トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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 前話『9 ムーゲの奔走』の前半のミリシアル公使の場面で、飛行場を話題にするくだりが抜けていたため、追加修正しました。
 一応、次回(次話)のちょっとした伏線です。良かったらチェックしてみてください。



10 策謀のイノス ―― 絶望の抜け道

中央暦1639年3月4日 午前

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

  国家戦略局 局長室

 

 

 重厚な執務机の前に、三人の男たちが立っていた。

 イノスは、戻ってきた三人から話を聞くことにしていたのである。

 

「それで、トルキナ連邦の力をどう見る?」

 

 早速、肝心の点を尋ねた。

 

「皇国は連邦と直接争ってはなりません――それが我々三人の意見です」

 

 最初に答えたのは主任のガルドールだった。

 

「僕たちが見たのは…ほんの一部と思います。ですが…その一部だけでも、異質で…圧倒的です」

 

 次に口を開いたのは新人の記録員トロスだった。

 

「あの軍艦の主要材料は鋼鉄だと聞きました。実際、そう見えました」

 

 最後に技術連絡員のゼルードが補足した。

 

(三人とも、表情が重い……)

 

 深刻な顔に、イノスは怯みそうになる。

 

「そ、それほどかね?」

「はい。我々三人はこの目で見たのです。巨大な爆発を。飛行機械を。鋼鉄の軍艦を」

「巨大な爆発?」

 

(きょ、巨大とは…どれくらいだっ?)

 

「そうです。トロス、説明してくれ」

「わかりました。国王と臣下の一団が城壁に行くと聞き、同行しました。城壁に着くと、使者の男ジローは『今から砲撃する。今発射した。およそ180秒後に到達する』と告げました」

「180秒後?」

「はい」

 

 するとゼルードが付け加えた。

 

「私も懐中時計で確認しました。ちょうどそれくらいでした」

 

(何が?)

 

 トロスが続けた。

 

「遠くに見えていた…コーンが…大爆発したんです」

 

 トロスの若い声は、少し震えている。

 イノスは固唾を呑んだ。

 

(だ、大爆発……)

 

「見たこともない巨大な炎が現れました。それがすぐに黒い煙に変わって…すぐに城壁が震えだして、2、3秒後に、爆風が襲い、フードが外れたんです。爆発の轟音で耳が割れそうになりました」

 

(な、なんと……)

 

 背筋が凍ったイノスにゼルードが補足する。

 

「あやうく懐中時計を落とすところでしたよ」

 

(いや、そこはどうでもいい!)

 

 だが…見たこともないほど巨大な…爆発…

 三人の表情が険しい。

 それほど強力な爆裂魔法だったのか……

 

(だ、だが…)

 

「トリックではないのかね?」

「トリック? ですか?」

 

 怪訝な顔のトロスに、イノスは頷く。

 

「そうだ。そのコーンに爆裂魔法を仕込み、砲弾を届かせたように見せかけたトリックじゃないかね?」

 

 すると、ゼルードが語気を強めた。

 

「ですが問題はあの爆発の巨大さです! あれが砲弾であろうと、仕掛けた爆弾であろうと、あのような巨大な爆発を起こされたら、こちらはひとたまりもありません!」

「そ、それもそうだなっ」

 

 ゼルードの剣幕に、イノスはすぐさま同調した。

 

(それほどに巨大な爆発だったのか…これは大問題だぞ…)

 

 イノスは、自分の心に重石がまた1つ加わった気がした。

 

「次にジローが『あれが爆撃します』と言って、空を指差したんです」

 

 トロスがまた話を始めた。

 

「爆撃?」

「はい。『爆弾を落とす』という意味なんだそうです」

 

 爆弾を落とす……?

 

「上空を見ると、確かに何かが近づいてきました。それがヤツらの飛行機械だったんです」

 

(飛行機械!)

 

 ムーが持つ最先端の乗り物と同じだ。

 

「そのまま飛行機械が近づいてきました。そして上空を通り過ぎる時に、何かを放り投げたんです」

 

(放り投げた…ま、まさか……)

 

 イノスは固唾を呑んだ。

 

「それが地面に落ちて爆発したんです。ドッカーンと」

 

 やはり……

 

(こ、これは厄介だぞっ!)

 

 だが爆弾を落とすだけなら、ワイバーンロードからでも、やればできるはず。

 

「爆発は最初のよりは小さめでしたが、それでもかなり強烈でした」

 

 強烈……

 

「強烈? 爆弾の大きさは?」

「遠目にも、しっかり見えました。かなり大きい物だったと思います」

「私の見た所、戦列艦が吹き飛ぶに充分な爆発ですね。しかも最初の爆発と同じ位置で爆発しましたよ」

 

(へ?)

 

 ゼルードの補足に、イノスの“職業上の感覚”がざわつく。

 

「同じ位置だと?」

 

(ど、どういうことだ?)

 

「はい。まったく同じ位置に見えました」

 

 頷くゼルード。

 イノスは長年の“職業上の感覚”が告げる異常にかられて、再度尋ねる。

 

「本当なのか? 空を飛びながら、地上の目標に爆弾を命中させることができた、ということになるんだぞ?」

 

 するとトロスが訴えるような声を出した。

 

「ホントです! 僕も実際にこの目で見てなければ、信じないと思いますけど…」

 

 徐々に声が落ちていくトロス。

 イノスは主任のガルドールに目をやる。ガルドールはしっかりと頷いてきた。

 

(これは…予想以上に深刻な事態だ…)

 

 最初の大爆発は、爆裂魔法をあらかじめ仕掛けたトリック。

 それで説明が付く。

 おそらく、大量に魔石を使ったのだろう。

 

  ――だが次の“爆撃”は違う!

 

 仮に二度目用の爆裂魔法をあらかじめ仕掛けるとしても、魔石も必要になる。

 どう考えても最初の大爆発で一緒に吹き飛んでしまう。

 そうなると答えは1つ。

 

(飛行機械が爆弾を落とし、それが命中して爆発した!)

 

 それしか考えられない。

 しかも、狙いすまして、しっかりと目標に命中させている。

 

(つまり! ヤツらはこの庁舎を狙って爆弾を落とすことができるっ!)

 

 イノスは自分の身の危険を敏感に感じ取った。

 

 おかしい。寒気がする。

 早朝から暖炉の火がついてたはずなのに。

 

 念のため暖炉に目を向けると、火が赤々と燃えていた。

 

「竜騎士隊で対処できそうかね?」

 

 対処できるとすれば、ワイバーンロードか、上位種のワイバーンオーバーロードしかない。

 

「わかりません。ただ導力火炎弾では燃えそうに見えませんでした」

 

 技術連絡員のゼルードが答えた。

 

「まさか、鉄でできているのか?」

「外側は金属に見えました」

 

 金属でも燃えることはあるが、まず燃えない。

 

(火炎弾では厳しいか…だがいくつか命中させれば…)

 

「速度は?」

「時速380キロ近いそうです」

 

 トロスの答えにイノスはさらに気が重くなる。

 

 ワイバーンロードと互角……!

 つまりムーの飛行機械と同じ!

 ワイバーンオーバーロードなら勝てるだろうが、数が少ない。

 

(互角なら火炎弾は命中するだろうが…皇都の空を守り切れるかは微妙…)

 

「それで、王都の東門に連れて行かれて、飛行機械に乗るように言われたんです」

 

 トロスが再び話を続ける。

 最初の報告にあった話だ。

 

「中に入ると、それは飛び上がりました。しばらくすると地面に降りて停止しました。外に出ると…海に囲まれた広大な甲板でした。『輪空母艦』と呼ばれる巨大な軍艦の上だったんです」

 

 イノスは港で見た軍艦を思い浮かべた。

 

「中を案内されると、飛行機械がずらーっと並んでいたんです」

「いくつだ?」

「それは……」

「52体でした」

 

 トロスが言い淀むと、ゼルードが代わりに答えた。

 

「52体だとっ! その母艦は何隻来てるっ!」

「3隻です」

 

 再び答えるゼルード。

 

(つまり150体はある!)

 

 数ではまだ、こちらのワイバーンロードの方が上だ。

 だが……

 

(火炎弾が当たらなければ、当たっても効かなければ……皇都は終わりじゃないか!)

 

「案内が終わると、突然、取り囲まれたんです。そこで主任が正体を明かしました」

 

 トロスがそう言うと、ガルドールが慌てて口を開いた。

 

「パーパルディア皇国の役人に手を出すことはないだろうと判断しました!」

 

 そう言い訳する部下を、イノスはもう責める気にはなれなかった。

 そんなことはもはや些細な問題だ。

 

(それに……ガルドールの判断は妥当だ)

 

 皇国の役人に手を出すなど、神聖ミリシアル帝国ですらためらうはずだ。

 

「僕たちは部屋に押し込まれて、そこにあのエルフの女が現れたんです」

 

“あのエルフの女”――イノスの脳裏に、あの高笑いと蔑みの視線がよみがえる。

 まるでこちらの心を見透かすようなあの表情。

 

「……ニムディスか」

 

 あの女の声が、耳の奥にこびりついて離れない。

 あの笑い声は、こちらの力を嘲っているようだった。

 

 暖炉の火は燃えているのに、寒気が止まらない。

 イノスはブルッと震えた。

 

「はい。女は『最高監査人のニムディス』と名乗りました。『身分を隠して軍艦に潜入した罪を問うこともできるが、これから貴国に挨拶に行く。政府にその旨を連絡してくれれば、罪を問わずに送り届ける』と言われたんです」

「特に問題はないと判断しました」

 

 トロスの説明の後、ガルドールが続けた。

 

 それは仕方ない。連絡するだけなら問題ない。

 それが連絡員の仕事だ。

 

「その後、彼らの軍艦で過ごしましたが、軍艦の主要材料は鋼鉄だと聞きました。実際、何度も叩いてみましたが、そのとおりでした」

 

 ゼルードはちゃんと確認していたわけだ。

 

「そうだな」

 

 イノスは頷いた。

 

(あれは鉄を張った鉄鋼式装甲ではない。最初から鉄で作られた鉄鋼式軍艦だ)

 

「鋼鉄は導力火炎弾でも燃えません。砲弾の爆発でも少しへこむ程度でしょう」

「だろうな」

 

 ゼルードの判断に、イノスは深く頷いた。

 

 対魔弾鉄鋼式装甲は、爆裂魔法を封じた砲弾の威力にかなり耐える。あの軍艦がそれ以下のはずがない。

 

「それで、ロウリア王国はどうなった?」

 

 主任のガルドールが半歩前に進み出た。真剣な表情だ。

 

「ロウリア王国は『亜人殲滅方針の撤回』『亜人差別制度の廃止』『〈北の港〉と〈王都〉の一部区画の提供』『賠償金として金貨1万枚の支払い』を連邦に約束したと聞きました」

 

 亜人殲滅の撤回か……

 アホ国王にとっては苦渋の決断だな。

 

「王都の区画提供か…領事館でも作るのか?」

「はい。外務局の出先機関を置くそうです」

「占領されたわけではないんだな?」

「はい。大爆発と爆撃、そして輪空母艦の中を見せつけ、脅しただけです」

 

 ひとまずは安心か……

 

 ロウリア王国はそれなりに大きい。人口も多い。

 24隻で占領は無理だ。

 だから“約束”させて、手を打ったというところか。

 属国になったわけではないのは助かる。だが……

 

(それも時間の問題な気がする!)

 

 なぜなら…

 

「金貨1万枚の支払いか……」

 

 皇国からすると大した金額ではないが……今のアホ国王には大金だろう。

 

「わ、我々の支援はどうなる?」

「それについては、何も言われていません」

 

 つまり、まだわからない……?

 

「だが、もう王国は連邦に逆らえまい…」

 

 約束を反故にすれば、増援がやって来て、即座に征服されるだろう。

 あの艦隊で海岸を押さえてしまえば、あとは巨大な軍艦でなくとも大軍を送り込める。

 昨日あの女が話したように、ロウリアには総督が置かれ、準州、州、最後に共和国となって連邦に組み込まれてしまうのだ。

 

「…大陸の資源獲得は…絶望的だな……」

 

 支援は無駄に終わり、資金も回収できない…

 わたしの問責は避けられない…

 

「資金を回収できなくなればっ……わたしは……終わりだ……」

 

 イノスは両手で顔を覆った。

 

 手が冷たい……

 心が冷たい……

 世界が凍り付いていくようだ……

 

 イノスは絶望した。

 

 だが、その時――

 

「局長! 必ずしもそうではありません!」

 

 ガルドールが声を上げた。

 

「ん? どういう意味だ?」

 

 イノスは顔から手を離し、疑わしげに部下を見上げる。

 そこには確信に満ちた目をしたガルドールがいた。

 

「ロウリア王国が『亜人殲滅方針の撤回』を約束したのは間違いないでしょう」

 

 ガルドールが改めて、イノスが絶望した理由を述べた。

 

(それが問題なんだが…)

 

「ですが、それは即座に『クワ・トイネ公国やクイラ王国との不戦』を意味するわけではありません! あの国王が気付いているとは思いませんが、まだ手はあります!」

 

(え?)

 

 イノスは一瞬、キョトンとなった。

 

(“亜人殲滅方針の撤回”が“不戦”を意味しない――だと?)

 

 すぐに“職業上の感覚”がフル稼働を始める。

 

(……あ!!! そうかっ!!!)

 

 頭の中で、何かが“カチリ”と音を立てて噛み合った。

 

 アホ国王の目的は亜人殲滅だった。

 だから戦争する理由も消えたような気がする。

 だが――

 

(――そうではない!)

 

 イノスは両手を机につき、身を乗り出した。

 

「王国は亜人殲滅などせずに、ただ戦争で両国を征服すればいい!」

 

 イノスの胸中から絶望の影が消え、体に力が戻ってくる。

 

「それなら連邦との約束は破っていないっ! そういうことだなっ!」

 

 イノスは、ガルドールの言葉の意図を読み切った。

 そんな上司に、ガルドールも嬉しそうに口元を緩めた。

 

「はい! 殲滅は無し! 差別も無し! 人間も含め奴隷化も無しが良いでしょう。それでも征服はできます! しても約束違反になりません! 王国は資源について連邦に何の約束もしていません。皇国は支援の見返りとして、手つかずの資源を得られます!」

 

 ガルドールの声には、抑えきれない熱がこもっていた。

 虜囚生活はよほど屈辱的だったのか。

 その間ずっと、この策を温めていたのかもしれない。

 

(ガルドールの言うとおりだ……このまま終わるわけにはいかない!)

 

 失敗すれば、失脚どころか、命も危ない。

 だが、この抜け道があるなら――

 

 イノスはこの考えに飛びついた。いや、飛びつくしかなかった。

 

「国王に教えてやるべきだな」

「はい。支援を無駄にしないためにも。ですが連邦に気付かれないように伝える必要があります」

 

 ガルドールの慎重な意見に、イノスも頷いた。

 

「そのとおりだ。邪魔される恐れがある」

 

 連邦はおそらく、エルフが政府中枢にいる国だ。

 ニムディスがその証拠だ。

 近衛兵としてダークドワーフもいる。

 亜人殲滅など、到底受け入れられまい。

 

 確かにロウリア王国は「戦争しない」とは約束してない。

 だが、あのアホ国王が「戦争するぞ!」と騒ぎ始めれば、連邦は“亜人憎悪が残っている”と見なして、介入してくるだろう。

 

(ならば、極秘に進めるのみ……)

 

 部屋の空気が和らいできた。

 暖炉の火が暖かい…

 

 まずは信頼できる伝令、そして伝える相手もよくよく選ばなくては…

 それも早い方が良い。

 

「もし連邦があの軍艦をさらに量産すれば、ロウリア王国どころか、皇国も為す術がなくなる…」

 

 イノスがそうつぶやくと、トロスが言いにくそうに口を開いた。 

 

「あの…魔信では報告した話なのですが…」

「何だね?」

「『24隻から増えて36隻になる』と報告しました」

「そうだったな」

「実際にはこう言われたのです。『第15軍から1個艦隊12隻が加わる』と」

「なんだと!」

 

 第15軍……1個艦隊は12隻……

 

「我々が乗せられた輪空母艦は第13軍。2個艦隊が来ていると聞きました」

「第13軍だと!」

 

(つまり、戦力の一部にすぎないっ?!)

 

「はい。第1軍からあるとして、第15軍まであるなら、あのような艦隊はまだまだあるんじゃないでしょうか」

 

 イノスは背もたれに崩れかけた。

 だがガルドールが姿勢を正すのを見て、思わず体を起こした。

 

「以上が、皇国は連邦と直接争うべきではないと我々三人が考える理由です」

 

 ガルドールの言葉にイノスは静かに頷いた。

 三人の考えは完全に理解できた。

 

「それを決めるのは皇帝陛下だ。だが、お前たちの意見はしかと受け取った」

「ありがとうございます。それと我々は戦闘を見ておりませんが〈北の港〉には武官が派遣されています。戦闘を目撃しているはずです」

「ああ、それは確認した。まだ概要しか聞いてないが」

「詳細を報告させるべきかと」

 

(それはもっともだな)

 

 三人は大爆発と爆撃は見たが、戦闘そのものは見ていない。

 

「わかった。軍と話してみよう。お前たちは経緯の詳細を文書で提出すること。わたしはそれを読んでから皇帝陛下に報告する」

「少々時間が掛かってもよろしいですか?」

「構わん。忘れないうちに、三人が見聞きした全てを記せ。話が重複しても構わん」

 

 情報は多いに越したことはない。

 今の第15軍の話のように、漏れがあってはならない。

 

「わかりました」

「報告書を提出したら休暇を取っていい。休み明けにはまた呼び出すことになるだろうがな。では下がっていいぞ」

「はい、失礼します」

 

 ガルドールの言葉とともに三人が部屋を出て行く。

 扉が閉まると、室内には暖炉の火がはじける音だけが残った。

 

 イノスは顎に手を当て、机に視線を落とす。

 

 皇国は連邦と直接争うべきではない。

 これは完全に同意である。

 

 だが――

 

(ロウリアには征服戦争をしてもらわなくては…)

 

 亜人殲滅も差別もしないと約束したが「戦争しない」とは言ってない。

 ロウリア王国には、そう主張させる。

 もちろん連邦は怒るかもしれない。

 だが、約束していない以上、王国に非はない。

 そう主張されれば……いきなり占領はすまい。

 きっと……たぶん……

 

(何より、支援が無駄にならずにすむ!)

 

 未発見の魔石鉱脈が見つかれば、独断の支援も成功となる。

 そうすれば…

 

(宰相の座も見えてくるっ!)

 

 イノスはニヤリと笑みを浮かべた。

 だが、すぐにその笑みは消えた。

 

(連邦がどう出るのかは、依然として未知数なのが気になるな…)

(何か糸口はないか…)

 

 昨日の会談を思い返してみる。

 ふと、ニムディスの言葉を思い出した。

 

(そう言えば……あの女は、こんなことを言ってたぞ)

 

“連邦の国土は既に広く、資源も豊かじゃ。()()()()()()()じゃがな。資源を奪わねば豊かに暮らせぬような小国とは違うのじゃ”

 

 ()()()()()()()豊か…それはつまり…

 

(魔石は不足している!)

 

 ならば――

 

「多少は、分け前を渡すべきか…」

 

 亜人殲滅をしないだけでは、連邦は納得しないかもしれない。

 だが魔石が得られるとなれば?

 

「黙認くらいは、するかもしれん」

 

 しかし、これもリスクがある。

 事前に戦争することを知らせることになるからだ。

 

 それに連邦が“皇国から受け取るより、自ら征服した方が早い”と考えることもあり得る。

 ニムディスは「国是として侵略はせぬ」などと話してた気がするが、あんな傲慢な女がそんな建前を本気で言うはずがない。

 あの目、あの表情、あの高笑い―――どう見ても、建前に遠慮するクチではない。

 

(だがっ! 挽回の道は、まだ閉ざされてはいないっ!)

 

 イノスの胸に、希望の火が燃えていた。

 脳裏には宰相の座が、ちらつき始める。

 

「とにかく慎重に事を進めなくては…」

 

 この希望に懸かっているのは、栄達だけではない。

 失敗すれば、処刑台に立つこともありえる。

 つまり命も掛かっているのだ!

 

 顔を上げると、静寂が戻った部屋では、ただ暖炉の火だけが揺らめいていた。

 その炎を眺めつつ、イノスは指先を(ひたい)に押し当て、次の一手を考える。

 

 まずは…海軍の武官を呼び戻して、話を聞くべきか…

 ロウリア軍にも話を聞いた方がいいな…

 王の側近の誰に、話を通せば良いか……

 

 イノスの思案は続くのだった。

 

 

 






 次回の更新は、明日の予定です。

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