予玖土町で隠居生活を決め込んでいた『元』世界最強の殺し屋ケイト・リード、ひょんなことから『現』世界最強の殺し屋アノニマスと対峙することになる。

この作品は本作者の作品から設定を流用して書いた作品です。
設定の食い違い等がありますが、今回様に組み替えました。
以下関係作品リンク。

【本編完結済み】 ある少年少女達の怪奇譚 夢幻に生きる者たちよ

一章 幕間 紅い獣 誕生編より

https://syosetu.org/novel/313142/

ローズの受難

https://syosetu.org/novel/368238/


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【挿絵表示】

ケイトのイメージイラストです。
頑張って描きました。


元最強殺し屋ケイト・リードVS現最強殺し屋アノニマス

アタシの名前はケイト・リード、どこにでも……はいない最強の殺し屋だったんだが……

 

「なんか殺スレでアタシ死んだことになってない?」

 

隣にいる金髪で緑の瞳をした中学生くらいの義妹、ローズに話しかける。

因みに殺スレは殺し屋専用のSNS、依頼とかレビューとか話題の掲示板とかがある。

まぁ、アングラな情報掲示板ってところだ。

と言うか最近はすげぇな、アタシがガキの頃はいちいち依頼を殺し屋専用のホテルとかで手続きしたりして取ってたんだがなぁ……

まぁ、そんなことはさておき。

正直どうでもいいけど、勝手に死んだ扱いはちょっとなぁ……いや、隠居生活できるからいいけど。

 

「当たり前だろ、5年以上音沙汰無しなら死んだと思われても無理ないぞ?あと、勝手に戸籍で義妹にしたの許してないからな?」

 

ローズは眉間に皺を立てながら不服そうにアタシに言う。

 

「いいじゃん別に、この前の事件でアタシに負けたんだから文句言うな。つうか、音沙汰ないとはいえお前の件があるから死んだっつうのはいくらなんでも……」

 

「その件だが、国が極秘にしたから情報何にも出回ってないぞ」

 

「……やっぱ大統領殺しときゃよかった。まぁ、いいや。過去の栄光に縋るのも無駄だし、この屋敷でのんびり過ごしますかね」

 

瞬間、スマホのコールが鳴る。

相手は松零会(しょうれいかい)の組長、松崎零児(まつざきれいじ)だ。

 

「あー、ケイトの嬢ちゃん。ちょっと助けてくれね?」

 

いつもなら余裕があり飄々とした声の零児がとてつもなく焦った声で電話越しにアタシに話しかける。

 

「なんすか?拷問とかなら当分はやりませんよ」

 

「いや、なんというか……その……俺、命の危機に立たされてるんだよね?」

 

その言葉を聞いて思わず笑う。

 

「ははは!アンタ極道の!それも会長だろ?そりゃ命狙われて当然よ!」

 

至極真っ当な答えをいう。

当たり前だ、自分の地位的に殺される可能性は高い、それくらい受け入れなきゃあならない。

 

「いや、なんつうか……俺だけならいいんだ。ただ、今回俺を狙ってるのが今界隈で有名な快楽殺人鬼らしくてな……紫苑やナズナまで殺されちゃあ俺は死んでも死に切れねぇんだ!だから紫苑とナズナの警護だけ頼めねぇか?」

 

そうか、そりゃ嫌な話だ。

自分のせいで大切な人が死ぬのは辛い。

それくらいはアタシにもわかる。

 

「いいぜ、受けてやるよその依頼。ついでだアンタも助けてやる。報酬はずめよ?」

 

「助かる。とりあえずわかってる情報……つっても名前しかわかんねぇんだが、その殺し屋はアノニマスって言うらしい」

 

「アノニマス……匿名の、とか作者不明の、とかって意味だっけか。なんか気取ってるなぁ……と言うか、その名前どっかで見たような……」

 

「ケイト、この殺スレのタイトル見ろ」

 

そう言ってローズがアタシの服の袖を引っ張る。

 

「あん?何々?えー、『世界最強の殺し屋はアノニマス!古くさい紅い獣終了へ』……あ゛?」

 

実に舐め腐ったスレ名に思わずスマホを握りつぶしそうになる。

と言うかちょっとヒビ入った、最悪。

 

「えーと……ケイトの嬢ちゃん?」

 

「おい零児、今から行くから殺されるんじゃねぇぞ?この舐め腐った新人にマジの怪物がどう言うもんか見せてやる」

 

そう言って通話を切った。

 

「はぁ……ムカつく!なぁにがアノニマスだ?!調子こいてんじゃねぇぞ快楽殺人鬼如きが!世界最強はアタシでお前は下!ぜってぇぶっ殺す!」

 

めちゃ頭にきた。

いや、調子こきすぎだろコイツ?

殺し屋舐めてんじゃねぇぞ?

どうせB2爆撃機を石で撃墜できねぇような半端な殺し屋だろうが!

舐めんなカスが!

ぜってぇ殺す!

泣いて詫び言うまで痛めつけてやる!

 

「おぉ、ケイトがキレてらぁ。まぁ、お前は負けないだろ。多分」

 

「あ゛?ローズ、舐めんなよ?アタシこれでも世界最強の殺し屋だからな?」

 

「『元』だろ?まぁ、気をつけろよ。私はそろそろ登校時間だ」

 

そう言って、ローズは館を後にした。

 

「あいよ、いってら。さて……」

 

どうやってアノニマスを理解(わか)らせたもんかねぇ?

ちょっと楽しいじゃあないか!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

つうわけで、やって参りました松零会豪邸!造りはほぼ要塞、予玖土町近づいちゃいけない建物ランキングナンバーワン!さてはて、門番の連中は健在だな、ならまだ死んどらんか。

 

「おつー、ケイトだよ」

 

「ケイトの姐さん!お待ちしておりました。どうぞ中に」

 

「おけおけ、つうかお前らも入れよ。外いると死ぬぞ?」

 

「いや、自分たちは零児さんに命を預けた身なんで……」

 

「いいのいいの、命大事にってやつよ。と言うか零児のやつにはアタシが話し通しておくっつうか面倒だから今からスマホで連絡入れるか」

 

ひび割れたスマホを手に取り零児に電話をかける。

何コールか後に零児の声が届いた。

要点だけ説明して豪邸の一番安全であろう一部屋に構成員と家族全員ぶち込んでおけとだけ伝えた。

 

「あの、姐さん……わざわざ一部屋にしなくても……」

 

「いや、シンプルにアンタら邪魔になるから固まっておいて欲しいだけ。まぁ、こんなでかい豪邸なら全員入れる部屋くらいあるでしょ?」

 

「まぁ、ありますが……」

 

「とにかく!とりあえず中に入る!オッケー?」

 

「はい、姐さん!」

 

「よろしい!んじゃまぁ後はアノニマスぶち殺がし大作戦と行きましょうかね!」

 

「誰をぶち殺がすって?」

 

瞬間、高い女の声が響く。

その声のした方向を向いた所には黒い髪と赤と青のオッドアイ、黒いコートと黒いズボン、と言うか黒づくめの格好をした背の高い女がいた。

 

「私はアノニマス。今からお前達を殺すものだ」

 

こいつ、バカほど慢心してるな?

なんか決め台詞っぽいこと言ってるけど、それ現場でやったら3回は死んでるからな?いや、死なないと確証が持てるなら話は別だけど。

 

「お前が松零会が雇った用心棒か、華奢な女か実に弱そうだ。松零会も程度が知れると言うものだ」

 

いや、お前も女やろがい!と突っ込みたくなったがまぁ、そりゃいいや。と言うかこいつアタシのこと紅い獣だって気づいてなくね?……あ、アタシそもそも画像とか映像とか殆ど残さないからほぼUMAとか都市伝説の類だったんだっけ、我が事ながらウケる。

 

「それにしても、その紅い髪と紅い瞳はいい。鮮血の様で実にいい。これからその色にお前は染まるのだからな」

 

あ、こいつもしかして厨二病入ってる感じ?別の意味で痛いなぁ……いや、アノニマスとか名乗ってる時点で大概か。まぁ、獲物があっちから来てくれたんなら構わないか。

 

「とりあえず門番くん、中入って」

 

「は……はい!」

 

「…………」

 

意外にもアノニマスは門番に攻撃を仕掛けない。見た感じ銃器の類は隠し持ってるっぽいんだがなぁ。

 

「へい、アノニマスちゃん?なんで門番くん通したわけ?」

 

「あの程度の雑魚はいつでも殺せる。だから見逃した。だが、お前は違う。お前の亡骸を奴らに見せつけ、恐怖させ!余すことなく殺し尽くすのだから!お前は生贄だ……」

 

あら、こいつ結構重症だ。と言うか、相手の力量くらい測れねぇのかよ?それできなきゃこの業界生きていけないよ?

 

「行くぞ、女」

 

そう言ってアノニマスはアタシに向かってくる。遠距離武器あるのに近づいちゃダメでしょ!そこは距離とって戦うとか色々あるだろ!みてるこっちが恥ずかしいわ!まぁ、遊ぶか。

 

「な……眩しッ?!」

 

「案外スマホのライト機能って光強いのね、今度なんかで使うか」

 

スマホのライト機能を即座にオンにしてアノニマスの眼に向けて光を当てる。まぁ、ガードもなんもしてないアノニマスは光をダイレクトに受けて目眩し状態だ。そんで持っていい感じにアノニマスの両足が並んだからちょっと力を込めて蹴り飛ばす。

 

「がっ?!」

 

見事に顔面から盛大に地面に叩きつけられるアノニマス、ちょっと可哀想になってきた。と言うか、アタシの後釜がこいつなのすげぇムカつくんですけど?!

 

「くっ……運のいいやつめ!」

 

あー、わかるよアノニマスくん。こう言うのって得てして運が絡むパターンあるもんね、でもね、それでもねじ伏せてぶっ殺すのがプロなんですよ。相手が高高度にいるB2爆撃機で持ち物が石しかない状態とか想定して対処できる様にしような?

 

「だが!少々調子に乗りすぎた様だな!女!」

 

ん?あ、なんか足の親指がちょっと痛いな?これ仕込み刃と……あ、毒か。ちょいまずいが、まぁ、ナズナちゃんいるしいいか。

 

「そい!」

 

手刀で今傷ついた足の指を切り落とす。身体が壊れることには慣れてるからそんなに痛くはない。嘘、めっちゃ痛いけど我慢してるだけ。

 

「な?!手刀で指を?!馬鹿なのか貴様?!」

 

「そーだよ、馬鹿だよこんちくしょう。人の綺麗な足をダメにしやがって、ぶっ殺すぞ!」

 

アノニマスは目に見えて動揺している。うーん、仕込み刃があるとしたら腕と足が鉄板だから……顔面か!

 

「ほれよ!」

 

「ぐぎっ?!」

 

アノニマスは顔面が破砕する音と共に盛大に吹っ飛ばされた。ちょっとやりすぎちゃったかな?いや、結局殺すから関係ないか。

 

「くっ……ここは一旦引き分けにしといてやる……ッ!!!」

 

「へ?」

 

瞬間、眩い閃光がアタシの瞳を襲う。閃光弾の類か……。やべ、逃げられた……どないしよ……と言うか、零児達の方は大丈夫なのか?!

 

「ケイトの嬢ちゃん、どうやら終わったみてぇじゃねえか」

 

「あれ、零児?中にこもってたんじゃないの?」

 

「最初から門の裏にいたよ。もしもの時は俺の命一つで勘弁してくれねぇか、って言う為によ」

 

「なんだ、案外肝座ってるじゃない」

 

「そりゃ極道者の端くれだからな。家族殺されるよか自分だけ死んだ方がマシさ。で、親指どうすんの?」

 

あ、忘れてた!アタシの親指!どこいった?!ないと困るんですけど!

 

「えっと、ケイト、あったわよ?」

 

「あ、紫苑(シオン)、ナイス!後、ナズナちゃん貸して」

 

「ナズナは物じゃないんだけど!まぁ、今回は命救ってもらったししゃあないか……アキルの屋敷に一緒についていけばいい?」

 

「うん、それにアノニマスはもう街にはいないっぽいし多分安全でしょ。まぁ、もしものことがあったら嫌だからアタシと一緒に行動しましょ。後、絆創膏ちょうだい」

 

「はいはい、にしても世界最強の殺し屋に狙われるなんて、オヤジなにしたの?」

 

「何って……ヤク流してた海外のでかいマフィアの予玖土支部潰しただけだが?」

 

「原因それじゃん!はぁ……いや、よくはないけどいいことしてる?からあんま文句言えないけどさぁ」

 

「まぁまぁ、アノニマスの奴がまたきてもアタシが今度はぶっ殺すから安心しろって!」

 

「あんたはあんたで怖いわケイト……ま、とりあえずアキルの屋敷に行きましょうか。今日はナズナはもしものことがあったらいけないから中学校休ませてるし、すぐ行けるわよ」

 

「助かる」

 

そう言ってアタシと紫苑とナズナは屋敷へ帰る。なんでナズナが必要かだって?ナズナは人間じゃない別の存在……ショゴス、だっけかな?らしくて人の適応力次第では身体を細胞レベルで治すことができるからだ。後、屋敷に戻った理由は親指の毒抜きをグレンに頼む為。まぁ、色々あったけどアタシの綺麗な足は元通りに戻ったわけだが……にしてもアノニマス、だいぶ弱かったけど本当にあれが今の世界最強の殺し屋なのか?だとしたら殺し屋界隈どれだけデフレしてんだよ!……はぁ、考えるのやめやめ、めんどくさいから寝よ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

あの女!絶対に許さない!私が負けるなんてありえない!オーダーは一旦全部無視だ!あの女を先に殺す!無名の殺し屋のくせに世界最強の私より強いなんてありえない!必ず抹殺してやる!待ってろよ、紅髪の女!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「うー、寒っ」

 

アタシは近所……と言っても山道降ってから少し歩くんだけど、まぁ、コンビニにきていた。

無論買い物の為なんだが……

誰かつけてるな?

まぁ、最近恨まれるようなことと言ったら()()しかないんだが。

しかしまぁ、奴さん。襲いに来ないな?

聞いてた話じゃ快楽殺人鬼だろ?監視カメラに映るのが嫌とかか?……こりゃ帰り道は警戒しないとだな。

今護身用のサバイバルナイフしか持ってないし。

———それにしても、前回と違いすぎる。

前回はやっぱり慢心していたんだろう。そりゃそうだ、アタシも無名の女が護衛で出てきたら多少警戒しても慢心する。アタシの悪い癖だ。

アイツもそんな感じなんだろうか?

ま、いいや。さっさと人がいないところ……山道の中腹あたりで襲って来てくれると助かるんだがなぁ。あそこ、すぐそばに森もあるから身を隠しやすいし。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

———山道 中腹にて

 

……出てこねぇな。いや、確実につけられてはいるんだが。

こっちからふっかけるか。

 

「いつまでつけてるんだよ?お前クラスの情報網ならもう、住所とかとっくに割れてるだろ?なぁ、アノニマス?」

 

「やはり気づいていたか」

 

そう言って、漆黒の闇から黒染めの女が現れる。その両目の赤と青のオッドアイは月夜に照らされ、不気味に輝いていた。

 

「まぁ、な?で質問なんだけど、何でナイフしか持ってないわけ?」

 

そんな問いをアノニマスに投げる。

奴は銃器を持ってない。

持ってたら普通ならそもそも使ってるし、アタシの感覚的にもナイフしか持ってないのは明らかだ。

 

「そこまでお見通しか、やはりお前は他の有象無象とは違うらしい」

 

そう言ってアノニマスは研ぎ澄まされたサバイバルナイフを右手に持つ。

何の偶然かわからないけど、アタシのと同じ奴だ。

 

「もう一個質問いい?何でこんなとこまでアタシを泳がせてた?」

 

次の問いを投げつける。この山道は入った時点でほぼ人がいない。実際今日もアタシとアノニマス以外の人はいなかった。

なら、ここまで見逃す必要はないはずだ。

 

「気分、と言うやつかな。お前とは最高の立地で戦いたかった。この前の屈辱を拭う為にも、な」

 

「へぇ、言うじゃん。で最後の質問……()()()()()()()()()()()()()()

 

一番重要な質問を投げる。

回答次第では絶対にコイツを殺す。

 

「出してない。殺し屋が言うのも何だが誓ってもいい。私の獲物はお前だけだ」

 

「そか、じゃあ……殺し合おうや」

 

そう言って、背中に隠しておいたサバイバルナイフに手を取る。瞬間、アノニマスがアタシめがけてサバイバルナイフで刺し貫こうとする。

あまりにも愚直な行動。普通なら避ければいい。だが、相手は現世界最強の殺し屋。

舐めれば死ぬ相手だ。

故に———

 

「後ろに飛んで逃げたか」

 

「まぁ、あんた絶対隠し札あるでしょ?当然逃げるね!」

 

そう言って闇夜の森に逃げ込む。

正直、完全に相手有利だ。何せ黒づくめの服装は闇に溶け込むにはこの上なく良い。

それに森は山道よりはるかに暗い。互いにある程度視覚情報が足りなくなるが、相手は現最強、アタシもできるが気配探知なんて余裕だろう。

その上でアタシはアイツの奇襲に備えなきゃいけない。不利なのには変わりないが、有利な点もある。木という足場がある。それだけで話は変わる。

最も、アイツがアタシの殺し方を知らなければ、だ。

殺気を殺して限りなく気配を消す。

まるでそこにはいないように、死体のように。

神経は研ぎ澄ませ、相手の動きをすぐさま感じ取れるように。

そうして永遠に思えるほどの十数分の後、先にアノニマスが動いた。

アタシが隠れたエリアに入り込む。

そうして即座にアタシを見つける。

二色のオッドアイに殺意が灯る。

瞬間、アタシは脚に全力を込めて斜め後ろに跳躍する。

あるのは太い木。

そう、アタシにとっての足場、それをさらに蹴る。

そうしてアノニマスの後ろに位置取ろうとした時、煌めくサバイバルナイフの一閃がアタシの頬を掠め切る。

瞬間、また跳躍する。

別の木に、別の地面に、縦横無尽に跳び続ける。

アノニマスの隙が生まれるまで。

そうしてやってきた千載一遇のチャンス、完全なる死角、それを持って刺し貫く……はずだった。

 

「がぁ?!」

 

刺し貫かれたのはアタシの左肩。

アノニマスに対して放った一撃は容易に避けられ、かすり傷すら受けていない。

引き裂かれないようにアノニマスの腕だけでも止めねぇと……

瞬間、山頂の屋敷の方角から銃声がなる。

アノニマスは私の左肩に刺さったサバイバルナイフから手を離し、銃弾を避ける。

しかし、銃撃は止まない。

むしろ近づいてくる。

そうして影が見えた、ローズの影が。

 

「ケイト、大丈夫か?!」

 

ローズは心配そうにアタシに問うが、今だけは言わせてくれ。

 

殺し(勝負)の邪魔するんじゃねぇ!」

 

「……!」

 

ローズはアタシの怒声を聞いて少し退く。

アノニマスはただ、その場で傍観者の如く佇んでいた。

アタシは右手で頭をかいて、立ち上がり、アノニマスと目線を合わせる。

 

「今回は私の勝ちだな、紅髪……いや、ケイト」

 

「そうだな、そんでもって邪魔入れて悪かったな。ちょうどお互い一勝一敗、って事にしとくか?なら、決着つけなくっちゃなぁ」

 

「いいだろう。1週間後、この町の港にある廃工場で決着をつける。それでいいな?」

 

「かまわねぇ。ああ、それと……」

 

ローズが持つ拳銃を取り、虚空に向ける。

 

「そっちで観てる奴ら、気色悪りぃぜ?じゃあな」

 

そう言って1発、弾丸を放つ。

撃った先にあったのは黒いドローン、どうやらアタシ達の殺し合いは誰かに見られていたようだ。

気分悪りぃな。

 

「じゃあな、ケイト」

 

そう言って、アノニマスは闇夜に消えていった。

次会う時は決着の時、その時は……どうなるかねぇ?

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

———同日 蒼葉邸にて

 

「はい!施術完了!つうか、ほんとに傷跡消さなくていいのか?」

 

ボサボサの白い髪と紅目に白衣を羽織った男……グレン・フォスターがアタシに問う。

 

「いいんだよ!こりゃアタシの敗北をちゃんと忘れないために残しとくの!」

 

そう、アノニマスにやられた傷自体は治してもらった。グレンやアキルが使う星外の技術っつうやつはすごいもんだ。本来なら傷跡だって綺麗さっぱり消せる。

だけど、この傷は消せない。

アタシが負けた傷は消しちゃいけない。

まぁ、ローズのクローンに爆破された傷は勝手に消されちゃったんだけどね!

 

「まぁ、お前がいいならそれでかまわねぇよ。案外、傷跡とか気にするタイプだと思っただけだ」

 

「アタシが?まぁ、そんなにかなぁ……そもそもアタシに傷跡がついたのなんて、邪神とクローンと今回のアノニマスくらいだしね。正攻法で初めてアタシに傷跡つけたのはアノニマスが初めてなんじゃねえかな?」

 

「大層な面々なこって。まぁ……何だ、さっき言った通りだよ。俺の感想はな」

 

「何だ、変な感じだなぁ」

 

いつもなら何も言わないはずのグレンが妙に気にしてやがる。なんか変なもんでも食ったのか?

 

「とりあえず、1週間後にアノニマスとの再戦があるんだろ?死ぬなよ?流石の俺でも、死人は蘇らせないからな」

 

「そらそうだ。まぁ、どうにかするさ」

 

そう、1週間後にはどっちかが死ぬ。だけど、不思議と恐怖はない。寧ろワクワクしてる。久々にガチの死線を潜るんだ、なのに楽しくて仕方がない!

やっぱりアタシはとうに人として壊れてるらしい、だけどこの高揚感はたまらない!

そのままアタシは自分の部屋に戻って銃とナイフを入念に手入れした。

 

「流石のケイトもガチになると武器の手入れとかするんだな」

 

ローズがアタシとローズ、二人用のベッドに座り込んでそう呟く。

 

「そら、生き死にがかかってるからな!まぁ、相応しい死に様で死にたいからな、アタシは。だから、手入れはちゃんとするし身体も慣らしていくもんさ」

 

「相応しい死に様?生きるんじゃなくてか?」

 

ローズが不思議そうに呟く。

そりゃそうか、普通ならこんな発想には至らないからな!

 

「ローズ、アタシは何だ?」

 

「え?殺し屋じゃないのか?」

 

「そうだ。つまりは悪、悪役(ヴィラン)だ。だから死んでも仕方がない。つうか、いつか相応しい報いを受けて死ななきゃならねぇわけよ」

 

「よくわからんな、私には。私も殺し屋だが生きたいと思うし、この前の零児さんだって、極道だけど生きたいと思ってた。まぁ、理由はちょっと違うけど……」

 

「まぁ、普通はそんなもんよ。アタシが壊れて狂ってるだけ、アタシはアタシに相応しい死に様がいつか来ると思ってる。アノニマスは今の所一番それに近いんだよ」

 

そう、アノニマスとの戦いはアタシの罪に相応しい。だからこそ全力で、死に物狂いで戦って……後は結果次第かな?

 

「ケイトの考えはよくわからないことはわかった。まぁ、私としては死んで欲しくないが死んだら墓参りくらいは行ってやるよ」

 

「おぉ、よくできた義妹だ。ちょっと嬉しいぜ?とりあえずは明日から久々に地下のシュミレーター室で身体動かしますかね!」

 

()()やるのか。ケイトは身体が化け物だからできる芸当だよな」

 

そう、明日からアタシがやるのはシンプルなこと。身体を動かす、超全力で。そうして全盛期の感覚を取り戻すだけだ。

飛んで、抉って、貫いて、殺す。

シンプルな暴力の化身として、獣と呼ばれたあの時代(全盛期)まで戻る。

そこまでやって、ようやく今のアタシはアノニマスと対等になれる。

だから身体も心も(全部)壊す。

それが辛くて心地いい。

 

「あぁそれと、次は邪魔すんなよ?殺すからな」

 

アタシはローズにそう忠告した。

 

 

———一週間後の夜 予玖土町 港の廃工場にて

 

 

 

「来たな……ケイト!」

 

アノニマスの二色のオッドアイが鋭く光る。その瞳には殺意と燃える魂が映し出されているように感じた。

 

「よう、アノニマス。特に喋る必要もないし殺るか?スタートの合図は……そうだな、今からコイン投げるから、それが落ちたら始めようか。それでいいか?」

 

「構わない」

 

「オッケー!それじゃ、ほい!」

 

運命のコインが空に飛ぶ。

アタシとアノニマスは既に自らの武器に手をかけている。

コインが落ち次第、すぐさま殺し合いは始まる。あるいはどちらかがすぐに死んで終わってしまうかもしれない。

 

 

 

———そうしてコインは地に着いた。

 

 

 

アタシは即座に銃を抜き、アノニマスの右腕を狙う。アノニマスも同様だ。

何故ならお互いの利き腕だからだ。

最初っから頭を撃てばいい。普通なら、な?

だが、お互い相手は自分と同レベル……つまりアノニマス視点では最強の殺し屋と同じレベルってこと。

そして、アタシから見てもアノニマスは全盛期のアタシと同じくらい強い。

だからこそ、まずは利き腕を狙う。

頭を外したらこちらだけ腕を持って行かれて不利になってしまう。

そんなら最初から安牌を切るわけだ。

二つの銃声が闇夜の静寂に鳴り響く。

結果はお互いヒット。

アタシは見事に右腕を撃ち抜かれた。まだ動くけど全力は多分出せない。

ただ、アノニマスは違う。

 

「がぁあ?!何だこの弾丸は?!」

 

アノニマスの右腕が半分抉り飛ぶ。

アタシお手製の弾丸と魔改造された拳銃の相性は最高だ!

大きく、重く、速く、全てを兼ね備えた弾丸がアノニマスの右腕を半分抉り取った。

まぁ、本来なら撃った側も反動で腕が吹っ飛ぶ代物だがな!

 

「まずは一歩リード、じゃあなアノニマス!」

 

2発目の弾丸をアノニマスに放とうとした時、奴はアタシの視界から消えた。

数瞬後、アタシの視界に赤と青の軌跡が映る。

数歩後退する。

そして、アタシがいた場所……今は拳銃のちょうど中間地点ギリギリくらいの位置に銀色の煌めきが現れる。

同時にアタシの拳銃は真っ二つになった。

 

「避けたか……面白い!」

 

「ヒュー!やるじゃん!アタシの拳銃がぶっ壊れちまった。じゃあ、くれてやるよ!」

 

そう言ってアタシは残り半分のパーツをアノニマス目掛けてぶん投げる。

まぁ、当然斬られるわけですが。

と言うか、ここまで切り刻めるのは雪奈(せつな)以外じゃ初めてだ!

 

「流石のケイトちゃんもびっくりだぜ!こうも手数を潰されると……やっぱりコレしかないよなぁ!」

 

そう言ってアノニマスの腹に向けて殴りかかる。瞬間、アノニマスは後退してアタシのパンチを避け、左手に持ち替えた銃でアタシの右脚を撃ち抜いた。

 

「痛え……()()()()()()

 

「生存本能、とでも言えばいいか?お前の拳からは死を感じた。だからもう近づかない、間合いには入らない、そうして確実に殺す」

 

「良い勘してるじゃん!けどさ、撃ち抜かれたとは言えまだ、左脚はあるんだぜ?」

 

そのままアタシは両脚に力を込める。

出血はヤバいが、まぁいい。

そうして地面を蹴り上げアノニマスを無理やりアタシの間合いに引き摺り込み左腹を抉るように触れようとするが少し交わされる。

抉り取れたのは皮膚と肉片少しだけ、アノニマスは出血こそしているがまだ健在。

それどころか交わすついでにアタシの左腕にナイフを深く突き刺した。

 

「は、ははは!楽しいなぁアノニマス!すっげぇ楽しい!」

 

「お前は壊れているのか?まぁ、かく言う私も楽しいんだがな!」

 

そうして殴り合って、抉りあって、切り裂きあって……血と肉が舞い散って工場内が鉄錆臭くなるまで殺りあって、いつしかお互い満身創痍になっていた。

 

「はぁ……はぁ……はは、やっぱりお前と殺りあうのは楽しいなぁ!」

 

「はぁ……はぁ……狂人め!だが、良い!」

 

もう既にお互い死に体で武器も使い物にならない。

あぁ、やっと……

 

———瞬間、銃声が鳴った。

 

「へ、最強の殺し屋もここまで弱れば雑魚同然よ!これで俺たちゃ大金持ちだ!お前ら、殺せ!」

 

瞬間、アノニマスが撃たれたが頬を掠めるだけだった。

 

「……なぁ、アノニマス。今アタシが考えてることわかる?」

 

「あぁ、よくわかる」

 

「「無粋な真似してるんじゃねぇ!!!」」

 

現れた殺し屋軍団に対して突っ込んでいく。

武器はないがまだ身体がある!

一番近いやつの首を引きちぎる。

アノニマスの方は相手の銃を奪い、それで撃ち殺しているらしい。

 

「アノニマス、後ろ任せるぞ?」

 

「同じくだ、死ぬなよ?」

 

「当たり前だっつうの!」

 

そう言って、お互い手当たり次第に敵を屠っていく。

一人、また一人と胴を貫き、首を引きちぎり、身体をへし折る。

まるで獣が獲物を容赦なく狩る様に、理不尽に、不条理に殺し尽くす!

それがアタシの戦い方(スタイル)紅い獣(レッド・ビースト)と呼ばれたアタシの武器!

逆にアノニマスは最低限の動きで一人づつ効率よく殺していく。

まるで精密な機械の様に、静かに殺す。

アタシとは正反対の静かで優雅さすら感じる殺し方。

獣と機械、二人の最強の殺し屋が有象無象をぶち殺す!

 

「な……何なんだよ!さっきまで死にかけだったろ、お前ら!」

 

最後の一人、この殺し屋達を纏めてた首魁がそう叫ぶ。

 

「てめぇ、無粋な真似しやがってよぉ?楽しく殺し合いしてたっつうのに……じゃあ、死ねや」

 

そう言って首魁の首を飛ばす。

頭は口が動いて何か言っていたがどうでもいい。

 

「さて、アノニマス……続きを……」

 

視界が眩む、身体が言うことを聞かない。

 

「ケイト……」

 

薄れゆく視界の中でアノニマスがそう言って倒れる姿が見えた。

あぁ……こんな最後か。

途中まで良かったのに、最後でクソみたいな結果になっちまった。

消化不良感半端ないなぁ……

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

暗闇の中に沈んだはずのアタシの視界に光が灯る。それはアタシが生きていることの証明だ。

 

「あ゛?なんで生きてんだアタシ?」

 

「よう、死に損ないその1。死に損なった感想はどうだ?」

 

そう言ってブラックジョークをふっかけてきたのはグレンだった。

そうして視界を確認して理解する。

アタシは屋敷の地下にいる。

アタシが寝ているベッドの隣りのベッドにはアノニマスが寝かされていた。

 

「おい……ローズか?無粋な事したのは?」

 

「私よ、馬鹿ケイト」

 

蒼い瞳でこちらを鋭く見るのは蒼葉(あおば)アキル、この屋敷の主だ。

 

「お前かよ!何でこんな事しやがった?!」

 

「そら、家族が死にかけたら助けるわよ。それに、手を出すなって言われたのはローズだけでしょ?私たちが手出ししちゃいけないなんて言われてないもの」

 

アキルはそう言って笑う。

死に損なった。

けど、あんな無様終わり方よりかは良いか?

 

「っ!ここは?何故傷が治っている?!」

 

アノニマスも目を覚ます。

そして状況を理解できてない。

そりゃそうだ、この屋敷の人間じゃなきゃこの状況は理解できない。

 

「あぁ〜、アノニマス。とりあえずアタシ達は死に損なったらしいぞ?あと、詳しいことは後で教えてやる」

 

「……まぁ、死に損なったのはわかる。後はわからん」

 

アノニマスはポカンとした顔をしている。

さっきまで殺し合っていた奴の顔とは思えないな。

 

「とりあえず、二人とも今回は引き分けにしなさい。もし殺し合い始めたら私が全力で止めるからね?」

 

アキルは鋭い目でアタシとアノニマスを睨みつける。

 

「はいはい、アタシ達がどうしようとお前にゃ勝てないしな!ってことでアノニマス、決着の機会は次ってことでいいか?」

 

「構わん。次は殺す」

 

「良いねぇ、やっぱりお前はアタシの最高の敵だ!」

 

「ふん。お前も私の最高の敵だ。必ず殺しにくるからそれまで死ぬなよ?」

 

「当たり前な?まぁ、状況説明終わったら一旦帰りな。あの感じだと、どうせ殺スレでお前の手配書出回ってるぞ?」

 

「そうだな、全員殺してからお前を殺しにまた戻ってくるぞ」

 

そうして少しアノニマスと雑談と情報共有した後アノニマスは帰路に着いた。

結局戦績は一勝一敗一分け、ドローだ。

こうして、またアタシは平凡な生活に戻っていくことになった。

まぁ、次は盛大に決着を付けたいな!

 


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