マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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セコンド・ピアット10

 2095年10月24日(月)

 

 自宅ベットに腰掛ける――未だに寝れずに虚空を見つめる。

 事件の未解決――想像もしなかった結果。火之迦具鎚(ひのかぐつち)の行動。

 火之迦具鎚(ひのかぐつち)の乗せた船が火之迦具鎚(ひのかぐつち)によって壊された。

 タンカーを撃沈しようとしたイージス艦――制御を離れどこかに。船員は皆無事に見つかる。

 

証言――「管制を何者かに乗っ取られた。ミサイル(ハープーン)を撃ってからだ! 舵も何も利きやしない!」

 

 後始末に追われる独立魔法大隊――火之迦具鎚(ひのかぐつち)の行方を探す。

 超高性能AIを積んだ思考直立戦車――軍事衛星のカメラすらハッキングの疑いあり。

 誓約期限の切れた保護プログラム――証人の失踪=事件不成立。

 もっとも事件であることは明確であった――キドニーの存在。裏で動く大亜細亜連合の影。

 そしてヴェルミ・チェッリ。

 個人的に事件の跡を追う――キドニーの行方。東上していった可能性大。

 不穏な情報――キドニーの戦闘の最、藤林が要請した陸軍の援護。一部が突然発狂した。

 訳のわからないことを叫び見方を殺害/射殺される。

 23日―― 国立魔法大学付属立川病院に呂 剛虎(ルゥ ガンフゥ)が目撃される。防衛大学校の予備役少尉と戦闘/負傷し逃走。

 わざわざ病院にきた目的――不明。入院中の患者の名簿を洗う。

 国立魔法大学付属第一高校の女子生徒。街灯カメラに頻繁に大亜細亜連合の人間と顔を合わしていることが分かる。

 大亜連合工作員が用意した現地協力員の可能性――目的は?=明白。

 全国高校生魔法学論文コンペティション――魔法技術と知識。それとセットで火之迦具鎚(ひのかぐつち)の技術。

 捜査中に火之迦具鎚(ひのかぐつち)の技術体系の開示要求――確認済み。大亜細亜連合が欲しがる理由もわかった。

 全身の装甲がオリハルコン製の複合聖遺物(レリック)使用合金=敵外国への威嚇には十分。

 それを強奪し何に使う?/即時実戦投入?。

 深い穴に下りていく感覚――虚無の囁き。甘い官能的な女性の囁き。

 

 

    能登島難民街に行くといいわ

 

 

 隣に座っている女性――無駄なもの一切を削ぎ落とした美しい毒を連想させた。

 赤いドレスがとても似合うのだろう――自然な色をしたブロンドの髪/見たこともない鮮やかな緑の目。悪魔の輝き/一層そう感じさせる。

 その連想に釣られて煉獄の火種も現れる――女性の周りの集まる。

 

(お姉さん好き!優しくてお母さんみたい!)

 

 部屋を足音も無く走り回る子供達――目で人数を数える。

 

――やっぱり一人いない......。

 

 いつも八人で現れる子供達――どの顔もあの実験で死んだ子供の顔。

 八人仲良くナナの眼前に現れ、遊んで欲しいとでも言わんばかりにはしゃぎ回る。

 一人足りないことが不安に感じる――ふいに喪失感。もう二度と会えないような。

 隣の女性の含み笑い――我が子に言い聞かせるような。

 

 

    ちょっとしたさよならよ。いつでもあること

 

 

 膝の上に二番を乗せ頭を撫でる。今までに感じたことの無い感覚/親の存在とその安心感。

 彼女の姿は言うなれば母親――その言葉がぴったりであった。

 助言を与えるような声音。鮮やかな目でナナを見る。

 

 

    貴女も気をつけてね。悪夢はもうすぐ現れるわ

 

 

 その言葉を残し姿が薄れていく/カーテンの隙間から漏れる日の光。

 ベットの隣に置いてある小さなベットで寝ているウフコックを見る。その姿に不安感が煽られていた。

 

――銃になって私のベルトホルスターに納まっていれば......。

 

 そんな無関心で無意味な考えが頭に過ぎった。

 八日目の無睡眠――ウフコックを起こさないようにシャワーを浴びに行った。

 

 

 ***/****

 

 

 元々の担当に戻る――一条将輝の警護。ジャックは犬達を連れて09本体と合流。

 第一体育館で行われる警備隊の教練――ノアと遊びで一緒にやった海兵隊式模倣『地獄の一週間(ヘル・ウィーク)』より随分楽な教練だ。

 同等のレベルの白兵でどちらかが相手を制圧するまで続くもの。

 そんな生ぬるいもので鍛錬になるのか?。本当にそう思ってしまう。

 魔法を使用した野外教練もあるが実戦とは程遠いものであった。相手の射界に出ないだの、対魔法師相手なら認識されるよりも先に魔法を使えだの。実戦には近しいものだがやはりどこか他人事のようなものだった。

 そんなPT(しごき)が返って疲れを誘う。ナナはこうして将輝をサンドバック同然のよに扱い、警備隊長である先輩も近づかなくなるような強烈なPT(しごき)を将輝に与えていた。

 

「あと三十回で二百回目よ」将輝の背中に乗ったナナが本を読みながら言う。

 

 腕立て伏せの状態で汗を流しながら応じる将輝。「あ、あぁ…」

 

 どれだけやっても適切なトレーニングを身に付けられなかった将輝/呆れたナナ。きついトレーニングの方が彼の体に合っているのでは思い作り上げたもの。

 腕立て四百回/V字腹筋二百回/ヒンズースクワット二百回――とどめとばかりに最後のナナとの白兵鍛錬。徹底的に将輝の体をいじめ抜く。

 正直軽いトレーニングのようにも思ってしまうナナ――思いのほか将輝が疲れてしまっている。だがそれに立ち向かってきてもいた。

 将輝をPT(しごき)続けている間ずっと考えること=火之迦具鎚(ひのかぐつち)の行動/そして虚無達の囁き。

 火之迦具鎚(ひのかぐつち)の期待に満ちた思考AI/能登島難民街を示し導くような言葉――どちらも気になる。

 

「上の空だ......な!」最後の一回を終えた将輝/組み手の準備に入る。

 

「今日はもういいわ。将輝をスパーリングするのももう飽きたわ」背中から降り背伸びをする。

 

 そんな回答にぽかんとなる。「俺をサンドバックのように扱ってたのにか?」

 

「まさか。将輝はサンドバックのように殴る相手の拳を痛めるほど硬くも強くないわ。良くてさっきの腕立てで眠気を誘う椅子程度よ」

 

「やけに毒のある言葉だな」苦笑いを浮べながら答える。「休んでいた間の事か?」

 

「そうよ、うまくいかないものね。仕事って、指示された相手を弾いてた方が楽だわ」

 

 ナナはそう言い指で銃の形を作り将輝の心臓を撃つようなまねをする。

 

「それでか。何か体を痛めるようなことでもしたのか?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「ここにくる時から、左足を庇うように歩いていた」

 

 少々感心するナナ。将輝の言う通りであった。

 キドニーとの戦闘で左足を掴まれ力任せに投げられた/その時に思っていたより強く握られ、足の腓骨が砕けていた。現在はビプスをし足を固定している。

 

「あの歩き方は骨折か?。骨折なら治癒魔法を受けた方が――」

 

「あれは応急処置よ。それに人間なら自己治癒があるんだからそっちに頼るべきよ。人

間の体は壊れたらそこを修復し、尚且つまた壊れないように強化する機能が元々付いているんだから」

 

「魔法を真っ向から否定する答え――まったく君らしい回答だ」

 

「否定してるかしら?」

 

「魔法師が傷や骨折の治療は大体が魔法を使用しているらしいぞ。それを自然治癒で治そうとする当たり、なんとなく君らしい」

 

 その言葉を聴いて何故かほっとした。寝ない間頻繁に見るようになったビジョン/どこかからの囁き。

 ビジョンは子供たち。囁きは一切知らない者の声――何かを与えようとしているよな、答えかヒントかも分からない囁き。

 それを聞き続けてあるときふと気づく――”これは私なのか?”

 肉体とナナの精神が一致していない――意識が別々に思考してその考えを『共有』しているような。

 全てが溶け込んで一つになってしまうのではないかという恐怖。体を徐々に侵食していく金属繊維の発達。

 意思が先に死ぬか、肉体が先に死ぬか。そんな考えが頭を駆け巡り続ける。

 

「ナナ。どうした、ぼーとしてるぞ」

 

 肩を叩かれ現実に戻る。「なんでもない」

 

 腕時計を見る――まだPT開始から一時間三十分しか経っていない。

 将輝は組み手が出来ないことがわかり、ベンチに置いてあるスポーツ飲料を手に取りに口を付ける。

 

「今日はもう終わりか他に何かすることはあるか?」

 

「将輝は保護証人なのよ。なにもしなくていいわ」

 

「その言葉を聴くと俺が情けなく聞こえるな」

 

「ふふっ」ベンチに座る/左足をさする。

 

 それを将輝は見ながら質問をする/休んでいた間の出来事。「何があったんだ?」

 

「詳しくは話せない。証人側からの守秘義務よ」名前を伏せながら話す。「大きな山犬が火の神様を持っていく事件よ」

 

「何だそれ」変な例えに小首を傾げる将輝。

 

 将輝はナナの姿を見て気づく――目に下に黒いクマできていた。クマは確りとその目の下に刻まれていた/二日三日で出来る物ではなかった。

 少々不審に思いながら上着の袖に腕を通す。

 

「これから君の家で銃の訓練か?」

 

「いいえ、残念だけど弾が切れてるの当分は出来ないは」

 

 申し訳なさそうに笑うナナ/その微笑に将輝は病人が必死に笑顔を作っているような感覚を覚える。

 

「ナナ、寝不足なら――」途中まで言葉が出る。

 

 最後まで言おうとしたところである人間に遮られた。

 

「ナナ!」

 

 同じクラスでよく同じグループにいる王・鈴玉(ワン・リンユー)が走ってくる。

 その顔に浮き出る表情でただ事ではないことが分かった。

 

「どういしたの鈴玉(リンユー)

 

 ナナは鈴玉(リンユー)落ち着かせながら状況を聞く。

 

「お願い早く来て! 灯子が!」ナナは鈴玉(リンユー)に手を引かれ連れて行かれる。

 

 ナナの後に続く将輝/いつも落ち着いて話す鈴玉(リンユー)が余裕がないといった様子で言う=何かよくいないことが起こった。

 いつも一緒にいるはずの三島灯子が居ないあたりも気になった。

 向かう先に行く人間の数が徐々に増える――あるものは興味本位といった表情/あるものは何か焦った顔。

 

「おい! 一条!」

 

 魔法歴史科担当教師、沖山清吾が話しかけてくる――声は焦りが混じり動揺していた。

 

「沖山先生。何があったんですか?」

 

「話はあとだ。それより急ぐぞお前は警備隊だったな」

 

「はい......」

 

「なら早く来い!」息を切らせながら走り去る。

 

 訳が分からずとにかく後を追う/この方向は論文コンペスのスタッフが使用している技術棟だった。

 ちらほらと別の警備隊の人間も見えた。

 技術棟に着く――警備隊の生徒と教師が一般生徒の立ち入りを止め、論文コンペスタッフを外に出している。

 にわかにガラスの割れる音。

 二階の窓ガラスが割られ破片が降り注ぐ/警備隊の生徒が技術棟に入っていく。

 

「退いてくれ!」

 

 人混みを押しのけ入る――何か嫌な予感がした。

 スタッフの中にジョージの姿が見えなかった/技術棟に笑い声が響いた。

 爆笑とも違ったどこか壊れた笑い声。階段を駆け上がる。

 数人の警備隊が数人の生徒を取り囲む/刺股を構え、どう知ればいいのか分からない様子。

 

「やめろ!、左藤......うっ!」警備隊の一人が殴り飛ばされる。

 

 殴った生徒の顔は狂気にまみれていた/目が見開かれ瞬き(まばたき)一つしない。

 酷く気味の悪い笑顔はロボットの浮べた無機質な笑顔だった。そして放たれる狂言。

 

「幾何学の嗚咽は、晴天が咆哮を上げる34ミクロンの胡椒! 牛乳パックの審美眼はガラス片が論ずる相対性理論の自然論者!」

 

 意味を成していない言語であった――ただ言えたことは彼は狂っていた。




ごうもこんにちは、忍者運珍です。

いやはやお久しぶりです運珍です。久しぶりに書いて感覚を忘れて焦りました。
アニメや仕事に現を抜かし忘れてこの有様、気を引き締めなければ!
さてさて今回書いたのは火之迦具鎚逃走後のお話。ようやく書きたかった発狂が書けました。なんとなくこの事件の元ネタが分かる人もいると思います。
そうです、あれです。名前は伏せます。
次回、発狂事件を続けます。そしてセコンド・ピアット1で出た敵キャラの仲間が出るかも?
ではまた。ばいばい!

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