「くそっ…魔王ミリムめ…!!」
こんにちわ、ハイドです。秋の空は移ろいやすいと言いますが、テンペストの秋は実を言うとかなり過ごしやすい気候と天気です。その代わり夏がかなり暑かった記憶がありますが、台風が来たりとかタイフーンがやってきたりとか大雨落雷大洪水とか今のところ大袈裟なまでの天候のズレは見たことがありません。
さて、そんな中ですが━━━
「せんせー、あれだれー?」
「見たことなーい」
「かっこいい人と美人の人いるー!」
「はいはいみんな落ち着いてね〜、ちょっと先生あの人達と話してくるからみんな少し待っててね〜」
「「「は〜い!!」」」
━━━━学校…というか寺子屋の校門のところに例のフォビオ一行がやってきていた。多分この辺は今の時間帯人気が少ないから、人目を避けるためにやってきたんだろうけど……子供達の教育に悪い。というかさっさと帰ったらいいのに何してんだ……って監視が任務だっけこの人達。
「俺を舐めやがっ……おいこっち見んな!!」
「ここ子供たちの学び舎なんで離れてもらっていいですか?」
「あぁ?てめぇ何様━━━」
先生交代、罵詈雑言無しで間髪入れない方向性でお願いします。
《了》
「━━━貴方こそ何様のつもりでしょうか?魔王ミリムに敗北した挙句国主リムル様に完全に言い負かされ相手の国の盟主に失礼な態度を取りながら退出した挙句任務を放棄するわけにもいかないから鬱憤を溜め込みながら街を練り歩くなど一体どう言う領分で?」
「あ゙ァ゙!?お前喧嘩売って━━━」
「そもそもライカンスロープが他の種族と比べ比較的実力思考が強いことは分かりますがそれはただ喧嘩っ早いのと同義ではありませんよ?貴方の尊敬する魔王カリオンは国家の盟主としてもたしかに優れていますし統治もきちんと行われています、故に国として認められさらにほかの魔王方にも力量、賢さを認められているからこそ魔王としても国家の盟主としても成り立っているのです」
「お、う…?」
「だと言うのにあなたは魔王カリオンの権威を振りかざした挙句こちらの国の住人を安易に傷つけ魔王ミリムに負け盟主リムル様に言い負かされる。貴方のプライドは確かに傷ついたかもしれませんがそれ以上に魔王カリオンの信頼と顔に泥を塗ったのも同義とも取れることをしたのですよ?魔王カリオンが望んだのはこちらの国の監視と実力者のスカウトとたしか仰っていましたね?なのにも関わらず最初から傷付け喧嘩腰に挑み信頼を損ねたことで任務に支障をきたすというのは一体どういうことですか?」
「う、ぐ……」
「それに前々……じゃなかった、あの時の簡易的な会談の時もそうですが━━━」
先生?先生ー!ストップ、ストップ!相手もうなんか怒り通り越して呆気に取られてるから!!あ、ダメだマジで止まらない!先生なんかあの日だけでえらく鬱憤溜まってるな!
うーん、困った。流石にそろそろ交代し直してもいいんだけど、ぶっちゃけこのフォビオに俺はあまりいい印象はないのだ。故にこのまま言わせ続けてもいいのだが…早く授業に戻りたい、子供たちの笑顔と声で癒されたい。フォビオに時間を使うのは正直勿体ない……ん?先生、まじで1回交代。
《…?了》
後めっちゃ事務的だけどもうちょい砕けた話し方でもいいよ、というかそっちの方が最近多くない?
《……思案しておきます》
というわけで、気になったことがあったので先生と交代。
「━━━その焼き芋何?」
「……あ?」
「あぁこれ…先程ミリム様に貰いまして……」
貰った足でここまで来たの…?って思ってたが、よく見たら一行の人数に対して1本足りない。どうせミリム様が渡すまでにつまみ食いしたんだろうが……
「……とりあえず、子供達が不安になるからここであんま悪態つかないでほしい」
「………ちッ、わァーッたよ」
「……で、だ」
「…?」
「折角だし悪態抜きでこの街を見てってくれよ。魔王カリオンに報告する時に、ミリム様相手の恨み節残したままの色眼鏡で判断して欲しくないし」
単純に俺がこの国を悪し様に言われて欲しくない、というのもあるが…まだまだ発展途上のこの国を、無用な争いの場にしたくないのだ。報告によってはそうなる可能性もあるだろうし、そうなる可能性はなるべく排除しておきたい。
「………まァ、考えといてやる…行くぞお前ら」
「は、はい!!」
そう言って離れていくフォビオ達。若干落ち着いてたようで何よりだが……先生ちょっと言い過ぎじゃない?
《まだ言い足りません》
別に俺も好きな相手って言うほど好感度は高くないけど…にしたってあそこまで言うとは思わなかった。なんかもう途中から普通に説教入ってた気がするし。
…とりあえず教室戻って授業の続きしないとな。
《了………ん…?》
先生、どったの?
《………いえ、見慣れぬ
そう?ならいいけど…まぁなにか危険なもの感じ取ったら報告お願いします。
《了………この気配…中庸道化連の2人の…?しかし…こちらに来る様子は…無さそうですね……》
というわけで…俺は生徒達の授業の為に、教室内に戻っていくのであった。
,
「━━━そこの貴方、どうぞ品物をご覧なさいませんか?」
その日の夕方、仕事も終わり帰宅する中で俺は声をかけられた。人の顔は全員が全員しっかり覚えている訳では無いし、尚且つ今この国は出入りがとても激しい。新しくこの国に来る商人なんて実質ひっきりなしである。
……が、それを差し引いても直感的に『なんか信用出来ない』雰囲気が目の前の優しそうな人から感じられた。先生、これは一体。
《目の前にいるのは天僕国アンゲルスの商人です》
ん……どっかで聞いたことある国名だな………えーっと…あ、そうだ。確かガゼル王との話し合いの時にスミレさんが出した国名だ。しかしまぁ、『
《それはあまり関係ない気が…》
まぁそれもそっか。
「………あのー?」
「あぁ、すみません。何が置いてあるんです?」
「アンゲルスの品々と、他の国の品が少々と言ったところですよ」
「ふーん……」
サッと目を通して…同時に先生に解析鑑定をしてもらう。こっちになんらかの影響を及ぼす効果がある道具や食べ物はない…まぁ早くても馬車で来るような行商人に、そんな目立った食べ物は持ってこれるわけは無いか…一旦はスキルとかによる悪影響は心配しなくて良さそうか。
じゃあ行商人本人はどうだろう?とっくに解析は終わっており、問題ないという結果になった。じゃあ、販売してる商品の中身…何らかのデバフを与える効果はなかったとしても、思想に影響を及ぼしたりするようなものがあるかもしれない。まぁ、この国は宗教の自由がある…というか概念がないからぶっちゃけ染まるのなら=本人の選択という話だ。
「…この本、中身を読んでも?」
「えぇ、どうぞ」
パラパラとめくる。うん、特に問題は無さそうかも。先生に文字の一つ一つを解析鑑定してもらい、大凡の内容を俺に教えてくれた。アンゲルスについての本、まぁ言い方をあえて悪くするなら…『思想の強い本』と揶揄される可能性のあるものだった。経典という程では無さそうだが…入門書と言ったところか。発動するまで気配すら無く〜……なんてことも無く。そのまま俺は本を閉じる。
「残念ながらお気に召さなかったようで」
「ははは、この国では子供達から大人まで…生まれがここの者や移住者達にはリムル…様が1番敬われていますからね。別視点で物事を見るきっかけにはなりそうですが」
「そのようで…ではまた」
そう言って荷物を畳んでどこかへと向かう行商人。姿が見えなくなると同時に、入れ替わるようにしてリムルさんがやってくる。その様子から察するに先程のやり取りは見ていたようだ。
「今の…アンゲルスの行商人だろ?」
「あれ、そこまで知ってたんですか?」
「前に一回来たからな…きな臭いからこの国出禁にしようと思ってたが…何もしてない以上、あんまり厳しいことも難しくてな」
「…売ってたの見た感じ、全部問題無しでしたね。それが尚のこと怖いですが」
「…後もうひとつ、気になることがある」
「…気になること?」
「急に現れたんだよ、あの行商人」
急に、というと…国になってから〜とか、発展してきた時から〜とか……そんな意味では無さそうだ。文字通り、煙のように消えたり急に出てきたということなのだろう。だとすれば、どういう事なのかという話だ。
「フォビオの時は、フォビオが実力者だったとかで話は分かる。ソウエイよりも強いしな、あいつ…けどあの行商人はどう見ても違うだろ?」
「まぁ…そうですね」
スキル敵にも直感的にも感情的にも客観的にも状況的にも……色々あるが、要はどう見ても強くなさそうということである。ただそうなると、ソウエイさん達の監視網を抜けた意味がわからなくなる。ジュラの森の抜け道を知っている…なんでそんなわけが無い。そんなルートがあるなら、そこを占有してしまえば一気に国力は増すだろうからだ。
「考えられそうなのは…瞬間移動とか、転移とか…そんな感じですかね?」
「あり得るとしたらその辺だろうけど…そう言ったスキルや魔法の反応も感じ取れてないからな」
だとすると………え、何?スキルでも魔法でも抜け道でもないって何?先生何かわかる?
《…………………いえ》
先生でも分からないか…けどそうなると本格的に謎だな。抜け道は多分物理的には存在しないのは明確だけど……
「…まぁ今考えても分からないのは仕方ない。ただお前も気をつけとけよ?なんか色々ヤバいところみたいだからな」
「えぇ、肝に銘じておきますよ…………ッ!!」
その言葉と共に、俺はリムルさんと別れ再び歩みをすすめ…走っていく。あの行商人の後を追いかけるつもりで。先生の力で歩いた痕跡はあった…
「……やっぱ、いないか」
痕跡は路地裏で止まっていた。せいぜいあるのは、行き止まりの壁と両隣の店のガラス。まだ作り手の練度が足りてないからか、それとも明かりの加減のせいか俺の姿はよく見なくてもわかるくらいには反射していた。
《…1度戻りましょう。今分からないことは、どうしようもありませんから》
「…だな」
最後にぐるりと辺りを見回す。行き止まりの壁に俺の姿が写ったガラス……と、その時ガラスに映った俺の姿がブレた…ような気がした。が、ほんの一瞬だったし、ほんとにぶれたかどうかも分からない。そこまで集中して見ていなかったというのもあるが…
「…いや、気のせいか」
俺はそう断言し、その場を後に去る。なんか色々、良くないことが起こっているような気がしてしょうがないが…俺はその時でも戦う心構えをしておくのであった。