自身の書いた小説に低評価が付けばクソ映画を見て悦に浸る男の物語。

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第1話

 男は頭を抱えていた。相も変わらず、自身の書いた小説の評判が良くなかったのだ。

 寄せられた数少ないコメントは『つまらない』といった低評価ばかりで、それらは男の無駄に高いプライドを逆なでするには充分すぎるものだった。

 こういう時、男は決まって低評価の映画、俗にいう『クソ映画』を見に行く。その理由は単純明快で『自分の作品よりも酷評されているものを見て悦に浸りたい』というものだった。

 映画というのは、酷評するのに丁度良い媒体だ。当たり前であるが、つまらないものというのは、見ていると飽きてくるものだ。故にアニメは次の話を見ることが、漫画や小説は文字を追うのが億劫になってくる。

 しかし、映画は画面を見ていれば勝手に終わるし、テレビアニメのように長くない。

 レビューでケチをつければ同じことを感じた人々からの賛同を得られ、承認欲求が満たされる。

 故に男は今夜も劇場へと足を運ぶ。

 チケットを購入し、席に座る。うつろな目で予告映像を眺めながら一足先にポップコーンをつまんでいると、一人の女性が男の右隣の席に座った。

 長くなまめかしい茶髪の彼女に一瞬気を取られていると、劇場内が暗くなる。すると、スクリーンに映像が流れだし、男はそちらに集中することにした。

 110分の上映が終わり、男は満足そうに劇場を後にした。そう、ネットの意見通り、この映画は面白くなかった。キャラクターがぶれていたり、ストーリーに無理があったりとまごうことなきクソ映画だった。

 しかし、一つ、気がかりなことがある。横に座った彼女もまた、満足気な表情で劇場を後にしたのだ。普通の人間は見た映画が面白くなければ不満を顔に出すものだ。それなのに彼女は嫌な表情どころか晴れやかな笑顔を浮かべていたのだ。

 しかし、考えたところで彼女の真意は不明のまま。このまま考えていても埒が明かないので、気晴らしに悪評レビューを書きその日は眠りについた。

 それから数週間後。またも作品を酷評された男は再びクソ映画を見に、劇場へと足を運んだ。

 席に座りジュースを啜りながらぼんやりと予告を流し見る。すると、例の女性が男の左側の席に座ったのだ。男がこんな奇跡あるものなのかと目を見開いた時、マナーの注意喚起映像が流れ、劇場内が暗くなる。

 98分の上映が終わり、男はまたも満足そうに劇場を後にした。案の定映画はつまらなく、今回は回収されない伏線にメッセージの詰め込みすぎなどが主な理由である。しかし、これだけつまらない点がありつつも、彼女はまたも笑顔だった。

 どうしてもその訳が気になった男は、女性を呼び止め、理由を尋ねることにした。

「……なぁ、あんた。今の映画、面白かったか?」

「……!? な、なんですか急に? 貴方誰です?」

 急に現れた男に引きつつある彼女だったが、男はそれを気にも留めず彼女にがっつく。

「俺は小泉幸助。小説家を目指している者だ。お前の問いには答えたぞ。次はお前が答えろ。今見た作品は面白かったか?」

「えぇ~、そんなこと聞かれても……。別に普通としか……」

「普通!? いや、つまらなかっただろ、どうみても! 回収されない伏線とか、最後まで分からなかった竜の正体とか!」

「確かに、粗はありましたけど、褒められる点もありましたよ。最初に主人公の過去が描写されたシーンはちゃんと感情移入できましたし、物語に引き込まれていきました」

 そう淡々と告げる彼女に男は苦い顔をし、頷いた。今までは悪い部分にばかり焦点を当て、粗を探すように見ていたが、彼女の言う通り褒められる点も少なからずあった。

「折角お金を払って見に来たんですから、ここがつまらなかったっていうより、ここが面白かったって言った方が良くないですか?」

「……一理ある」

「でしょ? 見方を変えてみれば、悪いところだけじゃなくっていいところも見つかりますよ。じゃ、私はこれで」

 そう言い残すと、女性は男の前から立ち去った。男はしばらく突っ立った後、家に帰り、パソコンを立ち上げた。

 インターネットブラウザから飛んだサイトは小説投稿サイト。頭をポリポリと書きながら、次に出す作品の見直しを行った。

 その顔はどこか明るく、ほんのり口角が上がっていた。


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