こんにちわ、ハイドです。現在テンペストには2つの国からのお客様が来ています。片方はブルムンドから来られたギルドマスターという肩書きのフューズさん、もう片方はファルムスから来た調査団のヨウムさん。
どちらも目的としてはリムルさんが目当て…正確にはヨウムさんたち御一行はオークロードの調査だったので、目的はオークロードだったらしいけど……
「………リムルさん?お二人とも驚いてるみたいなので、もう一度」
そうしてお二方とそのご一考さん…ヨウムさん達は人数が多いのでヨウムさんとロンメルさんだけだが…彼らがいる中で、リムルさんはとんでもないことを言い始めた。
「いや、だからさ……ヨウムくん、英雄になってみない?」
「……いや、あんた何言ってんだ?英雄になれだって…?この俺に…?」
「別に強制じゃない、お願いだよこれは」
「……いや、そう言ったってよ」
いや、確かにヨウムさんの困惑もわかる。いきなり英雄になれって言われても困惑するだろう。リムルさんの考えてる事は何となくわかる。
公にはオークロードとの戦いの結果は明かされてない、つまり戦績は浮いている状態なのだ。その戦績を、ヨウムさんに渡す。その代わりにテンペストのことをいい噂として広めてもらう……と言ったところだろうか。
《魔物が魔物を倒した、と合っては単なる驚異の更新でしかありません。しかし倒したのが人間…それが『あそこの魔物はいい魔物』と言われれば安心する者もいるでしょう》
とは言っても、だ。オークロードは強力な魔物って聞いてる。それを倒したとなると相当な実力を今からつけないといけないのでは…
「そこのフューズさんが言ってたろ?オークロードを倒したのが俺達魔物なら、脅威が去ったとは言えないって………ヨウムとその仲間達がオークロードを倒して貰った、ってことにしたいんだよ」
「はぁ…!?」
「『オークロードに挑もうとする勇敢な若者達を応援し、武器や防具に食料を提供した魔物達の国』……人間とも仲良くしたいウチとしては、そんなポジションが望ましいんだよね」
「俺達の勝ちを、譲るってことか…」
「俺はその時いませんでしたが…その勝ちを譲ることで避けれる面倒があるなら、譲るべきだと思います」
「その通りだな…ベニマル、お前もわかっていて言ってるだろう?どうせお前のことだ…『どんな強者が来るのか』とでも考えているのではないか?」
「ぐ…」
図星なのかベニマルさん……魔物だから仕方ないのだろうが、バトルマニア多くないかこの国。
「ふむ……その計画、ブルムンドも1枚噛めると思いますよ。知り合いの大臣に頼めば周辺国家に噂を流せますので」
「え、本当か?」
「……おいおい何あんたまでその気になってんだ!?こいつら魔物だぞ?!」
確かに…フューズさんが手を組む理由が思い当たらない…と思ったがもしかしてシンプル善意と言うよりも、なにかの思惑があっての事なのだろうか。
「………君の困惑も理解できる。だが彼らとの友誼を得ることは人心の混乱を避ける以上の意味がある」
「……どういう事だよ」
「…1つ教えよう。我々が知り得た情報では、この国の1万余は1人残らず全て
……あー、そっか。それがあった。最早当たり前すぎて忘れていたが、本来魔物は名を持たないのだ。名を得ることで強力な個体へと進化する。それが1万体……たしかに脅威だ。
「脅すつもりじゃないんだけどなぁ……こんなに愛らしいのに」
「見た目だけですけどね」
「はい余計なこと言わないの」
「…先程の仰られていた計画、私としては前向きに検討したい。もちろん貴方が人間の味方だと言うのが大前提ですけどね」
「それは当たり前だな、なんならしばらくこの国に滞在するといい。この国のことを知ってもらいたいし」
「あぁ、それは助かります」
「君もな、ヨウムくん…この計画の要は君だ、いい返事を貰えたら嬉しいが、無理強いする気は無い」
そう言って黙り込むヨウムさん。いや、リムルさんその言い方若干脅しの部類な気がするんですけどね……しかしヨウムさんは拒否はせず、呆れたように頭をかいていた。
「ガラじゃねぇよ………俺に勇者の真似事でもしろって」
「勇者は駄目だぞ」
……おや、真面目な口調でミリム様が口を出してきた。格が違うとかそういう話なのかと思ってたが…どうやら雰囲気的に、拒否というより警告の意味合いの方が強そうだ。
「あれは魔王と同じで特別な存在なのだ、勇者を自称すれば因果が巡る。長生きしたければせいぜい英雄を名乗ることだな」
「名乗るだけで、実力に関わらず何かしらの立場に立つ…って事ですか。運命的な」
「そうだな、だから魔王も気軽に名乗っていい物ではないのだ」
「………」
ふと、思い出した。そういや一時ガビルさんが勇者を自称していた様な気がするような……きっと口に出さない方がいいだろう。けれどガビルさんには注意をしておくとしよう。
「……なんだぁ?このガキ。大人の会話に口を」
えぐめの鈍い音がした。ミリム様がヨウムさんの頭を拳で殴りつけたのだ。しかし…今このタイミングで殴っちゃうか。
「ミリム様…」
「お前このタイミングで暴力とか…」
「ち、違うのだ!!あいつがガキとか言ったから…!!」
「……まぁ2回殴っちゃってるから信用出来ないかもしれないけど…本当に無理強いさせるつもりはないんだ、ちょっと考えてみてくれ」
「……外、出てもいいか?」
「もちろん」
そう言ってヨウムさんは外に出……る前に1人、議事堂の中へと入ってくる者が一人。ひょっこりと顔を出したのは、スミレさんだった。
「━━━━あの、他の国の人が来てるって聞いたんですけど」
どうやらヨウムさん達とフューズさん達に何か聞きたいことがあるらしく、こちらに顔を出したのだという。
「…彼女は?」
「異世界人のスミレだ…スミレ、聞きたいことがあるんだよな?」
「はい…あの、アンゲルス…天僕国アンゲルスについて知っていますか?」
「…あー、いや、俺は知らねぇな…ロンメル、わかるか?」
「いえ、僕も詳しいことは……確かファルムスとはジュラの森を挟んで反対側…魔王の収める国、フルブロシアの傍ということくらいですね」
アンゲルス…スミレさんもそうだが、リムルさんもかなり気にしてる国。この間来た商人も変な消え方をしてたし…一体全体なんだってんだ。
「……ふむ。こちらでも詳しいことは分かりませんが…南の山道…そちらがアンゲルスに通じていたはずですが」
「南か……ハイド」
「調査ですか?」
「理解が早くて助かる、頼めるか?」
「いいですけど…」
「教師の仕事をサボらせることになる…というのは分かる。けど今使える人材が少ない」
そういうと思ったからこそ、俺の方から聞いたんだけどね。けれど南側か…結構な距離歩かないといけないな。
「分かりました、リトさんと仲間達、スミレさんも一緒に連れて行っていいですか?」
「あぁ、構わない」
「よし…スミレさん、リトさん達探して…準備できたら、行くとしよう」
「うん!!」
こうして俺とスミレさん、リトさん達は南の山道に向かうこととなった。さて、一体何があるやら……
,
「━━━だいぶ歩いたな」
「ふー…」
道中、様々な魔物を倒しながら俺達は南の山道へと足を伸ばしていた。冬に入りつつある中で、森の中を歩くのはいささかしんどいような気がする。
「即席のパーティだけど、何とかなって良かったですね」
「ほんとよー!」
「ま!俺達が入ればなんとでもなるさ!」
「まぁ…最前線ハイドさんなんだけどね」
俺1人だったり、リムルさんと一緒とかならはっきり言えばだいぶ早いだろう。もしくは狼達の背にでも乗れば別。ただし問題は俺を乗せてくれるような暇な狼はおらず、皆相棒のゴブリンがいるのだ。つまるところ、強行軍ではあるが日数をかけねばならない。
「……ま、調査と言ってもアンゲルスへの道が通じるかどうかって話だけど……」
「……」
さっきからスミレさんが黙りこくっている。リトさん達が盛り上げのために滅茶苦茶話しているが……何か思うところがあるようだ。
「……そう言えば、聞いてなかったんだけど…なんでテンペストは、アンゲルスを警戒してるんだ?」
「…アンゲルスが、鎖国していた宗教国家だからです」
宗教国家…つまるところ今まで他国を頼らずに生きてきた文字通りその宗教だけの国。けどそれだけで警戒する程じゃない。スミレさんは何か知ってそうだ。
「…後でリムルさんにも言うけど…アンゲルスって国の国主…今は私の父なんです」
「…父親共々、この世界に転移したってこと?」
「………私は、元の世界で死ぬ直前にこの世界に呼ばれました。そして父は…死んで、魂だけの状態で天使の遺骸にその骸を入れられています」
……つまり、天使の死体を再利用した擬似的なゴーレムって事なのだろうか。先生、天使の肉体ってそんなにすごいの?
《天使と悪魔は似通っており、どちらも『受肉』という過程を経てこの世界に留まることを許されます。そして、ある程度のクラスの存在なら…死んだ後その力、魂の力がまるでこびり付くかのように残ることがあります》
つまり、天使の遺骸っていうのは残りカスみたいなもの?
《大雑把にいえばその通りです》
よし、今はその認識でいいってことにしとこ。
「……それで、受肉した父はアンゲルスを名乗り…あるタイミングで、鎖国を開きました」
「そのタイミングって?」
「━━━竜種、ヴェルドラの消失」
…確かとんでもない存在で、実際消えた時は大慌てとか何とかって聞いたな。先生、おおよそあってる?
《合っています。付け加えるなら竜種はこの世界における神と同類。信仰上の神、という訳ではなく確実に存在しうる天上の存在という認識になっています》
「…つまり、ヴェルドラの消失と共に動いて…?」
「…多分、そろそろ本格的にリムルさんに接触してくると思います」
「どうして?」
「父の…教祖アンゲルスの目的は、神になること。そして、その為に求めるのは…竜種の、遺骸」
「………」
全員が息を飲んだ……が、同時に繋がった。確かに、天使の遺骸ですら強い力を産むなら、竜種なんて絶大な力だろうな。それこそ、届きうるかもしれないって事か。
「…そりゃ、警戒してても仕方ないか」
そして現状、テンペストにできることは無い。スミレさんの言うことが真実だとしても、それを理由に出禁にするのは難しいし現実問題事を起こした訳じゃない、って言うのが大きい。
「…難しい話よくわかんねーけどよ」
「ちょ、カー…!?」
「何が来ても俺達の敵じゃねぇって!」
「…ふふ、そうだね」
「珍しくカーがいいこと言った」
「珍しくってなんだよー!!」
楽しそうに話してるカー達を見て…俺達は破顔した。結局、戦いになったとしても勝たねばならないだけだ。つまり、カーの言う『敵じゃねぇ』はあながち間違ってもないのかもしれない。
「……っと、そろそろ集落だな。今日はここで泊めてもらおう」
そうして俺達は、南の山道に向けての旅を続けていくのであった。