こっちでは生かすけどね(・ω・´)
2096年1月28日
クロス・フィールド部室。生活するには不自由しないほどの設備/豪華すぎる部屋。威圧の気を放つ巌が一人。
「呼ばれた理由は分かるな。服部会頭」
押しつぶすような重苦しい声/十文字克人に表情は逆光でよく見えない。
原因ははっきりした服部の落ち度――好奇心の代償。
時を遡り昨日の夜――渋谷風俗街で発生した発砲事件/負傷者なし/死者多数の怪奇事件。
発砲事件と呼んでいいのかすら微妙な線――その場に居合わせた4人の生存者/刑事二人、協力者、そして服部。
服部は何も分からぬまま補導された/早朝まで事情を聞かれる――すべて話す/親と教員の証言により釈放。
その後の弾劾の嵐/教員一同の叱責――校外警邏の取り消し。一ヶ月の指導を言い渡される。
そして最後の弾劾――教員よりも親よりも恐ろしい相手。十文字克人への事情説明。
「......今回は会頭の厚意により許可を戴いた校外警邏を補導という形で不義にしてしまい」頭を下げる。「申し訳ございませんでした」
沈黙を続ける克人――如何なる断罪を言い渡されようとも服部は受ける。
そうすることでしか己の不義理を払拭できない――罪は罪として、好奇心の裁きを服部は欲していた。
弾劾は無論受けたくはない――受けなければ服部が見聞きした記憶で潰れてしまいそうだった。
あの時に従業員の男に掴まれた――普通に生きていれば感じる事のない、生者と死者の境界が曖昧になった世界。
死者が生者の如く襲い掛かってきた/口から漂う濃厚な死臭/氷のように冷たかった体温――死者復活の体験が服部には神への冒涜にも似た自責の念に駆られていた。
自分には責はない/あの場所に居たことすら罪――服部はそう認識してしまった。
克人もこの事は服部を弾劾するだけでいいのかと思考する。
死者復活。
十文字克人が知りえる範囲の魔法技術は成し得ない事象――遡行のことのない絶対の理/襲い掛かる無生の生物。居合わせる
時を同じくして起きる吸血鬼案件――もう一人の転入生の怪しい放課後生活/
「......出来すぎている」
横浜事変の揺らめきも治まらぬタイミングで流れ込んだ吸血鬼/
本題を聞く。「服部、お前は何故、あの場にいた。どういう経緯であそこに辿り着いた。一から話せ」
頭を下げ続けていた服部――顔を挙げ克人の目を見て話す。
「先日より許可を戴いていた警邏を終えて帰宅しておりました。帰宅の最中に先日転入してきたイースターを見つけました」
教員の一人か先に聞いていた始めの出来事/服部は覚えている事細かな記憶を掘り起こし、扮飾の一つもせずありのまま話す。
「イースターは部活に所属していないので遊びに出ていると思いました。待ち合わせだった様で遠間で見ていたら、男二人、共同捜査中だった刑事が合流しました」
「お前はその警官が麻薬を販売する者たちだ疑ったのだな」
「はい、それで自分は彼女の後を追いました。行く先が風俗街だったので、援助犯罪、身売りと」
ある意味では思って当然――イースターが一人暮らしというのはある程度学校内では知られていた。金銭の不足/春をひさぐ――警邏が空振り続きで神経が尖っている服部ならそう考えて無理もない話。
「イースターの後を追っていきました。如何わしいビルに入ったので、多少強引な方法でも連れ戻すべきだと......」
「そして事件に遭遇したと」
「......はい」
克人の視線はより厳しくなる/服部への非難の色はなし――服部は判決を待つ。
想定する仮定――もしも
音速の
残り二つ――物的証拠。
実演される性能/魔法を無効化する人工鉱物――製造者/地下の魔窟に潜む獣――“調理者”
突拍子もない話――実演されれば何も言えない。
“調理者”――本当にメトロに潜んでいるのか?/二木舞衣が疑うように本当は
どれだけ「新カルタヘナ法」の従事者と体裁を見繕うとも
国際法の名の下に違法サイボーグにテロに加担する魔法師を世界各国で殺しまわっている――北アメリカのなんらかの目的で
最後の要素――魔法使用義体。
老師が明かした最大の爆弾――何故あの場で明かしたか。
魔法演算領域と
定期的に義体のメンテナンス、電脳ソフトウェアのアップグレード、生物として究極を手に入れたとしても最高度のメンテナンス無しでは生きていけない/人間であることに苦痛を感じ、魂でさえも機械にしてしまった者達。
人間である証の
機械が魔法を使用して、機械が争い、機械が機械から成る国を治める――笑えない冗談だ。フィリップ・K・ディックの作品に似たものがあった気がする。
国を陰より守護する十師族からは悪夢――国は人からなるものだ/決して
「人」の国である日本を、機械の国の北アメリカのようにしてはならない――そのためにも
「服部、お前はあの場で何を感じた。何を思った」
その問いを理解できないの服部/率直に答えた。
「......何も考えてなかったと、思います。死体を押し退けるのに必死で」
「そうか......ならばあの場で戦っていたイースターをどう思った、何を感じた」
その問いに服部は答えを詰まらせた。
――何故そのような問うのか。服部の目にはそう写っていた/服部は答えた。
「初めて合った時は綺麗な子だと。あの場では、無機質......人形のようだと」
服部の回答に克人は驚いた――人形のようだ。人に対して受ける印象ではない。
いくらその人が機械的な印象であっても根幹は人間/冷徹、ロボットなど動く印象が含まれる言い方になる筈だ。
人形のようだ――物体として、無生物としての印象が先に立つことはありえるのか。機械化の影響?――機械の部分を人間の鋭敏な感覚が見抜いたのか?
どちらにしろ服部の受けた印象は物体としての印象が強い――生死が曖昧なあの場でもそう思うのか?
服部が質問を投げかける。「会頭。質問、よろしいですか」
「なんだ」
「あ、その、呼ばれた理由は昨日の警邏の弾劾、ですよね」
「ああ、そうだ。だがお前は最初に謝罪を済ませた。終わらせてしまった、終わった後に言う小言は俺は持ち合わせていない」
拍子抜け――そういった表情が窺えた。
「それにあれは師族としては見過ごせない事柄だ。死者蘇生、脅威以外の何ものでもない。それを間近で見てきたお前の意見を聞きたかった」
「それでしたら警察の取り調べてすべて話しています」
「書類で見るのと直に話を聞くのは全く違う。文字の影響力は見る者の感情と合致してこそ形を持つ。形を持たない文字は、ただの文字だ」
「そのために会頭は自分を呼んだので」
「そうだ」克人は表情こそ変えないが雰囲気は先程よりも軟らかい。「それにこれ以上お前に瑕瑾に重ね自信を失われては困る」
克人の存在意味が切り替わる――第一高校の生徒から十師族としての十文字へと。
「服部、これは至極私的な頼みであり、お前は社会的に拗れる立場になるかもしれない。このことでお前の経歴に傷が付くかもしれない、もしそうなってしまえば十文字家として出来うる限りその傷を消そう。――無理なら退室してもらって構わない、俺はこれ以上何も言わない」
服部は急な場の転換に戸惑っていた――僅かな思考/返答。
「一年のときにあなたに打ちのめさて以来、長いものには巻かれろと習いました」
かすかに出た鼻笑い。「イエスと受け取っていいのだな」
服部の眼差し/克人の頼みにたいする姿勢――まさに忠犬。
反抗という可愛げはあってほしいが、忠実なる者も必要だ。
「頼みは一つ」眼光が厳しくなる。「イースターの監視を頼みたい」
「監視......ですか」
「ああ、お前も知っているかもしれないが。今日本にはUSNAに所属している魔法師が多く来ている。名目はどれも技術提供や、共同開発。だが根幹にある思想は――」
ふと脳裏を掠める戦場。「横浜の大爆発......」
「察しがいいな、そうだ。恐らく入国してきた多くは大爆発の調査が目的だ」
「ですがイースターは横浜事変が起こる以前に入国しています。それでは辻褄が合わないのでは」
「そうだ、辻褄は合わない。それが不思議だ、何の為に入国したのか。経緯もあれ自体留学として通っている」
服部の脳にはナナの姿が浮かぶ――彼女がスパイ?/完全に否定は出来ない。
あの場での機械のような行動/所有物。CAD――違法品である火薬拳銃。
ただの留学生には不要だ――拳銃社会であるあちら側でも日本に持ち込めるか?/ただの留学ではないのか?
「出来る事なら師族直々に監視を付けたいが、ある案件で手を離せなくてな」
「吸血鬼ですか」
「ああ。詳しくは話せないが、そうだと言っておく」
服部もある程度なら吸血鬼の話は耳にする――魔法師/或いはその素養のあるものを狙う怪人グループ。
国民を守る/というよりは国力を守る十師族には見逃せないのだろう。
だとすればこれは重要事項としてはそこまでのもの、かもしれない。
「校内、そして出来る事なら校外の監視も頼みたい。犯罪との接点があるとしたなら連絡をくれ」
「分かりました」
「いいか服部、相手は体に何を詰めているか分からない。身の危険を感じたら、逃げろ」
「善処します」
****/***
「いいの、あんな頼みごとしちゃって......」
「七草か」
裏口から現れる七草真由美――その表情は多少の寝不足が見えた/うまく化粧で隠しているのだろうが疲労の色は塗り隠せない。
「服部君にイースターさんをね。いい人選とは言えないんじゃない」
話を聞いていたのだろう。「あれは裏表が限りなくない。ばれたとしてもイースターはカルタヘナの従事者だ。殺しはしないだろう」
「嫌な、選び方」
「師族とて無限の力を有しているわけではない。有限である力をどう切り盛りして、相手を動かせないか」
「彼女達は別件でこっち来たって言ってたわよ」
「どうだか分からん。こちらが想定している目的ではない目的で動いている可能性がある間は、監視という手段が最善と判断しただけだ」
克人の判断はたとえ監視がばれたとしても、師族との拘りが薄い服部であれば身の危険は付かないと考えていた/学生の好奇心から監視のようになった。ストーカーとも言えなくはないが、もしそうなったら揉み消すしかない。
「十文字くんて詰め将棋とか好きそうね」
「そうだが、何故分かる?」
「なんとなくよ」
「......? まあいい、それより問題は次だ」
「達也君ね。彼との駆け引きは胃が痛くなるわ」
「なにも司波と鍔迫り合いというわけではない。だが心構えはしたほうがいいな」
吸血鬼に関する事情聴取――胃が痛くなる事項である事は二人とも変わらなかった。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。