転生憑依アイル君は南雲原に入学するようです   作:中谷真之

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幸せだ!

 

きたる週末、土曜日。ハルのチームと練習試合の日だ。

 

 コンディションは悪くない、先日と比べたらかなり快復したほうだと思う。この前見た夢のことが未だに少し引っかかってはいるが、まぁ気にするだけ損なことしか起こらないだろうから、忘れることにしよう。

 

 朝の支度を早々に済ませ、玄関で靴を履いていると、後ろから父さんに声を掛けられた。

 

「アイル、忘れ物はないかい?」

 

「スパイクよし、ボールよし、誕プレ……よし。大丈夫だよ、父さん」

 

「うん、バッチリだね」

 

 残念ながら父さんは仕事があるので、今日の試合を観に来ることは出来ない、正直、今日の試合こそ観に来て欲しかったが、そもそも父さんが休みを取れること自体中々無いこ。観に来てもらえるだけありがたいことだ。

 

「プレゼント、喜んでくれるかな」

 

「アイルが丹精込めて作ったんだ。きっと喜んでもらえるさ」

 

「だといいなぁ……っし、じゃ、行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 家を出ると、雲一つない快晴が俺を出迎えてくれた。いい天気だ。

 

 最近の朝は少し冷える。半袖で出てきたのは間違いだったかもしれない。手の平で二の腕辺りを擦りながらグラウンドに向かっていると、スマホからメッセージアプリ……イナコードの通知音がなった。

 

 ナオさんからだ。

 

『ねぇ!』

 

『今日ハル君のチームとアイル君のチームが練習試合するって聞いてんだけど!ほんと!!』

 

 勢いが凄い。スマホからツバ飛んできたわ。

 

 えーと……ほんとですよ、と。

 

『ずるい!』

 

 何が?てかどこでその情報手に入れたの?

 

『私も2人とサッカーしたい!』

 

 その場合どっちに対してずるいって思ってるんだこの人。

 

『どっちも!どっちもずるい!』

 

 ナオさんってハルと知り合いだったのか。ハル君だなんて、随分とフランクな呼び方してるし。

 

『いや?私が一方的に認知して推してるだけだよ?』

 

 えなにそれちょっと怖……。そういえばこういう感じの人だったわこの人……。

 

『あ、でも』

 

『私もハル君も雷門中に入学する予定だから、将来的に同じ中学に入るってことを考えると、知り合いと言っても過言ではないのかもしれない……?』

 

 過言でしょ。何言ってるのこの人。……え、てかなんでハルの進学先知ってるんだ?……聞かないでおこう。

 

『もーとにかくずるい!アイル君とサッカー出来るハル君もハル君とサッカー出来るアイル君もずるいずるい!』

 

 画面越しでも駄々をこねるナオさんの姿を想像するのは容易で、思わず苦笑いしてしまう。

 

 そんなに一緒にサッカーしたいのか。それなら、近いうちに自主練にでも付き合ってもらおうかな。

 

『え!いいの?』

 

 いいの?って、俺は付き合ってもらう側だし、ダメなことないでしょ。そうだな、ちょうど来週のオフ日は暇をしている予定だったし、その日を使おう。ナオさんの都合が合えばいいんだけど、予定空いてるかな……

 

『あけた』

 

 あけた?空いてるではなく、空けた?この数秒で?……まぁいいか。

 

『約束ね!絶対だからね!』

 

 はいはい絶対ですよ。そんな念入りに確認しなくとも、俺がそんな約束をブッチするような人間に見えますかって。

 

『練習試合頑張ってね!』

 

 そのメッセージに、グッドサインをする円堂守のスタンプで返信し。やり取りをいったん終える。

 

 ナオさん、凄い食い付きだったな。あそこまで迫ってこられると流石の俺でも少し引くけど、まぁ悪い気はしない。ナオさん可愛いし。おい!俺はロリコンじゃねぇ!

 

 

 

 

 

 

 数十分歩いて、今日の試合会場である俺達のチームが普段使用しているグラウンドに到着した。

 

 思ったより早く着いたな。今日は運が良い。信号待ちが少なかった。グラウンドの入り口付近まで行くと、フェンス扉の前にハルがスマホ片手に佇んでいるのを見つけた。

 

「ハルー」

 

「アイル!」

 

 よ、と片手を上げてハルに挨拶をすると、こちらに気付いたハルがまるで主人の帰りを喜ぶ飼い犬かのごとくこちらに駆け寄ってきた。どいつもこいつも勢いが凄い。

 

「アイル!おはよう!」

 

「おはよ。朝から元気だなぁ」

 

「アイルとサッカー出来るんだし!逆にアイルは元気じゃないの?」

 

「そりゃあ元気ですとも。俺もハルと試合できんの楽しみにしてたよ」

 

 ハルとサッカー出来る機会はそう多くない。月に一、二回程度だ。試合ともなると、年に数回ある程度。そんな貴重な数回の日が、今日である。楽しみじゃない訳がない。

 

「それに、今日はハルのお祝いも兼ねてるしね。誕生日おめでとう、ハル」

 

「あっ、うん。ありがと、アイル……それで」

 

 なにか言いたげな様子で、口をもごもごさせるハル。誕生日プレゼントのことを言いたいのだろうが、自分の口から言うっていうのは気が引けるよな。分かるぜハル。

 

「プレゼント、もちろん持ってきたよ」

 

「!」

 

 リュックの中から、手のひらより少し大きいくらいの小袋を取り出して、ハルに差し出す。

 

 

「開けてみて」

 

「っ、うん」

 

 

 ハルは袋を閉じていた紐を解いて、中身を取り出す。袋の中に入っているのは、小さな箱。さらにそれの蓋を開ける。俺からの贈り物とのご対面である。俺が手作りしたハルへのプレゼントの正体、それは……

 

「これは……ミサンガ?」

 

「うん。初めて作ったんだけど、案外むずいんだねーこれ」

 

 そう、ミサンガ。やっぱサッカーといえばミサンガでしょ!手作りできるし!みたいな短絡的思考で決めたんだけど、これを編むのに結構てこずった。なんせ俺は手先が絶望的に不器用なもんで、たぶんそういう類の才能は全部足先に持っていかれてるんだと思う。

 

「……」

 

「……ハル?」

 

 何故かミサンガを見つめたまま黙りこくってしまった。……もしかしてお気に召さなかった?

 

 一抹の不安を抱えながらハルの名前を呼ぶ。すると、ハルはバッと顔を上げ、俺をまっすぐ見ながら口を開いた。

 

「めっっちゃくちゃうれしい!!!」

 

 うれしかっただけみたい。そして顔が近い。

 

「かおちっか……喜んでもらえて俺も嬉しいよ」

 

 しかし、目を輝かせて喜ぶハルの顔がこんなに間近で見れるなんて、いやはや頑張った甲斐がある。いやマジで大変だったからな。俺が今回作ったのは橙、黄、青、の三色構成で編み方も一番シンプルな奴にしたのだが、それでもかなーり苦戦した。多分常人ならこれを編むくらい造作もないであろう。

 

「ねぇ、これ付けてみてもいい!?」

 

「ん、そんな聞くまでもない。むしろ付けてほしいくらい」

 

「よっしゃ……じゃあさアイル、これ、俺の足に結んでよ」

 

「え、無理」

 

「えっ」

 

「あー待ってガチごめん嫌とかそういんじゃなくてね俺が手先不器用すぎて結ぶのが多分不可能っていう話ね」

 

 一瞬にしてハルの顔色が終わったのを見た瞬間、ワードチョイスが絶望的であったことに気づき自分でもビックリするくらいの早口が飛び出た。

 

「なんだ、そういうこと……」

 

 あっぶねー……とてつもない語弊が生まれてたな。

 

 

 納得の行った様子のハルは、足首にミサンガを結び付け、頬を緩めて自分の足元を眺めている。

 

 うん、喜んでもらえてなによりだ。てか、ミサンガ似合ってんな。ミサンガに似合う似合わないとか無いだろって思うかもしれないけど、ミサンガを付けたハルの姿、すげーしっくり来るんだよな。

 

 嬉しそうなハルの表情を満足げに眺めているとふと、何かに気付いたかのようにハルの表情がかたくなったかと思えば、顔を上げて俺に視線を合わせてきた。

 

「え、じゃあ紐結ぶことも出来ないのにミサンガ編むなんて、超大変だったんじゃない?」

 

 あ、はい。超大変でした。こいつを完成させるのに何日かかったことか……しかし、俺はこれをやり遂げた。何故なら、ハルの喜ぶ顔が見たかったから。まあ動機としては十分だろ。それに元から、親友の人生初の誕生日プレゼントの寄贈者を担うなんて、自由時間全部ぶっ潰すくらいの覚悟で臨まないと、とは思ってたしな。まさか本当に自由時間全部ぶっ潰すことになるとは思わなかったけど。俺ってば不器用すぎ!?

 

「んーまぁね。でも、ハルに喜んで欲しかったし、手作りした方がやっぱ、なに?その……気持ちってやつが、伝わるかなー、と。へへ」

 

 なんかクサいセリフ言ったな。我ながら恥ずかしい。でも、今言ったことは全部本心だし、ハルめっちゃ嬉しそうだし、いっか。

 

「……俺、このミサンガ一生宝物にする!」

 

 ハルの目が細くなって、いつもより少しだけ子どもみたいな顔をしている。俺もきっと、同じような顔をしているんだろう。

 

「はは、一生って……まぁ、千切れるまで大事に使ってよ。いや、ミサンガに大事に使うとかないか」

 

 そもミサンガなんて、千切れることで本懐を遂げる物なんですから、もはや雑に扱ってもらったほうが良い…ことはないな。大切にしてもらったほうが嬉しいわ。うん。

 

「っと、もうみんな集まってるじゃん。ハル、行こう」

 

「ん!……今日は負けないよ、アイル」

 

「おー、それなら俺は、今日"も"負けないぜー」

 

「あっ!言ったなー?」

 

 ハルと顔を見合わせ、笑い合う。ハルの笑顔を見ると、やっぱりどうしてもつられてしまう。

 

 胸の奥がじんわりと温かくて、このまま時間が止まればいいとさえ思った。こんな瞬間が、ずっと続けばいい。

 

 そう願うことが、こんなにも自然にできる日が来るなんて、前世の俺には想像もできなかった。

 

 あぁ、俺って今、幸せだ。

この作品にヒロイン居たらどう?

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