やはり俺の逆行は間違っているのか?   作:ペンギンって可愛いですよね

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第十五話 夕食のあとで

夕食が終わり、

静かに食器が下げられていく。

 

小町はすっかり打ち解けた様子で、

陽乃に捕まりながらデザートを口に運んでいた。

陽乃は相変わらず楽しそうで、

その少し離れた場所で、雪乃が紅茶を飲んでいる。

 

そのときだった。

 

「八幡くん」

 

雪ノ下母が、穏やかな声で俺を呼んだ。

 

「少し、こちらへ来てくれるかしら」

 

……来た。

 

この家で「少し」と言われて、

本当に少しで済んだ試しはない。

 

小町が不安そうにこちらを見る。

 

「おにいちゃん……?」

 

「だ、大丈夫だ」

 

(大丈夫じゃない)

 

陽乃はにこにこしながら手を振った。

 

「ほらほら、行っておいで。

大人のお話だよ~?」

 

(お前が言うな)

 

 

◆ 応接室

 

通された部屋は静かで、

余計な音が一切ない。

 

ソファに腰を下ろすと、

雪ノ下母も向かいに座った。

 

「食事中は、落ち着かなかったでしょう」

 

「いえ……」

 

「でも、あなたの様子はよく見ていました」

 

嫌な予感しかしない。

 

雪ノ下母は紅茶を一口飲み、

こちらをまっすぐ見据える。

 

「あなたは、陽乃を怖がっていましたね」

 

(否定できねぇ……)

 

「ただし、それは

理由のない恐怖ではなかった」

 

胸の奥が、きしりと鳴る。

 

「表面的な明るさではなく、

その奥にあるものを見ている。

そういう怖がり方でした」

 

(……それは、未来を知ってるからだ)

(……言えないけど)

 

「学校の成績はすべて満点。

人の感情の機微にも、異常なほど敏感」

 

“異常”という言葉が、

妙に重く響いた。

 

「雪乃への接し方も、印象的でした」

 

「……?」

 

「あなたは彼女を、

特別扱いしていない」

 

それは、自分でも意識していなかった指摘だった。

 

雪ノ下母は、少し間を置いてから続ける。

 

「八幡くん。

あなたは――隠れギフテッドなのでしょう?」

 

一瞬、思考が止まる。

 

(……は?)

(違う。全部逆行のせいだ。未来を知ってるだけだ)

 

……だが。

 

(……待て)

(この誤解、逆行がバレるよりはるかにマシだ)

 

雪ノ下母は、俺の沈黙を肯定と受け取ったらしい。

 

「ギフテッドの子は、

自分の能力を隠そうとする傾向があります」

 

「周囲と違う自分を、

無意識に避けるから」

 

(……そこは否定できない)

 

「安心していいわ」

 

その声は、静かで確かなものだった。

 

「あなたは異常ではありません。

ただ――」

 

一拍置いて。

 

「他の子より、

少し世界が広く見えているだけ」

 

胸の奥が、妙に熱くなる。

 

「あなたの存在は、

陽乃や雪乃にとって

良い刺激になるでしょう」

 

雪ノ下母は微笑んだ。

 

「私は、そう思っています」

 

俺は何も言えなかった。

 

この“誤解”は、

都合がいい。

だが同時に、

重たい。

 

 

◆ 扉の外で

 

応接室を出る。

 

ドアを開けた、その先に――

雪乃が立っていた。

 

背筋を伸ばし、

こちらをまっすぐ見ている。

 

「……雪ノ下」

 

声をかけると、

雪乃は一瞬だけ視線を揺らし、

それから静かに口を開いた。

 

「……少し、聞こえてしまいました」

 

(“少し”ね。完全に聞いてたな)

 

「比企谷くんが……

“隠れギフテッド”だと」

 

「いや、それは……」

 

雪乃は首を横に振る。

 

「納得しました」

 

その声は、驚くほど落ち着いていた。

 

「あなたは、人を見る視点が違う」

 

一歩、距離が縮まる。

 

「お姉さんの仮面に気づいたこと。

私を、特別扱いしなかったこと…」

 

(未来を知ってるからだ……言えないけど)

 

雪乃は少し俯き、

それから顔を上げた。

 

「……あなたのような同年代の人に、

私は会ったことがありません」

 

胸が、わずかに跳ねる。

 

「お姉さんのように、

あなたを面白がるつもりはありません」

 

その言葉は、はっきりしていた。

 

「私は…

あなたの考え方を知りたい」

 

逃げ場のない、静かな声。

 

「あなたが、

何を見て、

何を考えているのか」

 

俺は答えられなかった。

 

雪乃は小さく一礼する。

 

「これからも……

よろしくお願いします」

 

そう言って、

彼女は廊下を歩いていった。

 

俺はその場に残り、

深く息を吐く。

 

(……ギフテッド扱いって、

安全圏に入ったつもりで、

むしろ首輪かけられてる気がするんだが……)

 

それでも――

もう引き返せないところまで

来てしまったのだと、

はっきり理解していた。

 

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