17時20分
衝突する二軍――日本魔法師義勇軍/大亜細亜連合軍。
ついさっきまで押されていた義勇軍が盛り返す――たった二人の加勢で勢いを増す。
高速で敵を叩きのめす――途轍もない速度で動くルーカス・ローズ。
手作り感満載のポテトガンを撃つ――人間IEDのジャック・ウェルソン。
前線で敵を叩き、フルーツで無力化/息の合った動き――爆弾で敵を減らし残りを潰す。効率的で作業的な動き――戦争が一変して一方的な制圧戦に様変わり。
檄を飛ばす十文字。「支援者に負けてどうする! 奮い立て!」
その声に応じるように雄叫びを上げ突撃を始める――フルーツ爆弾の効果が発揮/敵に戦意を削る。
それに加え目に捉えられない敵――逃げるにはちょうど良い口実。
撤退/後退――逃げ始める。
十文字の猛々しい声。「逃がすな! 逆賊を制圧しろ!」
足を進め敵の屍を踏み越える――十文字はあることに気づく。
足元の大亜細亜の将兵――四肢があさっての方向を向いている/首も折れ曲がっている/息はあった。
全員、09が打ち倒した兵士達――殺人をあの二人は犯していなかった。
ルーカスは自慢の聖なる鉄パイプで敵を叩きのめすだけ。ジャックは悲惨ではあるものの敵を確実に無力化していた、粉微塵は決してなっていない。
ジャックは自身の能力を出し渋っているのではないのか?――そんな考えが不意にも出てくる。
ジャックの言葉――“生成次第じゃ、オクタニトロキュバンも作れます”
この言葉は人も直立戦車も破壊できるという意味――オクタニトロキュバン=理論上最強の威力を持つニトロ化合物。
何故殺さない、国のため日本のため貢献しろ! 言葉にはしないが思考はそう叫ぶ――ジャックが刻む鼻歌=不殺の唄。
眉をひそめながら訊く。「何故このような状況で歌えるのだ」
少年のような笑顔が返ってきた。「僕たちは平和主義者です。いかなる状況でも殺人を犯さない、ルーカスと僕はこの点は共有の認識なんですよ」
行為とは真逆の言葉――残虐的な攻撃能力/軟弱なまでの平和思考。どういう育ちをしたのか分からない――理解できない。
にわかに騒音――上空に現れるヘリ――吊るされた兵器。
真っ黒な装甲/人の形をしている――流線的なフォルム。英雄像をただ吊るしてるようにも見える。
「うっそ……、マジで」ジャックは驚いたように呟く。「......
ち」
大亜細亜連合軍の歓喜の声。吊るしているアンカーが弾け投下――意思を持ち着地する。悠然と立ち上がる――頭部カメラが敵味方を認識。
敵か味方かも分からない――すぐに分かる。大亜細亜の将兵を守るような位置に移動――腕部武装ミニガンを義勇軍に向けた。
「味方......ではないようだな」
睨みを利かせる十文字/得意の魔法で打ち負かそうとする。
張り手――ファランクスが発生/さまざまな色合い――虹色の壁が
「なに......!」
障子紙を破るように指を突き出した
ファランクスは外部に取り付けた武装だけを壊しただけであった。応答も何もしない
他の直立戦車とは違った機動――人間味を佩びた動き/真っ直ぐ走ってくる。道行く敵味方を全て薙ぎ倒し走る。
瞬時に現れるルーカス。「はッ、無茶苦茶な野朗だ。巻き込まれるぞ」
ジャックと十文字を抱えたルーカス。高速で移動――巻き込まれない位置まで退避。
キドニーを赤子のように抱え走る――行く先に幾枚ものファランクスを展開。無意味に突き破られる。
現れ、逃げる――意味するものは何も無い/キドニーを抱えて逃げただけ。
叫び声。「我等は飛鳥時代のパーソナルコンピューター! 抱け! 掲げ! いざ逝かん!」
声の発生源を見た――かっと目を見開きまばたき一つしない/狂喜に染まった表情――ロボットのような無機質な感覚を覚える。
その声と共に何処からともなく現れる市民、難民――誰しもがその表情を浮べている。
誰かが花吹雪を舞わせ、皆が口々に意味を成さない言葉を叫ぶ=狂気のパレード――この言葉しか思いつかなかった。
パレードの中心に人々が積み重なり出来た塔――肉の塔の頂に居た。
青銅色のワンピース/小学生ぐらいの背丈――フードで顔が隠れて表情が分からない。口元だけが動くのが分かる。
「......ねんねんころりよ......木の上で......風が吹いたら......揺れるのよ」
呟きはまるで寝言のようだ――パレードの速度が上がる。
戦う相手が急に変わる――大亜細亜連合軍=狂気のパレード。
気が狂ってしまいそうになる――周囲に響いたルーカスの声。希望の宣言。
「いかなる状況下でも我々二人は殺さない、我々二人は殺されない、我々二人は殺させない! かのネズミを讃え崇拝しよう、彼こそが真なる善人であると! 我々二人彼の考えように実行してみよう、殺さない、殺されない、殺させない!」
***/****
横浜国際会議場ホール――ピエロと踊る切り裂き魔。
血が散り、粒子が舞う。血に染まったベンジャミン/体積を減らしたユナボマー。
うねるワイヤー/頭上のスポットライトを切り落とす――落下してくるライトをユナボマーは爆破する。
全身に叩きつける衝撃/膝が折れてしまいそうになる――身を低く、高周波震動ナイフを道化の膝に振るう。
身軽な動き――飛び上がる。ステッキが瞬く間に傘に/アニメのようにゆっくりと降りてくる。
「とんだ茶番だ」己の血が滴るワイヤー――ユナボマーの死角から縦に伸ばす/にじり寄る。
傘を閉じる道化――くるりと回転し着地。銃声が二回/発砲=ステッキに仕込み銃。
ワイヤーを束ねる/頑丈なワイヤーシート――弾丸の貫通を防ぐ/衝撃は防がれない。
肋骨を三本砕かれる――痛みは一切感じない。脳内に溢れた分泌物が全てを吹き飛ばす――興奮と冷静さしか残らない。
こんな興奮は最後の戦争――大越紛争以来だ。身に染み付いた
祖国のための殺し技法はいつも間にか娯楽の技法に変わる――人殺しが職業ともなればやはり工夫もしたくなる。
私の殺しの行く先は刃物――最高の得物でこいつを切りたい! 斬ってみたい!
こいつの
捌いてやる――好奇心。現役に戻った気分。
ユナボマー/ピエロの笑顔――双瞳に怒りが孕んでいる。
ユナボマーの叫び声。「ギャハハァアアアアアアアアアアアッ!」
にわかに震動/ホール全体を揺るがす――入り口が崩れ去る。
蹄の音――ホール扉を飲み込み粉々にする猪=クラッシャー・ワイルドポー。
四つの牙はなくなり破砕刃だけが唯一の武装に――単眼に憤怒の色。「ガアアッ! ブガッアア! ガガガギギギギギッギギッ!」
ぼろぼろになり噛み合わせが悪くなった破砕刃/恐ろしい音が鳴り響く。
客席を壊し飲み粉微塵にしながらステージに突進――粉塵を巻き上げ壁に激突。
綿埃が舞い目が眩む――目が利く居場所まで逃げる。綿埃の中の
綿埃から呼び出るユナボマー/咳き込みベンジャミンに怒りの眼差しを=クラッシャーを警戒。
壁を砕く掘削音――霞んだ敵周囲が晴れてくる/壁にめり込んだクラッシャーは
「ギャアアア! ガギャア! ギャギャ!」全身に怒りを溜め込んでいるユナボマー=まさかの行動。
壁から抜け出したクラッシャーに指示――行動に移す。
斑に生えた体毛に壁片が絡まったクラッシャー――破砕機が回転を始める。向けた先=デモ機――突撃。
自らの手で壊しだす――熱核融合炉を食べ塵に還す。今までの戦闘が虚無へと還元される。
ステージに積もった残骸――破滅の可能性。ユナボマーの絶叫/塵になった目的を両手で掴む――おもちゃを壊された子供のような表情。
不意にベンジャミンを睨みつける/ピエロの笑顔に変身していた――双瞳には怒りは消えていない。
クラッシャーの背に飛び乗りロデオ――壁を突き破り逃げ去る。
不気味な
にわかに異臭/たまねぎが腐ったような不快臭。
目を忙しなく動かし発生源を見つける/デモ機の残骸に埋もれたビックリ箱――ユナボマーの置き土産=爆弾。
疾走――クラッシャーが突き破った壁を通り会場の外に――脱出。
炸裂――インパクト。
爆発の超過圧力がベンジャミンの老体に容赦なく襲う。
背中全体にぶつかる衝撃/トラックに撥ねられたような打撃。
咄嗟に息を吸い口と鼻を押さえる――次の間に耳から血が吹き出る――頭を守るようにインパクトに身を任せ地面に激突する。
全身、細胞一つ一つが悲鳴をあげる/血が滲む腕で負傷箇所を確認する。
耳から流血=鼓膜破裂/背中の痛み=爆風による打撲、火傷/腹部の激痛=複数臓器破裂/皮膚からの流血、変色=皮下出血、軽度の裂傷――呼吸器官=かすかに痛み軽度火傷/呼吸自体に問題はない。
ワームを飛ばし周囲を警戒――誰もいない。
国際会場――紅蓮に染まる/上昇気流でワームが散ってしまう。
《ベンジャミン?》イライジャから無線通信。《爆発が見えたわ。聞こえる?》
喉を僅かに焼いたため痛みが走る/無線通信なのが幸いする《ええ、聞こえますとも。あなたの予見を外してやりました》
笑うような声音/安心した声が返ってくる。《よかった。今ヘリの中にいるの迎えに行きましょうか?》
《お願いします。体中が痛くて仕方ない》
そういい残し無線を切る。
吐息が漏れる――久しく味わっていない戦闘の夢心地。
ジャケットのポケットからロメオイフリエタ セドロデラックスNo.2に火をつける――数を減らした高級な趣向品シガーを吸う。舌を刺激するスパイシーな味わいを楽しみながら燃える会議場を眺める。
「たまには私も捜査に参加するか......」
17時15分
石川町付近――将輝、ナナの義勇兵。
幻影魔法に悪戦苦闘――創製された実体の摑めない騎士。
「叫喚地獄」で割り出した敵魔法師を倒してもどこからともなく新しい敵魔法師が現れる。
何より質が悪いのは大亜細亜兵は
一人の兵士――ネックレスのように加工された
一人の兵士――ガントレット/腕をかざすだけで魔法を無力化=手首を焼く。
一人の兵士――防弾ベストのように身に纏う=上半身を焼く。
兵士全員が薬で痛みを緩和していた――薬の効果が切れても皮膚が焼け爛れ痛みも感じていない。
狂乱の軍は戦場に身を任せる。この感覚は覚えている佐渡島のようにすればいい。
同じように身を任せる――落ち着かせてトリガーを引く。それで終わる。
防ぐ前に敵は膨れ上がり破裂する――「爆裂」/下半身だけになった敵は痛みを感じているのかもわからない。
次々出てくる大亜細亜兵――直立戦車の掃射。
ビルの陰に飛び込む――逃げ遅れた義勇兵の体が飛び散る。
木を穿つ/ビルを穿つ/人を挽肉にする――すぐに終わる。
青い閃光――一直線に直立戦車に向かう/「爆裂」とは違った膨れ上がりかた/体積が膨張したように。
炸裂。
中身と装甲が周囲に弾ける――ビルの壁面=壁に立つナナ。
大型小銃型CAD「
道の一角が濃厚な血の匂いで満たされる。何も変わらない、感情の一つも動かない。
理性を残した敵兵の声――撤退の呼びかけ。
一挙に逃げ出す――目指した先=横浜中華街。
攻防を放棄した兵士たちの――招き入れるように中華街の巨大な門が開く。
「閉じさせるな! 逃げられるぞ!」
将輝の最大級の警告虚しく中華街の門は義勇軍を拒む――亀さながらの篭り。敵の逃走。
義勇軍は個別に開城声を上げる――ゆっくりとした息遣いで中華街を囲う壁。
忌々しいくそびえ立つ――中華街をすっぽり覆い隠している。日本からは切り離された一角は難民街と相違ない治安の悪さだと噂に聴く。
壁から降りた”
「籠もられたわね」機械のような目つきで中華街を見る。「これからどうするの? 将輝」
門を睨みつけながら考える。「警告で開門を呼びかける。それがだめなら強行突破しなない」
乗り気ではない様子。「守る者の立場で考えてほしいものね」
「なら君ならどう対処するんだ?」ナナに訊いてみる。
一瞬戸惑う。「......門を破壊して突入する」
やっぱり同じ答えが返ってきた。
「でも少し待った方がいい」
「なぜ?」
「中華街は立場的にこれ以上問題を抱えたくないはず。大亜を
ナナの発想に驚く。「よくそこまで頭が回るな」
「相手の立場を俯瞰すれば見えてくる」
ナナの声音が僅かに変わった気がした/重く苦しい声に冷えに冷えた硬貨のような瞳。
「これが開けばおそらく終わる。この事件の
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