L side
「いい加減にしろ!(してください)」
仲間たちの声が響く。どうやら私はまた作業に過度に没頭し、倒れたらしい。
「すみません」
と、私は小さく答える。その時、ミサさんが私の胸ぐらを掴んだ。心配を苛立ちが上回っている眼だった。私は瞬時にこれから起こることを予想し、衝撃に備えるように目を閉じた。
バシッ
彼女の小さく細い手が頬に振り下ろされる。私はされるがままに顔を横に向け、予想通りの痛覚を感じた。その態度がよほど気に食わなかったのか、彼女は甲高い声をあげて泣き出した。
「馬鹿、、なんで抵抗しないの、、してよ、、あんた、M?ほんと、、馬鹿、、」
「私はLです。抵抗しなかったのはミサさんがスッキリできるならそれでいいと思ったまでのことです。ミサさんが私に抵抗することを期待していたのは少々意外でした。」
「、、そんなの知ってるし!ってか何その理由!自分ばっかクールぶっちゃって!私が馬鹿みたいじゃん!」
「はあ、、L。お前はほんとに人の気持ちがわかんないんだな。僕も1発引っ叩いてやりたいほどの鈍さだ」
私は、ミサさんの金切り声とライトくんの呆れた声を聞きながら「すみません」と言った。
その後、松田さんに正座させられ、説教が始まった。
「何度言えばわかるんだ!」
「もう!頭いいくせに馬鹿!」
「もっと健康ってやつをですね、、」
「25にもなって、、そんなんじゃワタリさんが悲しみますよ!」
「そーだそーだ!、まじで!、えと、馬鹿!アホ!、そーだそーだ!」
「ミサ、、語彙少なすぎだろ、、L怒ってる暇あったら国語辞典でも読んでこい」
「ライト、酷い!L、バーカ!砂糖中毒!不健康男!寝ろ!」
「そういうところっすよ、、あっLに言ってますからね!」
私は機械のようにただただ「すみません」と繰り返した。ニアが説教に加わらなかったのは救いだが、少し遠くからこちらを見ていた彼の「あとで覚えてろ」とでも言いたげな表情を見て絶望した。それでも、松田さんがアレを言うまではただ謝ってやり過ごすつもりだった。アレを言うまでは。
「Lって、、ほんと変人っすよね、なんでそんなにだらしないのか理解できないです。理屈ばっかで生活レベルは小学生以下。正直、言い方悪いですが頭の良さ忘れそうになります」
いつも優しく明るい松田さんからは想像できないほどの冷たい声が響く。私は思わず目を大きく見開いた。それを聞いた二人はすかさず「こればっかりは否定できない」と彼に同意していた。私は、それを聞いた途端自身の中でピンと張っていた糸がプツンと切れ、はらはらと堕ちていくような音がした。生きてる中で薄々気づいていた紛れもない「理解されない」という事実がはっきりと、否定できない形で突きつけられた気がした。気がつくと、私はニヒルな笑みを浮かべ、口が勝手に動いていた。ニアが驚いた表情でこちらを見ていたが、心底どうでも良かった。
「分かってます、、わからなくて当然ですよね、、いいんです、、予想通りです、、想定内です、、」
そうぶつぶつと繰り返す私に彼らは焦り出し、「なんてね!」「そういうドッキリですよ!」「そう!だから気にするな」とフォローを入れてきたがもう遅い。私は、長年諦めたようで諦め切れなかった「理解」を、信頼した仲間に「諦めろ」と現実を突きつけられた。そして、今絶望と解放感が混ざり合った複雑な感情を抱いているが、快楽の方が圧倒的に多かった私は顔にそれが出ていたらしい。ただ、もうどうでも良かった。そんな中、ニアが立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「L。あなたは正気を失っています。一度落ち着いてください」
私は「正気を失っている、ですか。確かにそうかもしれません」と淡々と返した。私の意に介さない様子を見て苛立ちを募らせたのか、彼は低く「L。目を覚ましてください。」と言い、こちらをジッと睨みつけた。私は”どうせ叶わない無駄な期待をこれ以上し続けろというのか”とニアの態度に少しの苛立ちを感じたが、それすらもうどうでもよかった。ただただ漠然とした高揚感に身を委ねているのが心地よかった。だからなのか、私はニヒルな笑みを浮かべたままニアの方を見ずに小さく
「それにしても、理解への期待を完全に手放すことがこんなにも快感をもたらすとは知りませんでした」
と付け足した。松田さんは自身の言った言葉の重さを痛感しているのか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そんな彼の様子は気にせず、私は窓を開けて空を十分に眺めたあと、早まろうとした。正直、もう疲れた。自分としては普通にしてるつもりでも周囲からは変人扱いされ、信頼した仲間にすら「さえ理解できない」と言われ、長所も霞むほどだと厳しい現実を突きつけられた。今までどこか理解してくれることに期待していた私はここで「無理なことだ」と悟ってしまった気がする。そして、それが分かった今、もはや生きる気力も枯渇した。ニアとライト君が二人がかりでなんとか止めたが、私は以前とは違いどこか無気力になった。そんな私を見て彼らはただただ後悔に打ちひしがれ、「戻りたい」と何度も何度も呟いていた。
END
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