円卓を囲む実質的に日本を支配する人々――十師族の8人。一人の男が口火を切った。
「さて。皆様、この年初めの忙しい時期に召集された理由は皆さん周知の通りですね」
紺色のツーピーススーツ――切れ長の目元/何もかもを見透かした眸/男にしては長すぎる栗色の髪――六塚家代表代理=六塚紺地。
「復興庁は大喜びですよ。横浜の被害が思いの外大きく“仕事が回ってきた”と言っていましたよ」
軽率な言動――だが下手には取っ付き難い雰囲気を醸しだしている。向かいに座る男がその言葉を打ち砕く。
「少々軽々しいのではありませんか? 少なからず国民、或いは国防軍人の命が失われている」
赤褐色の肌/他人を睨み殺すように眼光は炯炯としている――一条家代表=一条剛毅。
「今回の師族会議はそのような軽々しい事を言う場面ではないのでは? 日本に対する明確なテロ行為を『未然』にではなく、起こってしまってから阻止してしまった。この問題が一番大きいのでは?」
六塚紺地はその発言を予想していたように頷く/音楽のテンポに合わせてリズムを刻むように。
「まあ。一条殿、いいではありませんか。いつもの事でしょう」
ノーネクタイスーツ姿/七・三分けの髪型/気取ったような声音――八代家代表=八代雷蔵。
「この会議は本来ありえない事があった場合によく開かれる、だがその重要性は低く大抵はもう解決済みの未然阻止をしたテログループにたいする対策案、この国にたいする更なる
「会議は会議です。我々の立場上軽んじる事は許されない」
厳しい口調/歳相応の威厳に満ちた態度/和服姿の熟年女性――二木家代表=二木舞衣。
「我々は師族です。国を影から守護し末永い繁栄と平和を創り出す事が我々の役割です」
その言葉も紺地は予想していたように頷く。
「確かに『私』のような立場の人間が軽々しく発言すべきではないですね。まったくこれは失礼をした」
「君の立場は現段階は『六塚家代表代理』だ。平常時と今では大きく立場は違う。背を伸ばせ、若輩と我々は容赦はしない」
羽織袴姿の男/剃髪で顔色は僅かながら青い/巌のような雰囲気を一心に出している/席の後ろ脇に控える息子――十文字家代表=十文字和樹・十文字克人。
会議室の端にいる男女――国防軍人/上木安綱/佐伯広海。上木の咳払い――師族が今後行う国防に関する話し合いの催促。それを気取る男。
小ざっぱりな姿/印象はいま一つ周囲の者たちに呑まれがち/疲れた雰囲気を漂わせる素人臭いビジネスマン――五輪家代表=五輪勇海。
「本題に戻りましょう。今回の横浜事変はテロに分類するには大規模すぎるます。対大亜強硬派軍人はこの行為を宣戦布告と受け取っていると報告があります」
割いて入る男――五輪勇海とは対照的な人物/姿形質すべてが反転している/室内でも外さない薄黒い眼鏡――七草家代表=七草弘一。
「講和条約が成立した現段階で? それが真なら今度はこちらが横浜の報復――なんて事になりえない」
腕を組んだ紺地。「講和条約といっても、これは本当に『講和』かどうかすら怪しいところですよ」音階を造るように言葉を続ける。「大亜連合は『灼熱のハロウィン』で消失した艦隊と戦艦拓跋珪に乗船中の劉 雲徳を失って国内情勢が急展開を示したんですよ。ウイグルやチベット自治区に展開する『大漢復国派』がハロウィンと同時に北京で活動を起こした、拡大政策をストップせざるを得ない国内状況なのですよ。あちらは」
紺地の敷いた音符――協奏に乗る弘一。
「相手側は本質的には以前と変わりはないと? そう言いたいのですか、六塚殿は」
一条剛毅――二人の協奏に追随。
「その事が本当であればいま脅威となる諸外国は新ソ連、佐渡島以来慎重に事を運んでいるようだが軍備は今の大亜連合のを越えると見えるが今後の対策は如何程に?」
不協和音――八代雷蔵の野次の歌声。
「佐渡島侵攻は新ソ連とは確信はないでしょう。あちら側は否定していますし」
「あの装備は間違いなく新ソ連です。私はあの戦場で間違いなくこの目で見た、国防軍もUSNA軍も私の息子も」
「私たちは見ていませんよ。まあ......見たくもありませんが、肉塊に変わった人なんて」
雷蔵の冷やかしにも似た言葉――剛毅の睨みがさらに鋭く鋭利に。
冷やかしの原因――佐渡島侵攻/そこに残る死体――一条家の秘術である「爆裂」/それが原因で敵の遺体は見るも無残な肉塊に変わり果て身元判別も付かなくなってしまった。
二木舞衣――不協和音を調停する指揮。
「今この会議に一条殿の佐渡島での不手際の追求は必要なのですか? 今は横浜の原因の追究とその対処が先決でしょう」
きつい口調で音を正す――含み笑いを浮かべながら手を振る雷蔵。
「確かにそうです、失礼した一条殿。新ソ連の動向は気にする必要はないでしょう、ハロウィンの影響でカザフスタンの国境で対新ソビエト自由戦線が悪化したと聞いております、心配ないでしょう。では今回の横浜の案件――これは誰のせいでしょうか? 守護監視を行っている人事を見れば、七草殿と十文字殿へ訊く必要がありそうですね」
不協和音の共鳴の先――静かに身構えた弘一/深く息を吐く和樹。
弘一の弁明。「本案件に関わった大亜連合の工作兵が密入国をしたと報告は確かに受けておりました。受けてなお犯行阻止を未然に防げなかったには我々の不手際です」
和樹の弁明。「そうだ。少しだけ言い訳、というのは言い方が悪いが釈明をさせてくれませぬか」
「報告は我々は受けていました。そしてある対策を講じた、だがそれ以上に調べる相手が居たのです」
紺地は和樹が書き加えた音符に好奇心を示す。「戦争宣言以上に調べる相手? それは」
今まで発言をしていない人物に指揮を明け渡す。「九島殿。あなたなら知っているのでは?『カルタヘナの天使』について」
円卓にいる全員の視線が一人の老人に注がれる。
先代と同じく着るスピリットスーツ/だが先代とは雰囲気も何もかもが違う/視線に萎縮した男性――九島家代表=九島真言。
微かに震えた声。「た、確かに知っている。『カルタヘナの天使』、『マルドゥック機関』の事ですね。先代が外務省を通じて入国を許した」
乗ってくる雷蔵/獲物を得た虐めっ子。
「老師がマルドゥック機関を呼び寄せた? なぜ、現当主であるあなたなら知っていても可笑しくは無い筈、そうですよね」
アレグレットに追求を始める。
「知人の国防軍人も不思議がっていますよ。不思議がるというよりは気味悪がっている、あのような機械で体を入れ替えた人間を手元に置く理由。――意味がないでしょう、身辺警護なら九島家に近しい百家に依頼すれば有能なボディーガードが来るのに、あのような薄気味悪い連中に守らせるとは」
一間開けて、
「不審すぎる」
真言は雷蔵の追及に慎重に言葉の音名を組む/横から入る男――剛毅が割ってはいる。
「確かに今の、というより師族が国外の機械化組織を手元に置くのは不審ではあるが、何かお考えがある筈だ。老師は時として我々にも必要情報を渡さない時が多々あった筈だ。あなたならよく知っているのではないか、八代殿」
「そうですね。老師は情報を出し渋る節がある、生月島暴動の予兆を報告なさらなかったのはさすがに頭にきましたが」
今までの会話に入る素振りをあまり見せなかった舞衣が口を開く。
「今回の横浜事変にも難民が少なからず関わっていると聴きました。皆々方、難民居住区の動向はどうなのです」
難民居住区――日本に埋まる核爆弾/日本国民すべてが共通して認識する「腫れ物」。
「択捉経済特区は特に変わりはありませんね。至って平和を保っています。ただ横浜の混乱で小規模居住区から流れてきています」紺地が健やかな笑顔を浮かべながら言う。
「能登島難民街は島内部自体は最低レベルのモラルで留まっています。横浜以来島の内部のパワーバランスが崩れたらしく不安定な状況ですが、近隣に被害は例年程度の引ったくりや万引きに留まっています」険しい表情が一向に消えない剛毅が言う。
「長崎生月島難民居住区も『例年』通りです」雷蔵が答える。
勇海が雷蔵の放った音階に疑問を抱いた。
「八代殿。警察庁から訊いております、『例年』通りでは無いと」
円卓のどこかから聞えた溜め息――雷蔵が焦ったように弁明を言う。
「例年通りですよ。相変わらず生月島難民居住区は野蛮人の掃き溜めだ。銃を乱射し、
震え上がるような声――舞衣が言う。
「本当にそうなのですか? 警官の殉職率は例年の倍に膨れ上がっていますよ。一部の違法薬物も市場に流れ出ているとも百家の内よりも訊きます。この数年、生月島難民居住区は他の二つの難民居住区よりも犯罪発生率も異様に多い。どういうことですか?」
舞衣の言ったように生月島難民居住区は八代家が師族になった年を境に犯罪発生率は加速度的に増えている。
原因としてはさまざま――生月島は他の難民居住区と比べ他人種率が限定されている/朝鮮半島にもっとも近く対馬要塞を掻い潜った違法船舶に乗った大亜難民/択捉経済特区、能登難民街は少なからず二つの国の人種がいる。そして最も大きい点それは。
「働いてお給料の貰える場所がない、これが最も大きいじゃないですか? 雷蔵さん」
紺地の親しみを込めた名前呼び/そこの知れない、不安を煽り立てる笑顔。
「彼らは祖国の弾圧から逃れてきた避難民です。新ソビエトと大亜連合出身の難民が入り乱れる能登島や択捉と違って生月島はその系統が非常に多い。職と
紺地の誘いに乗る雷蔵。
「紺地殿、確かにそうでしょう。ですがね、今の彼らを一般市民の中に交わらせ共に労働をさせるのには些か問題がある」
円卓に座る師族は聞き続ける/紺地は続けてくれと目で言う。
「労働の場を与えれば多少は凶悪事件は減るでしょう、ですか必ずしも減るとも限らない。大陸と島国のモラルや労働に関する感覚の違い、何より一部難民は武装して人を殺した人間も混じっている。そんな人々を一般国民に交わらせたらどうな事になるか分からない」
さらに続く。
「何より国民が受け入れないでしょう。警察官殉職者の家族に強姦を受けた婦女子の怒りの矛先は狂うことなく正しい相手に向いている。そういった人間が極身近に入れば周囲の人間もそれに感化され難民を憎みだす」
能登島を抱える北陸守護する剛毅が言った。
「彼らを会社に順応させろとは言いません。せめて離れた工場にでも勤めさせればいいのではないのですか」
「一条殿、能登島周辺とは生月島は違うのです。能登島は周囲を工場地帯で覆われそこに難民を勤めさせているのはいいことです。ですがね生月島は大橋を一歩外に出ればそこは市民街なのですよ。平戸島再開発によってあそこは大きく発展した。生月島難民居住区はど真ん中にあるのですよ」
無数の島がある旧長崎/島一つごとに機能が細分化されている――平戸島は市民街/黒島、平島は工場地帯/壱岐島は対馬要塞の国防軍人のベットタウンに――すべてがすべて一つの機能に絞られた機械的なものに変わっている。
「
紺地は冷静に言った/その視線は面白がっているようにも見えた。
「難民居住区に足を運ぶ妊婦もあとを絶たない。その際に
雷蔵は誰にも聞えない小さな舌打ちと罵声を言う。「......“オーク”め」
真言が訊く。
「それは師族の調査で?」
「いいえ、『逓信省』の調査報告です。――昨今難民居住区で流れる通信を調べあるもの
弘一が訊く。「それは?」
唐突にありもしない声が部屋に響いた。
「
部屋の入り口にたる男性/総白髪をきれいに撫でつけている/スリーピース・スーツを隙無く着こなし、しっかりと背筋が伸びた姿勢。
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