トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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艦長はオリキャラです。



間章Ⅱ 獲物――帝国の潜水艦長

 

グラ・バルカス帝国海軍 ピスケス級潜水艦 艦内

 

 

「ここまでは順調だな」

 

 艦長タステル・ケイディエスは呟いた。

 この世界に来てから数ヶ月になる。海軍はすでにあちこちと動き回り、海図も回ってくるようになった。

 その作成には、もちろんタステルの潜水艦も貢献している。

 

「すでに指定場所と思われます」

 

 ロウリア王国〈北の港〉から西に50キロ地点の海岸。

 ここで、潜入中の諜報員から報告書やフィルムを受け取ることになっている。

 

「エンジン停止」

 

 タステルそう命令してから潜望鏡を覗く。

 先ほどまで水上航行のまま進んで来たが、今は潜っている。

 

 前方に陸が見える。百メートルといったところか。

 明るくなってきていたが、まだ日は出ていないようだ。

 周囲に問題はなさそうだが、到着が早すぎたか。

 このまま待たなければならない。

 

「うむ。目印の小屋が見えるな。合図があるまで待機だ」

 

 あとは待つだけである。岸から合図があるはずだ。

 現地の蛮族に見つかることもないだろう。

 

 この世界の技術は、とんでもなく遅れているらしい。

 外交使節として赴いたハイラス殿下が処刑された。

 スパイならともかく、外交使節を処刑するなど論外ではないか。

 帝国はすでにその国を滅ぼし、占領した。

 

(帝国に喧嘩を売るとは、身の程知らずの蛮族が・・・)

 

 ケディルは潜望鏡から目を離した。

 

「よし、順番に休憩・・・」

 

 休憩を命じようとすると、声が耳に入った。

 

「ん? 動物か? 何かが水面に・・・ん? 変な音だな・・・」

 

 聴音員が何かを聞きつけたようだ。視線を向けると、ヘッドホンを両手で押さえて耳を澄ませている。

 

 するとその表情に緊張が走った。

 

「金属が軋む音がします! すぐ近くです!」

「なんだと!」

 

 タステルの背筋に冷たいものが走った。

 

 金属の音とはあれしかない!

 近くに潜水艦がいる!

 

「モーター始動! 緊急潜行だ!」

 

 エンジンは停止したばかり。モーターの方が早い。

 さっさと潜って離脱しなくては。

 

 だがタステルの命令の直後に聴音員が震える声を上げた。

 

「・・・何かが・・・接近しています・・・下からです!」

 

 ゴンゴン・・・ガサガサ・・・

 

 何かが叩き、擦れ、噛みつくような音が響く。

 金属の軋み、正体不明の音のざわめきが混じり合い、艦内の空気に染み渡る。

 

「・・・何かが接触しています」

 

 その言葉に艦内が重苦しい空気に包まれる。

 

 タステルは息を呑む。

 

(何だ? 海魔か?)

 

 この世界の海には現地人が海魔と呼ぶ巨大な海洋生物がいる。

 それなら金属音はしないはずだ。

 

 タステルは慌てて潜望鏡を覗くと、何かが蠢いているのが見えた。

 不気味な影に心臓が縮み上がる。

 

「浮上しています!」

 

 深度計を見ていた隊員が叫んだ。

 タステルは思わぬ事態に声を荒げる。

 

「どういうことだ! 早く潜行しろ!」

「スクリューが動きません! 何かが絡まっていると思われます!」

 

 ゴンゴン・・・ガサガサ・・・

 

 艦体を叩く音があちこちから顔を出し、擦れる音はあちこちで聞こえ出す。

 

「海面に出ます!」

 

 艦内にざわめきが走った。

 

(いったい何が起きているんだ!)

 

 タステルは潜望鏡を覗く。

 確かに陸が見える。

 だが右に回すと、網のような影が取り囲んでいるのが見えた。

 その影の隙間にはびっしりと張り付く黒い影。

 

 ゴンゴン・・・ガサガサ・・・

 

 艦体を叩く音が艦内に響き、擦れる音が聞こえる。

 床は揺れ、計器の針は無意味に回っている。

 金属を爪でひっかいたような音まで聞こえ始めている。

 

(移動しているのか・・・? 何か得体の知れない力で・・・?)

 

「どうなってるっ!」

 

 タステルが不安を振り払おうと声を張り上げると、乗員達もそれにならった。

 

「わかりませんっ!」

「モーター停止しましたっ!」

 

(くそっ! どうすればいい!)

 

 艦長はいかなる場合にも対処できなければならないというのに、何も思い浮かばない。

 

 タステルは潜望鏡を取り囲む手すりを握りしめることしかできなかった。

 しばらくすると、揺れが変わった。

 

「空中に浮いているようです」

「そんなバカな!」

 

 確かに艦がフラフラと揺れているのが感じられる。

 船というよりもエレベーターの横揺れのようだ。いやゴンドラの揺れか。

 

 ゆらゆらと不規則に回るような足下の揺れに、乗員達の顔が引き攣っていく。

 

「何が起こっている!」

「運ばれているようです!」

 

 空中を運ばれている・・・?

 くそっ!

 どうなってる!

 どうすれば良いんだ!

 

「おい。どうすれば良い!」

 

 自分の声ですら不気味に反響している。

 

「く、空中を運ばれているとすれば、何もできません。な、何かして落下でもしたら我々は終わりです。い、今は待機するしかありません」

 

 部下の声がやや震えている。

 隊員達がみな近くの物を掴んでいる。

 手すりを握りしめるタステルも同じようなものだった。

 

 落とされたら終わり・・・

 

(いや、敵がもしこのまま落とすつもりだとしたら?)

 

 嫌な想像をしてしまい、恐怖に脚が冷える。

 

「衝撃に備えろ!」

 

 今出せる指示がこれしか浮かばない。

 乗員達の顔はみな蒼白だ。

 

「いったい、いつまで・・・」

 

 ・・・揺れ続けるのか。

 

 そう呟きかけたところで変化があった。

 

 ズン!

 

 艦体を突き上げるような衝撃が走り、ゴンドラのような揺れが唐突に止まった。

 

「止まった」

「地上に降ろされたようです」

「終わったのか?」

 

 ゴゴゴゴ・・・

 

 だが今度は地震のような振動が始まった。

 先ほどのフラフラとした揺れとは違い、それは重機のエンジンのような振動だった。

 

「今度はなんだ?」

 

 タステルは床を踏みしめ、踏ん張った。

 

(下がっている? 地面に沈んでいるのか?)

 

 止まった。

 

 ドドド・・・

 

 周囲から近づいてくるのは、まるで獣の群れの足音だ。

 

 タンタンタン・・・

 

 上面から音が聞こえてきた。その音はタステルもよく知ってる音だった。

 

 足音だ。しかも10人以上だ。

 

 さきほどまでの得体の知れない恐怖が、小さくなっていく。

 

「足音です。甲板に侵入されているようです」

「くそっ」

 

 代わりに、軍人として深刻な事態に直面するときの緊張が、大きくなっていく。

 

 足音が止んだ。

 タステルは耳を澄ませて様子を伺う。

 

 ガンガンガン!

 

 右舷上部から工具で叩いたような音が艦内に鳴り響いた。

 タステルは体をビクッと震わせてしまう。

 だがそれは他の乗員も同じだったため、誰も気付いた様子はなかった。

 皆息を呑み、手すりや椅子を掴んでいた。

 汗と油の匂いが重くのしかかる。

 するとやや小さい声が聞こえた。

 

“君たちは包囲されている! 無駄な抵抗はやめておとなしく出てきなさい!”

 

 外からの声が壁を通じてくぐもった声となり、船内に反響した。拡声器の声だろうか。

 潜望鏡で覗くと、先ほどまであった網はなく、小屋が遠くに見えるが、近くは分からない。

 すると、突然男の顔が現れ、こちらを覗いてきた。

 

“早く出て来い!”

 

 また声がした。

 だがタステルはどうすべきかわからない。

 とにかく現状を把握しなければ。

 

「くそ! おい、外を確認しろ」

 

 タステルは指示を出した。

 隊員がはしごを上り、ハッチを開けて顔を出す。回りを見回してから、その場で声を上げた。

 

「艦長! ここは陸上です! 周囲を取り囲まれています! 銃口を向けられています! 我らの機銃は押さえられています。人数は・・・」

 

 やはり陸上に運ばれたのか。いったいどうやったんだ?

 艦上の機銃をなんとか奪還して・・・

 

 そこへ拡声器の声が響いた。

 

『半個師団だ!』

 

 それはさっきより明瞭な声で、絶望を突きつける。

 

「半個師団・・・」

 

 タステルは頭を打たれた気がした。

 

(半個師団だと! 反撃は絶望的じゃないか!)

 

『ロウリア王国宰相の要請に基づきっ、王国内で諜報活動をしていた容疑者二名に協力した容疑でっ、君たちを拘束するっ。抵抗しても無駄だっ。おとなしく出てきなさーいっ』

 

(蛮族が生意気な!)

 

 タステルはそう思うが、もはやどうしようもない。

 

 こちらも拳銃を持ってはいるが、半個師団のマスケット銃兵にはもちろんかなわない。

 それに潜水艦が陸上にあっては、われわれ潜水艦乗りは逃れようがない。

 

「緊急無線!」

 

 タステルが指示すると、それを聞き付けたのか、すぐに外から声が響いた。

 

『無駄だ!』

 

 通信担当が基地に繰り返し呼びかけたが、しばらくして振り返った。

 

「応答ありません! 雑音しか聞こえません! 電波障害と思われます!」

「電波障害だと? こんな時に! この・・・」

 

 タステルは自分の不運を呪いたくなり、悪態をつきそうになるも耐える。

 冷静に考えようとしても、何も思い浮かばなかった。

 

 乗員達もタステルを見ている。命令を待っているのだ。

 

(万事休すか・・・)

 

 どうやらこれまでのようだ。

 

 タステルは開いているハッチに向けて声を張り上げた。

 

「われわれは降伏する!」

 

 

 タステルの命令で潜水艦の乗員が順に甲板に出ると、タステルは全員の無事を確認した。

 そして甲板から見下ろす、いや見回す。

 

 

 大勢の軍服姿の兵士達。

 向けられた無数の銃口。

 

 だがそれは、タステルが見慣れたものとはかなり違っていた。

 

(な、なんだ。こいつらは!)

 

 2メートルを超える巨躯の兵士。

 幼児のように小さな兵士。

 10代初頭の肥満児のような兵士

 それが皆、体格と比して不自然なほど大きな銃を構えていた。

 

(銃口が大きい。中世の火砲か?)

 

 機関砲と見間違いそうな銃口が、無言でこちらを睨んでいる。

 巨躯の兵士の顔は、青みがかった灰色。血の通わない冷血な目。

 小さな兵士の顔は、鮮やかな緑色。血に飢えた獣のギラついた目。

 

(あれはどう見ても人間じゃないぞ・・・)

 

 異様な兵士、異様な銃、異様な状況。

 タステルは背中に悪寒を覚えた。

 

 ゴクリ。

 

 思わず喉を鳴らした。

 

(話に聞く亜人というやつか・・・)

 

 この世界には、人間と異なる亜人が住んでいると聞いてはいた。だがその姿を目の当たりにするのは初めてだった。

 

 タステルは、内心の動揺を彼らに悟られまいと必死に耐え、用意されていた梯子で降りる。

 地面にたどり着くと、そこには網が蜘蛛の巣のように広がっていた。

 

(あ、歩きにくい・・・)

 

 編み目は大きいが、ロープは太く、足を取られて歩きにくかった。

 振り返ると、潜水艦の底が土に埋まっていた。

 

 わざわざ掘ったのか? どうやって?

 

(いや、これだけ兵士がいるんだ。穴くらい掘れるか・・・)

 

 不合理な状況を思考で乗り越えようとするように、タステルは思考を続けた。

 

 問題は穴ではない。

 それよりもどうやって潜水艦を地上に運んだんだ?

 穴を掘る方法はわかっても、ここまで潜水艦を運搬した方法がわからない。

 この網で運んだのだろうが、クレーンなどは見当たらない。

 いや、海岸から100メートル地点にいたんだ。クレーンが届くはずがない。

 

 足下に注意しながら網の外までたどり着くと、男が進み出てきた。

 その男は周囲の兵士とは明らかに違っていた。

 トレンチコートを雑に着て、片手をポケットに突っ込んでいる。

 肩を丸めて左右に揺らし、バタバタと音が聞こえてきそうに歩く姿は、張り詰めた空気の中で、なんだか場違いな、緩んだ空気をかもし出している。

 タステルは内心で安堵した。

 

(よかった! 人間だ!)

 

 ふと気付くと、周囲の亜人兵の中にも人間の姿がチラホラ見える。

 

(なんだ・・・人間もいるじゃないか・・・)

 

 亜人だと話が通じる気がしない。人間に捕らわれる方がマシだ。

 

「これで全員ですかな?」

「そうだ。艦長のタステル・ケイディエス、以下45名は降伏する」

 

 降伏を告げると、トレンチコートの男の眉がかすかに動いたように見えた。

 

「ではタステル・ケイディエスさん。ロウリア王国宰相の要請に基づき、不法入国及び諜報活動協力の容疑で逮捕しますね」

 

 それはタステルの予期した言葉ではなかった。

 

「逮捕だと? われわれは捕虜のはずだ!」

 

 タステルはあわてて抗議する。

 

「われわれは軍人だ! スパイではない!」

 

 上官の命令で連絡のために往来していただけなのだ。

 だがコートの男は首をかしげ、呆れたような笑みを浮かべた。

 

「戦争していないのに戦争捕虜などいるはずがありませんなあ。あなたがたは不法入国と諜報活動の容疑者です」

「なっ・・・」

 

 タステルは異を唱えようと口を開けたが、声は出なかった。

 

 栄光ある帝国軍人たる自分がスパイとして扱われる・・・

 

 その事実が胸に突き刺さる。

 周囲に目をやると、相変わらず大小さまざまな亜人兵達が無言で銃を構えている。抵抗などすれば撃つ、とばかりに、銃口をタステルに向けている。

 

「一応言っておくが、こんなことすると帝国に喧嘩を売ることになるぞ」

 

(帝国の喧嘩を売るとは、身の程知らずの蛮族が・・・)

 

 するとトレンチコートの男がわざとらしく驚きの声を上げた。

 

「ええ? あなたの国では不法入国は犯罪じゃないのですかあ? そりゃあ驚きですなあ。なら領海侵犯もやりたい放題というわけですな」

「なっ・・・」

「ですがこの国では違うようですよ。世の中にはね。領海というのがあるんです。これで一つ賢くなりましたなあ」

「く・・・」

 

(くそっ、こいつ、バカにしやがって・・・!)

 

 タステルは歯噛みした。

 だが、反論する言葉は思い浮かばなかった。

 領海侵犯していたのは明白なのだ。

 

(これからいったいどうなるのか・・・)

 

 タステルは不安に足が重たくなるのを感じながら、トレンチコートの男に従い歩き始めたのだった。

 

 





『トレンチコート』の『トレンチ』とは塹壕のことなんですね。いや『トレンチ』が『塹壕』だというのは知ってましたが、今まで『トレンチコート』と結びつきませんでした。。。

 ピスケス級というのは原作にはありません。オリジナル潜水艦です。
 ラテン語の「魚」から付けました。
 
 次回の更新は明日の予定です。
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