パーティー/会議室の数階上にある巨大ホール――会議終わりの息抜きの場。腹の探りあい。
ホール内の雰囲気に合わないであろう俗物的な立体CG広告の数々――このホールにいる十師族が経営する会社/師補十八家が経営する会社。
いたるところに宣伝を織り込んでいるた。
大きなテーブルに揃えられた豪華絢爛な食事/シャンパン/リゾット/クレーム・アングレーズ/カルツォーネ/ターキーバーガー/西紅柿炒鶏蛋。すべての食材は二木家が株を占めている二瓶人工食品工業会社の提供。
上品に飾り付けられたターキーバーガー/発泡性アルファ化ブドウ糖と地下の太陽を模した光で育ったレタス、そして品種改良を加えた鶏肉の味に似せたカエルの肉――すべてそうであるように飾られ、本物に似せた付加価値を与えられている。
体のいい様に飾られたパーティー/栄耀栄華とはどのようなものかを示しているようだった。
一人09メンバーとは離れたナナ/会場の端で師補十八家であろうモノたちにテーブルに並べられたターキーバーガーと同じように本物に似せた飾り笑顔を浮かべ愛想笑いを振りまく。
ドクターの指示。
「出来るだけ愛想良く頼むね。今後の捜査に協力をしてもらえるか、妨害を行うかの品定めだ」
言われる様に皆が望むであろう
鬱陶しくて仕方がない――すれ違うウェイター/制服に記された企業名――運ぶカクテルグラス/安酒のワイン/シャンパン――すべてに企業名。
セクハラでも受けようものならウェイターからワインボトルを奪い取りラッパ飲みで見せ付けてやろう――これが私、酒を飲んであんたら男を誘惑する安い女。
やりたくても出来ない。イブニンググローブに
薄化粧だが元の
内心では会場に置かれたシャンパンやワイン、日本酒を飲みたくて仕方ない/特に日本酒は手に入りにくい、絶対に飲みたい。
会場のどこかで喚声――肌がその喚声を起こす主を捉えた/ルーカスだ。
得意の走りで会場を沸かす――巨大な巨漢が向かう/ノアの筋力披露――それに引かれ大半はそちらに流れていく。
ベンジャミンの姿が人ごみの隙間から見える――老人達の憩い/二木舞衣、九島真言、九島烈に紅茶を振舞っていた/あの年代はどこの国でもどのような人種でも共に共感ができるのだろうか/年相応の落ち着きか、それともベンジャミンの見定めか、定かではない。
ナナは目立たないように会場の窓際に避難する――ガラス張りの大きな窓/暗闇の空。ビルの下に広がる光り輝く都市を俯瞰する。
高所は恰も神にでもなったかのように錯覚させる/ほんとに神がいるのであればまさに冒涜的行為であろう。いくら自らに似せて作った人が、いつの間にか自分に取って代わるのだ。怒ってバベルの塔を壊したのも頷けよう。
年明けの冬場――真夜中の街には雪が降っていた/燦燦と輝く街の灯り――その灯りの提供元教える立体CG。
大々的に浮かび上がる電力会社名。
六塚地熱発電――このホテルのオーナーである六塚家が仕切る電力会社/寒冷化の残雪を色濃く残す北海道方面の電力消費量は本島の4000倍になる/そのすべてを賄っている六塚地熱発電――高効率タービンで生み出す莫大な電力――深く降積った雪国の残雪を水へと変えている。
そのオーナーである温子――本日欠席/代わりに現れた弟の紺地/底の見えない考えを抱えている。
巧みな話術/彼が最終的に指揮棒を握り会議を纏め上げた――“下手に各国と難民を刺激しないように現状維持、『調理者』の調査を開始しましょう”。
最も正しい判断――みながピリピリとした空気を漂わせ出せば会議は成立しなくなる可能性がある/多くの問題を抱えた、三大難民居住区を抱えた師族が揃ったなら。
「憂鬱か、お嬢さん?」
不意に声を掛けられる――夜景の立体CG広告に目を取られ気づかなかった。
好意、愛しさ、恋愛といえる感情を傾けれる相手だった。
「将輝」
自然と笑顔が漏れた/彼もナナと同じように笑った。
「何週間ぶりだ? 三週間か?」
少しだけとぼけた言い方/2週間も彼の傍を離れていない。
「ちがう、たったの1週間と少しよ」
「え、そんなに短かったのか......君といると暇しないから」
ほんの少しドキッとする言い方だった/出来るだけ平静を保ちながら続ける。
「口が上手。そうやって甘い
「いや、そういった気で言ったつもりはなかったんだけどな」
将輝は少しだけ気まずそうに頬を掻く――ある男がふらりとやってきた。
長身の男/紺色のツーピーススーツ/切れ長の目/長い栗色の髪の毛を後ろで束ねている。
「お二人さん、どうだい? このパーティーは」
「紺地さん。お久しぶりです」
将輝は手に持っているグラスをテーブル置く/きれいなお辞儀――紺地はにこやかに将輝の肩をたたく。
「いいよ、年が近いんだ。気楽にやろうじゃないか」
不思議な声色/魅了する声――切れ長の目がナナを見る。
「こちらの
ナナ――将輝が言う前に手を差し出す/簡素な握手。
「USNA所属認定魔法師、委任事件担当捜査官ナナ・イースターです」
ひらひらと手を振る/親しみの笑顔――将輝と同じようにナナに接す。
「あまり硬いのはやめよう、僕はそんなに形式を重んじるような人間でもない。見たところ君もそう見えるが」
「そう見えるとは?」
紺地はナナの隣に並ぶ――視線を同じにして指で何かを指す。
「君は僕と会う前、接待でイラついていた。そしてそのあとに向いた視線の先はウェイターの運ぶ空のシャンパンボトルだ。次に向いた視線はテーブルのハードドリンクが多く置かれたテーブルだ、その中でも日本酒に目が行っているようだね。接待は嫌いのようだ」
紺地の説明/思考を誘導するような声――今まで考えていた事、目線の先で読み取っている。
差し出されるグラス――透明な水/アルコールの匂い。日本酒が放つ独特の匂い。
「君の活動している州を調べさせてもらった。死刑制度なし、アルコールは成人以上の者同伴なら飲酒可能、違うかな?」
「そうです」
にこっと浮かべる笑顔。「日本酒は大戦と『火の雨』で製造が難しくなった」健やかな紺地の顔。「なぜだか分かるかい?」
「戦火に焼かれた酒蔵、それを逃れたものも『火の雨』で酵母が焼けてしまった。今では外国には殆ど出回らない。日本だけで飲める、高価なお酒、違います?」
「そう、その通り。君はソフトドリンクよりハードドリンクが好きなようだ。こうして今後の活動を支持する意味を込めて低アルコールを差し上げよう。一応日本は飲酒は20歳からだ早めに飲んだほうがいいよ。日本人は時代や場所の『空気』に飲まれやすい」
言われるがままグラスを受け取り口を付ける――やわらかな飲み口/僅かに甘酸っぱくカクテルを思わせた。
「女性にお酒を勧めて手玉に取る気ですか? 紺地殿」
車椅子に乗った女性/それを押す青年――イライジャとデルクが出会ったときの写真がチラついた。
「洋史君よしてくれ。僕はそんな卑劣な事はしないよ」紺地がケタケタと笑いながらいう。「鬼畜ではあるけどね」
「まあ、それは怖い。USNAの貴重な人員があなたのように怖い人に落ちては事です」
大らかな雰囲気/少々未発達な肉体――先天的なものか体の線は細く、足の筋肉は衰えて見える。心肺機能は正常に見えたが通常の人間より劣っている。
ナナの驚嘆――いきなりのビックネーム/日本の抱える戦略級魔法師――十三使徒=五輪澪。
「悪名が高まりますわ。あまりそのような行動は慎まれたらどうです」
「人を化かす、それが私の生きがいです。その贖罪として私は今の職で決算をしています。決算のほうが大きいですよ」
小さな溜め息――落胆ではない/仕方がないといったふうに。ナナを見る/小さな微笑。
「あなたが外の国の魔法師さん」
「USNA所属認定魔法師、委任事件担当捜査官ナナ・イースターです。会えて光栄です、五輪澪殿」
「私もうれしい。私は体が不自由だからあまり外には出られないの」
「そのようで」
将輝を見る。「一条さんもお久しぶり、横浜で負傷されたようですが......お元気でいられるようで何よりです」
「ええ、慢心してしまいました」苦笑いを浮かべる将輝。「今ではターミネーターですよ」
驚きの表情/大らかな微笑み――どこか母親を思わせる表情。
「御気をつけて、大切な体を捨ているようなことはいけませんよ」
腰の低い将輝/情けなさそうな表情を浮かべる――肩を叩く紺地。「がんばりたまえ。彼女にいいとこ見せたかったんだろう。察してあげましょう。澪殿」
紺地の軽い態度は崩れない――どこかに潜む不安感は拭いきれない/長い髪の中から不意に耳が見える。
特異な形状――長く尖った耳/何か遺伝的なものだろうか。
「姉さん。そろそろ時間だよ」洋史が澪に耳打ちをする。
「分かったは」申し訳なさそうな表情。「ごめんなさい。そろそろ席をはずさせてもらうは」
「いえ、構いません。あなたに会えてよかったです」
澪と洋史が離れていく――空になったグラスをウェイターに渡す紺地。
「僕もそろそろ外させてもらうよ。挨拶回りがまだだ」スーツの中から名刺を取り出す。「捜査、協力させてもらうよ」
将輝の機械化した腕が気に入ったのかそれを話の話題にする為に連れて行く。
ふらふらと人ごみの中に消えていく――不思議な雰囲気/姿/形。名刺に目を落す。
真っ白な小さな紙切れに書かれた名前/職業/バーコード番号。
仮想戦時特定情報保護影響調査委員会委員長――六塚紺地。
顔を上げて急いで紺地の姿を探す/人の中に消え姿が見えない。
再度それをみた――仮想戦時特定情報保護影響調査委員会委員長/逓信省/デルクの引き抜いた省/直属の上司。
「そういう意味だったの」
“捜査、協力させてもらうよ”――己の部下の死の真相を知りたがっているのかもしれない。
奇妙なことがあったものだ/唐突に現れた人――値踏みするような視線。
ノーネクタイスーツ姿/七・三分けの髪型――八代雷蔵。
「どうだね。このパーティは」
「豪華絢爛、悪く言えば無駄」
雷蔵のシャンパンが注がれたグラスが揺れる/表情からして肯定を表している。
「率直な女性は好きだ。なかなか気が合いそうだ」
ナナを気に入ったのかもしれない――視線は変わらず/まるでダッチワイフを見ているような視線だった。
悪寒が背筋を走る。
「君はどう思うかね。六塚紺地について」
「彼ですか。......不思議な人ぐらいです。あなたは」
「私かね?......嫌悪さえしてるよ」
意外な回答――ウフコックが嗅ぎ取るまでもない/本当に嫌いだといった感覚。
訊く。「なぜです」
「君はあれの耳は見たかね」
ビジョン――長い栗色の髪/その中に隠れた長く尖った耳――エルフを彷彿とさせるもの。
「あの家系は遺伝子研究に力を注いでいてね。多くの優秀なモノを作り出していた。そしてあれが六塚家始めての出来損ないだよ」
「出来損ない?」
「ああ、奴は魔法師ですらない。演算領域を持ち合わせず生まれてきた『
嫌悪を通り越したもの/憎悪や差別意識に似た感情。
雷蔵は会場を見渡す。「この会場にいるのは何人が師補十八家だと思う」
問いに答える。「すべて、ではないのですか」
鼻笑い/小馬鹿にしたような。「半分以下だよ。この会場にいる人間の三分の一しかいない。残りの二割は“六”をルーツにしたものたちだ」
大きく出た数字/そんなことがあるのだろうか――顔の類似点は多く見られる。
「四家系間で交わり過ぎている。どれがどの家系の息子か娘か見分けが付かない。表向きはカルタヘナに則った調整魔法師の製造だが。本当にそうなのかも分からない。下手をしたら近親交配......何てことも」
「それは憶測の域を出ない噂だ」
そこへ――声/その先を言わせまいとする。
赤褐色の肌/他人を睨み殺すように眼光は炯炯と輝く/筋肉はノアほどではないが付いている――一条剛毅。
「国外のものにそのような個人予想の事柄を話すのは十師族の体裁に関わる」
「そうでした。口が軽すぎました」雷蔵はばつが悪そうに目を細める。「彼女に用でも?」
「息子の護衛を担当していた。礼を言いたい、少しだが席は外してもらえぬか」
雷蔵/剛毅――険悪な雰囲気。そりが合わない/性質が合わない――雷蔵は剛毅に場所を明け渡した。
「――師族の一人が失礼をした」
「特に何をされたわけでもありません」
「下卑た視線――そう感じただろう。奴は女性を次世代魔法師製造機としか見ていない」
「断言するのですね」
辛口な言葉/剛毅の客観的に半分は同意した。
「所構わず噂話をするのは構わないが相手を考えてほしいもんだ」
「六塚家の近親間での話ですか」
「そうだ」
「弱いものほど相手を貶めたがるもの、かもしれません」
「ガンジーかね」
「私の言葉です。私の意見であり私の意志です」
剛毅はナナを見据える――雷蔵とは違う見方/ナナの本質を見極めようようと。
「息子が君を好いているのが分かる気がするよ」
「将輝くんが、好いている?」
「ああ、あいつはいい顔で生んでもらって奥手な軟弱者だ。正道を歩きたがる、そういった性質だからこそ反対側に属する君に惹かれているのかもしれない」
「私が邪道を歩むと?」
「それは君が決めることだ、正道邪道は所詮他人の視点から決定されたレッテルだ。真に正邪を決めるのは自分自身だ」
真っ直ぐな、曲がることを知らない/ガチガチに凝り固まった意見――共感できるが、どこかで引っかかりを感じる。
「横浜では息子を警護してもらい大変感謝している」
「いいえ、警護も出来ていません。彼を負傷させてしまった」
「腕の一本だ。この先そうならないように気をつけるようになる。いい教訓だ」
剛毅は言い放つ/だが別の言葉も。
「だが子を持つ親として言わせて貰えば、もう少しがんばっていただきたかった。あれはあれでいて自慢の息子だ。息子の警護が君ではなくあの大男のようなものなら責任の追及をしていただろう」
当然の意見だと思う――返す言葉もない、ただ黙ってその言葉を受け止める。
剛毅はナナの肩を叩く/厳格な顔が和らいだ。
「美登里が気に入っている娘だ。私もこれ以上言うまい。君は若いのだ力を付けこれ以上警護対象を負傷させぬよう精進したまえ」
剛毅はそういいパーティーの中に戻っていく。
父親――初めて感じた感覚/剛毅のごつく硬い手の平が頼もしく感じた。
ナナは剛毅が人ごみの中に消えていくまで見送り続けた。
会議はこれで終わりです。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。