こんにちわ、ハイドです。突如としてテンペストに来襲した2人の脅威。自称リムルさんの娘、かつ自称俺の妹のシンシヤ。そしてかつて
「……なんで?」
俺はカタキと、その仲間の人達と共に何故かテンペスト自慢の温泉に浸かっていた。後からリムルさんも来るらしい……人型は辞めて欲しい。普通に心臓に悪い。
「あはは…」
「なんだよー、俺達とは入りたくないってかー?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
改めて自己紹介をされた。まず転移者であるリト。ジュラの森に転移してきたらしいが、そこをカタキに助けられてからカタキと共に行動しているらしい。ユニークスキル
続いてカーバンクルのカー、そしてグレムリンのグレ。どちらもリトと同じでカタキに助けられたらしいが、名付けをしたのはリトらしい。あともう一人、ケットシーのケット。どうやら渾名をつける要領で3人にリトが名付けをしてしまったらしい。通りで……
「…何か、変な事考えてない?」
「……いや?別に?」
「……ふう」
「…にしてもカタキは温泉堪能してるんだな」
「…うるさい」
浴槽の縁に頭を乗せ、天井を見上げているカタキ。温泉が気持ちよくて…というか、色々あって気が抜けたタイミングが今なのだろう。多分名を得てから今の今まで…下手をすれば生まれてから今までこんなゆっくりできたことは無いかもしれないだろうし。
「でもほんとに気持ちいいよなぁ…」
「うん…確かに」
「修学旅行を思い出すみたいで…なんだか懐かしい気持ちになるよ」
そりゃあまぁ思い出すだろうな…リムルさんの知識から再現した建物のようなもんだし、懐かしい気持ちになるのも当然かもしれない。それでも、気持ちいいことだけは本当だけど。
「いいよなぁ…入りたい放題」
「来る者拒まず…なところあるしね、この国は…もし旅立つとしても、好きな時にこの国に来て、好きな時に入りに来たらいいと思うよ」
まだまだテンペストは新興国家である。これからもっと発展していくだろうし、まだまだ大きくなっていく。こうやって好きに温泉に入れるのも、今のうちかもしれないし……存分に堪能する分には、バチは当たらないだろう。
「……そういえば結局、なんでシンシヤとやり合ってたんだ?」
「…知らん、よく似た…というか雰囲気がほぼ一緒の娘がいたから話しかけただけだ。そうしたら何故か攻撃されたんだ…なんだ、あいつは」
「…俺たちもよく知らない。自称リムルさんの娘、らしい」
「…スライムにオスメスはないだろう…そもそも繁殖するのか?個体同士の交わりで」
「さぁ…?」
スライムの生態は謎が多い。ゴブタ君が言うには『熱い時に食うと美味いっすよ!』くらい。要するに珍味という扱いしか知らないんだけど……この国でスライム料理が流行ったらリムルさん隠居しそうだな……いや、そんな話はどうでもいいんだ。
「おーっす」
「あ、珍…じゃなかった…リムルさん」
「おい今なんて言いかけたか後で教えてもらうぞハイド」
やっべ、スライム姿で現れたリムルさん見ちゃって口滑っちゃったな。こういう時はさっさと言った方がダメージ少ないし言っといたれ。
「スライムの生態の話してたらゴブタ君がこの間『珍味なんすよ』って言ってたの思い出して口滑らせただけです」
「後でって言ったのに今言うなよ!!!!いや…まぁいいや…体、もう大丈夫みたいだな」
「……あぁ、助かった。礼を言う」
そう言うカタキの顔は、憑き物が落ちた様な…同時に目的を見失い空虚になってしまった様な……そんな、少し虚ろげな表情だった。今までが今までなのもあって、彼の中は今ぽっかりと空いてしまっているのだろう。
「いつまでだって、ここにいていいんだぞ?」
「…いや、申し出はありがたいが…明日にはここを出る」
「……まだ、許せないのか?」
「…いや━━━」
浸かっている露天風呂から、見えている晴天に視線を移すカタキ。今まで見えてなかった太陽をようやく見る気になったのか、リムルさんと相対してもその言葉には恨みの一つも込められていなかった。
「もう思うところはない、この国を見てわかった。皆が傷を抱えながら、それでも前を見て新しい道を歩んだ。その結果がこの国なら、その選択も間違っていなかったんだろう」
「カタキ……」
「俺の新しい道は、俺なりの弔いを探すことだ……復讐以外の道で」
「そうか……カタキ、こういう言い方はあんまり好きじゃないんだが…頑張れよ」
「ふっ……」
その日の翌朝、カタキとその仲間達はテンペストを去った。これから彼らはこの世界で旅を続け、仲間の弔い探しをしていくのだろう。
……なんてしみじみ思っていたが、ケット、カー、グレの3人はほぼ毎日温泉に浸かりに来ており、カタキも人気の少ない時間帯にたまに浸かりに来ているという話を聞いた時は、どんな顔をしたらいいかわからなくなってしまう俺であった。
,
閑話休題、という名の話を1つ。
これは決着着いてからリト達がテンペストで温泉に使ってる時に出くわした俺との話し合いの時である。
「……そういえば普通にカーとか入ってるけどさ」
「ん?なんだよリト」
「この温泉の排水設備ってどうなってるの?というか温泉どうやって作ってるのさリムルさん」
「…?これ地下源泉じゃないの?」
「あー……」
リトの疑問は最もである。これに関しては俺もリムルさんから聞いただけの話だが、一応知ってはいるのだ。というかテンペストの水事情はリムルさんとソウエイさんが死ぬ気で頑張って山から排水管を繋げたらしい。影移動って便利だなぁとは思った。
「え…山のところから2人で…?」
「そうらしいよ?今でこそオークの皆さんがいるとはいえ、それすらいない時だったから…」
というか…俺の目で見てもテンペストの発展具合の70%くらいはオーク達の仕事のおかげだろう。何せ肉体労働メンバーを何千何万と動かせるのだ。俺がここに来てからのしばらくの間で街は広がり様変わりしている。
恐らく彼らがいなければ未だに村のような見た目だっただろうとは、リムルさんの談。
「将来…どこまで大きくするつもりなんだろうリムルさん…」
「さぁてねぇ…国同士の繋がりを最初にドワルゴンと結べたのが大きいかもね」
何せ金貨銀貨とかの貨幣の製造を受け持っている国だ。信用度が段違いである。しかも王様は英雄王……改めて考えるとリムルさんの運ってすごいな。
「………で、何で俺を見て排水の話したんだ?リト」
「…いや、僕異世界人なんだけど…似たような設備が元の世界にあったんだよね。けどそっちだとカーみたいな毛が長くて多い…カーレベルのは、結構お断りされたりするんだよね」
「…あ!抜け毛が詰まるから?」
「うん…まぁカーがそんな頻度で抜けないのは知ってるけどさ」
「なんだよー!俺を獣呼ばわりかー!?」
「ごめんて」
「………まぁ魔法じゃない?知らないけど」
「え、急に雑……」
ほんとに知らないのだ。排水の設備は見た目は一緒だけど……魔法とか絡んでくるとまた別だしな。その辺の説明は先生がしてくれるだろうけど、そこまでして知りたいもんでもない。
《説明は一応できますが》
え、まじでできるんださすが先生。
《自分の口から説明してくださいね》
はい……というわけで先生の受け売り。割とこれは高性能な仕組みになっているらしく、仮に毛やゴミなどで排水管が詰まった場合は排水口から水量を多くする魔法が使われるらしく、一気にそれでぶち抜くとの事。
まぁ要は排水量増やしてぶち抜くわけだね。
「へー……」
「……まぁそんな反応しかできないよな……」
「あ、今日のご飯何!?」
「俺も気になる!!」
「あ、僕も」
「……牛鹿の肉で今試験的に色々作ってるらしいから、試食踏まえてそれらの肉料理」
すき焼き作るらしい。あと米もあと何ヶ月かしたら収穫できるから、丼物も楽しみだとリムルさんが言っていた。事実、肉料理が増えることは好ましいだろう。
「おお!」
「肉か〜!」
「楽しみだね!」
3人とも食べたいみたいだし…いや、というかなんでもう泊まる前提なんだ?いやいいんだけどさ、俺もうまい飯食ってるから何も言えないし。
「カタキにも食べさせてあげたいなぁ…」
「…ま、一切寄らないなんてことはないだろうし…来てくれた時に食堂に連れて行ってもらったらいいさ」
今のところ、食事処に関しては食堂で食うか国の中の飲食店だけど…飲食店に関してはまだ若干少ない。国として出来上がったばかりというのと、食事の担当が少なめというのが大きい。
「…そうだね、そうしよう」
「けどご飯楽しみだなー!」
「だね!」
……ま、こうやって楽しみに食ってくれる人がいるなら、テンペストの食事事情もより一掃発展していくんだろうな。楽しみだ。
「……平和だなぁ…」
そう、ぽつりと呟く。カタキの件が終わったとはいえまだシンシヤの一件が残っているが……現状それだけだ。俺は仕事をしたり子供達と戯れたりして、色々勉強していくことになるだろう。それを考えると…なんというか、すっごい落ち着くわけで…つまりはそう、平和なのだ。
俺はこれからも…この平和を享受するのであろう。小さい問題は多々起こるかもしれないが、それは一旦頭の中から排除しつつ…温泉を楽しんでいくのであった。