異世界に存在する地球の財産を守るため、そして邦人を保護するために。安全保障軍よ、新型兵器「自走高射砲塔」で出撃せよ!
最後にロボの設定画も付けておきました。
異世界と繋がる穴が開いて暫く、地球出身の人類は異世界国家と交流し、国交を樹立するまでに至った。しかし新たな問題もまた浮上した。世界間を繋ぐ穴周辺の領有権問題、高い戦闘能力を持つ原生生物、こちらとは全く異なる魔法と呼ばれる技術体系…情勢が安定するには時間と力が必要だった。
そこで地球の防衛と財産の保護を目的とした安全保障軍が国連主導にて編成、異世界へ駐留することとなった。異世界が齎す莫大な利益を恒久的なものとするため、その戦力は増強が続けられていた。
全てが順調に思えたある日、原生生物が集団で警戒ラインを超えたという報告が安全保障軍の基地に届く。その規模は想定を遥かに超えており、司令官は主力部隊へ出撃を命じるのだった。
ーーー
ーー
ー
『本任務はあくまでも自国財産の保護が目的であり、異世界国家の救援ではない。そのため設定された戦域を逸脱しての支援・救援は許可できない』
念を押すように何度も同じことを繰り返す上官からの通信を聞きつつ、待機状態だった機体を戦闘状態へと移行させる。わけあって愛機はうつ伏せの状態で天井から吊り下げられているため、何とも変な感触だ。
『だが我々が守る施設は邦人と現地住民の避難所としても機能する、陸路で移動中の増援が到着するまでなんとしても死守しろ。あと5分で作戦空域だ、各自降下準備!』
「主電力を外部電源からバッテリーへ、供給正常」
ボタンと液晶に表示される各種データで視界が埋まるが、それもいつものことだ。いつも通りに寝ている機体を起こせばいい、心臓が動き始めればすぐだ。
『既に王国の諸侯連合軍がジーノ要塞線にて交戦しているが、迂回した敵別働隊により苦戦を強いられている。特に西側に位置する森からは素通りだと思え』
「森はエルフの連中が防衛を担当する範囲じゃないのか」
この通信は一方通行、こちらの声が上官に届くことはない。だが疑問点は上官も同じだったようで、少しの間を置いて彼はその点についての説明を挟む。
『尚、クソエルフ……森の民は協定を無視し、防衛戦力を配置していない。あの地点に居るのは敵だけだ、撃つときに躊躇はするな!』
異世界の国家同士でも色々あったらしい。今回破られた防衛に関する協定はエルフで構成されている森の民と、人間で構成される王国間で結ばれていたものだ。どんな事情があったのかは知らないが、鉄壁と謳われたジーノ要塞線からは幾つもの煙が上がっていた。あの場所では裏切りによって死ぬ必要の無かった兵士達が死んでいるのだろう、だが今は目の前のことを考えなければならない。
「エンジン起動」
この音だ、この音が煩わしい思考を取り払う。外部からの補助なしで回転を始めたそれは、ガスタービンやジェットエンジンを思わせる駆動音を響かせる。唸るような低音から甲高い高音へと音の変化が差し掛かったところで、予備発電機が接続された。そして続いて主発電機も接続し起動、機体へ十分な電力を供給し始める。
「回転数確認…正常、主電力をバッテリーから主発電機へ。続いて電力ケーブルの接続解除、OSの起動開始」
起動と共にOSのロゴが表示され、これ以降のセットアップはほぼ自動で行われる。パイロットはそれを監視し、計器と照らし合わせて異常が無いかを見なくてはならないのだが、一昔前の戦闘機よりか楽になったといえるだろう。
「IFF設定、姿勢制御システム起動、メインバランサーに武装カテゴリ入力、トリム再調整」
読み上げつつ確認するが、異常はない。特殊な条件下での作戦であるため、何か一つでもミスがあれば何もできずに死にかねない。
「パイロット保護システム起動、慣性制御装置出力規定値へ。姿勢指示器確認、ポジションライト点灯」
『緊急連絡だ。上空を飛行中のAWACSが大量の飛行物体を捉えた、数は二百を超え迎撃は不可能だ』
「航空戦力も大盤振る舞い、王国の精鋭でも手が足りないか…燃料システムからの送油確認、燃料警報システムの設定完了」
『これにより予定していた降下ポイントは使えない、そのため本来よりも10キロ南で貴様らを降下させる。世界初の自走高射砲塔による空挺降下だ、気張れよ!』
自走高射砲塔、それがこの機体の名前だ。人と同じ四肢を持ち、全長10mという巨体は搭載されたセンサー類の索敵範囲を長大なものとし、その腕には戦車や艦船クラスの火器が握られている。
「油圧正常。人工筋肉の張力正常、電圧正常、駆動系よし」
二本の脚であらゆる環境を踏破し、圧倒的な火力をその索敵範囲でもって正確に叩き込む。それがこの機体の設計理念であり、異世界という特異な環境下で強力な戦力となった。だが現場で役に立ったのはその火力ばかりではなく、両手を用いた補給作業の自己完結能力、そして何よりもその威容、威圧感と存在感だった。
『喜べ、技術班が急ピッチで打ち上げた衛星は使用可能だ』
「GPS受信、現在地を参照。レーダー、電子戦装備を待機状態へ」
『降下30秒前!』
「各ハードポイントへの電力供給、追加武装システムとのリンク正常」
すべての武装が準備万端だと緑色の点滅で示してくれる。腕部に保持された105mmライフル砲、自分がこの世界で一番信用している武器も同様だ。全身に搭載された武器が、その威力を敵に示す瞬間を今か今かと待っているように思えた。
『15秒前!』
「HMDに機外映像の投影開始、トラッキング正常」
ヘルメットに搭載されたゴーグルを目に被せると、機体頭部のメインカメラからの映像が表示された。まるで自らがこの機体そのものになったかのような体験をしたのはもう何度目だろうか、そう思いながら操縦桿を握った。
『5、4、3…』
「ストライダー、降下準備完了」
『全機降下!目に物を見せてやれ!』
金属同士が擦れ、軽く衝突するような音と共に機体が落ちる。コックピットを襲う浮遊感に抗いつつ、上を見て自動的に展開されたパラシュートを確認した。正常に展開されている、これで落下死はなくなった。
「かなり高度を下げたんだな、あの巨体でよくやる…」
ここまで機体を運んだのは巨大な全翼機であり、一機につき四機の自走高射砲塔を搭載している。安定性の低さを新技術である慣性制御装置によって補い、更に異世界で得た技術を投入したことで、おおよそだが全長30m・全幅70m程の大きさを持っていた。
そして周囲を飛ぶのは大型輸送機を改修した護衛用のガンシップであり、第二次大戦かのような対空機銃を搭載している。全翼輸送機は12機しか生産されておらず、失う訳には行かないのだ。
「規定高度到達、逆噴射開始」
パラシュートと共に装備されていた減速用のロケットブースターが点火され、炎と爆炎を噴き出した。機体の振動はコックピットに到達する前にほとんど抑えられるが、それでも体が揺れる。
「頼む!」
愛機に対しての祈りと共に、機体は着地した。曲げた足が衝撃を吸収し、装備の損傷は見受けられない。空挺降下は成功だ、周囲に同型の機体が立っていたことがそれを示している。
「第一小隊各機へ。ゲイザー、降着した」
「ご無事でしたか隊長殿。コメット、降着成功です」
すぐ隣に降下していた一機がこちらに頭部を向け、軽く頷く。今回の作戦では稼働中の機体をかき集めて無理矢理編成されているため、同じ部隊でも顔見知りは居なかった。しかし腕は確かだ、彼らの戦績がそれを物語っていた。
「オリオン、同じく降着成功」
「アーク降着成功、これで全機無事ですか」
自走高射砲塔は四機で一つの小隊を形成し、三つの小隊で中隊を形成する。今回投入された全翼輸送機は三機、つまり中隊規模の自走高射砲塔部隊がこの場に居るわけだ。同時に比較的小型の輸送機が複数のコンテナを投下しているが、アレは自分達が使う武器弾薬である。味方からの支援を受けにくい場所へ行われた空挺降下が悲惨な結果になることは珍しいことではないが、あの程度の弾薬は一瞬で使い切るだろう。
「他の小隊同様、護衛対象の資源採掘施設へ向かう。施設敷地内及びその周辺には無人の迎撃設備が存在する、適度に頼れ」
「「了解!」」
足を交互に出して走らせると、人工筋肉が巨体を前に押し出す。段々と速度をあげれば、機体はあっという間に時速100kmを超えるが、こうも視点が高いとその速さでも遅く感じる。慣性制御装置無しで乗れば一瞬でミンチになる衝撃が機体を襲うが、何十時間走ろうが問題はない。
「コメットから隊長殿へ。質問なのですが、目標の施設は何の資源採掘施設なんでしょうか」
「この世界で産出されるエネルギー資源、魔石の採掘地点だ。異世界技術の利用において欠かせない燃料であり、戦略資源だ」
「…敵の狙いも、まさか?」
「今回の相手は地面を埋め尽くす原生生物の群れだが、奴らも魔石を食べることが確認されている。蝗害のように集団密度の変化により、大移動を行う可能性は以前から指摘されていた」
原生生物、この世界の国家では魔獣と呼称されることが多い。様々な種類があるものの一部の個体は高度な知能を持ち、平均的な知能を持つ個体を従える傾向がある。詳しい生態は謎に包まれているが、十数年に一度はこのような大移動を行ってきた…と王国の記録にはある。
「厄介なトカゲ共さ、ドラゴンってのはもっと数が少なくあるべきだとは思うがな」
姿は巨大な爬虫類であり、この世界の雰囲気も相まってドラゴンと呼びたくなる。しかし大小様々な彼らが人里へ降りては凄惨極まる殺人事件を起こすため、派兵されて来た兵士達は後遺症として"ドラゴンを見ても、ときめかなくなった"と申告するものは多い。
「高い知能を持つ個体は周囲に対し音波やフェロモン、未解明の異世界技術によって通信を行っている。この機体のセンサーならば識別が可能だ、出来る限り優先して潰せ」
「通常の駆除作戦とは違い、頭を潰せば後は逃げるってことはないですよね」
「ああ。だが従っている間は感じなかった怯えや恐怖を思い出す、動きが集団単位で鈍るのは非常に大きい」
異世界に派遣された軍にとって、魔獣との戦闘は日常茶飯事だ。だがここまで大規模な襲撃となると、ほとんどのパイロットは経験がない。自分は運よく居合わせた機会があったが、それでも一度だけだ。
「あと少しで見えてくる、気を緩めるな!」
10mの背の高さから見れば、地平線は遥か彼方だ。この辺りは遮るものの少ない平地であり、見通しは悪くない。倍率を上げたカメラが捉えたのは、果敢に防衛を行う無人砲台群と駐留していたであろう部隊の自走高射砲塔だ。
「防衛戦力は情報通り健在だ、このまま急行する」
『作戦区域内に存在する全ユニットへ通達。弾道ミサイルによる対地攻撃支援を行う、指定された座標周辺には近づくな!』
「データリンクにより攻撃地点が共有されました、敵陣ど真ん中です」
「指揮官を潰すつもりか」
高価なミサイルを使わずとも、砲兵部隊が到着さえすれば榴弾の雨を降らせてやれるというのに。あまりにも急な原生生物の大移動は、本来ならばあったはずの準備時間を消し飛ばした。上空を飛び回る飛行型の原生生物のおかげで空輸もままならない、投下された補給物資の位置も距離が遠すぎる。
「こちら第一小隊。第二小隊と第三小隊の現状を報告せよ」
「第二小隊は第一小隊と同ルートを移動中、全機異常なし!」
「こちら第三小隊。現在補給コンテナを移送中、目標施設到着まで15分、補給施設の設営は追加で30分の予定」
その補給物資を抱えた部隊は必然的に足が遅くなり、こちらに到着するまでに時間がかかる。それまでは今持っている弾薬と、自走高射砲塔二個小隊でなんとかしなければならない。そして中隊の長は自分だ、目の前に迫る施設へ無線を飛ばす。
「こちら異世界間安全保障軍、王国方面空中機動部隊、第三自走高射砲塔中隊だ。救援に来た、状況は」
「こちら王国駐留部隊、第十二増強大隊です。現在周辺住民の保護をしつつ、原生生物との交戦中!防壁はまだ健在ですが、無人砲台の稼働率は7割まで落ち込みました!」
原生生物からの襲撃は普段から発生するため、高さ7mもの防壁が施設を囲っていた。しかし更なる補強が進む前に今回の大移動が発生したため、工事中故に脆弱な箇所が複数ある。
「第十二増強大隊は襲撃に際して複数の駐留部隊が集結したものだと聞いた、重火器はどの程度ある?」
「牽引式の155mm榴弾砲が5門、81mm迫撃砲が8門、120mm迫撃砲が4門です。ロケット弾もありましたが、そちらは使い切りました」
戦車や装甲車もあるが、施設を覆う壁により射線が通らない。その上急な移動ともなれば、燃費の悪いそれらは既に充分な燃料を有していないだろう。威力で頼りになるのは榴弾砲だけだが、問題は砲弾の数だ。
「残弾は?」
「現在の調子ですと、持って30分かと」
ジーノ要塞線の奮闘虚しく、こちら側へ雪崩れ込む敵の数は増えている。砲撃で少しは間引けたとしても、あくまで自衛用の砲台と壁を持つだけの採掘拠点では限界がある。
「司令部、こちら第一小隊。敵航空戦力を排除出来れば、輸送機による空中投下は可能でしょうか」
『可能だ、何をやる気だゲイザー』
「上空一帯を飛ぶ飛行型原生生物の動きに乱れはありません、恐らく同一の個体に指揮されているものと推測できます。そのため、その指揮個体を潰すことが出来れば空は開くかと」
『防衛が最優先だ、やるなら狙撃で仕留めて見せろ。話にあった輸送機は既に待機中だ、必要なものを言え!』
「施設に駐留している部隊が使う武器弾薬、榴弾砲をありったけ。増強大隊の編成を見たところ、砲兵の数に対して火砲が足りていません」
『充分な時間が無かったのでな、放棄せざるを得なかった。確かに砲兵には砲が無ければならん、それにこの地点から火力支援を行えれば…』
「異世界技術を利用した射程延長弾なら、要塞線の周囲が射程に入ります」
『ハッ。妙案だな、恩を売る絶好の機会だ!用意は任せておけ!』
「ありがとうございます!」
そう上官と話しながらも手元の端末で各機体へ指示を出し、施設を守る壁の更に外周へと配置した。壁の上に立つ無人砲台は大量の敵を相手に砲弾を撃ち切るか、飛行型からの攻撃によって砲身を破壊されつつある。これ以上は持たないだろう、考える時間もこれまでだ。
「これ以上壁に奴らを近付けるな、第二波は我々で止めるぞ」
「「了解!」」
増強大隊で大砲を使う歩兵達以外には、未だ続く避難民の誘導を行うものや、壁の上で比較的小型の原生生物に対して対処を行うものも居る。小型といっても最低サイズがクマと同程度であるが故に、歩兵が手に持つのは小銃ではなく巨大な対物狙撃銃ばかりだ。
「狙撃用の装備を有する機体が指揮個体の排除、それ以外は接近する敵を片端から撃滅しろ」
「隊長殿、奴らはミサイルの攻撃から立ち直ったようです」
「来るぞ!」
自走高射砲塔の一般的な主兵装は高度な冷却装置と照準器を備え、非常に大きな弾倉による連続射撃が可能な40mm機関砲である。装填されるのは対原生生物用に設計された徹甲榴弾で、戦車並みの装甲など大多数が持ち得ない彼らの臓腑を内側からぶち撒ける。
「敵前衛は陸生型8m級、40mmで十分対処できる相手です」
部隊員がそう言うが、本当にそうかは少々疑わしいと思わざるを得ない迫力で敵は迫って来ている。頼みの綱の40mm砲には小銃を模した手持ち式と、背部に装備する砲台型がある。空挺部隊は重量的な制限により、上記の二つを一つづつ装備する形で出撃し、補給物資から武装を追加する形だ。
「コメット。少し右に寄れ、砲台の邪魔になるぞ」
「あ…すみません、移動します」
あまりの量の敵に、中隊のパイロット達が気圧されるのが分かる。津波や雪崩を思わせる敵の大群は個体数が判別できない程で、これが敵の本隊ではないという事実には驚くばかりだ。この化け物から国を維持し続けていた王国の軍事力は凄まじいものに違いないと思いつつ、再度引き金を引く。
周囲を見渡したが、迎撃準備はこれで出来た。第三小隊の到着まで弾薬を温存しつつ施設を防衛、補給が可能になり次第敵指揮個体の撃破を狙う。このプランを完遂するにはこの場での踏ん張りが必要なのだが、火力が足りているかはギリギリというところか。
「射程内に入り次第攻撃を開始する、狙撃担当は各自の判断で撃て!」
狙撃用の武装というのは、自らの機体が持つ小銃を模した形の外装を被せた105mm砲だ。40mm砲よりも強力な砲弾を、より遠距離にまで射出できる元戦車砲となっている。センサーが捉えた原生生物の指揮個体に狙いを定め、一小隊につき一機配置された狙撃担当機が刈り取っていくのが現在の基本戦略だ。
「見たことない数ですよ、アレ全部が原生生物だなんて…」
「平原を埋め尽くす勢いだな、森の中にはまだまだ居るぞ」
操縦桿のトリガーを引き、集団の中に紛れていた指揮個体を撃ち抜く。一撃で仕留めるには急所を狙わなければならないが、集中を途切れさせれば周囲への指示は止まる。
「射程に入った、撃て!」
40mm機関砲が一斉に火を噴き、大量の砲弾が吐き出される。データリンクは異国の他でも正常に作動しているようで、狙う相手が他の機体と被ることはない。一発一発が原生生物にとって致命傷になる砲弾により死骸の山が形成され、それが敵の進軍を遅らせる。
「二個小隊で食い止められるか、それとも…」
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長蛇の列を成す避難民達の収容はどうにか進められていたが、場所が足りないという解決しようがない問題が立ち塞がる。既に屋内は満員、屋外も砲兵隊が展開しているため、発砲時の爆音により距離を大きく離さなければならない。
「本来の避難場所があるはずだろう、何故ここに来る!?」
「この事態に際して近隣の拠点は門を閉じたそうです、戦力を要塞線に回したことによる対応の変化でしょうか」
採掘拠点の一室には大量の機材が運び込まれ、更に足の踏みどころに困るほどのケーブルが室内を占拠している。会議用の机には採掘拠点の見取り図から周辺の地図、そして航空写真などが並べられ、それを見て異世界間安全保障軍の人々が各部隊へ指示を飛ばしている。
「ギリギリまで避難民を待ってから閉じるという余裕も無い、というわけだな」
飛行型の排除が追いつかず、既にレーダーや砲台にも被害が出ている。上空を飛んでいた偵察機も既に後退しており、周辺の村々がどうなったのかを知る術はなかった。
「砲弾を使い切り次第、榴弾砲の位置は変えさせる。それで少しは場所が空くとは思うが、これでも…」
「使えるトラックを総動員して後方へ移送するというのは」
「飛行型の餌食になるぞ、護衛に貴重な自走高射砲塔は割けない」
現状はこの拠点を守るというのが最善手であり、指揮個体の排除で戦況が好転するのを待つしかない。増強大隊と言えど機甲戦力の類いは乏しく、数台の戦車は主砲と機銃共に弾切れだ。
「砲台の修理はどうだ、進んでいるか」
「砲身の交換についてですが、破損した砲身の取り外しは完了しました。ですが新品を取り付けるとなると…クレーンを使うしかありませんね」
「飛行型が邪魔か」
「もしクレーンが倒れた場合、この位置ですと避難民が下敷きになりかねません」
「原生生物共も馬鹿ではない、何かしようとすれば狙ってくるか」
作業中のクレーンが狙われる事例は多発しており、背の高い動くものは飛行型の注意を引きやすい。そのため自走高射砲塔もまた優先して狙われる目標の一つだが、統制された対空砲火の前では然程大きな脅威にはならない…筈だった。
空を埋め尽くしかねないこの数では、流石の新兵器でも完封とはいかない、出来て撃退だ。彼ら増強大隊を守る一個中隊においては、陸生型への対応で火力を分散せざるを得ないのも大きかった。
「何か…何か出来ることは…」
「偵察車両から報告です、森林からの避難民を確認したと」
「馬鹿な、あの箇所に人は居ないはずではなかったか」
「前回行われた調査でもそれは確認されていましたが、確かに避難民が来ていると」
森の民は王国を裏切り、原生生物を素通りさせている。そして人が居ないはずの場所から来た避難民、疑わしいことばかりだ。破壊工作の可能性も無視できない、受け入れたことで死傷者が出るようなことがあれば大問題になる。受け入れた大量の避難民がパニックにでもなれば、収拾はつかない。
「大隊長、彼らを受け入れますか」
「…今受け入れ中の人々を優先する。何処か人目につきにくい場所を確保できるか、監視の目も通りやすい方がいい」
「重機の格納庫であれば、なんとか」
「避難民が触れられそうなものは隠すか別の場所に移すしかない、悪いが動ける隊を回してくれ」
だが見捨てるというのも、また国際問題に発展しかねない。偵察車両からの報告を待ちつつ、大隊長は考えられる範囲のリスクを脳内で箇条書きにし、それを手元に書き写す。
「偵察車両からの報告ですが、その」
「どうした」
「神を連れているそうです」
「…は?」
流石に神様は想定していない、大隊長の持つペンは動きを止めた。異世界においては神が未だ存在しているというのは国家間の交流で明らかになっていたが、まさかこんなところに現れるとは思いもしなかった。
「こちらへの避難を望んでいるとのことで…大隊長?」
「神、神か。王国が信仰する神は首都近郊にある大聖堂街から出ない上、謁見はまず認められないんだったな」
「そのはずですが」
「何故そのクラスの存在が避難民と共に歩いてくるんだ、何が目的だ!?」
異世界特有の存在に対して、安全保障軍側の理解は進んでいない。研究こそ大々的に行われているが、科学技術との相性が非常に悪いのだ。魔法を使えば電子機器には異常が出て、こちら側の人間が魔法を使おうとすれば何も起きない。サンプルを集めようにも伝手がなく、今はまだ研究するための土台を使っている最中、とでも評するのが妥当な段階だろうか。
「我々で対応可能でしょうか、何かあったとしても対処は…」
「報告のあった偵察車両へ他の車両を集結させろ、纏めてこちらへ来てもらう。彼らに対空火器は好きなように使わせろ」
「それは…」
「こうなれば避難民ごと監視下に置くしかない!我々が足掻こうとどうにもならない相手だ!」
他の避難民には悪いが、VIP扱いをさせてもらう。無論見えないよう配慮はするが、何もかもが未知数な相手に出来ることなど、怒らぬよう慎重に接するくらいのものだ。
ーーー
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増強大隊が運用する偵察車両だが、その上に胡座をかいて座る何者かが居た。かなりの速度を出しているというのに固定されているかのように車から離れず、真っ直ぐ前を見ていた。
「あの、本当に上で大丈夫なんですか?」
「人が動かす物の上に乗るのが好きなのです、ここまで気に入られるのは珍しいのですが…」
「祭りの山車みたいなもんってことか、いやどうなんだろうな」
偵察車両の後部座席に避難民を乗せ、そして車の上に神を乗せている。神と呼ばれる存在は頭から鹿のような角を伸ばし、光の粒のようなものがその周囲を漂っている。着る衣服は避難民と同じ森の民と同じ文化圏のもので、麻のような植物から作られたことが伺えた。
「観測結果出たか?」
「個人用の調査キットじゃ無理だ、数値が振り切れてる。恐らくあの光は励起した魔力が放出してるものだな」
「…人と同じくらいの大きさで、これくらいのエネルギーを内包してるってのか?」
「そこらの爆弾以上だな。爆薬、いや濃縮ウランで換算した方がいいレベルだ、警戒せざるを得ないぞ」
軍人達は異世界の言語から元の言語へと使う言葉を戻し、神についてヒソヒソと話し合う。あの存在が気まぐれに魔法の一つでも行使すれば、この車列はもちろん、採掘拠点すら吹き飛びかねない。
「俺達に害がないなら、それでいいんだが」
「このまま進もう、大隊長の指示だしな」
掻き集められたトラックやバギーによって車列は構成され、そこには百人には届かない数の避難民が乗っている。彼らは森の民という集団を構成するエルフ系種族と特徴を同じくするが、全てが同じというわけではなかった。
「あったぞ、あったはいいが…エルフ系に俺達と同じ薬って使っていいのか?」
「エルフは肉体の1割から2割を魔力と同質のもので構成している、効きすぎる場合があるのに注意だ。だがそれ以外は分からん、正直な意見としては魔法で治療するのが一番だろうな」
「じゃあ出来るのは」
「応急処置くらいだ。内臓も血も何も、俺達の知識は彼らに通用しない」
鎮痛剤の一部は試験を行ったらしく、どうにか使用出来ることが分かっていた。怪我をして血を流す避難民の一人に出来る限りの止血を行いつつ、彼の親族に薬を投与することを伝える。
「これで痛みを和らげることが出来る、拠点に着いたら魔法使いに治療してもらってくれ。それまではこちらで出来る限りのことはする」
「え、あ…治癒の術は使えないのですか」
「すまない、魔法なんてない国で育ったんだ。君達の中で魔法が使えるって連中は重症者への対応中、軽傷者は俺みたいなのが対応するしかない」
「お願いします。魔法など使えなくとも、貴方の手際を見ていたらお医者様であることは分かります」
「…そうかい、ありがとう」
神様とやらは何もしてくれないのかと思いきや、車列が何故か飛行型に襲われていない。助手席に座る兵士が窓を開けて身を乗り出すと、車列の周囲を光のドームが覆っていた。
「すげぇ、これって都市を覆うような結界系魔法じゃないのか?」
「今他の車両からも報告があった。一人で、いや一柱で展開出来るのか!」
「お礼を言っておいてくれ、速度を上げるぞ」
「ありがとうございます神様、恩にきます!」
集中しているのか、車の上の神は軽く頷くだけだ。車列は一気に速度を上げ、途中まで整備が進んでいた産業用道路を目指す。採掘した資源輸送を行うため、そしてインフラ整備という形で周囲に貢献するため、拠点の周囲にはコンクリートで舗装された道路が存在するのだ。
「道路に入っちまえばこっちもんよ、なぁ!」
「おい待て」
「どうした、何が…」
運転手がミラーで背後を見ると、避難民達が皆祈りを捧げるかのようなポーズをとっていた。手を合わせて指を組んだ彼らは、一様に祈りの言葉をつぶやいていた。そっと調査キットを向けると、大量の魔力が放出されているのが分かる。
「神様を手伝ってるのか?」
「かもしれない、兎に角急ぐにこしたことはないな」
「だな、飛行型の心配は要らないんだ」
車輌の上で機関砲や対空ミサイルを抱えていた兵士は、神の展開した傘によって安堵していることだろう。信仰されるのも分かるというものだ。
「そろそろ見えて来るはず…うぉッ!?」
「上だ上、飛行型が叩き落とされてる!」
結界を破れず周囲を飛ぶに留まっていた飛行型だが、ここに来て次々と墜落していく。拠点の前面に展開している二個小隊は車列の援護にまで手が回らないかと思われていたが、今回発砲したのは補給コンテナを輸送していた第三小隊だった。
「第三小隊だ、援護する!」
「ドームみたいなヤツには当てるなよ、神様が張ってるヤツだ!」
「何かと思えばそういうことか、了解」
第三小隊は既に拠点内へ補給施設を設営し終わっており、後は物資の梱包を解くだけだ。彼らはそこまでの規模ではなかった飛行型の群れをあっという間に処理し、他の小隊へ渡すための武器弾薬を抱えて走り出した。
「第三小隊はこれより補給作業に移る、援護はここまでだ」
「もう目と鼻の先さ、ありがとう!」
軍人達は気が付かなかったが、自走高射砲塔に目を奪われていたのは彼らだけではなかった。神が目を見開いてそれを見ていたのを、誰もが見逃していたのだった。
ーーー
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ー
自走高射砲塔部隊が壁の前に展開して少し経ち、第三小隊が補給施設の設営を完了させようとしている。しかし敵の勢いはゆっくりとだが増しており、陸路で移動中の主力部隊が到着する前にこちらがすり潰されるだろう。
「近接戦はリスクが高いんだが、なッ!」
機体の腰に装備したナイフを引き抜き、飛びかかって来た原生生物の胸に突き刺す。そして押し倒されぬよう姿勢を下げ、衝撃を受け止めた。中隊長をやるのも楽ではないというのに、こんな化け物にも絡まれる始末だ。
「隊長!」
「下がってろ!」
10mの巨人が使うナイフとはいえ、相手もまた8mの巨体では致命傷にならない。安全装置を外してとある機構を作動させると、破裂音の後で敵は蹲った。
「流石のお前達も、これには耐えられんだろう」
持ち手の中に格納されていた圧縮空気がナイフの刃を通して敵の体内に流れ込み、内臓を内側から破壊したのだ。中身が具体的にどうなったのかは考えたくないが、有効な攻撃であることに違いはない。
「ああ、クソ…返り血を浴びたな。中隊と拠点は無事か!」
「指揮個体が裏に隠れました、奴ら学習してますよ!」
「砲台と砲兵隊弾切れです、砲撃が止まります!」
「敵の死体に無駄弾を使うな、乗り越えて来た奴を狙え」
部隊員に指示を飛ばしつつ、自らも敵に狙いを定める。指揮個体と思しき機体は他の個体の背に隠れており、狙い撃つのは至難の業だ。
「こちら第三小隊。荷解きが終わりました、これより補給作業に移ります」
「こちら中隊長、よくやってくれた。各員は残弾を確認しろ、多いものが先だ!」
残弾が多い機体の方が補給は早く終わる、その分他人の援護に回れるというわけだ。各機体の残弾はデータリンクによって情報が共有されているため、これを元に順番を決めてしまえばいい。
「補給が来た…これでまだやれますね、隊長殿」
「追加武装も身に付けたいところだがな、肩の一門だけでは火力が足りん」
薄くなった弾幕は原生生物の突破を許し、壁や自走高射砲塔にまで肉薄することが多くなった。未だに敵の大多数はジーノ要塞線への攻撃を続けているとはいえ、敵の数が少しでも増えれば突破されかねない。
「飛行型の指揮をしている個体が見つかりません、かなりの数仕留めたのにその中に居ないなんて」
「隠れているな。だがあまり距離を取れない筈だ、必ずあの中には居る」
壁をよじ登ろうとする原生生物を肩部の40mm砲で撃ち殺し、足元をすり抜けようとする小型種を踏み潰す。そして敵陣に光学センサを向けて睨みを効かせると、敵の背の高さが明らかに違う集団を発見した。
「小さい…いや、部位の大きさは変わらない」
「隊長、何事ですか!」
「穴だ、奴ら死体の後ろに塹壕を掘ってやがる!」
指揮個体が減らないわけだ、奴らは砲撃に対して穴を掘るという原始的である意味最も有効な手段を編み出していた。とは言っても何メートルもある巨体を隠せるものではなく、積み上げた死体を土嚢代わりにすることで防御力を上げているのだろう。
「指揮個体はあの裏か」
「あの死体の山です、隊長の105mm砲でも貫通は無理ですか」
「徹甲弾でも無理だろうな、別の兵器が居る」
補給コンテナに詰めて投下された物の中には、現地で装備するための追加武装パッケージが存在する。これは全翼輸送機の重量制限によるもので、完全武装の自走高射砲塔を四機も載せられないのだ。
「コメット、お前がこの隊で一番弾薬を損耗している。弾薬補給と共に、第三中隊が設営した補給設備を使い追加武装を受領して欲しい」
「追加武装ですか」
「パッケージのコードはR-7だ、一切合切を吹っ飛ばせるロケット弾を持って来い!」
「了解!」
通常の補給作業は運ばれて来た弾倉を受け取り、機体各所に設けられたポーチへ納めるのみだ。しかしより高度な補給作業や機体の応急修理のため、立った状態での駐機が可能な設備が存在する。それが第三小隊がせっせと設営していた補給設備であり、追加武装の取り付けもこれを利用することで容易に行うことができるのだ。
「補給が終わるまでは必ず持たせるぞ、第三小隊で支援に回れる者は居るか?」
「こちら第三小隊です。補給補助用の装備を有する一番機と二番機は補給対応中、三番機と四番機は出せます!」
「悪いが手伝ってもらうぞ。三番機は第一小隊、四番機は第二小隊の穴を埋めてくれ」
「「了解!」」
榴弾砲からの攻撃が止んだのを見て、原生生物達はより活発に動き始めた。更に壁の上の砲台も殆どが弾切れか損傷で動かなくなりつつあり、敵との距離はじわじわと縮んでいく。
「飛行型の動きが変わりました、何か円を描くように上を滞空していま…」
「不味い、肩部の40mmで対空砲火!手持ちの方はそのまま地上の目標を撃ち続けろ!」
火力の半分を空に向け、放たれた砲弾は空を覆う黒い渦と化した原生生物を穿つ。装甲を持たない彼らは次々と落ちていくが、渦全体が端から地上へと向かって降下した。
「陸生型がこんなに…隠れてやがったのか!?」
「黙って撃て、その通りだとは思うがな!」
部下の言葉に小言を挟みつつ、敵に対して内心で悪態を吐く。飛行型の攻勢と同時に地上の個体も温存していた戦力を前に出し、今まで以上の密度で迫る。完全にしてやられた、ここまでの戦術を行使できるとなれば原生生物の脅威は考えていたものよりも更に上だ。
「来るぞ、回避!」
「バード…ドラゴンストライクなんて、悪い夢じゃ」
地上の巨人に狙いを定め、彼らは一斉に襲いかかった。軽いとはいえそれでも全長数メートルの飛行物体だ、落下した勢いのままぶつかれば、その運動エネルギーは下手な砲弾を上回る。
「ああクソッ、被弾した!被弾した!」
「オリオン、被害を報告しろ!」
「左肩をやられました、装甲が凹んで…一応腕は動きます」
「そのまま撃ち続けろ、よく直撃を回避したな」
自走高射砲塔の駆動系は人工筋肉によって構成されており、非常に高い瞬発力を有している。レーダーによって対象の速度と飛行ルートを把握し、最適な回避をパイロットに提案することで、対戦車ミサイルすら回避可能だ。
「隊長、数が減っている気がしません!」
「このまま我々に引きつけろ。奴らの本気が拠点に向かえば、増強大隊の対空兵器でも撃ち落とし切れないぞ!」
「ですが!」
機体へ突っ込んでくる飛行型は自らの死を厭わないため、地面にそのまま衝突することもある。機体と踏みしめる地面が血に染まる中で、大量の敵を捌き続けるしかない。
「ゲイザー隊長。昔ありましたよね、こんなシチュエーションのSF映画。無骨なメカに乗って、街を守るために空飛ぶ敵をひたすら撃ち落とす!」
統制された無駄のない攻撃が飛行型の数を瞬く間に減らしていくが、今回ばかりは数が多過ぎる、この地域に居る個体を掻き集めたのだろうか。この状況下でも自走高射砲塔が健在で居られるのは、その高い対空戦闘能力故か、それとも部下達の腕によるものか。
「物知りだなアーク、悪いが救世主は居ないぞ!」
「分かってますよ!」
明らかにこちらへ被害を与えられないであろう小型の飛行型も同じく突っ込んでくるため、レーダーで捉えた対象の大きさを頼りに避けるか受けるかを選ぶ。衝突した際に響くのは衝撃と、柔らかい物が潰れて広がる音だ。聴くに耐えない、操縦桿を握る手にも必要以上に力が入る。
「クソッ、これじゃジリ貧に…」
『我が子らが世話になったな、異国の者と見るが聞こえているか?』
「通信じゃないのか、これは」
「隊…何が……異常を……観…………」
「部隊との通信がこうなるとは、通信に割り込んで来たってのか?」
これは通信機越しの声ではないと即座に分かった、何故なら誰かと直接繋がっているかのような感触と共に声が伝わってくるからだ。脳髄に直接冷たい何かが繋がり、その温度がこちらにも伝わってくるかのような感覚が身体を襲う。
『貴公がこの巨人らの長なのだろう、確かにそれに見合う戦いぶりだ。あの魔獣と直接斬り合うなど、久しく見ておらん』
「魔法による通信か、魔力警報器がガーガー鳴りやがって…」
『我が子らを助けてもらっておいて、何もせぬのは道理に反する。そこで一つ手を貸してやろう、名乗れるか?』
「異世界間安全保障軍、王国方面空中機動部隊、第三自走高射砲塔中隊中隊長、ゲイザー!」
『真の名ではないか、用心深い奴よの。だが嫌いではない、その精神こそ我の力を振るうに相応しいか』
計器が異常値を示し、OSが悲鳴をあげるかのごとく警告文とエラーを表示する。それを見る限り機体の動力源に使用されている触媒、魔石の一種に何かが起きたと推測出来た。
「な、にが」
次の瞬間、機体の周囲をドーム状の何かが覆っていた。それは飛行型の侵入を拒み、その範囲は採掘拠点をすっぽりと収めるほどだ。部隊員達は困惑しているが、銃を撃つ手は緩めていない。
『その巨人の心臓だが、貴公らが思っているより良いものだ。触媒として、これ以上の大きさと質を持つのは貴重極まりない』
「まさか、これを通してドームを作ったのか!?」
『簡単に組んだ一時的なものだ、小さい魔獣しか止められぬ故過信はするなと言いたいが暫くは持とうぞ。その間に貴公が奴らを蹴散らせ、丁度良いものもあるのでな』
そう言われたかと思うと、機体の前に一本の剣が突き刺さった。白兵戦用の追加武装パッケージ、M3ロングソードだ。儀礼用として用いられることが多いが、特殊鋼と異世界技術を利用して作られた刀身は軽く、そして強靭だ。
「全て言われた通りというのも癪だが、そうさせてもらう」
『その巨人は既に我の力を受けている、並の状態だとは思わぬことだ』
「そうかい!」
補給物資の中から勝手に取り出したのだろうかと思いつつも剣を掴み取り、ドームの外へと飛び出す。そして迫る敵には反対の手に持つ105mm砲を向け、引き金を引いた。すると砲弾は光を纏って飛翔し、8メートル級原生生物を吹き飛ばした。そしてその後ろに居た数匹も纏めて殺傷し、地面には肉片、眼前には血煙だけが残る。
「…は?」
『言ったであろう、この阿呆が』
「この反応はまさか、励起した魔力を砲弾と一緒に」
『その筒から打ち出したまでよ、便利だなソレは』
頭に響く声がさも当然かのように言うことに衝撃を受けつつも、確かめるように操縦桿のトリガーを引く。すると先程と同じように砲弾が放たれ、敵集団を纏めて消し飛ばしていく。しかし無理をさせていたのか、砲身が爆ぜた。
「上手い話ばかりじゃないか」
『剣を使うことだ、そちらなら耐えられるだろうて』
「言ってくれる!」
銃を捨て、両手で剣を握る。格闘戦用のモーションデータは入っているが、どこまでやれるかと冷や汗が頬を伝う。飛びかかってくる敵に対して剣を袈裟斬りの要領で振り下ろすと、二つに分かれた肉の塊がそこにはあった。
「…嘘だろ」
「た、隊長!ゲイザー隊長!何が起きたんですかこれは!」
語りかけて来ていた何者かは居なくなり、部隊との通信が復旧する。この機体がしでかしたことによって、部下達は大慌てをしているらしい。それも当たり前の話だ、ここまでの異世界技術をこの機体は、いや人類は有していない。
「コメットか、補給は終わったか?」
「補給と武装の取り付けは終わりましたが…」
「説明は後だ、こっちが指定するポイントに全弾ぶっ放せ!やれるな!」
「りょ、了解!」
損傷した味方への負担を減らすため、少し前に出て囮になるつもりだった。だがこれはなんだ、剣を振るうと敵が死んでいく。機体本来のスペックでは、何をどう頑張ってもこうはならない。
「撃て!」
「撃ちます!」
コメットの放ったロケット弾は寸分違わず敵の浅い塹壕へと飛び込み、その威力を遺憾なく叩きつけた。下手な巡航ミサイル以上の炸薬量を持つそれの爆発によって、土煙と敵の死骸が飛び散り、飛行型は統率を失って四方八方へ散っていく。
「司令部へ、こちらゲイザー。飛行型を操っていた指揮個体を撃破」
『よくやった、その機体の状態に関しては後で聞かせてもらうぞ!』
後方で待機を命じられていた航空部隊は嬉々としてこちらへ来てくれるだろう、ジーノ要塞線への援護も間に合うかもしれない。機体に剣を振るわせながら空を見るが、死を恐れず突撃して来た飛行型はもう居ない。
「中隊各員へ。陸生型は当機がある程度引き受ける、そちらは飛行型を優先して狙え、輸送機の道を開けるぞ」
「「了解!」」
ーーー
ーー
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航空戦力の投入から二日後、原生生物の大移動は王国の勝利で幕を閉じる。ジーノ要塞線は大損害を被りつつも粘り強く耐え続け、採掘拠点から行われた砲撃支援により形勢が傾き、異世界間安全保障軍の主力部隊が到達したことで、原生生物は退けられた。
後から分かったことだが、自分に干渉して来た存在はこの世界の神様だったらしい。それについての対応を巡って上官達はてんやわんやだ、暫く監視付きの個室から出られそうもない。
『我が人に力を貸すと大抵こうなるな、何故だ?』
「こっちにはこっちの考え方があるんですよ、カミサマ」
『そういうものか…』
だがまぁ、話し相手には困らないのは良いことだ。