トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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21 課題

 

 

 坂本と両監査人の話し合いは続いていた。

 

「そうか・・・いろいろと発見があるけど課題も多いな。グラ・バルカス帝国のこともあるし。世界征服をたくらんでるらしい」

 

 ジロー閣下がため息をついたが、その言葉に坂本は目を丸くする。

 

 なんだと?

 世界征服だと?

 まるで映画の悪役じゃないか。

 

「それは本当ですか?」

「うむ。捕らえた諜報員からわらわが直接聞きだした話じゃ。世界征服に向けて各地に諜報員を派遣しておるようじゃぞ」

 

 ニムディス殿下が誇らしげに言った。

 

「つまり、我々の敵なのですか」

「いや、彼らは連邦を知らない。監査府としては、なるべく先方が連邦に手出ししたくなくなるように、これから動いていくつもりだよ」

 

 そうだ。連邦がこの世界に転移してきた以上、そんなことはできまい。

 

「ただ捕らえた諜報員の話では、グラ・バルカス帝国は戦艦と航空母艦と潜水艦を持っている。君たち第13軍では勝てないよ、きっと」

 

 ジロー閣下の口調は軽妙だ。

 だがその言葉は坂本にとって思いもよらぬものだった。

 

 13軍は精鋭だぞ。

 大陸南部沿岸地域のドラゴン連を倒してきたのは我々だ。

 そんな我々が簡単に負けるというのか!

 

「我々では勝てないというのは本当ですか!」

 

 思わず語気が強まってしまう。

 

 まさかドラゴンより強いとでも言うのかと。

 ドラゴンの圧倒的な強さをよく知っている坂本には、とうてい納得できない話だった。

 だがジロー閣下の話はもっと具体的であった。

 

「そうだな。空戦は不利。艦砲戦は有利だが、潜水艦には対処できないというのがわたしの予想だ」

「空戦で不利なのですか!」

 

 心外だと言わんばかりに坂本は問い返した。

 

 我らイチサンはドラゴンとの戦いで空を制してきたのだ。

 輪空母艦、軍用輪空、重対空艦、軽対空艦・・・すべて「空」を制するためのものだ。

 

 坂本は、にわかには受け入れられない。

 だがそんな坂本の問いにジロー閣下がゆっくりと頷いた。

 

「まず相手は航空機だ。速度は瞬間的には輪空が勝てても、通常は向こうが上だろう。それに向こうには戦闘機がある」

 

 戦闘機? なんだそれは? 

 搭乗員が機上で武器を持って決闘でもするのか?

 

「それは軍用輪空とは違うのですか?」

 

 するとジロー閣下が坂本にまじまじと視線を向けた。

 加護によって若いままのその顔が一瞬、まるで幼い子どもを見る若い父親の表情のように坂本には見えた。

 まるで「これはね、『犬』って言うんだよ」とでも言い出しそうな顔だった。

 

「戦闘機とはね、航空機を撃ち落とすための軍用機なんだ。機銃掃射してくると考えるべきだ」

 

 坂本がその意味を考える間もなくジロー閣下は説明を続ける。

 

「こちらは軍用輪空機77式。噴進弾で航空機を撃てば戦闘機だとも言えるけど、どちらかというと攻撃機だ。初手で当てる以外に手がないし、必中というわけではない。乱戦に対応するには銃座を設けて銃撃させるしかないが・・・難しいだろうなあ」

 

 坂本は眉をひそめる。

 

 航空機を攻撃するのが『戦闘機』?

 輪空機は『攻撃機』?

 航空機を攻撃するなら『攻撃機』でいいのではないか? なぜ呼び方が違う?

 現代装備の用語には馴染みがないものが多い。

 それにしても『機銃』か・・・

 機銃とは確か小型の『機関砲』だったな。

 

「機銃には防殻でなんとかなるのではありませんか?」

 

 小さいなら、防げるのでは? という坂本の問いに、ジロー閣下は首を振った。

 

「輪空には防殻魔法の設備がついていない」

「そのとおりですが、隊員は出すことができます」

 だがジロー閣下はそんなことはもう知ってるというように頷いた。

 

「機銃は連発で撃ってくる。防殻魔法はもともと、連続攻撃をまとめて防ぐことができるんだが、3センチ銃弾で撃ち続けると、B級のニンゲンの防殻でも40発程度で消える。短身族の防殻だと10発程度で消える。機銃の10発など一瞬だ。今のままでは防ぎきれない」

 

 ジロー閣下は淡々と防殻魔法の限界を話した。

 左の机に座るニムディス殿下は、眉を寄せて、神妙に聞いている。

 

 すでに検証済なのか。

 

 坂本が意外に思っていると、ジロー閣下がまた少し考え込む。

 

「防殻板を輪空用に改良して魔力鉱石を使えばどうだろうか・・・でも今まで使ってないからなあ」

 

 防殻魔法は対ドラゴン戦では何の役にも立たなかった。だから改良もされていない。輪空にも使われていない。

 

 輪空がダメなら艦砲だ、と坂本は即断する。

 

「重対空砲で吹き飛ばすのはいかがでしょうか? 昨日軽対空砲でやったように、榴弾に照中板と近爆を組み合わせて、まとめて吹き飛ばすんです。いけるのではありませんか?」

 

 これはとっさの思いつきだが、我ながら悪くない案だ。

 重対空砲は射程が長い。見つけさえすれば、いけるはずだ。

 

 だがジロー閣下の表情はすぐれない。

 

「重対空砲はドラゴンを撃ち落とすためのものだよ。航空機の大軍相手には効果が少ないんじゃないかな」

 

 ジロー閣下が腕を組んだまま視線を上に向けている。思考を巡らせているようだ。

 

「対ドラゴンは面に砲撃するから当たりやすいが、航空機は点に砲撃するようなものだ。一発で数機落とせれば良い方だろう。散開されれば下手すると当たらないと見ているんだが・・・でもまあ、装備局で実験してもらうよう長官に頼んでみようかな。いや、防衛委員会で話した方が早いかもしれない」

 

 ジロー閣下は重対空砲で航空機の群れを倒せるとは思っていないようだ。

 しかし民議院防衛委員会で話すということは、委員の代議士連を巻き込むということだ。

 さては閣下は装備局の外堀を埋める腹だな。

 装備局は閣下に目をつけられてしまったようだ。

 誰かの胃に穴が()くんじゃないだろうか。

 おそらく近代装備部部長のあのドワーフあたりの。

 

「ならば軽対空砲の斉射ではどうですか?」

 

 坂本が問う。昨日はそれで対応したのだ。

 するとジロー閣下が視線をじっと向けてきた。

 

「飛竜隊に接近を許したんだ。倍の速さの航空機では接近するまでに撃てる時間は半分だぞ」

 

 確かに現代装備群の航空機は速い。

 そしておそらくだが相手は今日の飛竜並みに数が多い。

 多少撃ち落としたところで防ぎきれない。

 おそらくジロー閣下はそう言いたいのだろう。

 

 ドラゴン戦で培った戦術は、航空機には通用しないのか・・・

 空を制してきた我々が空で負ける・・・

 あの時、雲を割って現れたドラゴンを、輪空と重対空砲で迎え撃った。

 あれほどの戦いを制した我々が、航空機に負ける・・・

 どうやら世界征服を企むだけのことはある相手のようだ。

 

「たしかにそうですね。何か良い方法はないのでしょうか」

「輪空には機銃をつけて、軍艦には高射機関砲を付けるべきだろうね」

 

 ジロー閣下が考えるように答えた。右肘を机に載せ、右の拳を口に当てている。

 

「高射機関砲・・・聞いたことがあります。ドラゴン相手にまったく役に立たない機関砲だと」

 

 坂本の言葉に、ジロー閣下の目がわずかに泳いだ。

 

「まったく役に立たないというのは言い過ぎだよ。目を狙えば効果が・・・」

「それは屁理屈じゃな。貫通魔法を込めて掃射してドラゴンを蜂の巣にしてやると息巻いておったが、例によって魔法は通じず、弾が鱗に弾かれただけじゃったろ」

 

 ニムディス殿下が鋭い目つきで、容赦なくジロー閣下の言葉を切り捨てた。

 

「あの時はまだ魔法が通じないというのがよく分かっていなかったから・・・でも航空機群への対空砲火としては大いに役に立つはずだ。航空機に点で当てるのは難しいけど、高射砲なら点線になるからね」

 

 ジロー閣下の言葉に、坂本は思わず息を呑む。

 

「対空砲火ですか・・・」

 

 果たして点線で空を守れるのだろうか?

 確かにドラゴンとは違い、航空機はあのバカみたいに固い鱗も魔法無効化能力もない。

 機関砲でも吹き飛ばせるだろうが・・・

 

 だが坂本の脳裏には別の懸念が浮かぶ。

 

 機関砲は連射する以上、爆発魔法陣は薬莢に込めるしかない。そんなものを大量に作れるのか?

 作れたとして誰が一つ一つに魔力を込めるのか?

 踏輪隊だって無限にいるわけじゃない。

 それに連射すればすぐに弾が無くなる。

 弾が尽きるか、魔力が尽きるか。

 持続的な使用がとどこまでできるのか・・・

 

「あと操艦する方も航空機からの攻撃に対処する方法を知る必要がある」

 

 ジロー閣下が補足するように言った。

 

「操艦・・・つまり軍艦が回避する必要があると?」

「そうだ。爆撃に雷撃、急降下爆撃に機銃掃射に、それぞれに対してどう動けば良いのか。一度演習する必要がある。現代装備群では想定はしているが、訓練は少しやっただけだな」

 

 それはぜひ近代装備群でもやらなければ。

 ドラゴンの火炎攻撃の際に、艦内に退避する訓練とはまったく違うものになりそうだ。

 必要な戦術がまるで違うなら、その訓練を始めなくてはならない。

 いきなり本番などゴメン被る。

 

 坂本はここで一つ気になっていたことを口にした。

 

「さきほど、艦砲戦なら有利とおっしゃいましたが」

 

 帝国時代の皇帝トールの生まれ故郷では「艦隊決戦」と言ったらしい。そのため連邦でも最初はそう呼ばれていた。だが「空母も艦隊の一部だ」という考えが広まり、艦砲戦と呼ばれるようになったと教わった。

 

 ――当然だな。

 

 輪空母艦は艦隊の主軸だ。

 トール帝の故郷には空母が無かったのだろう。

 

「艦砲戦は射程から考えて、こちらが有利だ」

 

 ジロー閣下が断言した。だが坂本は気にかかることがある。

 

「相手の射程は分かっているのですか?」

「諜報員の話が正しければね。仮にもう少し長かったとしても、聞き出した軍艦の水準から判断する限りは、射程が50㎞を越えることはないはずだ」

「それはなぜです?」

「グラ・バルカス帝国には魔法がないのじゃ」

 

 ニムディス殿下が簡潔に理由を述べた。

 

 魔法がない!

 ということはつまり・・・

 

「非魔法工学ですか。延伸魔法が無いという訳ですか」

 

 坂本は納得した。

 延伸魔法――砲弾の軌道を安定させ、射程を伸ばす魔法。対ドラゴン戦で役に立った数少ない魔法の一つである。

 それがなければ砲弾の射程は半分だ。

 

「でも噴進弾はあるのでは?」

 

 噴進弾は魔法を使わずとも、射程を伸ばせる。推進力そのものが弾を遠くに運ぶからだ。

 非魔法工学は魔法なしでさまざまなことを実現する。

 

「噴進弾は海軍では使われていない、と話しておった」

「だから射程外から撃てば勝てると?」

「そうだな。照中板も使えるだろう。命中率は大きく有利なはずだ」

 

 そんな単純な話には思えないが・・・。

 

 坂本はなんとなくだが、そんな気がした。そしてすぐに問題に思い当たる。

 電探照準が問題だと。

 

「当艦隊は電探照準で海上の目標を撃ったことはありませんが」

「陸上の目標を撃てたんだから、同じだよ。明日試してみよう」

 

 ジロー閣下は軽くそう言ったが、坂本の考えは違う。

 

 いや、同じではない。

 昨日の試射の目標物は、そもそもこちらが用意した物だ。あらかじめ砲弾が向かっていくようにしてあった。

 その上、上空に飛行隊を上げて、彼らと連携し、時間を掛けて方角と距離を合わせた。だからこそ成功したのだ。

 艦砲戦でそんな余裕があるとは思えない。

 それに・・・

 

「しかし目標が三つ以上では誤作動するのでは?」

 

 坂本は昨日明らかになった問題を指摘する。

 電探照準が誤作動を起こしたのだ。

 

「あ・・・そうだった」

 

 やはり閣下は分かっていなかったか。

 

 電探照準は万能ではない。

 艦砲戦で敵艦が二隻しかないということはまずないだろう。

 海軍団は艦隊で行動するものなのだから。

 

 坂本はこの時点ですでに「敵の射程外から撃てば勝てる」というジローの考えに懸念を抱いていた。

 戦場では「届く」ことと「当たる」ことは同じではないということを、坂本は幾度となく経験してきたからだ。

 だが翌日の試射で、射程外どころか射程内であっても、目標を狙うことは容易ではないことが判明するのである。

 いままで空ばかり見てきた第13軍海軍団にとって、海上の目標を狙うことは想像以上に困難だったのだが、この時はまだ坂本もジローもそれを知らない。 

 

 

「75式は使えないか・・・そうなると思ったほどは有利じゃないな。これは防衛委員会で話しておかないと」

 

 むしろ不利な気もするが、照中板があればなんとかなるのだろうか。

 

「あと潜水艦はどうじゃ。まだ話しておらぬ」

 

 ニムディス殿下が新たな話題を出してきた。

 

「潜水艦というのは、海に潜る艦ですか?」

 

 坂本の問いに、ジロー閣下が頷いた。

 

「そうだ。しかも魚雷を持っている」

 

 またしても現代装備の用語だった。

 

「魚雷? とはなんですか?」

「水中を進んで船底に当たり、爆発して穴を開けるという兵器だ」

 

 坂本は考える。

 鋼鉄の軍艦というものは、船底に穴を開けられたらひとたまりもない。

 浮力を失えば、鋼鉄の船は瞬く間に沈む。

 そんな光景を思い浮かべて、戦慄する。

 

「それは・・・危険ですね。噴進弾ですか?」

「まあ噴進弾とは限らないけど、水中を進んでくるから気付きにくい。気付いたときは艦に穴が開いたとき、なんてことになりかねない」

「ますます危険ではないですか!」

 

 坂本は思わず声が低くなる。

 空と海上からだけでなく、海中からも攻撃が来る。

 それは坂本にとって経験したことのない脅威であった。

 坂本は自分が操艦して戦うところを思い浮かべようとしても上手くできなかった。

 空の敵は、ドラゴンはその姿が良く見えた。だが海中は見たことすらないのだ。

 

「潜水艦を見つけるのは難しい。専用の装置が必要だ」

 

 ジロー閣下の言葉に、坂本は小さく前に身を乗り出した。

 

「そんなものがあるのですか!」

「ある。音探というものなんだ。もうすぐ音探を備えた第15軍の甲艦隊が到着する。対処はできる」

 

 音探? 電探は電波探知機だから、音波探知機か。

 

「探知魔法は水中ではほとんど役に立たないからな。音探というのが頼りなんだそうじゃ」

 

 探知魔法は相手に魔力が無いとダメだという話が先ほど・・・

 坂本はそう思ったが、ニムディス殿下に向かってそれを言う勇気は無かった。

 

「それでイチゴ・・・現代装備の艦隊を呼んだのですか?」

「いや、呼んだ理由は・・・種々の調査のためだったんだが・・・」

 

 ジロー閣下がなんだか歯切れが悪い。

 するとニムディス殿下が答えた。

 

「クイラ王国で石油が採れることが分かったからじゃよ。それで燃料を使っても良いと判断したんじゃな」

「なるほど」

 

 地下資源保全法か。

 地下資源はなるべく保全するのが望ましいとする法律。

 邦外の資源は適用されないのか。

 

「正直に話すと、第15軍の海軍団はドレナ周辺海域では戦ったことがあるが、遠征の経験がない。例のこともある。少しでも経験させたいと思ったんだ」

 

 そう言えば閣下は現代装備群贔屓だというウワサだった。

 だが遠征経験のない艦隊を呼んで、果たして大丈夫なのだろうか。

 

 坂本は心配になる。

 遠征というのは、それだけで大変なものなのだ。

 

「じゃが、ちょうど良かったの」

 

 ニムディス殿下がなにやら頷いている。

 

「なにがですか?」

 

 坂本が不審に思い尋ねると、ジロー閣下が答えた。

 

「数日中にグラ・バルカス帝国の潜水艦が来るらしい。できれば拿捕したい」

 

 潜水艦が来るのか・・・

 ん? 拿捕? 閣下は何を言ってるんだ?

 そもそも外洋で外邦船を勝手に捕らえて良いのか?

 

「拿捕して良いんですか? その・・・法的に・・・」

 

 そんな疑問を恐る恐る問いかけると、ジロー閣下が肩を軽くすくめた。

 

「相手が攻撃の意志を見せてくれればね。捕らえた諜報員の容疑もそれだし・・・あと別の手も使えるかもしれないし」

 

 別の手?

 いったいどんな?

 

「攻撃してきたとして、どうやって拿捕するのですか?」

「考えがある。まだ話せないけどね」

 

 ジロー閣下はそれ以上語らなかったが、その表情は自信を見せていた。

 

 潜水艦の捕獲など、どうやってしろと?

 まさか脅して言うことを聞かせるつもりか?

 だがどうやって?

 我々はいったい何をやらされるのやら・・・

 

 自信ありげなジロー閣下の様子に、坂本の胸には小さな不安がトゲのように刺さったのだった。

 





次回は第一章のエピローグですので、本日中に投稿する予定です。
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