだろう!!」
辿り着くとそこには…リムルさんによく似た子と、背が高いゴブリン…かの噂のカタキがそこにはいた。うん、カタキに関しては前からリムルさんを狙ってるって話も聞いてるしリムルさん以外特に率先して狙うことがないらしいんだけど…もう片方の子は何?リムルさんによく似た気配と顔つきをしてるし。会話から察するに、あの子はスライムの…リムルさんの子か?自称が頭に着くけど…
「……お!来たかハイド!」
「………」
「…何だよ」
「とりあえずどっちですか?」
「何が?!」
「私です!!」
「シオンは黙って!!」
どうやら覚えがないらしい。というかスライムって無性だから子孫なんて作れないよね。俺的にはただぼかして質問しただけなので、変な返事が返ってきたらそれを答えにするつもりだったんだけど。
「……リムルさんって無性だしどっちもないですよね」
「当たり前だろ?いやまぁこの姿自体は女性が元だけどさ……」
「ですよね…でもあの子…」
「うん……めっちゃ女の子版俺」
変な話である。食べたのが女性というのなら、擬態したら女性体型になったというのはあるだろう…多分。しかし見た目がほとんどリムルさんなのだ。違うところがあるとすれば、髪の長さと目の色だろうか?それ以外は可愛めにしたリムルさんパーツって感じだ。なんか…『モチーフにして作ったけど、元のキャラと若干違うかもしれん』くらいのキャラエディット感ある。
そしてそもそも、リムルさん自体人間体への擬態能力は外付けということらしい。つまるところ、似たスキルを元から持っているという話だが…ここで見た目の話に戻ってくる。見た目を無条件で模倣できるとかじゃない限り、似た姿なんて有り得ないのだ。喰らわなければその姿にはなれない…らしい。全部要約すると、わけがわからんって結論になる。
「見た目、カタキとの戦いで使ってるスキル…何から何までリムルさんですね」
「…そういやお前会ったことあったなカタキと」
「短冊渡したら書いてくれましたしね、いいやつですよカタキ」
「ま、それは何となくわかるが……」
「そんなことより、今は目の前の状態をどうするかですよ」
テンペストから…というか街からは若干離れてるとはいえ、油断出来ない距離。というか、もう片方の子が周り考えず暴れてるせいで木々は切り倒されて燃えたりしてる。
「…とりあえず、カタキは俺がやる」
「あの子に関しては…この場のメンバーで、ですね」
カタキはリムルさんとの一騎打ちを望むだろう。対してあの子は周りを顧みないリムルさんだ。遠慮なく暴れ回るのはヤバすぎるから、ぶっちゃけ危険度はあっちが高い。
「おう、頼んだぞお前達!」
「「「はい!!」」」
あの子の対処は…テンペストが誇る戦えるメンバー総出だ。それと最近テンペストに入ってきたカタキの仲間って人達は、カタキの説得をするらしい。
「とりあえず分けるぞ…水刃!!」
「
「
「
リムルさんが大きい水刃を飛ばし、ベニマルさんが黒い炎を飛ばし、ランガさんが黒い嵐を発動させ、俺が斬撃を飛ばす。この技リムルさんから教えてもらったんだけど、何故か『お前も覚えとけ』って言われた。貸し借りがどーとか言ってた気がするけど…今は関係ない。
分かたれた2人の元へ、それぞれ飛ぶ俺達。リムルさんはきっと一騎打ちに勝てるだろうと俺達は信頼している。まぁ目の前のこの子が未知数すぎてなんも分からんが……
「あ!お兄ちゃん!!」
「「「……………?」」」
お兄ちゃん、お兄ちゃん?とりあえず女性陣は違う。お兄ちゃんってことは男性だ。見た目からしてランガさんともゴブタさんとも違う…と思う。見た目が変えれるような種族なら、精神的性別以外あんま信用できないしな。
「……おい、ちょっと待った。その『お兄ちゃん』ってのは誰のこと言ってる?」
ベニマルさんが渋々聞いてくれた。うん、ありがたい。流石テンペスト侍大将だ。聞かれた目の前の子はわけがわからない、と言いたげな表情をしていたが…思い至ったようでぱあっと明るい表情を出していた。この子表情豊かだな……
「あ……自己紹介からですね!初めまして!パパ…リムル=テンペストの娘、シンシヤです!お兄ちゃんっていうのは、そこにいるハイドの事!つまりハイドお兄ちゃんです!!」
「待て待て待て待て」
意味わからん、なんでこの子初対面の俺にお兄ちゃんって言えるんだ?しかもリムルさんの娘って自称してるのに何故俺がお兄ちゃんになるんだ?意味が分からん。
「あぁ、確かに」
「たしかに!?似てるパーツあります!?俺とあの子!!」
急にシオンさんが変なこと言い出してビビった。確かにってなんだ確かにって。
「だって…貴方リムル様の体内から出てきたじゃないですか」
「え、はい」
「広義的に見たら、それは息子ということになりませんか?」
「そ、れ…は………」
否定したいが、否定したいが何故だろう。否定できる言葉が出てこない。むしろなんで俺息子扱いされてないの?って話だ。いや、俺の自認は別にリムルさんの息子じゃないからか?
「そういう事です!」
「そういう事なの!?」
「━━━でもそれだとリムル様パパじゃなくてママじゃないっすか?父親誰なんすかね」
ゴブタ君多分今いらん地雷踏んだと思うよ!!!
「あ゙ぁ゙?」
ほらー!シオンさんえっぐいキレ方してる!滅茶苦茶怖いよ!!俺でもわかる地雷の踏み方講座は今しなくていいよ!
「安心してください!」
「おお!?」
味方では無いものの、シンシヤにはなにか考えがある様子だ。戦いなんてすっかり行われて無いままに、俺はシンシヤのシオンさん落ち着かせ作戦を彼女に任せていた。
《それでいいのですか?》
いいんだよ!シンシヤのことは後で考えればいいんだ!
……なんて思っていたが、彼女から発せられた言葉は俺の想像より明後日の方角の答えだった。
「私には既に母様がいます!パパはパパです!」
「………それは、誰ですか?」
今ここで1番戦闘態勢に入っているのは、シオンさんである。最早ベニマルさん達もそっちを警戒してしまっている。触らぬ神に祟りなし、とはこの事だろうか。しかし既に怒り散らかしている神は俺達の胸元を掴んで離さないだろう。
「へ?母様は母様ですよ?」
「……名前を、聞いて、いるのです」
めっちゃ怖い…先生!この場でシオンさんを落ち着かせるいい案とかないですか!?多分今一番危険なのシオンさんですよ!?
《……では、こう言ってください》
と、俺は先生から助言を貰った。それでほんとに落ち着くかは分からないが、やらないよりはマシだろうという判断である。
「シオンさん!少し待ってください!!」
「……何ですか?」
「確かに彼女はリムルさんにそっくりです!しかしよく考えてください!リムルさんと似通った姿、ほとんど同じスキル!しかし無性である筈のスライムに有るまじき女性的肉体!!」
「………」
聞いてる!聞いてる!!このまままくし立てて誤魔化して何とかするぞ!
「本来ではありえません!その上で謎の『母様』とリムルさんが『パパ』と言うこと!
俺の予想では!リムルさんの何処かで欠けた体を依代に、擬似リムルさんを作った人がいるんじゃないですか!?」
「つ、つまり見た目が似通っていてスキルが同一なのは…」
「彼女がリムルさんの肉体から生み出された…所謂人格を持った分身!!言うなれば擬似分身!!」
ぶっちゃけクローンとかの可能性を考慮している。これならば色々説明が着くと思いたいし、同じことを考えていたベニマルさんからもフォローを入れて貰えた。
「ふむ……つまり、彼女は…」
「リムルさんをパパだと信じさせられている…被害者、かも…!」
「むー!違いますよー!!」
「…確かに。リムル様が何処ともしれぬ者と子を成す、ということをされるはずがありません」
そもそも子を成す昨日が無いと思います!え、無いよね?
《どれだけ進化しても、種族の大きな括りから外れることは基本的にありません》
だよね!
「むー!お兄ちゃん酷いです!」
「お兄ちゃんと呼ばないように!」
「こうなったら…お兄ちゃんも連れて帰ります!むむむむ………えーい!!」
その可愛らしい掛け声とは裏腹に、彼女の両脇から巨大な腕が現れる。とは言っても生身の腕ではない。なんかえげつない音と光を発している糸の束が、腕の形を保っているだけである。
《━━━あの腕は電撃と焔を帯びています。その上で捕食の能力も付与されています。あとその他諸々ありますので、離れることを推奨します》
……ん?単なる触れたらダメ的な感じではないな?なんかその諸々部分、隠してる事ないですか?先生。
《……炎は言わずもがな、あの鋼糸自体が高速振動を起こし斬撃効果を持っています。多重結界などの耐性もありますので、今のリムル=テンペストですら捕まれば細切れにされてしまいます。更に電撃を流しているので、電磁石のようになってもいるので…》
「ッ!?なんだ、刀が…!?」
「剛力丸が、引き寄せられて…!?」
《金属製品が引き寄せられます》
もっとそれ早くに言ってくれないかな!!
「皆さん!!武器を離してください!!あれ見た目以上に厄介で…金属が引き寄せられます!!」
「えええ!?なんすかそれ!!ズルくないすか!?」
「わ、私盾と剣がないと何も出来ないのに…!!」
しまった…こうなるともう戦えるのはベニマルさんくらいだ。全員ほとんど武器ありきの戦い方だし、肉弾戦は…あの手に掴まれる可能性が高い。
「パパを捕まえる為に!文字通り編み出した私の技!名付けて
《………》
しまったな……これは、まずいかもしれない。あの腕自体が光り輝いてるから影移動の移動先が絞られてしまう上に、近接戦闘は腕に掴まれてミンチ肉。片腕だけなら良かったのに、それが両腕。
リムルさんと同じスキルなら、耐性も同じはず。武器は奪われるし、スキルも何が通じるか分からない。スライムらしいから生半可な物理攻撃は実質通じない…
この時点でここにいるメンバー総出で、しかも決死の覚悟で飛び込まないと勝てないような気がしてきた。
やばい腕を2本目の前にしながら…俺は目の前でドヤ顔している少女に対して、どうするかを思案するしか無いのであった。