トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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12 間者

 

中央暦1639年2月18日午前 ロウリア王国 王都 ジン・ハーク とある建屋

 

 

「どうだ? 写真はうまく撮れていたか?」

 

 相棒の質問にケラールは答える。

 

「ああ、バッチリだ。あの200メートルクラスの軍艦がしっかりと撮れてる」

 

 現像の結果は上々だ。これだけしっかりと撮れていれば、また乗り心地の悪い馬車で港まで撮りに行かなくてもいいだろう。

 

「これなんかどう見ても空母だ」

 

 ここロウリア王国はどう見ても古代の蛮族の国だ。馬車にはバネすら使われていない。

 武器もマスケット銃はおろか原始的な火砲すらもない。

 ワイバーンとかいう空飛ぶトカゲはちょっと面倒だが、機銃の敵ではない。ここには脅威となる存在はない。

 昨日までそう思っていた。

 港に艦隊がやってきたと聞くまでは。

 

「ああ、無線で連絡したら、潜水艦を寄越すと言ってきた。10日後に海岸に来る。そこで写真とフィルムと報告書を渡す手はずだ」

 

 空母は脅威だ。

 

「空母には何も載っていないな。艦載機が姿を見せてくれると写真に収められるんだが・・・」

 

 写真が撮れれば本国で性能を推定できる・・・

 

「誰だ!」

 

 相棒の声にケラールも窓を振り返る。

 換気のための小さな隙間が開いている。だが誰もいない。

 

「どうした?」

「あ、いや、今、誰かが覗いていたような気がしたんだが・・・」

「そうか。念のため、確認・・・」

 

 ドンドンドン!

 

 突然ドアの音が鳴り響いた。

 

 誰かがドアを叩いているのだ。

 ケラールの心臓は一気に速くなる。相棒の顔にも緊張が走っている。

 拳銃を手に取り、ゆっくりとドアに向け、相棒に静かにするよう合図する。

 

 ドンドンドン!

 

「王都守備隊だ! 聞きたいことがある、開けろ!」

 

 ドアの向こうから怒鳴り声が聞こえる。

 聞きたいことがあるとは、穏やかじゃない。

 ここにあるのは見られるわけにいかない物ばかりだ。

 

「マズいぞ。どうする」

 

 相棒が不安そうにこちらを見てる。

 

「とりあえずヤツを殺して、ここを引き払おう」

 

 ここではもう続けられない。

 ケラールは撤収を決めるが、そのまえにこの状況を脱しなければならない。

 

「周囲を確認した方が良いな」

 

 すると大きな声が外から響いてきた。

 

『えー、君たちは完全に包囲されているっ! 無駄な抵抗は止めて、おとなしく出てきなさーい!』

 

 その声はケラールの予想を超えた金属の響きを持っていた。

 

 拡声器だと!

 なぜ蛮族の国に拡声器があるんだ?

 

“おい! コールダー殿! 勝手なことをするな!”

“あ、いや、これは・・・”

 

 言い争う声がする。

 外の連中が内輪揉めしているのか?

 

 ケラールは裏窓から外をそっと覗いた。

 裏の細い道に王国の鎧姿の兵士が並んでいる。

 相棒が表の窓から様子を伺うが、どうやらあちらも同じのようだ。

 

 くそっ! ホントに包囲されてるじゃないか。

 

「これは・・・強攻策しかない。武器の準備だ。小銃と手榴弾で突破するぞ」

 

 どうせ古代の兵隊だ。小銃で排除してずらかるくらいワケない。

 

 二人で隠し場所から武器を取り出していると、音が響いた。

 勢いよくドアが破られた音だった。

 

 鎧姿の兵士達がぞろぞろと入ってきて、剣を構え近づいてくる。

 捕縛するつもりはないのか?

 

 ケラールはすぐさま小銃を構えようとした。

 が、できなかった。

 突然、小銃が手から離れて床に落ちた。いや、たたき落とされた。

 

「うがっ!」

 

 声を上げるが、激痛は一瞬で消え、腕の感覚が分からなくなる。

 

 ――腕がなくなった?

 

 慌てて腕を見ると、腕はまだ繋がっていた。

 痺れているだけだった。

 

「危ないじゃないか!」

 

 真後ろから声がした。

 振り返ると、そこにいたのは古代の国にあるまじき軍服を着た男だった。

 右手に警棒を握り、左の手の平にペチペチと軽く打ち付けている。

 

 何だ、こいつは!

 いつの間に後ろに? まったく気付かなかったぞ!

 

「おとなしくしろ!」

 

 軍服男が命じてきた。

 

 ――もはやこれまでか。

 

 そう思った瞬間、何かが動いた。

 相棒が手榴弾を手にし、ピンに手を掛けようと腕を動かしたのだ。

 

 相棒の腕は痺れていなかったようだ。

 

 だがピンに指が届くことはなかった。

 その前に手榴弾を持つ腕が上に跳ね上がったのだ。

 

「ぎゃあっ!」

 

 相棒の悲鳴が響いた。

 軍服の男が警棒を下から上に振り上げたとしか思えなかったが、ケラールにはその動きは見えなかった。

 手榴弾が宙を舞う。

 

 ――落ちる!

 

 そう思う間もなく、軍服の男の手が現れて手榴弾を掴んだ。

 

 ――速い!

 

 目にもとまらぬ速さとはこのことだ。

 ケラールは目を疑う。

 

 相棒は悲鳴を上げ、後ろに倒れるように床に尻餅をついた。

 腕が変な形に曲がっている。どう見ても折れている。

 

「おとなしくしろと言っただろ」

 

 軍服男の声は冷たく、その場を支配する。

 鎧姿の兵士達の中にあって、あまりにも異質な姿だ。

 軍靴をコツコツと鳴らしながら、ケラールに近づいてくる。

 

 ふと気付くと、いつの間にか王国の兵士に両腕を押さえられていた。

 どうせ両腕が痺れて動かないというのに。

 軍服男はケラールに近づき、身体をまさぐる。

 どこを探せば良いのか分かっているのか、すぐに拳銃と手榴弾を見つけ出して取り上げた。

 狭い家の中に兵士達が次々と入ってくる。

 

 どうやら万事休すのようだ。

 ここは古代の蛮族の国だ。

 おそらく拷問の末、殺されるだろう。

 

 ケラールは視界が揺れ、足下がおぼつかないまま、兵士に引きずられながら、自分の命運が尽きたことを感じていた。

 足音だけが耳に響いていた。

 

 

 

「ニールセン殿! 我らだけで捕らえると言ったはずだ!」

 

 事が済み、守備隊隊長のローデンは、列強の兵士を思わせる品格ある服装の男に抗議した。

 

 話が違うじゃないか。

 キサマらは案内するだけで、捕縛はこちらの仕事だったはずだ。

 しかもとんでもない剣術を見せつけおって!

 剣じゃなくて鉄の短棒だったが・・・

 

「そのつもりでしたが、自分が手を出さなければ、貴官の兵士達は射殺され、さらにはこの家と共に爆殺されるところでした。小銃と手榴弾は洒落になりません。監査府直轄軍ではこういう場合、緊急避難として、命令に従うよりも安全の確保を優先することになっています」

 

 ニールセンが、悪びれる様子もなくそう言った。

 ローデン隊長は自分たちの領分を侵された不満で言い返したかったが、話の半分も理解できない。

 

「魔道銃を持っていたのは分かるが、手榴弾というのは何だ?」

 

 銃は聞いたことがある。亜人国家への侵攻準備に入っている東部には密かに持ち込まれているという噂もある。

 だが手榴弾などというものは聞いたことがない。

 

「爆弾の一種ですよ。爆弾は知っていますかな?」

 

 後ろから聞こえる声に振り向くと、もう一人の男がいた。

 

 そういえばこいつもいたか・・・

 

 品格ある服装に包まれ、背筋を伸ばして立つニールセン殿と違い、この男は土色にくすんだ傷んだガウンを無造作にまとっている。よく見ると裾がかすかにすり切れている。

 その姿勢は、肩を丸め、片手をガウンに突っ込んでいて、だらしがない。

 歩き方も、キビキビと歩くニールセン殿と違い、バタバタとしていて品がない。

 しかも静かに、と唇に指を当てるから何をするのかと思ったら、勝手に窓を覗き込みやがった。ゲスなやつだ。

 

 だがその目つきは確かに鋭い。

 

 ニールセン殿が敬意を払っている所を見ると、これでも領主の子弟か何かなのかもしれない。領地をもらえずに放り出され、やぐされてしまう子弟がいるという話は耳にしたことがある。

 

「爆裂魔法を封じた魔道兵器のことだろ、コールダー殿」

 

 それくらいは聞いたことがあるぞ!

 

 ローデンがそういう意味で返すと、コールダー殿は目をそらすように部屋を見回し、曖昧な声で答えた。

 

「まあ・・・そんなようなものです。この家ごと、自爆するつもりだったようですな」

 

 また聞き慣れない言葉が出てきて、隊長は眉をひそめる。

 

「自爆? 何だそれは?」

「自分ごと爆発することです。あやうくこの家もあなたの兵士達も吹き飛ぶところでしたよ」

 

 なんと!

 間者が自害するのはわかるが、爆裂魔法で自分ごと吹き飛ばそうとするとは!

 ニールセン殿はそれを防いだということか。

 

 ローデンは背筋に冷たい物を感じた。見ると部屋に残った隊員達も心なしか青ざめている。

 危ないところだったと今さら気付いたのだ。

 

「・・・それにしても、この部屋にあるモノはなんだ?」

 

 気を取り直してコールダー殿に尋ねた。

 部屋を見渡すと見慣れない奇妙なものが、いくつも目に入る。

 

「これは電信無線機ですな。通信機ですよ。どうやら入切信号でやりとりしていたようです。そしてこれが・・・」

 

 コールダー殿が歩きながら一つ一つ手で示していくが、よくわからない。だがこれはわかるぞ。

 

「魔写だな。初めて見るが話に聞いたことがある。見たことがない船が描かれている。なんだか大きそうだが、絵ではよくわからんな」

 

 ローデンはまだ港に行ってないので軍艦の姿を知らない。

 

「他にも、ここの兵士の様子や、飛竜なんかが写っているものもありますよ。彼らはどこかの諜報員というところでしょうか」

 

 やはり間者か。

 だが自分の知る間者とは随分と様子が違うな。

 

「そこのところは、じっくりと聞き出すとするか」

 

 何を探っていたのか。

 目的は何か。

 

「事情聴取には、我々も参加したいのですが、よろしいですか?」

「尋問は我々がやる!」

 

 コールダー殿の言葉に、ローデンはすかさず明言した。

 さすがにこれは譲れない。ここは王都だ。われわれ王都守備隊の仕事だ。

 

「ですが、ここにある物が何なのか分からないと、聞き出しても話を理解できないのではありませんか。うちの調査員ならその点大丈夫です。調査員の中には聴取の専門家もいます。より正確な情報を聞き出せるはずですよ」

 

 鋭い目で辺りを見回すコールダー殿に言われて、ローデンも部屋を見回す。

 

 ふと黒い小さめの箱が目に入る。

 

 箱に円い筒が差し込まれているのか?

 筒の中に見えるのはガラスか? 水晶か?

 

 確かに見慣れない物ばかりだ。

 

 分からないと話を理解できないか・・・

 確かにそうかもしれない・・・

 

「・・・なら上に訊いてみるが、認められないと思うぞ」

 

 

 

 ローデンは上に報告した後、尋問にトルキナ人を入れることについて判断を仰いだ。

 

「は? 認めるのですか?」

「ああ、大王様直々のご命令だ」

「そうですか・・・」

 

 大王様は守備隊の誇りなど気にしてくださらないのか・・・

 

 聞き出した話を解する助けにはなるだろうが、それでもローデン隊長は素直に喜べない心持ちであった。

 

 

 

同日 午後 ジン・ハーク城

 

 

「グラ・バルカス帝国だと? 最近聞いた名だな。確か第2文明圏で暴れている新興国だったか」

 

 王はその名前に聞き覚えがあった。

 

「はい。捕らえた者はそこの間者で、その帝国の邪魔となる存在がないか調べていたそうです」

 

 王都守備隊長が片膝を突いたまま答えた。名前は確かローデンだったか。

 

 邪魔となる存在?

 

「まさか、ここまで攻めてくるつもりじゃないだろうな?」

 

 第2文明圏から来るわけがないか・・・

 

「そのまさかのようです」

「なんだと!」

 

 わが王国を狙っているというのか!

 

「なんでも250メートルを超える軍船を持っているそうです。事実なら現在、北の港を騒がしているあの連中の軍船よりも大きいことになります。間者の一人は『お前たちはひとたまりもないぞ』などと話しています」

 

 ――なんということだ・・・

 

 トルキナ連邦がやって来ただけでも大変だというのに。

 他にも巨大な船を持つ国がわが国を狙っているのか。

 ん? 待てよ?

 

 ここで王は違和感を覚えた。

 

 間者がこんなに早く話すのだろうか。

 もう少し時間が掛かりそうなものだが。

 

「それにしても、ずいぶんとベラベラと喋るな。われらを騙そうとしているのではないか?」

 

 すると隊長がやや戸惑いがちに答えた。

 

「それが、トルキナ連邦の捜査員が協力してくれているのですが、あの女の魔法にかかれば、訊かれたことに答えてしまうそうです」

「そんなこともできるのか・・・」

 

 側に控えていた魔道士ヤミレイが青い顔で、目を丸くしている。

 

「危険ではないか! われらの機密も聞き出されてしまうぞ!」

 

 隊長に向かって声を荒げたのは近衛隊大隊長ランドである。

 ローデン隊長は頭を下げたまま答えた。

 

「連中がその気になれば、そうなると思います。女の言葉を信じるならば、連中を攻撃する素振りを見せたりしない限り、この魔法を使うことはないようです。今回の場合は、あの間者どもが、わが隊を案内してくれた二人を殺害する動きを見せたため、この魔法を丸1日だけ使用する許可が最高監査人から下りたと、そう話していました」

「なんと・・・そんな魔法は聞いたことがない・・・」

 

 ヤミレイがつぶやく。ヤミレイでも知らぬ魔法なのか。

 

「最高監査人・・・あの男だな・・・だが建前はどうとでもできよう」

 

 王はうなだれるように背もたれに寄りかかる。

 

 あの化け物みたいな魔力を持つ従者を連れた男。

 ヤツらは魔力が強いだけではなく、聞いたこともない魔法を使うのか。

 少しも勝てる気がしないではないか・・・

 

 覇道を掲げてきたはずの自分が、今や未知の魔法と巨大な軍船の影に怯えている。

 港から戻ったミミネル将軍は真っ青な顔で報告してきた。

 巨大な鉄の船にカタパルトの巨大な腕が何本も生えていたと。

 

 たった2日で王国の威信も、大王の威厳も、すべてが揺らいでしまった。

 王座の大きな背もたれはもはや自分の威厳を示すことはなく、むしろ生け贄を捧げる台として、王の体を差し出しているようだ。

 

 だが余は王だ。

 それでも立ち続けなければならぬ。

 

 王は震えそうになる心を押さえ込み、この危機を乗り越えようと決意するのだった。

 

 





 原作キャラに適任が見あたらなかったので、ローデン隊長はオリキャラです。
 もちろんケラールもです。


 次回の更新は今夜の予定です。
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