混ざりし世界の正体不明   作:長之助

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夏至静寂

「……んー…?」

 

「どうした〜?」

 

「どうかなされましたかな?」

 

こんにちわ、ハイドです。梅雨の時期はすぎ今は夏真っ盛り…日本的に言うなら7月くらいの感覚です。この街にやって来て何ヶ月経ったのだろう……多分2~3月くらい?

そのくらいの時期が経って俺も先生として子供達のために色々してやれることが増えている…のだがこの間の梅雨の時期から、妙にスキルの調子が悪い。先生の返答もあんまり返ってこず、飽食者(アキヌモノ)の許容量が格段に下がっている気がしていた。というのも…梅雨の時期直近くらいはコップどころか足の小指の爪サイズの石ですら、胃袋に取りおけなくなっていたのだ。少しマシにはなっているものの、未だに鍛錬用の木刀は入らない。魔素は別なのか、自動吸収は続いている。

 

「…いえ、またちょっと意識飛んでました……何の話してましたっけ」

 

「ええっと…確かリムル様が『たなばた』なる祭りを催すつもりという話でしたな」

 

「そうそう」

 

「あぁ…いいですね七夕」

 

子供達も喜ぶだろう。まぁ叶えてくれるという御伽噺だと言うのは言い聞かせておくとして、自分で願いを認識し叶えに行くというので紙に書くのだ……いいイベントである。紙がないんだけどね、使う為の。

 

「でも木に書いてたらあれですね……絵馬っぽい」

 

「えま…?」

 

「……確かにな…リグルドは気にしないでくれ」

 

「は、はぁ…?では私は皆に伝えてきます 」

 

「頼んだ」

 

そうやってリグルドさんは部屋から出て行く。ふと外を眺めると、部屋の中だろうが焼き尽くさんと言わんばかりに日射が入って━━━

 

「……ハイド?」

 

「━━━個体名、リムル=テンペスト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

,

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━ハイドの雰囲気が変わった。近しいところで言えば、恐らく大賢者に制御を代わって貰ってる時の俺だろう。見た目に大きな変化はない。しかしハイドの金の目が…青へと変わっていた。金髪碧眼ならぬ灰髪碧眼と言ったところか。俺はその様子で、何となく気づいていた。

 

「お前…ハイドの中のスキル…学習者、って呼ばれてるヤツだな」

 

「…その認識はおおよそ間違っていません」

 

「ハイドもそうだが…何者だ?お前」

 

度々ハイドが口を滑らせている存在。俺は定期的に言うな、と言っているが…内心ではある可能性を考えていた。こいつが大賢者とは違うパターンだ。というかそんな簡単に大賢者みたいなスキルがあるとは思えない。それにハイドは言ってないものの…あいつのスキルは俺からコピーしたものだろう、あまりにも似通い過ぎている。じゃあ、そのコピーを誰がやったか?という話だ。

魔物が…めんどいからハイドも同じだと仮定した上で……スキルや進化をする時はある程度本人の意思が反映されたりするらしいというのが大賢者の談。まぁ名付け親の影響もあるらしいが……俺だって前世の死ぬ間際で色々考えてスキルを得た訳だ。だがコピーは違うだろうと思う。だからこそ俺は思ったのだ。スキルコピーをしたのは学習者…と自称している何か、だと。

 

「………言え、ません」

 

「それは何故だ?」

 

「今言うことは、貴方の運命が大きく変わりすぎてしまう…それだけは避けねばならない」

 

「じゃあなんで話しかけてきた?」

 

敵意はないのは伝わっている。だが今話しかけてきた意図が不明だ。ドンパチやりたいなら初めからやるだろうし、不意打ちするにしても皆起きている時間帯にやる必要はない。

 

「…伝えたいことが1つと、尋ねたい事が1つ」

 

「…尋ねたい、って何を?」

 

「貴方は…死者を甦らせたいと、思いませんか?例えば…貴方の、運命の人を」

 

━━━━━こいつ。

一瞬、ハイドの体だと言うことも忘れて本気で手を出しかけた。俺は耐えた方だろう。こいつは今、土足で…しかも不法侵入までかました過去を自ら喋ったようなものだ。

 

「…お前が、ハイドが敵じゃないと分かっているから…今話を聞く気になったんだ。そうでなければ、1発は殴っていた…分かっているな?」

 

自分でもびっくりだ。ここまで怒るとは思わなかった。だが…今その話をしたのは、なにか思うところがあって…尚且つ『その手』があるのだろうという確信がある。怒りと期待がごちゃ混ぜになっているこの高揚感、初めてだが…嫌いだ。

 

「はい……多くは話せません。その上で…今すぐにとも、言えません。しかし可能性はあります…高い、可能性が」

 

「………はぁ…思ったことはあるよ。大変だったシズさんに、この世界で綺麗なものを見せたいから、と。でも叶わない…だからこそ仇の魔王レオンを討ち取りたいって思いがある…それがいつになるかは、分からないが」

 

「…では……」

 

「でも、復活できるとしても俺に託したシズさんを…俺の勝手で蘇らせていいものかって考えもある。俺のエゴだからな……俺がもっとわがままなら、多分魔王ゲルドも蘇らせて今の部下達の奮闘を見てもらってただろうな」

 

だがそれは魔王ゲルドとの戦いを無かったことにするのではないか、そうも思う。俺は彼らの罪を、全て食らったのだ。故に誰にも文句を言わせなかった……止められなかったゲルドを俺が罪を食らうことで止めた……それを、あいつの死を…俺はなかったことにしたくないのだ。その事実もまた、俺という存在の1つになっている出来事なのだから。

 

「………」

 

「だからもしシズさんの事で明確に願うことがあるとすれば……俺は、シズさんともう一度話をしたい…かな」

 

あの人が、もっと今の世界を見たいと言うのなら……俺は様々な手を持って蘇生させるだろう。それこそ、文字通りの意味でだ。王道正道悪道邪道……色んな手で、だ。

 

「…分かりました。その考えを私は尊重します……その上で、準備は…整えさせてもらいます」

 

「……わかった、頭の片隅に入れて置いてやる」

 

……まぁ、いいだろう。こいつの持っている策が本当にあるのかさえ分からないが、今ここでことを構える必要はない。警戒はさせてもらうがな…ハイドは恐らく目の前のやつのことを、本気でスキルか何かだと思っている。ならそれにわざわざ茶々を入れる必要もない。警戒だけが入る…日常に戻るだけだ。

 

「…………あ、それと…申し訳ないのですが…こちらからの頼みを聞いて貰えないでしょうか」

 

「…なんだ?」

 

「今は少し余裕を持ったので出てきましたが…今、とある事情で彼…ハイドの中がぐちゃぐちゃになっているのです。その整理をするために…並列思考のフル活用で、返答にも答えられない状況となっております…ので……」

 

「ハイドを助けろ、と」

 

「…はい!!!」

 

まぁ元から持ちつ持たれつだったが…さっきから向こうの事情が何一つ分からない。信用してもいいという情報が、目の前の人物から何一つ出てこない。復活させられるかどうかさえも眉唾だ。ハイドは信用している、仕事もちゃんとしているし特訓も合間にこなしている…住民達の手伝いも、隙を見てはしているらしい。だがこいつは別だ。

 

「…元からそのつもりだ。けどな…」

 

「分かっています…情報が一切話せていないのにも関わらず…信用がないのは、分かります。なので…1つ明確にあなたを助ける情報を、出します」

 

「情報?」

 

「これから遠くない…それこそ夏の間にある事件が、この街を襲います。そのために…蜂蜜は、きちんと胃袋に入れて置いてください。貴方の身を助ける事になります」

 

………大賢者。

 

《嘘をついている様子はありません。先程から解析は続けていますが、目の前の人物の種族は相変わらず不明の状態です》

 

ハイドと同じ、か。俺はずっとハイドは『そういう種族』なのだと思っていたが……目の前のやつの『そういうスキル』の可能性もあるわけだ。ハイドでさえも奴のスキルから生まれた存在…という訳ではなさそうだが……

 

《是、個体名:ハイドがそういった生まれなのであれば、1度存在の破棄を行えばリセットは可能だと推測。記憶に関しても今までの分を情報として与えるだけでよろしいかと。》

 

要するに…ハイドが壊れても新しいハイドに作り替えるだけでいい。それをしないということは、作るのに時間がかかるか中にいる誰かということになるが…後者な気がするな。わざわざ作ってその中に隠れる意味がわからん。こいつ今までのことから考えてガワのハイドより遥かに強いだろ……大賢者を誤魔化してたことといい、2人きりとはいえ全員が対応しやすい場面に出てきたり……

 

《………是》

 

実力は不明、経歴も不明、更には飽食者のスキルによって俺のように漏れ出そうな色々を完全にしまい込んでるどころか、街に不便が無い程度に魔素を吸収してる。

 

「そう遠くない、って言って言うがな…下手なヒントだけ与えたら下手打つ可能性あると思わないか?」

 

「え、ええっと…そしたら………」

 

……演技じゃなければ、という前提があるが…あれだ。ポンコツっぽい雰囲気を感じる。なんかすごい慌てふためいているし…ハイドの姿でやられるとちょっと引くな……精神的には女性寄りなのは間違いなさそうな言動と挙動だ。その挙動のせいか…ちょっと警戒心が薄れてきた。

 

「……言動と、見た目から『あ、絶対こいつだ』みたいな感じ、なので…!それに蜂蜜を渡していただければ!!」

 

「えぇ……いや、まぁいいよもうそれで…」

 

さっきまでの雰囲気はどこへやら…毒気をすっかり抜かれてしまった。とりあえず頭の片隅に入れておくか……なんとなく俺が『ここだ!』って思ったタイミングで使うとしよう。

 

「そ、それでも信用ができないなら…1つ技を教えます…!」

 

「は?技?」

 

「今の貴方でも全然使える技ですので…!」

 

と言いながら相手が思念伝達で俺に教えてくれた技…水刃と黒稲妻、黒炎を合わせた名付けて黒煙蒸気電斬(スチームパンク)という技だ。水刃と黒炎で黒い水蒸気を作り、そこに黒稲妻を流す…らしい。確かに俺でも十分使える。まぁ覚えておくに越したことはない…か?

 

「…まぁ、覚えておくよ」

 

「ありがとう…!では、私はそろそろ戻りますので…」

 

「…因みに、中がぐちゃぐちゃってどういう意味だ?」

 

「………」

 

また言えない、と返ってくるかと思えばちょっと悩んでるようだ。運命とかこの先とか言ってるから…まぁ未来人なんだろうかと予想はしている。突拍子も無さすぎて、いまいち驚ききれてないのだが。

 

「……外部要因が、偶然にも彼に接触を図りまして……」

 

「ほう」

 

「その際に彼の中にある…魂、に近い情報…私が中で取り扱ってる情報なのですが……」

 

ハイドのスキルは…確か戦闘すればするほど強くなるとかがあったな。後は解析したものの魔素による創造。総合して…例えるなら巨大なデータバンクのようなものか…それのことを言ってるんだろうが…

 

「…貴方にわかりやすく言うなら……圧縮して、分かりやすいように区分けして保存してたzipファイルの中身とか…圧縮せずに保存してたファイルの中身とか…PCに入ってるデータが解凍なりなんなり勝手にされて全部同じ箇所に一切の規則性がない状態にされたと言いますか……」

 

凄まじく面倒なことはわかった。そして同時にこいつは俺が転生者だと言うのも知っている様だ。面倒というのとハイド本人があんまりにも気にしない揉んだから、転生者だと言うのはちゃんと話してなかったのだが…つまり必死こいて今整理している最中ということか

 

「…どれだけ俺のことを知ってるのかは、もう敢えて聞かずにおくけど……どのくらいかかる?」

 

「………PCという存在が出来上がってから、貴方が転生する直前までに発生していた全てのPCデータが全て同じ箇所に入ってきてるので、それを今整理してる状態……です…例えるなら……ですけど」

 

ハイド…お前が一体何なのかがほんとによくわからなくなったぞ?億や兆では利かない膨大なデータが、圧縮もされず同じ場所にぶち込まれている、と。そう言えば胃袋の許容量がカツカツになったとか言ってたな……そういう事か。

 

「流石に俺もハイドにそこそこ助けられてる…他の仲間達同様にな。だからなるべく早く直してもらえると助かる」

 

「…は、はい…!で、ではまた…!!」

 

そう言って目を瞑り……再び目を開けると、金色の瞳孔…ハイドである。

 

「……流しそうめんしません?」

 

「いきなりなんだお前は」

 

「いや、外こんだけ日射差し込むなら…夏っぽいことしたいなぁって」

 

いい案だとは思うが…どうやらハイドには今の話し合いは聞こえていなかった…というか意識が飛ばされていたらしい。そして意識が飛んでいることすら気がついていない様だ。一々説明しても…面倒だな、黙っておくのが吉か。

 

「まぁ…いいか、どうせ七夕用で笹を取るつもりだったし、そのついでで流しそうめん用の竹も取りに行ってもらうとしよう」

 

「誰が行くんですか?」

 

「ガビル」

 

これは決定事項である。空から生えてる場所確認しないと滅茶苦茶時間かかりそうだし、そんでこの街に今飛べるのってガビル達か俺くらいしかいな………ん?そういえば……

 

「お前ってさ、飛べるの?」

 

「………人間は飛べませんよ?」

 

「お前、俺から出てきたじゃん。なら食ったヤツの記録とか残ってないのかよ?」

 

「あぁそう言う……翼…翼………」

 

多分中で話しかけてるんだろうな……反応しにくいらしいから、こりゃあんまり期待できなさそう……と思ったが、その瞬間に俺と同じ翼が生えた。

 

「…蝙蝠?」

 

「そうそう吸血蝙蝠(ジャイアントバット)の羽だよ」

 

しかし…なんだか俺のよりでかくないか?これはあれか、俺よりこいつの方が身長大きいからか。年下に負けるとなんか腹立ってくるな…

 

「んー……ん…?えー……あー……」

 

「飛べそうか?」

 

うんうん唸っているが…羽は微動だにしていない。まぁ今サポートしてくれる相方がいないようなもんだからな……そりゃ無理ってもんか。

 

「一朝一夕には無理っすねこれ……頭の中で人間は飛べないの固定観念が強いのと、羽がうんともすんとも……まぁでも、飛べると便利そうだし練習しときます」

 

「おう……さて、と七夕と…流しそうめんの準備進めていくとしますか」

 

「そうですね…子供達も楽しめるといいな」

 

その後、俺とハイドは軽く仕事の内容も混じえて世間話をした後に解散した…夏はまだまだこれからだし、いっぱい楽しむとしようか…少しの懸念は、楽しいことで一旦忘れるとしよう。

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