トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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作風変わります。ご注意ください。
イノスの肩書きはマンガ版に準拠しています。
原作の設定を尊重しつつも、オリジナル設定てんこ盛りです。



第二章 パーパルディア皇国訪問編
1 驚愕のイノス・前編 ―― 計画はなぜいつも狂うのか!


中央暦1639年2月22日

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

  国家戦略局 局長室

 

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

「おのれ、カイオスめ!」

 

(今思い出しても、腹立たしい!)

 

 おっと、いけない。

 決裁しなくては・・・

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

 

支援済物資 支払い完了済

 ワイバーンロード 20頭

 地竜 20頭

 剣 1万本

 槍 1万本

 魔導砲 5門

 魔導銃 100丁

 その他鉄 10トン

 魔石・・・

 

 

 ロウリア王国は自前で大軍を用意できる。

 だから地竜は20頭も必要ない。

 必要ないが、これはもともと違う目的で用意されたものなので構わない。

 

 これらの物資がなぜロウリア王国に送られたのか?

 

 あのカイオスのせいだ。

 

 

 6ヶ月前――

 

 イノスは皇帝陛下の御前で懸命に説明していた。

 

「・・・この計画が成功すれば、半年後にはアルタラス王国の魔石鉱山は皇国の物となっていることでしょう。ぜひ御裁可を!」

 

『アルタラス王国魔石鉱山獲得計画』

 イノスが局長を務める国家戦略局が、軍や民間など各所と調整して練ってきたものである。

あとは皇帝陛下の許可さえ下りれば、すぐに動き始める手はずだ。

 

 イノスは壇上の執務机で話を聞いていた皇帝陛下をすがるように見つめた。

 陛下がイノスを鋭い視線で見下ろした。

 

「ならば、やって――」

「お待ちください、陛下!」

 

 そこに待ったを掛けた男がいた。

 

「なんだ? カイオス」

 

 第3外務局局長のカイオスである。

 イノスのライバルだ。

 

「恐れながら、アルタラス王国は第3外務局の管轄でございます。鉱山獲得計画はこのカイオスめにお任せください」

「な、なんだとっ!」

 

 カイオスのヤツ、横取りするつもりか!

 我々がこれまで苦労して作り上げたこの計画を!

 ふん! だが、皇帝陛下はそのような事は認めまい・・・

 

 そんなイノスの思いを現実は踏みにじる。

 

「ならばカイオス! お前がやってみよ!」

 

(なっ! そんなっ! 陛下っ!)

 

「仰せのままに」

 

 頭を下げたカイオスの口元にニヤリと笑みが浮かんだのを、イノスは見逃さなかった。

 イノスは、思わず歯を食いしばる。

 

「イノス! その計画書はカイオスに渡しておけ!」

「へ、陛下あっ!?」

 

 イノスの声は裏返った。

 

(こ、これはわたしが・・・部下達と・・・苦労して作りあげたもの・・・それを・・・か、カイオスに・・・!? なぜ・・・!)

 

 じ、自分のためにも・・・ぶ、部下達のためにも・・・ここは自分が守らなくては・・・

 

 イノスは意を決し、皇帝陛下をキッと見上げた。

 

「ん? 何だっ!」

 

 陛下の一言で背筋が凍り付いた。

 鋭い視線が刺さった。

 皇帝陛下の視線が、まるで冷たい槍のようにイノスの心を突き刺したのだ。

 

(ひいいっ・・・!)

 

 あの眼で睨まれて、いったい何人の高官が“いなかった”ことにされてきたか!

 

 イノスの脳内で過去の粛正劇が再生された。

 

 無知なくせに威張り散らしていた上司。

 何もできないくせに自信だけ過剰だった先任者。

 予算を着服して羽振りが良かった同期。

 何人もが放逐され、あるいは処刑されてきた。

 

(まずい・・・つ、次は・・・わたしの番になってしまう・・・・・・)

 

「な、何でもございません!」

 

 イノスはヘタレた。

 

「そうか。なら下がれ!」

「はっ・・・」

 

 

 ――そして現在。

 

 あの時のことは、今思い出しても腹立たしい・・・!

 

「おのれ、カイオスめ!」

 

(あの薄ら笑いの顔に、いつか吠え面かかせてやる!)

 

 くしゃり。

 

 イノスは文書を握りしめた。

 

 おっといけない。

 

 イノスは文書を広げて押し伸ばす。

 

 あの計画はすでに準備に入っていた。

 では既に発注済み、納品済み、支払い済みだった物資の行き場はどうしたのか?

 ワイバーンロードや地竜をどうしたのか?

 

 黙ってカイオスに渡した?

 バカを言ってはいけない。

 第3外務局は巨額の予算と、独自の軍事力を持っている。

 なぜそんな所に国家戦略局の予算で買った物を、わざわざ回さなくてはならないのだ?

 

 ならばどうしたか?

 そう。国家戦略局が考え出した解決策。それが――

 

 ――ロウリア王国支援だ!

 

 行き場の失った物資を支援と称してロウリア王国に貸し付けて、ロデニウス大陸を統一させる。

 その見返りに地下資源の権益を手にする!

 

 アルタラス王国に比べると多少は落ちるかもしれないが、それでも手つかずの資源が手に入るはずだ。

 

 どうせロウリア国王は『亜人は殲滅だ!』などとほざいているアホだ。

 そんなことして神聖ミリシアル帝国に目をつけられないと思っているのか? 世界一位の列強国の皇帝はエルフなんだぞ!

 そんなアホには、どうせ地下資源の価値など分かるまい。

 

 国王のアホにつけ込んで、少ない支援で多額の権益を得てやる!

 

(そして・・・あのカイオスに吠え面かかせてやるのだ!)

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

 

ロウリア王国への追加支援済物資 納品確認済・支払い完了済

 剣 20万本

 槍 20万本

 矢 200万本

 理由 陸軍を60万、海軍を40万に増強したため。武器の不足分と予備に充てる。

 

 

(くっ!)

 

 20万本だと! 200万本だと!

 多いじゃないかっ!

 

 ・・・だが仕方ない。

 王国軍の取り柄は人数だけだからなっ。

 少ない支援とは言えなくなってしまったが、それでも見返りは大きいはずだ。

 

 そう思い、気を取り直す。

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

「……な、なんだこれは……!」

 

 目を疑った。だが何度読み返しても、そこには確かにこう書かれていた。

 

 

緊急追加支援物資  南方担当課 課長決裁にて発注、納品確認済

 木材 5千トン

 燃料用薪 5千トン

 その他・・・

 

 

「納品済だとっ!?」

 

 なぜだ? なぜまた追加支援が必要なんだ?

 剣も槍も追加したではないか!

 

(ど、どこまで要求するんだっ! ロウリア王国はっ!)

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

 

理由 造船目的での急速な伐採により森林消失。船舶材料と製鉄用燃料の不足を補うための緊急追加支援。今後さらなる追加支援を要する見込み。

 

 

 ロウリア王国は「海軍4千隻以上」を目標にして、新たに”40メートル級の軍船”*1を次々と建造するうちに、国内の使えそうな木を全て切り倒してしまったのである。

 だが4千隻まで、まだ足りない。

 その不足分を国家戦略局が用意する羽目になったのだ。

 

(あのアホ国王がっ!)

 

 イノスは拳を震わせた。

 

 いくら“兵の数”しか能がないからと言って、船のために木を全て切り倒すやつがあるか!

 いったいこの先、どうやってテーブルを作るつもりだ?

 石で作るしかなくなるんだぞっ!

 持ち運びできないテーブルしかなくて、国が栄えるわけがないだろ!

 そんなこともわからないのかっ!

 

(庶民が皆、床に、地べたに、じかに皿を並べることになるんだぞっ!)

 

 やはり蛮族のアホ国王には“国家戦略”の初歩すら頭にないんだな・・・

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

 

緊急追加支援物資 南方担当課 課長決裁にて発注済

 小麦 3万トン

 大麦 2万トン

 

 

「ぶおっ!」

 

 イノスはむせた。

 

「ゲホッ! ケホケホッ!」

 

(な、なんだこれはっ!)

 

“麦くらい自前で用意する”と言ってたではないかっ!

 

 イノスは文書を読んでいた。

 

 

理由 亜人奴隷を皆殺しにしたため、労働力が不足し、収穫が減少したため。さらに追加支援を要する見込み。

 

 

 バシッ!

 

 イノスは文書を叩きつけた。

 

「あ、あのアホ国王めえええっ!」

 

 なにが『亜人は殲滅だ!』だっ。

 自分の食料を誰が作ってるのかも知らないで、そんなアホなことをほざいていたのかっ!

 そのうち『服をよこせ』『水をよこせ』『空気をよこせ!』とか言い出したりするんじゃないだろうな!

 

(アホを利用して少ない支援で利益を得るはずが、アホのせいでいつの間にか支援額が大きく膨らんでいるじゃないかっ!)

 

 しかもさらに膨らむ見込みだと!?

 

 計画はなぜいつも狂うのか!

 

 こうなったのもカイオスのせいだ!

 

「おのれっ、カイオスのヤツめぇっ!!」

 

 だが、叫んでも何も変わらないことは、イノス自身が一番よく知っていた。

 

(だからこそのロデニウス大陸だ。今度こそ、誰にも邪魔はさせん!)

 

 ロウリア王国への支援は国家戦略局の独断、つまり局長イノスの独断で進めている。

 カイオスにこれ以上横取りされないためだ!

 ロウリアが大陸を統一し、見返りに地下資源を得られれば、国家戦略局の功績は揺るがない。

 そうなれば――

 

(宰相の座は、私のものだ!)

 

 イノスはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 皇帝陛下はなぜか宰相を置こうとしない。

 たが、ロデニウスの資源を手に入れた暁には、このわたしの実力を疑う者などいなくなるだろう。

 

「その時だ。カイオス、お前をアゴで使ってやる……!」

 

 イノスは笑みを浮かべたまま目を閉じ、そんな未来を思い浮かべてみる。

 

 ――コンコンコン。

 

 突然、ノックの音が響いた。

 

(ああ、もう。今、カイオスに書類の書き直しを命じていたところだったのに・・・)

 

「……入れ!」

 

 楽しみを邪魔されたイノスは、露骨に不機嫌な声を上げたのだった。

 

 

*1
かつてフビライ・ハンに命じられた高麗が、木を全部切り倒してしまうほどにたくさん作った船は『20メートル級』。『40メートル級』は、仮に縦横高さが全部2倍ずつあるとすると、単純計算で1隻当たり8倍の材料が必要になるんじゃないかな・・・





 第一章の反省を踏まえて、ストーリーと設定以外はほぼ全面的に書き直しました。 作風も変わっておりますが、お楽しみいただければ幸いです。


 次回の更新は未定です。
 なるべく急いで投稿したいと思います。
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