トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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13 帝国

 

 

同日同時刻 北の港沖 

連邦第13軍海軍団甲艦隊 旗艦 輪空母艦「銀鷹」 監査人執務室

 

 

 ジローに伝えねばならぬ。

 

 ニムディスは一旦旗艦に戻ったジローを追いかけて、自分も戻ってきた。

 諜報員から聞き出した情報は驚くべきものであった。

 ニムディスは身分を偽り、姿を偽り、種族を偽って、監査人ではなく監査員として尋問に参加したのだった。監査員というのは監査人の部下であり、さまざまな業務を任されている。

 

「今回捕縛したのはグラ・バルカス帝国なる国の諜報員じゃった。帝国の邪魔になる存在がないか、調べていたようじゃ」

 

 ジローの表情は変わらない。

 

 特に驚きはせぬか。じゃがこの後はどうじゃろうの。

 

 ニムディスは話しながら夫で同僚のジローの表情を見ていた。

 

「近々ここに潜水艦が来ることになっており、感光膜と報告書を手渡す手はずとなっておった。連絡手段は無線じゃが、やりとりには入切信号の一種を使っておった。隠れ家の屋根には感棒が堂々と立っておったらしいぞ。おかげですぐに見つけられたそうじゃ」

 

 入切信号とは通電の()り切りの組み合わせで作る電気信号のことである。

 感棒とは電波を受信するためのもの。

 感光膜とは光が引き起こす化学変化を利用して写真を写す膜のことである。

 いずれも連邦公用語である。

 

 どうじゃ。これまでとは随分違う水準の国の話じゃ。驚くが良い。

 

 ニムディスはジローの反応を待った。

 

「潜水艦? それはまずいな。この艦隊には対潜装備を持っている艦はあったかな?」

 

 ジローの表情が曇り、声も低い。

 

 潜水艦とはあれじゃろ? ドラゴンから身を隠せる輪船じゃろ?

 何がまずいのじゃ?

 

 ニムディスは潜水艦を知っていたため、ジローの反応に怪訝な表情を浮かべてしまう。

 

「爆雷なら護衛艦に備わっています」

 

 そう発言したのはその場にいたマリー・シモン海軍団中尉だった。

 この旗艦で監査人の世話を担当してくれている第13軍の将校である。

 

 確か『護衛艦』とは、重対空艦や輪空母艦などの主軸艦を護るために同行する軍艦のことじゃったか。遠距離攻撃を担当する主軸艦とは違い、近接攻撃を担当しておる。つまり「主軸艦を護衛する艦」のことじゃな。

 ニムディスは言葉の意味を思い出していた。

 

「あれって飛行隊が落とすヤツだよね。艦には音探を備えているのかい?」

 

 飛行隊とは飛行魔法で空を飛ぶ部隊のことである。

 

 爆雷というのを抱えて飛び、潜水艦の上に落とすのじゃろうか?

 それにオンタン? 何の事じゃろうか?

 

 ニムディスは話についていけなくなりつつあった。

 

「オンタンとは何でしょうか?」

 

 中尉が尋ねた。

 おお、良い質問じゃぞ、マリー。

 

「音の跳ね返りで水中の相手を見つける装置だ。現代装備群には備えてあるんだが、近代装備群には備わっていないのか・・・」

 

 

 現代装備群か――

 

 この言葉にニムディスは昔を振り返る。

 

 

 連邦軍は装備によって3種類に分かれておる。

 

 古典装備群と近代装備群、そして加護に頼らず、魔法を使わない現代装備群。

 

 現代装備群は夫ジローの強い意向で作られたが、長らく強い批判に晒されておった。

 爆発魔法があるのに火薬類を求め、強化魔法があるのに合金類を求め、踏輪機構があるのに蒸気機関を求め、内燃機関を求めた。膨大な時間と労力、巨額の税金を使い、徐々に作り出していった。

 やがて探知魔法があるのに電探を求め、魔法が使えないと思われた宇宙に人工衛星を打ち上げると言い出す。

 他に潜水艦、回転翼機、機雷、魚雷など「一体何と戦うつもりなのか」と批判を浴びながら研究開発を進めておった。

 

 今でも思い出す。

 議会の場で、ジローは何度も批判の矢面に立たされておった。

 

「SS級がいればドラゴンなど敵ではない!」

「仮にSS級で力不足だとしても、そんな時のための魔法工学兵器だ!」

「非魔法工学兵器など閣下の趣味ではないか! 税金の無駄だ!」

 

 質疑に立つ代議士どもの声は嘲笑と非難に満ちておった。

 加護と魔法と戦技の力にうぬぼれ、火薬や合金、発動機を「監査人の玩具」としか見ていなかった。

 

 ジローは静かに説明を続けた。

 

「魔力が尽きれば魔法工学兵器は沈黙します。その時のために非魔法工学兵器が必要なのです」

 

 その言葉は、議場の空気を一瞬だけ静めた。

 だがすぐに、再び嘲笑が響いた。

 傍聴席で見ておったが、無礼な代議士どもに腹が立って仕方がなかった。

 わらわであれば、あのような無礼には到底耐えられぬ。

 同時に、真摯に説明を続ける夫の姿を見て、これがジローの言う議会民主制なのかと感心もした。

 それでも予算が認められたのは、執政人の配慮と一部賛同者の協力のおかげじゃった。

 それと政治的取引じゃな・・・

 

 そして――予言のとおりドラゴンどもが現れた。

 

 ドラゴン――それは加護と魔法、そして戦技の天敵じゃった・・・

 

 ドラゴンが近づくと加護は消失し、無敵と思われたトルキナ人はみな力を失い、魔力を失い、戦技も使えなくなった。

 探知魔法は沈黙し、本土襲来を許してしもうた。

 爆発魔法は発動せず、魔法工学兵器は動きもしなかった。

 

 権都の戦い、と呼ばれるドラゴン連の襲来では、近代装備の第8軍が壊滅し、半数が命を落とした。その中にニムディスとジローにとって大切な者も含まれていた。権都は破壊され、大勢の市民が命を落とした。

 予想外の事態に連邦政府はもはや為す術がないかに思われた。

 

 そんな折り、現代装備群の一個軍である第5軍が、受け持ちのローハ共和国から南下、ゴンドー共和国に入り、権都に進軍した。

 加護を失っても動かせる蒸気回扇の軍艦からの艦砲、蒸気機関車で運んだ列車砲、徹甲弾、火薬榴弾、成形炸薬弾、噴進弾。発動機で動く急降下爆撃機。

 

 ――魔法を使わぬ兵器が、ドラゴンを倒したのじゃ。

 

 やがて電探や誘導噴進弾、偵察衛星が登場し、勝利は決定的となった。

 今では近代装備群でも当たり前に電探を使っておる。

 

 もしジローがいなかったら。 トルキナ三億の民は、ドラゴンの餌となっておったに違いない。

 そう思うと、いまでも体がすくむ思いじゃ。

 

 

 

「あと七日ほどで第15軍団甲艦隊が合流する。その軽駆逐艦は音探を持っている。だが潜水艦は同行していない。どうも海中には大型の水棲生物がいるみたいなんだ」

 

 第15軍は現代装備群に分類される軍。

 なら潜水艦の相手は問題なかろう。

 

 ニムディスは心配していなかった。

 

 まだまだ驚きの話はこれからじゃぞ、ジロー。

 

「話を続けるぞ。グラ・バルカス帝国はここから(はる)か西方にある国じゃ。2万キロメートル以上離れておるらしい。人口は1億4千万を越えており、数ヶ月前にユグドなる惑星からこの世界に転移してきたという話じゃった」

 

 するとジローがニムディスの期待どおりの表情を見せた。

 

「そこも転移してきたのか!」

 

 驚愕の表情。

 そうじゃ。これを見たかったのじゃ。

 

「どうじゃ? これが『帝国』なのではないか?」

 

 ニムディスは捜し物を見つけたのは自分だと胸を張る。

 最初の障害だという『帝国』。

 ただし敵と決まっておるわけではないらしい。

 

「確かに、そこが『帝国』なのかな。ただターラでもドラゴンが襲来することを知っている国はなかった。おそらくこの帝国もこの後何が待っているのか知らないだろうなあ」

 

 異邦に『問いかけの間』はないのじゃから知らぬのも無理はない。

 

「そして我らと同じように国交を結ぶ為に近隣国に使節団を派遣したのじゃが・・・」

 

 ニムディスは呆れのあまり冷ややかに続ける。

 

「使節代表が処刑されたそうじゃ」

 

 わらわも邦外国での門前払いなら経験があるが、処刑とは呆れるわ。

 

「使節が処刑された? それはひどいな・・・中世ならありそうな話だけど・・・」

 

 ジローが眉をひそめ、呆れた表情になっている。

 ジローも邦外で襲撃されたことはあるが、殺すつもりじゃったかまではわかっておらぬな。

 

「しかもその使節代表は皇族じゃった。ゆえに、帝国はその国の政府を滅ぼして占領したそうじゃ」

「それもまた極端だな」

 

 ジローが深くため息をついた。

 

「この事件のせいか、この世界の人類を非常に蔑視しておる。憎んでおる。彼らがロウリア王国に潜入しておったのも情報を集め、いずれは征服するつもりゆえのこと。現地の蛮族どもに文明をもたらすのは自分たちじゃと、少なくとも当人は考えておる」

「世界征服なんか面倒なだけだろうに・・・」

 

 ジローの声には悲しみが滲んでいた。

 

 かつて大陸征服を主張した連邦軍将校連を思い出しておるのじゃろうか。

 

「あと、グラ・バルカス帝国には魔法がないそうじゃ」

「なるほど。非魔法工学の国というわけか」

「彼らの兵器じゃが、航空機は回扇機で、最新の戦闘機なる航空機は時速500キロ以上で飛ぶと話しておった。この辺はさらに細かく聞き出すとしよう」

 

 回扇機のことを昔ジローはプロペラ機と呼んでおった気がするが、意味の分からぬ呼び方じゃったな。

 

「海軍の戦艦には全長263メートル、排水量は7万2千トンのものがある。主砲は45口径40センチの三連装が三基、射程は32キロという話じゃ。速度も時速40キロ以上らしいぞ」

 

 ニムディスは驚きをもって告げた。

 連邦軍には戦艦というものはないが、ジローから聞いたことがあったので意味は知っていた。

 それに連邦軍にはもっと大きな軍艦もあることはある。ただし沿岸防空用で速度は時速20キロも出せない。

 

 ジローが目を細めて、遠い記憶を探るように目を動かしはじめる。

 

「それはまた・・・豪勢な戦艦だな。詳細を見てみないと分からないけど、7万トンの戦艦など、カネがかかった割には大した戦果も上げずに沈んで、税金の無駄遣いだと後世に叩かれる未来が見えそうだ」

 

 税金の無駄遣いと叩かれるとは、まるでジローじゃな。

 

「あの・・・戦艦とはどんな軍艦なのでしょうか?」

 

 シモン中尉が恐る恐るといった感じで尋ねた。

 

「戦艦とは・・・艦砲を主軸とした・・・巡洋艦を大きくしたヤツだ」

 

 ジローが考えながら説明している。

 巡洋艦と呼ばれる軍艦は現代装備群に以前からあった。

 今は確か誘導弾巡洋艦と呼ばれておるが、前は艦砲のみの巡洋艦があったので、それを大きくしたのが戦艦じゃな。

 

「重対空艦とは違うのですね」

「目的が違うからね」

 

 ジローは中尉にそう言ってから、ニムディスに向いた。

 

「空母はある?」

 

 今話そうと思っておったのに。

 

「うむ。奴らは航空母艦を持っておるそうじゃ。先ほどの戦闘機は艦載機の話じゃ」

 

 ニムディスがちゃんと訊いておるぞと、得意げに告げると、シモン中尉は目を丸くした。

 ジローが腕を組んで、視線を落としたが、すぐに顔を上げた。

 

「噴進弾はある?」

 

 噴進弾とは噴射式推進弾の略。

 ジローは構想段階では「ロケット弾」と呼んでおったが、そういう意味不明な呼び名は技師連にも評判が悪く、また代議士連も「不可解な名称で我々を煙に巻こうとしているのか!」と批判してきたため、この呼び名にせざるを得なかったという。

 

 ジローには悪いが、わらわも「噴進弾」の方が分かりやすくて良いと思う。

 

「噴進弾はあるらしいが、海軍ではあまり使われていないそうじゃ。誘導弾は知らないらしいぞ」

 

 ジローが少し安堵の表情を見せた。だがすぐに不安な表情を見せる。

 

「航空機の群れから爆弾が雨あられと降り注ぐ未来が見えるな。重対空艦では対処できないかもしれない」

 

 その言葉にニムディスは考える。

 重対空艦の対空砲はドラゴンを撃ち落とすためのものなので、航空機の群れを想定していないのじゃろうな。

 

 ジローの表情が険しいのう。

 重苦しい沈黙がしばらく続き、再びジローが口を開いた。

 

「魚雷はどうかな。帝国は魚雷を持っているだろうか?」

 

 ニムディスの目はパチパチと瞬いた。

 

 魚雷か。思いつかなかったな。

 

「それは訊いておらぬ。明日にでも確認しよう」

 

 尋問魔法は容疑者一人に対して最初の使用から24時間しか許されておらぬ。

 その間に聞き出さねばならぬ。時間はあまりない。

 

「まあ、潜水艦があるなら魚雷もあるだろうな。まさか浮上して砲撃するだけの潜水艦など考えにくい・・・」

 

 ジローが確信めいたことを言い、また考え込む。

 しばらくして「あっ」と声を上げた。

 

「核兵器はどう?」

 

 その言葉にニムディスは目を見開く。

 またしても、考えもしなかった質問が飛び出した。

 

「核兵器とな? 前に開発が取りやめになったやつか? 訊いておこう」

 

 ニムディスは記憶を振り返る。

 かつてジローの発案で、防衛省は核分裂爆弾と核融合爆弾の製造計画を立ち上げた。ゴンドー共和国の乾燥地帯に研究施設が建設され、莫大な予算と多くの人員が投じられた。

 だが、ドラゴンを速やかに倒す方法が確立されると「必要ない」と判断されて計画は打ち切られた。必要ないものに多額の予算を回す余裕はなかったのである。

 

「あとは電気工学の水準がどの程度なのかも聞き出して欲しい」

 

 どうやらまだまだ訊かねばならぬことがあるようじゃな。

 どうせ交渉はジローに任せておるし、わらわはもう少し事情聴取に付き合うとしよう。

 ジローの表情からするとやはり強敵となりそうじゃ。しっかりと訊いておかねば・・・

 

 ニムディスは小さく息を吐いた。

 

 





グラ・バルカス帝国の人口はオリジナル設定です。
戦艦の主砲のスペックは公開された欺瞞情報というやつですので、実際とは異なります。


次回の更新は明日の予定です。
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