混ざりし世界の正体不明   作:長之助

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怨恨娘妹

こんにちわ、ハイドです。とある日、テンペストにお客さんが2人やってきました。1人はテンペストがテンペストになる前から、リムルさんを狙う1人。邪小鬼(イビルゴブリン)のカタキ。彼はランガさんの先代が率いていた一族に仲間を殺され、その恨みで動いている。もう1人は自称リムルさんの娘、尚且つ自称俺の妹と呼ぶシンシヤ…明るく朗らかという感じの子だが実力はリムルさんと同等。リムルさんができることはなんだってできるみたいだが、リムルさんが思いつかなかったことをこの子は思いついている。

現に今、粘鋼糸に電気と炎を纏わせ超高速で振動させているものをまとめあげ、手の形のようにしている。それのせいで金属製の武具は電磁石となった巨大な粘鋼糸に引き寄せられ使い物にならなくなってしまった。

 

「さぁ!パパの前に連れてってください!」

 

「するわけないでしょーよ!」

 

「だがもう打てる手は少ないぞ…!?」

 

ベニマルさんが困ったように俺の横に並んでいた。実際そうなのが腹立たしいところである。この国の戦闘要員、皆いい意味でスキルに頼らないようにしていた。

だがそこを逆手に取られて、各々の武器を取られてしまう。人によっては鎧も吸い取られてるし……スキルや魔法等を使える人はそれらでいいが……

 

「並大抵の攻撃はあの大きな腕で防がれてしまうな…」

 

「吾輩も手出しできませんぞ!!」

 

「そもそも近寄れないっす!!」

 

さっきも言った攻撃だが、ゲルドさんやベニマルさんはそういう攻撃ができる。しかし今それは弾かれている。ガビルさんの様な武器がメインの人はそもそも攻撃ができず、肉弾戦しようにもシンシヤの周りは熱々…というか灼熱地獄である。耐性があれば別だが…それに、炎と電撃であの辺の影がなくなっている。影移動もできない。

 

「ふふん!これがパパを捕まえるために編み出した手ですからね!文字通り!!」

 

「上手いこと言った感出してんなぁ……」

 

だが実際上手いこと言ってるし上手いことされてしまってる感もある。しかし対策がない訳でもない…ないが、所謂『不可能ッて点に目を瞑ればよォ〜!』って奴である。

 

《大量の水があれば水蒸気爆発で一瞬影が出来ますが、それをする水がありません》

 

というのが先生の談。リムルさんの現在持っている水量ですら難しいとのこと。それにそんなことしたら周りが吹き飛んでしまう。困った、本当に何も出来ない。

 

「お兄ちゃんも一緒に来るんですよ!母様とも一緒です!」

 

「…どこに行くんだ?」

 

「鏡の中です!」

 

鏡の中って……物理的な意味じゃないよな、多分。

 

《………スキルによって鏡を入口とした別空間の事を指しているのかと》

 

…なるほど。その鏡の中って言うのがどういうとこか分からないけど、この子にとってはリムルさんと彼女の言う『母様』と一緒にいることが全てなんだろうな。

 

「……鏡の中って、何があるの?」

 

「え…それ、は……」

 

すぐに思いつけないあたり、ホントの意味でなんにも無さそうだな。『家族は一緒にいる』に固執しきっている当たりが、余計にそう思わせる。

 

《鏡を媒介しているとはいえ、別空間内に目立った特産品があるとは思えません。恐らく、模倣された空間自体はあるでしょうが……》

 

その空間内には、この世界異常の何かがある訳では無い…ってことか。また別の異世界が広がってるという訳じゃなくてよかったよほんと。

 

「うーん…じゃあ、リムルさん達をはいそうですかってわたす訳には行かないな」

 

「け、けど…パパを連れて帰って…家族みんなで…!」

 

「そうするとこの国の人が困るんだ……シンシヤ…君の………パパは、すっごい強くて、すっごい頼りにされてる人だ。だから君と『母様』が住むなら兎も角、逆はダメだ」

 

ちらりとリムルさんの方に目を向けるとカタキが膝を着いていた。どうやら向こうも決着が着いたらしい…ならこっちも、さっさとこの子と決着をつけないとな。

 

「でも、でもっ…!連れて帰らないと、いけないんです!!」

 

彼女の両脇にあった巨大な両腕。それが俺目掛けて飛んでくる…が、俺はそこからバックステップで距離を取ろうと動く。そしてその動きに合わせて、俺以外の全員が…前進した。

 

「皆さん!!」

 

「あぁ!行くぞお前達!」

 

「しまっ…!?」

 

ベニマルさんが先導し、全員が突撃する。殺しはしないだろう、現状きちんと判明していないとはいえ…あそこまでリムルさんに似ているんだ。母様とやらの調査もしないとだし、戦闘不能くらいで済ますはずだ。

さて、だからといって飛んできたこの両腕を放置してたら俺が死ぬ。痺れ焼けてついでに切り裂かれて彼女の胃袋行きだろう。助けて先生!!

 

《……では、こうしましょう》

 

先生の指示通りに俺は近くにあった木々に魔素で作った糸を括り付ける。溜め込んだ魔素限界ギリギリまで糸を括り付け、そしてその糸を全力で引っ張った。魔素で肉体の強化も忘れずに行う事で、括り付けた木々達が倒れる。それは腕の進行を妨げ、勢いを落とすのに役立ってくれた。

 

《胃袋は、許容量が少ないながらも貴方の中にも存在しています。飽食者(アキヌモノ)を付与した刃でなら…一瞬の空白を作ることができるでしょう。ただし捕まらないように気をつけてください、捕まると一切の抵抗ができなくなりますから》

 

掴まれた瞬間ゲームオーバー、と。だから木々で動きを止めて、尚且つシンシヤ自身の意識は今は突撃したメンバー全員に向けられている。

 

《今は調整により魔素だけを吸収していますが…本来飽食者は触れたもの全てを喰らい尽くすスキルです。なので今回……その制限を、解除します》

 

2本の刀を生み出し、俺は真っ直ぐシンシヤの作り出した腕に突き刺す。そして飽食者を全開にし…一気に、食い尽くす。所で俺の胃袋の許容量はリムルさんよりも遥かに少ない。この両腕を即魔素へと変換しないと多分口から炎と雷ゲロゲロしてた。

だが吐きかけてても弱音は吐く暇がない。俺は全員分の武器を手に取っては投げてを繰り返していく。

 

「皆さん!!」

 

何も言わず投げられた武器を全員が受け取り、そして同時にシンシヤを囲む。全員で一気に叩いたら多分死ぬしな、シンシヤ。けどもう一度あの手を生み出そうものなら、少しばかり攻撃せざるを得ない。

俺は全員が囲んだシンシヤの前へと姿を表す。先程まで元気いっぱいだった彼女は、打って変わってオロオロとしていた………触覚みたいなの出てるから、ウサギみたいだな。

 

「…ここまでだシンシヤ」

 

「お、お兄ちゃ……うぐっ、えぐっ…!」

 

「え゙っ」

 

「あーあ、女の子泣かせたっす」

 

「えっ!?」

 

突如としてシンシヤが泣き始めた。ゴブタ君に茶々入れられた。え、なにこれ俺が悪いの?

 

「女の子を泣かせてはダメですよ?」

 

「あれぇ!?皆さんノリノリでしたよねぇ!?」

 

「うぐっ、ひぐっ…パパを捕まえるための技なのに…パパどころか、お兄ちゃんすら捕まえられないだなんて……うわああああん!!お兄ちゃんのバカーっ!!!」

 

「あ、ちょっ!?どこ行くんだよ!!あと人の事馬鹿って言ったらだめだぞー!!」

 

「そこじゃないと思われるが……」

 

泣きながら…どこかに走っていってしまった。変なツッコミを最後にしてしまったが、ゲルドさんがツッコミし直してくれた。いや、そんなことはどうでもいいんだ。

 

「……ま、まぁ…別にわざわざ追いかける必要はないだろう。俺達もリムル様の援護に━━━」

 

ベニマルさんがリムルさん達の方に視線を向けた瞬間…重みが、やってきた。明らかな異常事態、そして湧き出る虹色の妖気(オーラ)が事の重大さを表していた。

 

「これは…!?」

 

《━━━個体名:カタキが、進化の秘宝を使用した模様》

 

進化の秘宝を…!?って、なんだっけそれ…?カタキが何かを探してる、みたいな話をしていたのはうっすら覚えてるんだけど…

 

《……簡単に言えば、生物としてのランクアップ。肉体に依存しない精神生命体へと進化を果たします。そして同時に、精神生命体になる以上…その強さも飛躍的に跳ね上がります》

 

成程……じゃあ早く止めないとヤバいってことか!?場合によってはリムルさんよりも強くなりかねないってことだろ!?

 

《━━━━というのが、進化の秘宝を『正常』に使用した場合のみ起こることです》

 

……ん?んん?先生、その言い方だとカタキの使い方が間違っているって言うように聞こえますが?

 

《正確には、使い方よりも使う人物の状態が宜しくありません。何らかの要因によって、今の彼は精神を著しく消耗しています。そんな状態での使用では、進化の秘宝に精神が耐えきれず…数時間で消滅します》

 

要因って……あ!!カタキの仲間!!あの人達がこっちにいるのを見て、裏切られたとか思っちゃったって事!?あの人達カタキを止めにあっちに行ったから確かにやばいじゃん!!

 

《恐らくは》

 

「何事だ!?」

 

「ッ…!カタキが何かしたみたいです!」

 

「例の進化の秘宝とやらを使ったのやもしれんな…」

 

「あれ、ソウエイさん知って……いやそんな事より!今それを使ったカタキが暴走しています!精神生命体になってるかどうかは兎も角として、ここら辺で暴れられたら溜まったもんじゃないです!」

 

ソウエイさんは隠密…まぁリムルさんが何か言っててもおかしくはないだろう。俺はそう思い、全員にカタキを止めるように伝える。当然みんなは止める気満々だが…ベニマルさん他、鬼人の人らは少し思うところがあるようだ。

 

「仲間の恨みを晴らすべく…か」

 

ベニマルさんが、誰にも聞こえない程の小さな声でそう呟いた。当然、それは誰の耳にも入る事はなく…俺も、止めるのに必死だったので俺の耳にも入ることはなかったのであった。

 

「「リムルさん!」」

 

「「「リムル様!!!」」」

 

「皆無事だったか!!」

 

こうして全員が、リムルさんの元へと集結する。妖気は相も変わらず垂れ流し…威圧感が半端ないが、しかし目の前のカタキは誰がどう見ても正気ではなかった。

 

「止めるぞ…カタキを!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

全員の声が重なる。ただ仲間の無念を晴らしたかっただけの奴が、こんなところで死んでいいわけが無い。俺でさえそう思っているのなら、事情を完全に知っているリムルさんやカタキの仲間の人達は…もっと思うところがあるだろう。

俺達は殺さず、しかしカタキをきちんと止めるために動き始めるのであった。

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