という名のプロローグ。
連邦暦395年1月3日 夜 トルキナ連邦首都 園都 旧エンドレナ宮 内宮殿
話は転移三日目の夜に遡る。
「始めに『帝国』が来て、次に『太陽の国』が来て、その次に『古代魔法帝国』が来るそうだよ」
『問いかけの間』から戻ってきたばかりのジローが告げた。
「3つも来るのか」
ニムディスの問いにジローが頷く。
「一つ目の『帝国』、そして次の『太陽の国』が連邦の『障害』になるだろうと。だが一番の問題は三つ目の『古代魔法帝国』らしい。これが連邦に滅亡の『危機』をもたらすだろうと」
滅亡の危機――
ニムディスはドラゴンの最初の襲来を思い出し、背筋が冷えた。
その前に何かあるようじゃが・・・
「『障害』とは、つまり敵なのか?」
「いや・・・そこはよくわからないんだが・・・ただ味方であっても『障害』になり得るから、敵とは限らないんじゃないかな」
ジローが何やら考えながら曖昧なことを言っておる。
「味方が『障害』になるのか?」
ニムディスは疑問に思ったが、すぐにそんな存在に思い至る。
「民議院のようにか?」
代議士どもはいつも味方同士で足を引っ張っておる。
「多分ね」
「じゃが味方とも限るまい」
「そうだね。ただ『障害』はあくまで『障害』であって『危機』じゃない」
「ならばどうにかなるか。すると要するにその『古代魔法帝国』とやらの襲来に備えよとのお告げだったのじゃな」
ローハ塔から帰ってきたジローの話を聞き、ニムディスはそうまとめた。
気が重い――
ようやくドラゴン連との戦いが終わったというのに、また、戦わなければならぬのか?
ドラゴンは恐ろしかった。よもや魔法が通じない相手じゃったとは、戦いが始まるまで考えもしなかった。
ジローがいなかったらと思うと恐怖に身がすくむ。
「そういうことだ。軍事大国らしい」
「ならいつ襲ってくるのか分かっておるのか」
「それが、数年後か数十年後か」
相変わらず『問いかけの間』の言葉は大雑把じゃな。
「ドラゴン襲来のお告げも数百年後という話じゃったな」
「まあ、何も知らされないよりはマシだよ」
「連邦軍は勝てるか」
「勝てるようにしないとね。ドラゴン襲来以来の監査人令を出す必要があるかもしれない」
かもしれないか・・・まだわからぬな。
「明日の防衛会議にも報告せねばなるまいな」
するとジローが目を逸らした。
「明日は別件で忙しいんだが・・・」
「別件とはなんじゃ?」
ニムディスは思わず鋭い声になる。
「明日は午後から証券取引所の取引が始まる。その前に発表しなくてはいけないことがある」
「何がある」
「両端の共和国に本店がある金融機関には、保護国連で大規模に営業展開をしていた所がいくつかある。保護国の支店や融資先が消えてしまった以上、資金繰りが悪化するとの危惧から、取付け騒ぎや株価の暴落などが起こるかもしれない。そうならないように『顧問銀行は資金提供を惜しまない』と頭取に発表してもらわなくてはいけないんだ」
顧問銀行は中央銀行としての責務を果たす、ということか。大変じゃな、まったく。
「防衛会議は午後からじゃ。午前中に発表させれば問題なかろう。執政人が『問いかけの間』の話の報告を待っておるぞ」
ニムディスがそう言うと、ジローは紙に鉛筆を走らせていた。
それを見てふと思う。
ジローは、たとえ何の手立てもないように見える時でも、何かしらの策を見つけ出す。ドラゴンの時のようにあらかじめ手立てを用意しておることすらある。
わが夫ながら不思議な男じゃ。
ジローがおれば何とかするのじゃろうが・・・
ニムディスは窓の外を見ると、照明に照らされた鉢植えが目に入る。
夏の装いだった植物は急激な寒さに葉が萎れ始めていた。
ドレナの穀物は実らぬであろうな・・・
備蓄があるから一年はもつじゃろうが・・・
連邦もまたあのように萎れるか・・・いや、そうはさせぬ!
ニムディスは静かに息を吐く。
――これからが試練じゃ・・・
これで第一章は完結です。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
ご感想やご意見など、いただけたらとても嬉しいです。
実は、第二章まではすでにほぼ書き上がっているのですが、第一章を投稿してみて、自分でも改めて客観的(?)に読み返してみたところ、いくつか気付いた点や反省点が見つかりました。
これらの反省点を踏まえ、せっかく貴重なお時間を使って読んでいただいた皆様に、もっと物語を楽しんでいただけるように、第二章はもう少し手を加えてから、改めて投稿したいと思っています。
どうぞ、次の展開も楽しみにお待ちいただければ幸いです。