こんにちわハイドです。本日は鍛錬に珍しくゲルドさんが来ています。この街の建築業とかの土木関係の仕事をしている方であり、渋い人。謙虚で仕事熱心だが、仕事に熱が入りすぎて休まないこともしばしばあるという。真面目で謙虚な人のようだ。嫌いな人いないんじゃないか?というレベル。
というわけで、胸を借りて模擬戦中なのだが━━━
「ふっ!!」
「ぬっ!!」
「はっ!!」
「ぬうっ!!」
━━━━攻撃があまりにも通らない。ゲルドさんのスタイルは盾で守り、隙を見て一撃を入れるヒットアンドアウェイならぬカードアンドヒットみたいな感じ。
防御力と聞くと、『どれだけ硬いか』というのを思いつくが……それが今崩された感じがする。瞬動法でまぁまぁ素早く動いているはずなのだが、それにきっちり見てから対応される。硬い金属というより、まるで大木や大陸を相手取っているかのような圧を感じる。つまりは『どこから打ち込んでも響かない』のだ。
《攻撃を受け、負担にならない程度に関節を曲げることで威力の緩和を図っています。フェイントも、見てから対応しているのでその守りを崩すのは容易ではありません》
とは先生の談。崩すとすれば……どうしたらいいだろうか。模擬戦とはいえ、全然わからん。なんだこれ?こうも隙がないとほんとに攻めづらい。
《………逆に、盾への集中攻撃をオススメします。体勢を崩すほどの連撃…もしくは盾が壊れるまで続ければ、話は変わってくるかと》
なるほど……いやいや、それができるなら苦労しないって。それを許すほど、ゲルドさんは手抜いてくれないでしょ。そもそも訓練用の物壊すわけにはいかないし、なら連撃になるけどそれはそれで……
と思っていると鼻頭にポツリと1粒。
「ん?」
「むっ……」
どうやらゲルドさんも感じたそう……と、それが何かを理解する前に…一気に雨がドザーっと降ってくる。バケツをひっくりかえしたような、なんて例えを作った人は間違いなく天才である。
「うわわわっ!中断!ちゅうだーん!!!」
「全くもってそうじゃな…!」
「なんすかこれー!!!」
「むぅ…!鎧の中まで…」
ゲルドさんは今日に走りながら鎧を脱いでしまい込んでいく。どうやら『胃袋』の権能の効果らしい。え、いいな何そのアイテムボックス。先生!俺もやりたい!
《出来ますが許容量が少ないので許可しません》
ケチー!!
と思いながら俺たちは屋根のある場所へ避難……結局この日は鍛錬は中止、部屋内での自己鍛錬に身を費やすこととなった。
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「今日も降ってるなぁ……」
昨日に続き、本日も土砂降り。所謂梅雨の季節だろう……と、仕事中にふと俺は考えていた。子供達は全員雨合羽を着ていた。それも全員。いや、正直傘を差すよりも長靴雨合羽で水溜まりをちゃぷちゃぷするのが楽しい時期だろう。しかし何故だか……それが妙に気になって、どうして全員雨合羽なのかと思ったのだ。良く考えれば、傘立てもなかった。
「…傘、無いのかこの街…?」
「せんせー、かさってなーにー?」
などと聞かれてしまった。もはや疑う余地もない、この街には傘が無い。片手は塞がるしほぼ一方向からしか身を守れないが、傘はあって不便になるようなものではないだろう……しかし生産ラインが確保できない。ただでさえ衣服関係の生産でシュナさんはハルナさん達が必死こいて働いているというのに、ここからさらに負担を増やすというのは……
「んー…雨の日に使うものだね〜」
「そーなんだー!!」
子は宝とはよく言ったものである。可愛い。それはそれとして作るべきかどうか1回相談しておいた方が良さそうだな。後でリムルさんとこ行くとするか。
「さて!1回休憩時間だ!トイレとか今の内に済ませとくんだぞ〜?お外は今雨が降ってるから、出ないようにな〜」
「「「はーい!!」」」
可愛いの大合唱である。うんうん、いい事だ。雨合羽着てても乾かすのに時間食っちゃうからな。可哀想だが今日はお外で遊ぶのは禁止である。
「……ん?」
外からやけにテンションの高い歌声が聞こえてくる。どうやら雨でガビルさんがハイテンションになっているらしい。そう言えばこの間、ガビルさんの親戚達が着て色々大変だったらしい……飯食って解決したらしいけど。
「あー!がびるさまのこえがするー!!」
「がーびーるー!がーびーるー!!」
………ううん、いい事なのか悪いことなのか。ガビルさんの部下の人達って、ガビルさんのことよくおだてるんだよな。別にそれはいいんだけど…悪影響ではないだろうか…いやしかしあの人適度におだててた方がいい気もするんだよな……
「……ま、いっか。ほんとにまずそうな時はリムルさんからそれとなく言ってもらおう」
子供達がおだてるのはいいが、下手に調子にのせすぎるのも考えものだからね。後ポーズとか舞とか歌とか踊りとか色々ある。人望はあるし俺も嫌いではないし、好意的に見れる人だがそれはそれである。
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さて、色々あったが本日の授業は終わり…という事で改めて先生となった俺の仕事を紹介しよう……ただ授業を教えるだけではない。先生…は、紛らわしいな。学習者にも手伝ってもらってカリキュラムを月単位で決めて、基本的にそれに従って動くのだ。仮決めしたカリキュラムをリリナさんにも見せたが、好評だった。
可能なら教科書も作りたいところだが……如何せん、紙がない。マジで紙がない。解析鑑定にも掛けてないので、学習者でも作れない。作れたとしても枚数が足りない。まぁ今は梅雨の時期だから……ちょっと助かっている。
「けどさ、授業…特に体育とかもうちょい激しくてもいいんじゃない?」
《鬼教師と冷たい目で見られたり、子供達から嫌われるのがいいのなら止めはしませんが》
「うぅん…それはちょっと滞るからなぁ……」
しかし自分でも不思議なもので、心のどこかで『もっと厳しくていいんじゃない?』とずっと思ってしまうのだ。嫌われるのは慣れてないので、そうならないようにする心がけをしているつもりなのだが……なんか知ってる?
《…………》
あ、無言。なんか知ってるなこれは……けどそれが何かを問い質したところで、俺にはどうすることも出来ないのだ。何せ知識アドバンテージとスキルや耐性の管理を完全に任せているので、立場が弱いのだ。
「まぁでもここまで大きく雨が降るとはなぁ」
《カリキュラムの変更をしますか?》
「よほど続くようならね、今のところは入れ替えで何とかなってるかな」
24時間365日と言わんばかりに降っている訳では無いのだ。晴れている時に体育を回している。地面に関しては『黒炎』を調整して一気に乾かしている。
「…あ、黒炎を傘替わりに出来ない?」
《周りを火事にしたいんですか?》
「ハイ、ヤメマス」
冗談だよほんと……そうしてじっと1人になった教室の窓越しに、雨を眺める。ガラス加工が凄まじいおかげか、雨に焦点を当てているがガラスにほんのり映った人影が見えていた。
当然そこに映るのは俺しかいないわけで……
「ッ!?」
土砂降りの夕方は日が出ていないからか、普段よりも酷く暗い。だがその上でも見える景色と映る違和感に俺はその場から咄嗟に離れた。
学習者!今の何!?
《今、のは━━━》
『━━━あら、こっちが見えたの?丁度いいわ、貴方の中にはどんな欲望が眠っているのか…見せて頂戴な』
聞こえてくるのは女の声。ガラスに移る人物が喋ったのだろう。学習者が答えるよりも先に、ガラスから光が漏れ始め…俺は目を瞑ってしまう。その直後に少しの浮遊感を感じ━━━━
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『━━━確認しました。一部の記憶情報を媒介に個体名:■■■■■の顕現を許可します』
「━━━こんなところで手を出してきますか、鏡の魔女よ」
「ッ!?あんた、
どこかの燃え盛る場所で、2人の女性が互いに睨みを効かせていた。片方は先程ハイドが認識した女性…もう片方は腰まで伸びた灰色の髪を持ち、そしてそれに合わぬ純白の翼を一対持った青眼の女性であった。
「…貴女に干渉した記憶はありませんが…しかし、手を出してくるというのなら…返り討ちにしてあげましょう」
「…ハッ、あんたが何者かなんて分からないけど…あのスライムから出てきた以上ただものではなかったって事ね。良いわ、相手してあげる。行きなさい!!
「…『彼女』の肉体情報は、リムル=テンペストが使ってしまった。魂だけではどうにもならなかったので、諦めてましたが…不幸中の幸いというのはこういうのを言うんでしょうね……それにもう一体は…」
黒に赤が散りばめられたような髪の色合いの女性が、そして真っ黒に染まった巨体のオーガが天使と呼ばれた女性の前に立つ。特殊な進化を果たした人間とも精霊とも魔物とも違う存在が、天使へと向かう。天使は一切焦る様子を見せず、両の掌から糸を出し…余すことなく2体の全身に巻き付ける。
「この肉体情報を取っておけば…後はどうとでもなる…!
「拘束…!?けどそんなちゃちなものは、蒸発か融解させるくらいには炎精聖人の温度は高……え…?」
拘束かと思われたそれを、天使は一瞬で解除した。しかしその中には既に誰もおらず…消え去ってしまっていたのだ。あまりの状況に、鏡の魔女と呼ばれた彼女は困惑しか無かった。当たり前だ、嬉々として向かわせた者が既に居なくなっていたのだから。
「…この肉体情報は貰いますよ。いずれ来る大戦の時までに、彼女の力も必要だと『前』に感じましたから」
「な、何を…!!」
「だが…暫くの間はこちらに手が出せないようにさせてもらいます━━━」
『━━━確認しました。一部の記録情報と引き換えに、
天使の耳に聞こえるは世界の声。それによって失われるは100を超える桁数からなる日数の記憶。しかしそれで得られた成果は、天使が思っていたよりも少なかった。それでも、十分すぎる結果はもたらすだろう。
「出力は全力の1割にも満たないけど…喰らいなさい!!『
「何っ………ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!?」
魔女は…上下左右前後から同時に体が引き裂かれそうな程の向かい風と追い風を浴び、同時に意識が飛ぶほどの電撃を浴び、体も焼かれてしまう。そしてトドメと言わんばかりに…魔女の体に当たる極小の
「が、は……!」
「元より出力は圧倒的に悪い状態…その上でこれで手加減をしています……これに懲りたら、リムル=テンペストは兎も角…彼、ハイドには手を出さないことですね」
そう言って、天使は『穴』を開けて出ていった。その様子を確認する前に既に魔女は瀕死状態であり、しばらくしてやってきた『娘』から貰ったポーションによって難を逃れていたのであった。
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「━━━あれ?今何が起きた?」
《特には何も》
んー?先生が即答……ということは何も起きなかったのは本当、なのか?まぁそれならいいんだけど……なんか変なの見たんだよな…女性の影みたいな…
《少し意識が飛んでいたようなので、うたた寝していたのでは?》
ぼーっとしてたってこと?まぁ、それならそう…なのか?なんか腑に落ちない気がするけど……まあこれ以上追求しても何もないし、仕方ないか。
《はい、ひとまず今日のところは帰宅しましょう》
確かに。帰って休まないとな……うたた寝するってことは疲れてんだろうし。ま、雨の中帰るというのも悪くない…か。じゃ、先生今日も寝る時頼みます!
《えぇ、
いやぁ、ほんと助かるよ。
なんて思いながら俺は帰路に着く。感じてない疲れほど厄介なもんだなぁ…と思いながら、梅雨の時期を雨合羽越しに感じながら俺は今日を終えるのであった。
知識ノ神(疑似解放)
辞典:解析した対象や記憶などのありとあらゆる情報を蓄えられる、別の何かに転写可能
死滅核災害:本来であれば多重結界、黒炎、黒雷、暴風系魔法、黒炎核を使った
今回は擬似再現された劣化スキル、そこから放たれるさらに劣化した物であり本来の火力には1割ですら程遠い程の出力である。
本来であれば、広範囲に張られた多重結界内に大量の風や雨、炎や雷などが降り注ぐ空間に無数の黒炎核を放つ事で、無制御の核撃魔法を広範囲に適当に発動させてしまう技。多重結界無しでも発動は可能であり、その場合は指向性を持たせたりする。基本的には対軍技