マルドゥック・マジック~煉獄の少女~   作:我楽娯兵

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セコンド・ピアット12

 剝き出しの殺意――彼らに眼光は獣のそれに変化した。

 背筋を舐める寒気/殺意の証拠――行動/ウフコックを操作(スナーク)。強制的にコマンドを送りつけ二丁の銃を創り出す。

 一丁を後ろにいる将輝に投げて渡す/いきなり飛んできた銃を落としそうになりながら受け取る。

 もう一丁を右手に構え三発の弾丸を叩き込む――撃鉄が雷管を叩き、大きな炸裂音が周囲に響く。

 黒服の集団はそれに動じず――先頭に立つリーダー格の男が合図を叫ぶ。

 

「Black dog!fuck!」合図に応じ皆が叫ぶ。「Sir Yes Sir!」

 

 リーダー格の男の足が展開――明らかに他の者とは大きさも構造も違ったもの/使用用途は同じでもまったく別の特別仕様の義体。

 足を動かす――自分を軸に、地面に円を書くようにコンクリートを抉るように足を回す/一回点した所で足を大空に向かい天に足を振り上げる。

 突如、突風が吹き荒れる。

 身を震わすような荒々しい風は空に向かい上昇していく/塵や砂が舞い上がり視界を塞ぐ。

 不自然に起こった上昇気流はその勢いでナナの撃った弾丸の軌道を僅か数センチ上に逸らす――弾丸は黒服集団の頭上を通過していく。

 リーダー格の男の後ろに控える者達が突撃する――足に融合したローラーブレードが唸り声を上げる。

 地面にスリップ跡ではなく深く切り裂いた跡が刻み付けられる――壁、街灯、生垣/全ての立体構造物を足場に突撃(ファック)を仕掛ける。

  洗練された動き――それが出来て当たり前の集団であると直感する。

 一人が壁を蹴り上げる/ナナに鋭い蹴りを入れようとする――金属ローラーブレードが鈍く光る。

 

「兄弟の仇だ!」

 

 前に倒れこむように避ける――後頭部すれすれをミキサーのような速度で回転する車輪が通過する。

 逆立ちをするように地面に腕を付き、無防備に伸ばした相手の脛を蹴る。

 迎え撃つように蹴ったナナの足は相手の機械化しているはずの足をへし折り、明後日の方向に向ける。

 通常の倍/強化された体を持っていたはずの体が機械化の痕跡すらない少女の蹴りに負けた。その驚きに目を剥く。

 ナナは涼しい顔を向ける。未だ空で目を剥く相手の腹に強烈(ハードコア)な踵落としを見舞う。

 血反吐を吐き地面に落ちた黒犬。

 二十グラムの対サイボーグ用弾頭を(ひたい)にプレセント。弾頭から発生した荷電粒子は黒犬の頭蓋を貫き、脳味噌を一瞬で灼き尽くす。

 将輝に向かう二匹の黒犬。

 一人が空で一回点。鋭いローラーブレードの斬撃が甘い(マスク)を血塗れに導く。

 やすやすとは斬撃は届かず――当たる寸前で避ける将輝/ナナから受け取った銃が火を噴く。

 背中に銃口をぴったりと付け引き金を引く――真っ直ぐ発砲された弾丸は背骨を砕き、体の中心に備え付けられた機械化された心臓を突き破り、ナナが殺した一人と同じように一瞬にして体組織を灼き尽くす。

 力なく地面に落ちる黒犬――一匹が背後に。

 ローラーブレードが足の腱を狙う――下段の蹴りが足元を通過。裾が裂かれる。

 熟れた動きで繰り出すローラーブレードとの合わさった蹴り――どこか単調で横ぶりの物ばかり。

 頭を狙った蹴りを打ち出す――それと同時に屈み片足で立つ黒犬の足を払う。

 倒れた犬の頭に向かい銃口を突き立てる/そいつに見えた恐怖の眼差しに背筋が震えた。

 興奮。

 将輝の感じた感情――圧倒的優位に立っていることを感じる。

 

「だめッ!」

 

 ナナの叫び――それと同時に真横から猛烈な勢いで何かに押される。

 壁が体当たりしてきたような感触――空気とも水ともつかない感触/突き飛ばされ黒犬から剥がされる――受身を取り起き上がる。

 リーダー格の男は特殊義体の足を突き出した状態で静止――(くるぶし)に備え付けられた排気口フィルターから出る熱気は陽炎のように揺らめく。

 黒犬の一匹は体勢を整えリーダー格の男の後ろに――ナナが動く。ウフコックをソードオフ・ショットガンに。

 後ろに控える全ての犬が迎撃に――ナナの流れるような体重移動/確実に犬の背後、もしくは死角に入る位置に。

 風船が割れたような轟音が(まち)中に反響――その音と常時に犬達が弾けていく。

 背中から入った散弾は体の中で跳ね回る――皮膚装甲を突き破り四散していく。

 全ての犬は本当の意味で野良犬同然の死に方をしていく。

 踏み込んだ足に奔る痛み――骨の癒着がまだった/歯を食いしばりリーダー格の男に二つの銃口を向ける。

 発砲。

 三十個の鉛の球状弾丸は一貫性の無い軌道でリーダー格の男を殺そうと襲いかかる。

 男が足を動かし地面を力強く踏みつける――コンクリートの道路がひび割れる――また起こる摩訶不思議な突風。

 それに呼応して現れる不可視の壁――ナナと将輝の体を跳ね飛ばす。

 周囲の散弾、街灯、外壁、窓ガラス全てが男を中心に押し広げられる/何かが巨大な球状に壁に。

 重力(フロート)を発生させたナナ――それでも衝撃は伝わってくる。距離を置いていた将輝/宙で体勢を整え着地。

 ナナが腰に収めるCADを抜く――可変し青白い光が舞う。発射――サイオンの弾丸は男を殺そうと空を奔る。

 踏みつけた足のローラーブレードが逆回転を始めコンクリートの破片を巻き上げる。

 巻き上げられたコンクリート片はナナの撃った『膨張』を受け止めた/大きく形を変え、風船のように膨れ上がり炸裂する。

 コンクリートは炸裂と同時に粉塵の煙を撒き、視界を遮る――ローサーブレードの唸り。煙の先からブラックドックが飛び出す。

 その形相は怒りに染まりる――仲間を殺され怒る犬。敵の喉元に牙を突き立てる黒い犬(Black dog)そのもの。

 仲間を殺された怒りを乗せ、力任せにナナを殴りつこうとする。

 僅かに感じた悪寒にナナはその拳を重力(フロート)で弾くのではなく、体を翻し躱す。

 ブラックドックの拳はコンクリートに深々と刺さる――腕の義体は尋常ではない出力を発揮し、地下に埋まる電線や光ファイバーの束を引っこ抜く。

 抉られた地面から現れた黒いゴムで覆われたケーブル――無茶苦茶に振り回す。

 重力(フロート)の盾で防ぐ――鞭の如く振るわれるケーブル/それた勢いで地面、街灯、(キャビネット)を抉り、吹き飛ばす。

 発砲音/後ろにいる将輝がブラックドックに対し発砲。弾丸は肩を撃ち抜く。

 ほとばしる電流――一瞬痙攣し動きを止める/CADをブラックドックに構える。

 ブラックドックの眼球カメラが赤く光る――爆音と衝撃、突風/また不可視の壁が迫る。今度は特別大きな壁。

 対抗するように重力(フロート)を張った――衝撃だけは伝わってくる。

 ウフコックを五○口径のリボルバーに変身(ターン)――デカイ撃鉄が雷管を叩いた。

 飛翔するマグナム弾――ブラックドックは反射機能だけで弾を掴み取った。

 大きく息を吐く――口から大量の蒸気が溢れ出す。遠くでサイレンの音が聞こえた=警察の登場。

 

 リボルバーを構えたまま訊く。「大亜細亜連合の差し金?退きなさい。犬」

 

見開いた目/怒りがありありと感じる声。「仲間を、兄弟を殺されて黙ってられるか! わざわざ(チェン)さんからヴェルミの一人を借り受けたんだ。テメエかそこのフニャチン野郎の首を取らなきゃ示しがつかねえ」

 

「ヴェルミ......ッ! あんた達だったの昨日の事は!」

 

「いい悪夢を見てたみたいだな。お前のとこの生徒は」

 

 さらに怒りが増すブラックドック――歯軋りの音/ありったけの罵声を吐く。

 

「テメエら魔法使いがこの国を、世界を歪ましてんだ。このくらいのことで騒ぐんじゃねぇ!」

 

 徐々に近づくサイレン音――睨み合いが続く――ブラックドックが動く。

 突風と共にまた壁が押し寄せる――それをと共に退いていくブラックドック。

 ローラーブレードが地面を抉り、壁を登る――消える。

 あの男の言葉が響く――嫌なほど。

 

 ”テメエら魔法使いがこの国を、世界を歪ましてんだ。このくらいのことで騒ぐんじゃねぇ!“

 

 憎しみが感じられたその言葉が心を乱した。

 

 

***/****

 

 

 警察署での事情聴取――ブラックドックたちとの戦闘行為。

 器物破損/違法銃器所持/他者殺害――お縄につくには十分過ぎるほどの物証/所持品/死体。

 午後九時四十分――突然の釈放。混乱。

 何があったのか警察に聞く。

 

「お前等を襲ったのが最近魔法科高校生を襲いまわってる難民だったんだ。それに難民

の違法機械化が検死で分かった、殺害も正当防衛の内だ」

 

 悠々自適にその場を去っていく――手柄としての難民を確認でもいく様に。

 警察署を出る/玄関口にナナの姿――真っ暗になった空をぼーと、見つめている。

 

「大丈夫だったか?」

 

「日本の警察は優秀です。変な尋問もありません」

 

 ひどく落ち着いた様子――戦闘後の倦怠感の表情。暗くなった道路を歩く。

 

「急に釈放なんてもおかしな話だな。もう少し事情聴取が続くと思ったが」

 

ドクター(お義父さん)に連絡して正当性を証明しました。それ以前にあなたの家の方からあったみたいです」

 

「やっぱりか......」

 

 十師族の権威を誇示しているようでどこか嫌であった/静かな街――音の一切が消えたように静まり返った。

 

「ナナ、あの難民――」

 

「この話はやめましょう将輝」遮るように話を切った。

 

 口ごもる――ナナならもっと調べるような予感がしていた/だが違った。ナナの姿が薄まっているように感じた/なんとなく彼女らしくないと。

 一条邸に到着。

 

「将輝。これ以上この事件には首を突っ込まない方がいいわ」

 

 茶化しも何も無い真剣な眼差し――俺の身を心配しての言葉。

 

「論文コンペまで家から出ないで。09人員の連絡先よ、何かあったらここに連絡して」名刺のようなカードを渡してくる。「それじゃあお休み」

 

 背を向け去っていく/ちらりとカードを見る――ノア、リアム、イライジャ、ベンジャミン、アメリア、ジャック、ルーカス、プロフェッサー・イースター。全ての09メンバーの連絡先が書き込まれている。

 家に入る――心配そうに一条美登里が玄関で待っていた。

 

「大丈夫......」

 

「大丈夫だよ、母さん。それより茜たちは?」

 

「心配ないわ、ルーカスさんがちゃんと護ってくれてたみたい」

 

「そう......」足早に自室に向かう。

 

 母さんの声。「ご飯はいいの?」

 

「いらないよ。それより寝さしてくれ」

 

 母さんはそれ以上何も言わなかった/自室に入る――制服を脱ぎ捨て部屋着に着替える。

 ベットに倒れこむ――目に刺さる電灯/消す。真っ暗な部屋で何もせずに考える。

 襲ってきた難民/発狂の正体/世界を歪めていると言い残したブラックドックの言葉/ナナの後姿――全てが全てぐちゃぐちゃになりながら考える。

 考えにふける――武装機械化難民=ブラックドック。

 話の節から見てナナが追っていた事件に関係するもの――休戦状態の大亜細亜連合関連。

 発狂の人為的発生――魔法も使わない/薬物も使わない。何か別の手段。

 相当疲れていた様で眠気が来る――目を閉じた瞬間に銃を人に向けて撃った感触が蘇る。

 腕に伝わる衝撃――吹き出た鮮血――相手の恐怖の表情。

 興奮。

 圧倒的な優位に立った時のえも言われぬ興奮――魔法の衝撃の伴わない射撃とは違った。撃てば確実に死ぬという感覚が将輝を興奮に導いていた。

 ふいに思い出す――金色の煮え切らない(ウフコック)ネズミの言葉。――”ナナがその匂いを君に纏ってほしくないと感じるからだ“

 ネズミの言った死の匂い――俺は今その匂いを纏っているのか?

 そう思うと怖くなる――死体同然のようにも。もっと別の人を殺して楽しむ、人以下の存在に堕ちたのかとも。

 ネズミの言葉が響く――”他者に罰を与えられ自分を否定してくれる存在がほしい。その存在が君であってほしいと思っている“

 溜め息――自分の「本性」が見えた気がした。

 

「やっぱり、俺は人を裁くほどの価値はないよ。ウフコック」

 

 

 

2095年10月26日(水)

 

 朝早くから目が覚めた――午前六時二十四分。

 窓を開け空気を入れ替える――ふいにシャッターの開く音が聞こえる。

 数ブロック先の家から/目を向ける――モンスターバイクを引くナナ/黒いコートに身を包みどこかに出かける様子。

 

「やっぱりか......」

 

 家を出る――ナナの元に。

 静かに行動をしていたナナ/将輝の登場に驚く。

 

「何処にいくんだ?」

 

「その......これはね。えーと」

 

 言い訳を探しているといった様子――息を吐く。

 

「一人で解決する気か? どこかで一人で行って何もかも」

 

「あなたを危険な目に合わせたくない。だから家に入って」

 

 きっぱりと断る。「嫌だ。これ以上俺が知らないところで事を進めないでくれ」

 

「保護証人である将輝を危険に晒せない。だから――」

 

「俺を除いて解決に導くか?」馬鹿馬鹿しくなる。「危険? 最初の時点で十分危険だろ。そのバイクで飛んだり跳ねたり、撃ったり撃たれたり。俺は無理してでも着いて行くぞ」

 

「それじゃあ私たちの有用性が証明できない」

 

「有用性が何だ、俺はナナとこの事件を一緒に始末したいんだ」

 

 どう反応すればいいのか分からないと言った様子――俯く/小さな声で呟く。

 

「......そんなに言われたら......断れない......」

 

 ポケットから携帯端末を取り出す――どこかに連絡。

 

「ドクター。法務局(ブロイラーハウス)に申請を。一条将輝に09ライセンスの仮取得申請を」

 

 携帯端末の先からわめきか聞こえる/聞かずに切る。

 

「これであなたは仮の09メンバーです。これからは私の指示の元、捜査に協力してもらいます。いいですか一条将輝?」

 

 形式的な挨拶/どこか安心して嬉しげに微笑む。

 

「ああ、よろしく頼む」




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