私は望んでこの牢屋敷に囚われた。逆らったら殺すと脅されてはいるが、幸いここで生活することはできる。規則も定期的に自室に戻ればいいだけで、別になんかやれってわけじゃない。 料理の不味さや自室の汚さだって、自分たちで解決すればいい話だ。決していい環境じゃないけどこれからなんとかできるはずだ。いや、なんとかしなきゃ。
私は、なのちゃんを守らきゃいけない。今はここにいるだけでいい。こんな大規模な拉致、破綻する時が来る。いるだけであの子を守れるんだから耐えろ私。
それでも、妹に会えない日々は私の心を着実に蝕んでいった。殺人事件が起こった、処刑をした、みんなの仲が悪くなる、その繰り返し。ああ胸がムカムカする、なんでみんな平和になろうとしないの!自分じゃない誰かのような恨み、理由なんてない根源的な何かが身体に纏わりつくのを感じる。溢れ出るどす黒い感情を抑えようと、つい爪を噛んでしまう。大丈夫、私は殺されはしない、殺しもしない。何でもなれる、何でもできる黒部ホノカ。だから私が守らなきゃ。私が、私が、私が──
「……誰?」
「はい……! この方ならきっといい看守さんになってくれます……!」
聞いたことがある声。いつもみんなを気にかけてたあの子だ。
「ねぇ、メルルちゃん。ここはどこ?」
返事はない。
「メルルちゃん、暗くて何も見えないし動けないの。助けて」
突然、頭に針を捩じ込まれているような鋭い痛みが走る。身じろぎしても、拘束されて痛みを逃がすことすら許してくれない。すすり泣く声とプツップツッと繊維が切れる音が響く。次第に痛みは引いて、残ったのは異物が体内に侵入してくる不快感だけ。それすらも自我と共に薄れていく。
「これからよろしくお願いしますね……! ええっと……看守さん!」
意識がどろりと形を失い、底へ沈んでいく。
私は、妹が泣いてないか心配だった。
どれだけの間眠ってたんだろう、意識が再びひとつの形に戻ろうとしている。
「──!」
誰だろう、紫の着物っぽい服を着た女の子が慌てている。スマホで誰かに連絡しように見え……あ、手袋を外した。だめだ、まだうまく考えられない。起きたら何をすればいいんだっけ?
「お姉ちゃん!」
勢いよく扉が開く音で目が冴える。そこでようやく、自分がベッドの上にいて元に戻っているのに気づいた。そうだ、私は妹を守るために──
「なのちゃん……?」
「大丈夫!? お姉ちゃん、私のことわかる!?」
何よりも大切な、命に代えても守りたかったあの子がここにいる。どうしてかはわからないけど、きっといいことなんだろう。夢じゃないのを確かめたくて、頬に手を伸ばす。
「なのちゃん、一人でおめかし出来るようになったんだね」
「もう、そんなちっちゃい子じゃないのよ……」
頬と流れる涙が温かい。
マーゴさんが剥いてくれたリンゴを頂きながら、色んな話を聞いた。あれから2年も経ったこと、魔法が消えたこと、友達のこと、色んな時間を過ごした?こと。そして、私が元気になったら一緒に帰れること。
あのねあのねと、あんまりにも嬉しそうに話すものだから長い眠りが嘘みたいに活力が湧いてくる。
「それにしてもなのちゃんにお友達かぁ、私もお話ししたいなっ」
そう言って起き上がろうとすると、腕を抑えられてしまった。
「お姉ちゃんは安静にして!」
「え~? じゃあリハビリってことでその辺歩きたいなぁ~」
「起きたばっかでまともにご飯食べてないのに、良いわけないでしょ!?」
今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。私は相当心配させてしまったようだ。
「うん、ごめんね……」
話をしたいのは本当だ、なのちゃんには友達が少なかった。ちょっと考えすぎちゃうというか、グループや派閥みたいなのが苦手で親しくなりづらかった。それでいつも私にべったりだった。
知りたい、自分の知らない『黒部ナノカ』を。そうすればきっと──
その時、ピロンと軽快な音が鳴った。なのちゃんの携帯からだ。
「そ、そうだ、佐伯ミリアに火の番頼んでるんだった、わ」
なのちゃんはこういう突発的な状況に弱い、見るからにわたわたと挙動不審になっている。
「じゃあ、わたしは行くけど絶対に安静にしててよ!」
小走りで行ってしまった。
さっきまであった活気はなくなり、物音ひとつしなくなった。さて、妹がいなくなったことで看病してくれた少女、宝生マーゴに聞かなければならないことがある。
「あの子銃背負ってなかった?」
さっきからめちゃくちゃに気になっていた。出ていくときに見えた大きな銃は、寝ぼけた私の見間違いであってほしい。目の前の少女は一瞬呆然とした表情を見せ、ぷっと噴き出した。
「ああ、確かに背負ってるわね」
それが当たり前かのように、あるいは背負っていたことに今更気づいたかのように彼女は語った。
「もう弾は入ってないけどね、クセで持ってるみたい」
あんまり納得はしてないけど……まぁ、みんなも気にしてないならいいのかな?
「ところで、あなたはなのちゃんの同室なんだってね、ありがとう。それと、私の看病してくれたのも」
「いいのよ、私が好きでやってることだから」
私よりも年下なはずなのに、堂々としていて、妖艶で底が見えない、でも安心感を感じる。シチュエーションも相まって保健室の先生を思い出させる。
「あなたから見たなのちゃんのこと、教えてほしいな」
「……良くも悪くも、純粋ね。からかい甲斐があるわ♡」
「真に受けるからほどほどにね!」
「一人が平気なことは意外だったのわ。孤独に耐えられるのもそうだけど、ああいう子が一人遊びに慣れてるのは珍しいと思うわ」
姉である私が聞いてるから多少好意的に言ってくれてるだろうけど、周りと馴染めてそうでよかった。なにより話しているときの楽しそうな表情がそれを物語っている。
「最近はパン作りにも挑戦してて……試食させてもらってるわ、レシピがなくて手探りだけど結構美味しいのよ。」
「えっすご、食べた~い」
お菓子作りのスキルがこんなところで役に立つとは。それよりも、自慢の妹の特技がついに日の目を浴びたことのほうが嬉しい。
「料理と言えば、以前は
「へ、へぇ~」
「もしかして、料理が苦手だったり?」
「まさか! 結構好評だったんだよ!」
自分事じゃないのに、自分の体がやったことだからめちゃくちゃ恥ずかしい。誰が包丁の握り方を教えたと?
「ふふ、ならメルルちゃんがわざとそうしたのかしら」
「きっと、絶対そう! メルルちゃんのせいだよ」
そう、氷上メルルちゃん。優しいあの子は黒幕だった。他人のために泣くことのできる子が、こんな残酷な舞台を作っていたなんて。残酷というには、あまり人のこと言えないか。
「……メルルちゃんはなんで私を選んだんだろう」
「そうねぇ、看守は【比較的大人しくて従順な子】が選ばれるって聞いたけど、話してるとそう見えないわね?」
私は別にいい子だったり、牢屋敷に隷属してたりなわけじゃない。ただ生き延びる必要があった。この国ぐるみの狂った陰謀、もし脱走したとしてもまた探されるだけ。妹に危険が出る選択肢など眼中になかった。
ああ、なるほど。
「私はここでうまいこと生きていくつもりだったの、それがメルルちゃんにとっては従順なように見えたのかな?」
こうして失敗してるけどね、と自嘲する。自分のことを喋っていると、自身が何もできなかったことをしみじみ思う。今すぐにでも動いて何かしたい。でもついさっき釘を刺されたばかりだ。
私は──
当然、妹の忠告を無視して起き上がった。私が見えていなかった『黒部ナノカ』そして、私自身の間違いを知る必要がある。私はここに来たことでなのちゃんに何かできたのか?こんなに心配させて、泣かせて、傷つけて、結局危険な目に合わせた上に助けられてしまった。なんて無様なんだ。この気持ちを消化して、またなんでもできるお姉ちゃんにならなきゃ。ずっと心配させるわけにはいかないもんね。
看守として動き回っていたおかげか、多少ふらつくもの身体はうまくドアまで導いてくれた。
「それじゃ、なのちゃんによろしくね」
「あら、駄目じゃない。あんなにナノカちゃんに言われたのに、どうしてそんなに行きたいのかしら?」
「元気になって帰れるなら、1日でも早い方がいいじゃない?」
「嘘、ね」
その見透かしたような目、見た目だけじゃないのか!病み上がりの人間がすることじゃないのはわかってる、それでも今やれと、何かに追い立てられるかのように心がざわついてる。
「あなた風に言うなら……私は負けた、その代償は? なのちゃんに支払う分が必要なの」
「そういう強情なところ……姉妹そっくりね♡」
許可してくれたってことでいいんだろうか?
「そうだ、私は元気になったらここから出るつもりだけど、あなたは?」
「どうしようかしら、人生を
「今はまだ、この余韻に浸っていたいわ」
「なら、それまでよろしくね」
今に満足してるってことでいいのかな?そうだといいな。
【変身】──見たことのある人の姿になれる魔法。魔女になる直前は、変身した子の魔法まで再現できてしまった。総当たりと山勘だったけど、これのお陰で黒部ナノカとして検査を受けることができた。DNAごと誤魔化せてるのか、姉妹だったからできたことなのか。もはや知るすべはない。
検査と言えば、なぜ私じゃなくて妹だったんだろう。あの頃は守ることに必死で疑問に思う暇もなかった。全てが終わった今、ゆっくり考えてもいいかもしれない。2年前、私以外みんな15歳だった。ならその歳で連れていかれると考えるのが自然だろう。連れ去られた当時すでに17歳だった私は、本来連れていかれる存在ではなかったのかもしれない。なら私とみんなの違いは?結構私って例外的な存在なのかも?連れてこられる基準がわからない以上考えても仕方ないか。
とりあえず、医務室から抜け出すことには成功した。マーゴちゃん、私が立ち上がっても一切動こうとしなかったし初めから引き留めるつもりはなかったのかも。足取りはそんなに悪くないけど、なんとなく違和感がある。世界と自分のリズムが微妙にズレている感じ。
ラウンジには元魔法少女たちが多く集まっていた。ほとんどの子は病衣、これは私より早く起きた子。フリフリがあってカラフルな色の服は今回の子だろう。時代も生まれも大きく違った少女たちが、みんな楽しそうにしている。
そのお喋りしてるグループには私の知っている人も。ここにいるということは、そういうことだ。私の罪を直接知っている人がいるのは気まずいなんてもんじゃない。
皮肉にも、私たちは
偽物っぽい平和な空気に耐えられなくて、私はラウンジから抜け出した。
長らく吸ってない外の空気を求めて中庭まで来た。あそこにいると息が詰まりそうだった。その辺の岩に座って深呼吸をする。サラサラと流れる噴水の音が気持ちいい、なんとか落ち着いた。ぐぐっと伸びをすると、いつの間にか、あるいは先にいたのかもしれない彼女と目が合ってしまった。
「お姉さん、大丈夫っすか、体調」
「病み上がり?だけどしんどくはないよ、ありがとう」
この場所はフードとマスクで顔を黒で染めた彼女、紫藤アリサちゃんのお気に入りらしい。私が姉なことはリボンですぐにわかったらしい。せっかく出会えたんだし、彼女にも話を聞いてみよう。
「あはは……ごめんね、うちの妹が泥棒って誤解しちゃって」
「しゃーねっす、お互い気が張ってたんで」
見た目と違って物腰柔らか、自分の縄張りと追い出されるくらいのことは覚悟してたが、かなり真面目な子だ。
「最初は訳知り顔でスカしてて、ウチとは合わねぇと思ってました、でも仲間のためなら根性出せるって知ってからは……まぁ」
少し照れ臭そうにマスクを直す。
「そうだ!住んでるところ教えて欲しいなっ、せっかく友達になったんだからここから出たあとも遊んでよ」
何気ない質問のつもりだったが、それに対してアリサちゃんの回答はない。うつむいたまま黙ってしまった。そうか、帰るところがあるとは限らないんだ。咄嗟に謝ろうとしたとき、彼女がこちらに向き直った。
「ウチは……ここに来る前に人を殺したんです」
「……」
正直、驚きはしなかった。既に殺人犯になる友人を何度も見送り、私も見送られた。軽蔑はしない、共感もしない、ただ目の前の少女が許されない罪をしたことが酷く悲しい。
「ただ叱られたいってだけで【不良】のふりして、ほんとに【不良】にになってしまったんす」
「それは……」
フォローの言葉が出てこない。救う言葉なんてないのかもしれない。
「帰ったら、ちゃんと両親に伝えます。『ウチはケジメをつけたい』ってこと、その後は……。ウチがしてはいけないことをしたことには、変わりませんから」
だから約束はできない、と謝る彼女は笑いながらも手は震えていた。私とは似ているけど違う。裁かれなければならない、裁かれることのできる罪。幸か不幸か、少なくとも彼女にとってそれは救いだと感じているのだろう。
「……したことを肯定するわけじゃないけど、この牢屋敷には同じ罪を背負ってる人がいる。もちろん私も。ここにいて心を軽くするって手も──」
私は何を言いたいんだろう、解決なんてしないってわかってるのに踏み込んで。
「あざっす。でも、ウチはあいつらみたいに【トラウマ】と向き合いたいんす」
彼女は自業自得の人生を選んだ、その選択に私は、
「お姉さんはあいつの傍にいてやってください。あいつ、またお姉さんがいなくなるのすげー怖がってたんで」
「そう、だね。ありがとう」
傲慢にも祈ることしかできなかった。
アリサちゃんと別れてから、ふらふらと歩きながらさっきの会話を反芻している。トラウマ、あいつらと同じように、か。魔女化はストレスによって発生する。それなら精神的な脆さを持った人間は魔女になりやすいし、トラウマは魔女化のトリガーになる。牢屋敷に入れられる人間もそういった基準で選ぶんだろう。
私は……多分これといったトラウマはない。囚われていた時も、積み重なったストレスで魔女になったんだった。それで【変身】をうまく制御できなくて、私のほんとの姿を見られたんだっけ。今思えば本当に馬鹿なことをしている。魔法を共有してるんだから【私の姉】って言えばよかったのに、そう考えられない時点で私は手遅れだったんだろう。
待って、なのちゃんのトラウマ?知らない、ずっといた私が?少し友達とうまくいかないことを気にしてたり人並に苦手なものはあるけど、極端に怖がるものなんて──
私が?
違う!気を張れ私。検査されて、私が連れていかれると何処かで決まった瞬間がある。その時は私もなのちゃんにもトラウマには存在しないはずだ。時系列か前提が間違ってることになる。だから
例外的な魔法の未来の話だ、本当に視えたのがどっちだったのかは考えても仕方がない。反芻しても何かを変えられるわけじゃないんだ。大丈夫、大丈夫なんだ。ハッピーエンドで終わった話だ。
それでも、階段を上る足が重くなる。
娯楽室には誰もいなかった。暇であてもなくふらふらしてるのは私くらいということか。ソファーに腰かけ、大きく息を吐いた。くそぅ、ただの可能性だっていうのに、自分の全てを否定してしまいたくなる。魔法が解けてなかったら、今絶対魔女化してるなー。精一杯明るく振舞って、自分を騙すのもギリギリだ。
「とうっ!」
青の残像が視界の端をかすめ、それは正面のソファーに着地していた。数秒して起き上がると、壁まで歩いて再びソファーに向かって飛び込んでいった。何なんだ、この子?
異様な光景に目を丸くしていると、こちらに気づいたかと思うとトテトテと──そういうには思ったより体がデカくてぎょっとしてしまった──こちらに歩いてきた。
「そのリボン、もしかしてナノカさんのお姉さんですか!?」
「えっ! うん。お揃いだけど……」
そんなに印象的なんだろうか、これ。
「確か、看守として働いてた時も付けてましたよね!」
「そ、そうなんだぁ。」
なんで?メルルちゃんの優しさ、あるいはオシャレのセンス?黒幕と言われてからあの子の印象がよくわかんなくなっている。
「いやー、強かったですよ、お姉さん! 何度も負けちゃいました!」
「はは……」
どう反応したら!何か言おうとして、結局乾いた笑いしか出なかった。この子、正直何を考えているのかよくわからない。ずっと会話で振り回されてしまっている。
「おねーさん、元気がないですねぇ」
眼をまん丸開いてこちらを観察する様は、好奇心旺盛な少女なはずなのにビデオカメラを眼前に向けられるような無機質さが、少し不気味だ。
「少し……ね」
このままだと全てを暴かれそうで、つい目をそらして答える。
青髪の少女は、人差し指を口元に当てしばらく考えていたが……やがて手をポンと立てた。
「私を倒した特典で、何でも二つ教えちゃいます!私を倒した回数です!」
いきなりなんてことを言うんだこの子は!限りなく不謹慎だ。……それでも、元気づけようとする彼女なりの気づかいなのかもしれない、そういうことにした。
「それなら、まず一つ目。さっき君は何してたの? そんなことしてると危ないよ」
「甘えるための練習をしてたんですよ!」
「練習……?」
「私、魔法でちょっと、いえかなり力が強くて。他人に触れる時おっかなびっくりだったんですよ。なので魔法がなくなった今はどーんと!愛情表現がしたいんです」
バサバサと両腕を羽ばたかせながら彼女は語る。甘える、か……。満面の笑みでそういうことを言われると、小さい頃の妹を思い出してしまう。
「私も昔はなのちゃんに飛びつかれてたなぁ、今だったら潰れちゃうかも」
「お姉さんは、今でもされたいですか?」
「恥ずかしいって思っても、嫌になることは絶対ないよ」
「それはよかった!それなら安心して練習を続けられますね!」
「うん、きっとその人も嬉しいはず」
お前はどうなんだ?もうそれに足る人間か?と冷静な部分が邪魔してくる。それを振り払うように次の話題に移る。
「それじゃあ、二つ目」
一つは雑談のために使った。もう一つはここでしか聞けない、私が【どうすればよかったか?】そのヒントになるものがいい。
「真犯人、大魔女がどんな子だったのか知りたいな」
なのちゃんからの話で、大魔女はみんなの説得によって消滅したと聞いた。青髪の少女は……かなり目をキラキラしている。
「いい質問ですねぇ!」
本当に魔法で力を失っているのか、疑問を抱かせるほどの声量だ。
「彼女は、ユキさんは、復讐に取り憑かれてしまっただけの……私たちと変わらない、一人の少女ですよ」
「取り憑かれてしまった……」
「はい。ユキさんは同胞が人類に滅ぼされただ一人生き残ってしまいました。そして、誰も、自らが望まなくなっても自分は【人間の敵】として動き続いてしまってました」
彼女は視線を伏せたまま、淡々と語った。さっきまでの破裂しそうな明るさは鳴りを潜め、言葉を慎重に選んで私に真相を教えてくれた。
「そういう意味では、シェリーちゃんちょっと親近感湧きますね!私、自分のことを人間だと言えなかったので!」
最悪の気付きをしてしまった今だから共感できる。最低なことをしてしまった、世界からズレてしまった私はこの世で最底辺の生き物だと思っている。
「シェリーさーん、持って帰る服どこに置いとけばいいんですの~」
「あっ、ハンナさん! いいところに!」
ハンナさんと呼ばれた少女は大量の衣服を抱えていた。会話からしてそろそろ帰りが近いんだろうか。
「こちらナノカさんのお姉さん! 目を覚ましました! めでたい!」
拍手で紹介されて微笑んで手を振るも、彼女からの反応は良いものではなかった。
「……おめでとうございますわ」
シェリーちゃんを呼ぶときとは全く違う、無愛想な低い声で祝福されてしまった。何か言おうとした次の瞬間彼女はズビシと私に指を差した。
「本当におめでたいことですけど! ナノカさんを次悲しませたら! 私わたくし許しませんからね!」
指を差したまま緑の少女は去っていった。反応する隙すら与えてもらえなかった。本当に痛いところを突かれて苦しい反面、彼女のために怒ってくれる人がいて少し嬉しい。
彼女が行ったのを確認してから、シェリーちゃんは顔を近づけてこしょこしょ囁く。
「ごめんなさい、ハンナさんに悪気はなくて」
「ううん、あの子の反応が正しいよ」
「それで実は……私の両親に彼女を養子として迎えてもらおうかなって思ってるんですよ、まだハンナさんには言ってはないんですけど」
「それは、いい結果になるといいね」
「それじゃあ私も行きます!お互い頑張りましょー!」
シェリーちゃんと話して元気が出てきた私は図書室へと向かった。目的はこれ、もうほとんど枝だけになってしまった桜の木。幹に手を当て、かつての魔法少女に思いを馳せる。
大魔女さんは自分の役を決めていた。メルルちゃんもシェリーちゃんも【みんなとは違う生き物】、アリサちゃんは【不良】を。みんな自分の本心と違う自分を演じている。もちろん私は【頼れるお姉ちゃん】を。
そうしてしまった以上、その時点で自分の人生は、精神は止まってしまう。自分そのものが変化してるわけじゃないんだから。それでも根本から間違ってるわけじゃないと思う、理想の自分へ近づきたくてそう振舞うのは悪いことじゃないはずだ。
いや、逆かな?そうなるのが正しいって思ってることそのものが間違ってるのか。今の自分、今までの自分を否定してるってことになる。それじゃあどこにもいけるはずもない、その場で踊っているだけだ。
私たちはもっといい存在に成れる。もっと貪欲でいいんだ。心から望んでいるなら。なら、私はどうしたい?
「ああっ!お姉ちゃん」
「なのちゃん、どうしてここに……?」
相当な息切れはしてるし、髪も乱れている。
「動かないでって言ったのに、お姉ちゃんはどうしていつも……」
私の服を掴んだまま、膝から崩れ落ちてしまった。私も座って、彼女を抱きしめる。すぐに腕は回ってきた。
「お姉ちゃんがいれば、いいの。だから勝手にいなくならないで」
「ごめんね」
「お姉ちゃん、わたし、まだ言ってないことがあるの」
「うん」
「わたしもね、友達を殺して、しまったの」
「うん」
2年という時間は私の世界を壊すほどに長い、もうあの頃に戻ることはない。
まずは、一緒に涙を流すところから。