こんにちわ、ハイドです。先日魔王ミリム・ナーヴァ様がテンペストにやって来ました。そしてなんとテンペスト移住宣言…この国に住むこととなったのです。周りの魔王にどんな目で見られるか…とか、本人が一体何をしでかすのやら…とか…色々言いたいことはありますが、今のところテンペストは平和で
「ゴブター!!!!!」
………平和です。たった今ゴブタ君が何かしてしまったようで…音を置き去りにしたパンチを受けてしまい、凄まじい空気の破裂音と共に近くにあった店の壁の瓦礫に埋まっていました。
「……何事ですかこれ」
「む?なんだお前か」
「お、おぉ…ハイドか!どうしたんだ?仕事中だろ?」
「子供達用のおやつ買い足そうと思って……休憩時間は特にすることもないですし、皆には敷地から出ないように遊んでもらってますよ」
ちなみに買い物は終わってるのであとは戻るだけ…怪我をしても特性のポーションがあるのでなんとでもなる、のだが……ふむ、ミリム様の衣装が変わっている。来た時は半ケツの見るところに困る以上だったが、今は白いワンピース風味である。シュナさんが色々作ってるみたいだから、その服の1枚だろう。
「そのよく似合ってますねミリム様。あの衣装は━━━」
「ヒッ…」
「スカートが無かったですけど、かっこいいよりの服装ですからね。今は女の子らしくてかわいい服でよく似合ってますよ?新しい1面を見た気がします」
「……ふむ、まぁよいか。褒めてもらって悪い気はしない」
「………ホッ」
何故か周りのみんながやけにほっとしている。かくいう俺もやけに背筋に冷や汗が垂れてしまっていた。恐らくゴブタ君が殴られたところはそこにあるのだろう。
「…ゴブタ君何したのさ」
「ちょっ!?なんすかそれぇ!!」
「おぉ、お前意外とタフだな」
「自分はただミリム様のために『あの衣装はもっと豊満な人向け』って皆を代表して紳士的なアドバ」
また空気が破裂した。うん、なるほど…ゴブタくんが悪いよこれは。でもそれがゴブタ君らしいんだろうか…にしても丈夫だなゴブタ君。まさかここまでされて生きてるとは…流石と言うべきかもしれない。
「じゃあ俺行きます……なんですかミリム様」
「お前、確か子供に勉学を教えているのだな?」
何故か俺の袖を掴むミリム様。そして何故か聞く仕事内容。教えた記憶ないけどリムルさんが教えたのか、それともなんかで察したのか……どちらかは分からないが、嘘をつくメリットも意味もないので正直に話していく。
「え、まぁ…はい……それが何か?」
「私も行くぞ」
「…………」
逆らって機嫌を損ねるな…と後ろでリムルさんが目で訴えてきている。いやいや、子供達危険に晒したく…いや、流石にそんなことはしないか?まぁ、なるべく暴れないとリムルさんと約束してるし…機嫌損ねるのもダメなら……
「…じゃあ行きましょうか」
「うむ」
という訳で…致し方なく彼女を学び舎へと連れていくこととなったのであった。
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「ここが校舎…寺子屋と呼んでます」
「ほほう、随分と小さいのだな」
到着した時、子供達は無邪気に遊んでいた。視界範囲内で既に全員いるので、皆で仲良く喧嘩せず遊んでいたらしい。よかったよかった。
「まぁ今いるの子供達だけですからね」
「…?その言い方ではまるで子供以外もいるような言い方だな?」
「今はいませんけどね……正式に国になったばっかりですが、この国のルールや魔物達の年齢関係なく学びを得れる施設にしたい、ってリムルさんが言ってたので」
学校と言うよりかはセミナー講習に近いだろうか。はたまた大学の講義だろうか?どちらにせよ、学ぶ権利は子供だけの特権でもないのだ。
「ルールは大事だが……しかし、大人が学んで良い事などあるのか?」
「この国はできたばっかで人手が全く足りてませんからね、働かざる者食うべからず…食う為には職がいるし、食を得るためには知識がいる。リムルさんはやる気のある人材はぜーんぶ欲しがってる」
一日経つだけで景色が変わる、この国はそのくらい爆発的な発展をしている。今はまだ魔物達が主力の国だが、その内いい意味で人間達との競走が盛んな国になるだろう。種族問わず、剣を握らずに発展を続ける…そんな国に。
「……大人は…」
「……ミリム様?」
「……子は、純粋だ。しかし大人は知識を得れば良からぬ知恵と欲を身につける…それは、子を傷つける。全員とは言わんが、少しでも居るのが……」
妙な説得力。過去に何かあったのだろうか。しかし踏み込んで聞く訳にも、かと言ってこの意見を否定する訳にもいかない。育ち方は千差万別、貧民が貴族の価値観を知らぬように…貴族も貧民の価値観を知らぬのだ。形成された価値観は、そう簡単には揺るがない。なんとなく俺は、そう思う。
良からぬ知恵、欲と言うのは……恐らくこの世界だと少なからずある事だろう。妬み嫉み、足の引っ張り合い…どれもこれも純粋な子供時代では起こることはめったにない…と思われる。ただ、なんにせよ……だ。
「……なら、そんな事にならないように俺たちが導いてやらないと」
「……」
「ミリム様、強くてかっこいいって子供達朝から言ってたんですから……その強くてかっこいい姿を、子供たちに見せてあげてください」
「……うむ!」
「あ!ミリム様だぁ!!」
「わー!」
「ミリム様遊ぼ〜!」
……と、子供たちが寄ってきている。うむうむ、実に微笑ましいことである。それに対し先程まで珍しくしおらしかったミリム様は、その場でふわりと浮いて腰に手を当てて傲岸不遜と言わんばかり。
「わーっはっはっはっ!!何でも来るがいい!私に勝てるとは思わない事だな!!」
そうしてミリム様と子供達の遊びが始まったのだが……途中で高い高いのレベル5000くらいの物をしようとしてたので辞めた。なんでわかったかって?遊びの説明の際に俺が天高くぶん投げられたからだ。よく死ななかったなぁって思うのであった。
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「お前は今のままで良いのか?」
校舎にはハイドとミリムの2人きり。しかしミリムが言葉を投げかけたのはハイドにではない、その中の人物にである。そしてその言葉と共に、ハイドの意識は既に沈んでおり……
「……良くはありません」
「では何故そこにいる?その男の体を乗っ取り、受肉してしまえば早かろう」
「……出来れば苦労はしませんが」
「私の目には、お前たちは特殊な関係だと言うのがよくわかる。そして同時にお前は力の強さに対して…存在が弱い。その体から1歩でも出ようものならば……」
「消滅するでしょうね、この魂…そしてその存在は今はかなり脆弱になっていますので」
ミリムは、今喋っている全てが本当のことだと言うのは認識していた。その上で、目の前の存在の異質さに顔を顰めていた。正直なはずなのに、存在そのものの異質さが彼女の中の違和感を大きくさせる。
「ふむ…リムルと敵対する気か?」
「毛頭ございません。必要とあれば呪いなり何なりで縛ってもらっても構いません……無論、かけるにしても私だけで彼にかけることは駄目ですが」
「ギィに話しても?」
「構いません、しかし今すぐに向こうに呼ばれると面倒なのでこちらから迎えるタイミングで向かう、とだけ
『ギィ』とその存在の名だけを伝えたにも関わらず、返ってきたのはその存在のかつての名称。その言葉にミリムは益々顔を顰める。この異質な存在が今の今まで姿を表さず、更に妙なタイミングでリムルと協力する。リムル自身がミリムにとっていい意味で異質な存在だが、目の前の存在は悪い意味で異質な存在であった。
「何故、今ここにいる?」
「………そればっかりは、こちらで制御できるものではなかったので」
「偶然、と?」
「…その言葉を、今は信じてもらえれば」
「全てに、関係ないのだな?」
「名…は今はありませんが、私の魂に誓って」
「ほう、無いのか」
「……かつて大敗北を喫しまして。その際に彼共々存在を打ち砕かれ…名、記憶、力…その全てを失っています。一時的に甦らせる手段はあれど、彼の肉体と魂がそれに追いつかない」
「…ふむ」
嘘はない。されど存在が浮いているこの存在の言葉に果たしてどれだけ信用価値があるか。今すぐにでもリムルの為に消し飛ばしたいところだが、ミリムは敢えて傍観に回る。リムルは彼女にとって盟友、マブダチである。そしてこの事を恐らくは同じように気づいていると推察したのだ。
「……では、一時的にでも蘇るその力は…リムルとその肉体の男の為に振るうのか?」
「それもあります」
「『も』?」
「振るうのは、彼とこの国の全ての為に、です」
「………ならばよい」
『今は信じよう』そう考えたミリムは、見逃すことにした。無論、リムルやこの国の民に危険が及ぶ場合はそれに限らない。力の質だけでいえば、この体の中に眠る存在はリムルをも余裕で超える力を持っているからだ。力によって体が耐えられないにしても、その肉体を犠牲にすれば話は別である。だが本人にハイドを犠牲にするつもりはなく、またそもそも謀反を起こすつもりもないときた。嘘をついているというのでも無さそうなのを感じ取ったミリムは、ここで追求を取りやめた。
目の前の存在がなんであれ、全てを賭けてまでその誓いを立てた。その行動をミリムは信用することにしたのだ。
「……はっ…!?あ、すいませんぼーっとしてたみたいで…」
「……うむ!疲れているようだな!よく休むが良いぞ!!私は他のところも見に行かねばならんからな!」
そして再びのハイド。先程までの落ち着いた雰囲気はどこへやら、再び天真爛漫とも言うべき態度でハイドと対話するミリム。そうして何を思ったのか部屋の窓を開け━━━
「ではまたな!でゅわっっっ!!!!」
…開けた窓を勢いで破壊しながら、空へと飛び立つのであった。その後ハイドが修理したのだが、他にも様々な破壊の後が見つかったことで…リムルは頭を悩ませることになるのだが……それはまた別の話である。