「昔から…衣食足りて礼節を知る、という言葉がある。腹が満たされていれば余裕が生まれ、余計な諍いが生まれないよりよい国となる。ウチもそうありたい……秋は実りの季節だが、同時に冬に備える大事な季節でもある。今日は皆で力を合わせて収穫に挑もう」
こんにちわ、ハイドです。本日は春に植えた食べ物たちを収穫する日です。定期的に様子を見に来ては手入れをしてたりしてたので、良い実りが訪れていると信じております。まぁ美味しいものとかいっぱい収穫して、みんなでお腹いっぱい食べられるといいよね。
「というわけで特別ゲストの━━━」
「春からずっと待っていました!芋です!今日は沢山芋を掘りましょう!!」
「「「おぉー!!」」」
「芋以外もね……次に……」
「私にウマー!な物を食べさせるのだー!」
「「「わーっ!!!!」」」
「自由だなゲスト陣!!」
「パパとお兄ちゃんに良いものを食べさせましょー!!」
「「「うおおおおおおおお!!!!!!」」」
「え」
「は?」
「あっ」
何故かシンシヤがいた。あれ、この間髪の色水色だと思ってたけどピンクになってるな。いやそんなことはどうでもいいんだ、色変わるのは可愛いけども。
《…………》
先生?ちょっと?俺の中でなんかしてる!?なんか頭痛いんだけど!!?
《気のせいです》
なんか怒ってるよね!ごめんなさい!!
「さらば!!」
「な、なんだったんだ…?」
「さぁ…?」
「……今のは誰だ?」
「自称リムルさんの娘、俺の妹です」
「確かにリムルと瓜二つだったな……追うか?」
「いや、追わなくていいと思います」
追ったところで…という話なのと、まぁ後でこっそり混ざっててもこっちに被害を出さなければ別にいいだろう。リムルさんも同じようで、ミリムさんに『ほっとけ』って言っている。
「ふむ、そうか…ならばウマー!な物を食べさせるのだー!!」
「取れたてで食えるのって果物と1部の野菜だけでは…?」
水洗いして軽く根とか取ったとしてもそうそう食えるのはないと思うが…いやまぁ物理的には食えると思うけど……
「何!?野菜は生で食うものではないのか!?」
「どこの世界にそんな……」
いや待て、なんかミリムさんがすげぇびっくりした顔してる。というか絶望に近い表情だ。何故…?先生わかる?
《…彼女を慕う民は、生食主義者です…流石に肉や魚は焼く様ですが》
まじか……食事が極貧すぎる。獣じゃないんだからさぁ……いやそうか…やけに食事に食いつくとは思っていたが…そういう事だったのか……
「きっと愛のない生活を送っていたんですね…」
「わ、私を憐れむな1本角!」
「シオンです」
「そうそれ」
……とまぁそんなやり取りをしながらも、俺達は収穫を開始するのであった。夏と比べるとやっぱ涼しくなってるな秋は……
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数刻経過。正直言うとあまりにも何も起きず平和である。子供達やリグルさんと一緒に、森の中で果実等を取っているのだが……
「…にしても、まさかここまでになるなんてな」
「リグルさん?」
突然リグルさんが物思いにふける。彼は元は名無しのゴブリンだったとの事で…ランガさんより古い、リムルさんと1番付き合いの長いゴブリン達…何か秋の雰囲気に飲まれて思うところが出たのだろうか。
「いやな…ちょっと前まではここまでの生活ができるなんて思わなかったよ」
「元々は集落なんでしたっけ」
「あぁ、棒を立てて布を被せたみたいな感じでな……生きるのに必死だった。その日を生きれるように食いつないで行く、みたいな生活だった……それが、リムル様が来てくださってから本当に変わった」
リムルさんがゴブリン達と出会って、
「あ、上の果実取ってくれないか?」
「はーい」
《鋼糸を手のように組んで伸ばせば、手で取る要領で行えます》
あ、じゃあそれでお願い。ところでその手ってシンシヤの真似?
《…………》
先生にお願いして、編まれた鋼の腕を形成。それを伸ばして果実を取る…ロボットの操作とか、こんな感じなのだろうかなんて思いながらある程度だけを採取していく。取りすぎると野生動物達の餌が無くなるからね。ところで頭がねじ切れるかのごとく痛い、先生を揶揄するのはやめた方がいいと言うのを今日は学んだ。
「にしても豊作ですね」
「あぁ、よく取れるよ…スターウルフ達のおかげでもありそうだけどな」
「一旦戻りますか……みんなー!そろそろ戻るよ〜!」
「「「はぁい!!」」」
実を言うと子供達も一緒に来ている。ちっちゃな籠を背負って、採取した果実等をポイポイ放り込んでいるのだ。見てると微笑ましいものである。
「せんせー、トゲトゲー」
「トゲトゲ…?あぁ、栗……」
この世界にもあるのか、栗。というか果実といい野菜といい、何故かリムルさんと同じ世界の野菜や果物がかなり多い。大昔にチート転生者が現れて、食べ慣れたものを出したんじゃ?なんて思っている。そもそも鬼の元々の衣装も和風だしね。
「それは中に実が詰まってるんだよ」
「へー…」
「栗か?」
「いくらか取っていきましょうよ、シュナさんがケーキの材料になるって言ってましたし」
「だな」
というわけで俺達は栗も追加で拾ってから、一旦テンペスト農園(仮)に戻ることになるのであった…と締めくくったはいいものの。戻るとそこには凄まじい速度で芋掘りをしているシオンさんとミリム様がいた。呆れた顔で見ているリムルさんがいたので、話を聞いてみることに。
「……なんですかアレ」
「なんでも頂上決戦らしいぞ……芋堀の」
「頂上決戦なんですか……芋堀の」
頂上というよりかは最下層決戦とかの方が似合うんじゃないだろうか。芋掘り的に。しかしまぁすごい勢いで芋が掘れている。良く蔓を切らずに連続して掘り続けられるものだ。
「芋といえばスイートポテト食べたいですね」
「あぁ…いいなぁ…この体になったもんだから健康とか気にしなくていいもんな…」
「おっさんみたいなこと言いますね」
「お兄さんと言って欲しいな」
「でも一…二児の父親じゃないですかお父さん」
「辞めてくれ…」
一児って言いかけたけど兄と呼ばれてる立場なので、甘んじて子の側に回ったが反応が宜しくなかった。まぁ冗談はこのくらいにしておこう。リムルさんがおっさんっぽいのは本当だけど。
「あ、栗拾えましたよ栗」
「おー、いいなぁ栗。栗ご飯食べようぜ、ガビル達に今米収穫してもらってるからさ」
「いいですねぇ栗ご飯」
米が入るとまた増えるからなぁ。そういえば大豆も作ってたよなリムルさん。大豆も色々やりようあるしなぁ。一気に食卓が豊かになる…
「あ!果物があるなら酒も作らないとな!」
「あー、飲んだことないですけどいいもんなんですかね」
何故か飲んだ記憶はあるが、『とてもいい』という感覚だけしかない。というか飲んだことないのに飲んだ記憶あるって何?こっちに来る前の話なのだろうか。よく思い出せない。
《駄目です》
何故か飲もうとすると先生が止めるんだ。今度からお母さんって呼んでやろうか。
《…………》
あれ?先生?せんせー!?もしもーし!!……ダメだ何故か黙ってしまった。しかし何故だろう、満更でもないような雰囲気を感じだだだだだだだだだ!!3度目の頭痛!!ごめんなさいもういいません!!
「頭抑えてどうした…?熱中症か……?」
「い、いえ…お叱り受けました……」
「あぁ……ま、まぁ!とりあえず残りもやるとしよう!!取り終わったらみんなで宴会だ!」
「は、はい!!」
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「……ね?のどかでしょカタキ」
「……あぁ、そうだな」
畑の端にて。リトとカタキはリムル達の収穫を手伝っていた。カタキとしては手伝うつもりは毛頭なかったのだが、リトに誘われたのでこっそり来たのだ。
リムルに顔を合わせるつもりはなかったが、合わせないようにこっそり動いている分にはバレていないのか未だに声をかけられることはなかった。
「…だが、別にそれでこの国にすもうとはまだ思わんぞ」
「なんだよー、カタキは頑固だなぁ」
「まぁそれでこそカタキらしいというか…」
「それについて行く僕たちも、わかってるからついて言ってるんだしね」
そしてリトにはカー、ケット、グレの3人も寄り添っていた。前までと同じように一緒のメンツだが、その雰囲気はまるで変わっていた。
「…もう少し、答えを探す。その後で国に永住するのも悪く無いだろうな」
「そう?それなら待ってるよ…数十年とかやめてよ?精神生命体って長生きするって話聞いたことあるし」
「ふ……まぁそこまでは待たせんさ………それに…」
「…それに?」
「…いや、すまん忘れてくれ。口に出ただけだ」
「……そう?」
カタキは口には出さなかったが、今は言うべきではないとその口を閉じていた。ゴブリン達を救ったリムル。そのリムルは牙狼族を救い、オーガを救い、オークを救った。そうして出来上がっているこの国をよく思わない国は多いだろう。
魔物でも、魔人でも、亜人でも、人間でも…よく思わない者達が一致団結し、行動した時が一番怖いのである。全てを救ってきたリムルが、それらを取りこぼすことになった時…どうなってしまうのかとふと思ってしまったのだ。
「……1つだけ、言えることがある」
「…何?」
「お前達は何があっても守ってやるさ」
「おぉ…」
「かっこいー!」
「ほんとに様になってるよね……」
「茶化すな…」
珍しく出たカタキの本音。『お前達は』とリト達を見て言ったが、その対象は、もっと広い。自らを助けてくれた者達に対して、自らの同胞に対して、かつては自らを迫害した者達へ。
その本音がきちんと言葉として対象に届くのはいつになるのか…自らにそう問いながら、カタキはこっそりと収穫を続けていく。
「…残りもやるか。終わったら俺は帰るからな」
「「「えー」」」
「えー、じゃない……」
……実はこっそりリムルは見ており、この会話のセリフを尽く擦られてしまうのだが……それはまた別の話である。