トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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13 帝国の影 ―― 電波と自爆用爆弾

 

3月4日午前 第1外務局 応接会議室

 

 

 その後は陸軍の話を聞き出した。

 やっぱり信じられないような数字だったけど、わたしはただ書き留めた。

 

「151万だと! バカな!」

 

 カイオスは相変わらず、食って掛かっていたけど。

 

(陸軍だけで、皇国全軍を上回ってる…)

 

 わたしはひととおり聞き出して、ムー製万年筆を置いた。

 

 よし、これでようやくアルデの用件は済んだわ。

 外務局本来の仕事に入らなくちゃね。

 

「それで、あなたたちは皇国に何を望むのでしょうか?」

 

 ――トルキナ連邦は何を望むのか?

 

 その答え次第で、皇国は危うい立場に立たされるかもしれない。

 そんな不吉な予感が胸をよぎる。

 

 するとニムディスが先ほどと打って変わり、真剣な表情になった。

 青みがかった銀色の目がまっすぐにわたしを射抜く。

 

(な、なに?)

 

 不穏な空気を感じる。

 

「そう大したことは望んでおらぬ。じゃがその前に話しておきたいことがある」

 

(いったい何を話すの?)

 

 わたしは思わず姿勢を正して、言葉を待った。

 

「そなたらは電波を使用しておるか?」

 

 へ?

 

「電波ですか?」

 

 わたしは思わず聞き返す。

 

「電波がどうかしたのですか?」

 

 詳しくは知らないけど、ムーやミリシアルではそいうものが使われていると聞いてる。特にムーは、魔信とは別に、電波を使用した独自の通信機を持っていると聞いてる。

 

「使用しておるなら別に良いのじゃが…」

 

 ニムディスが私の目を覗き込む。

 そのまま沈黙が始まった。

 

(なによ! もったいぶって!)

 

「だからどうしたのですか!」

 

 思わず声に苛立ちが混じってしまう。

 するとエルフ女は話し始めた。

 

「実はロウリア王国でな…」

 

 ニムディスが語り始めた内容は、全く予想外のものだった。

 

 ロウリア王国で電波が出ていた。

 ロウリア兵とともに電波の発信元に向かったところ、あやしい者達がいた。

 捕らえて尋問したところ、グラ・バルカス帝国の諜報員だった。

 いずれその地を征服する目的で、情報を集めていたという。

 そして、ここ皇都でも電波を確認した。

 

「この国にも無断で潜入しておるなら、いずれこの地を征服するつもりでおるのじゃろう。今のうちに捕らえた方がよいとわらわは思うのじゃが、そなたらはどう思う?」

 

 再び楽しげな表情に戻って、ニムディスはそう問いかけてきた。

 

「な…」

 

 カイオスが声を上げかけたけど、出なかったみたい。

 

 ――皇都にも、入り込まれてる?

 

 このパーパルディア皇国に?

 第3文明圏の盟主であるわが国に?

 それが本当なら――

 

(どう思うも何も、そんなの、捕まえるしかないじゃない……)

 

 わたしは会談の最後まで、この女の言葉に振り回されたのだった。

 

 

 

同日 夕方

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

  皇都防衛隊基地

 

 

「どうだった!」

 

 夕暮れの日が差し込む司令室で、基地司令のメイガは部下に問いかけた。

 

 本日昼過ぎ。

 城にいるアルデ最高司令からの緊急指令――

 

 ――皇都にグラ・バルカス帝国なる遠国の間諜(かんちょう)が潜伏している恐れあり。

 トルキナ連邦がそう主張しているので確認せよ!

 

 メイガは即座に部隊を動かした。

 部下はその報告に来たのだ。

 

「はい。トルキナ連邦の職員に電波なるものの発信源まで案内させました。発信源は二カ所あり、うち一カ所は……ムー大使館でありました」

「そうか、ムーか。ムーはちょっと変わっているという話だからな。電波などという怪しげな技術を使っているということか…」

 

 ムーは魔信を使ってはいるが、自分では作れないという噂がある。

 その代わり、なにやら怪しげな技術を持っている。

 皇都を走る平べったい馬なしの馬車を見かけたことがあるが、実に怪しげだ。

 ならば電波などという怪しげな技術を使っていても不思議はない。

 

 メイガは納得した。

 

「はい。そしてもう一カ所が――例の間諜のアジトでありました」

「そうか…」

 

(やはりいたか!)

 

 皇都防衛の責任者たる我々の目をすり抜け、潜入するとは!

 

「それで捕まえたのか? 爆発音が聞こえたが」

 

 午後、皇都に爆発音が響いた。

 基地にも聞こえたため、メイガはすぐさま増援を出していた。

 

「はい。3名が、こちらの兵を巻き込んで自爆しましたが……」

 

(自爆しただとっ!)

 

 おそろしいヤツらだな。

 正体を知られる前に自害とは、よくよく訓練された間諜のようだ。

 

「…2名の捕縛に成功しました」

「そうか! よくやった!」

 

(よし! 2名捕らえたのは大きいぞ!)

 

「捕らえた2名は、いまだ一言も発しておりません。尋問には難航しそうです」

「自殺するくらいだ。すぐに口を割ったりはしないか…」

「それと……捕縛の際に、トルキナ連邦の武官が飛び出して、間諜2名と格闘し、銃と爆弾を取り上げていました」

 

 なんだとっ!

 

「そんなことをやらせたのかっ! なぜやらせたっ!」

 

 メイガが怒鳴ると、部下は少し後ろに体を引く素振りを見せたが、踏みとどまっていた。

 

「いえ、勝手に飛び出していったのであります。銃が見えたからと」

 

 銃が見えたなら、警戒を促せばいいだろ!

 なぜ飛び出すんだ!

 

 メイガはトルキナの武官の身勝手な行動に憤る。

 

「勝手なことを! 撃たれでもしたら、こっちが疑われるではないか!」

 

(なんて迷惑なヤツだっ!)

 

 撃たれなかったから良かったものを。

 もし死んでいたら、誰かが責任をとらなくてはならないではないかっ!

 

「それで格闘中に、外出していたと思われる者が3名、建物に現れたのです。アジトに戻ってきた様子だったのですが、我々を見てすぐに立ち去ろうとしたため、追いかけました。それで追い詰めたところ、爆発が…」

「そうか…」

 

(自爆されたわけか…)

 

「それにしても、場所の特定に時間がかかりました」

 

 そのようだな……

 

「すぐに見つかると思ったが、そうでもなかったか…」

「はい。トルキナ連邦の職員は、何やら道具を抱えて、魔信に向かって『これでどうですか?』『ここはどうです?』と繰り返し尋ねていました。魔信からは『もう少し北だった』『もっと東』などと、声が聞こえました。何度も行ったり来たりしてましたよ」

 

 さっぱり仕組みがわからんな……

 

「大まかな場所しかわからんのかもしれんな」

「奴らの自作自演の線は薄いようです」

 

 基地内にはトルキナ連邦の自作自演を疑う声もあった。

 だが、もしそうならばもっと手際よく見つけただろう。

 部下の言葉はそういう意味だ。

 

 メイガも同じ意見だ。

 

 自演ならムー大使館に行くこともないだろう。

 つまりこれは――本当に間諜が入り込んでいたということだ!

 

(なぜ今まで気付かなかったのか……)

 

「よし。そいつらを徹底的に絞り上げろ。まだ仲間がいるかもしれんからな」

「はっ! それと、押収した爆弾と銃の説明をさせるために、トルキナ連邦の職員と武官を演習場に入れます。爆弾を爆発させることになると思います」

 

(まあ演習場ならかまわんな)

 

「そうか。ならしっかり聞いておけ!」

「はっ!」

 

 部下は敬礼し、足早に司令室を後にした。

 一人になったメイガは拳を握る。

 

(これ以上わたしの足元で好き勝手はさせん!)

 

 皇都防衛はこの私の責任だ。

 

 窓から差し込み夕日の赤が、これから流れる血を予告するように、床を染めていた。

 

 ドン!

 

 演習場の方角から聞き慣れない爆発音が響いた。

 

(もう始めたのか)

 

 メイガは部下の仕事の早さに感心するのだった。

 

 

 

同日夜

 皇都エストシラント

  パラディス城 皇帝の間

 

 

 日も暮れた頃、天井のシャンデリアと壁の魔導ランプに灯された魔法の光の下、最高司令アルデからの報告が行われている。

 

 わたし、エルトも同席している。

 そもそもわたしの報告から、始まった話だ。

 

「電気信号無線機?」

 

 陛下の眉がわずかに動いた。

 確かに、聞き慣れない言葉ね。

 

「はい。案内したトルキナ連邦の政府職員の説明によれば、電波を使ってやりとりをする通信機とのことです」

 

 これが電波を出していたようね。

 

「それで、話にあったグラ・バルカス帝国なのか?」

「現在黙秘していますので、まだわかりません。ただ…」

「なんだ?」

 

 皇帝陛下の声は低く、刃のように鋭い。

 

「報告によると、トルキナ側の職員の話では、部屋にあった物はロウリア王国で押収したものと同じだとのことです」

 

 陛下が不機嫌そうに、アルデを睨み付ける。

 

「トルキナ連邦の自作自演ではないのか? 間諜の話が事実なのだから、軍事力の話も事実だ。そう信じ込ませようという魂胆ではないか?」

 

 陛下はトルキナ連邦に疑いを向けている。

 

 もちろん、その可能性もある。

 特に陛下は、トルキナの軍事力の話を頭から信じようとなさらないから、そう思われるのかもしれない。

 

 わたしの報告を聞いた際も、陛下は途中で吹き出した。

「エルトは軍事については素人だから仕方がないが、このような荒唐無稽な話を信じるようでは困るな」と。

 アルデもワッハッハと笑っていたわ。

「560隻だとっ? あの大きさの軍艦をかっ? 神聖ミリシアル帝国でも、そんなに持っていないぞっ。ヤツらはトンだ大ボラふきだなっ」と。

 

(わたしは頼まれたから聞き出しただけなのに…)

 

 ――でも、自作自演で仲間を三人も殺すかしら?

 

 皇国を信じ込ませるために?

 

(……それはないわね)

 

 わたしは確かに軍事には疎い。

 でも、相手がどんな人物かくらいは見抜けるつもり。

 

 あのニムディスは、きっと皇国が信じなくとも意に介さない。

 

(あれは、そういう女だわ)

 

 だから軍事力についての話も――ウソとは思えない。

 軍事には疎いから自信はないんだけど…

 

「それは…」

 

 アルデが言い淀んだので、わたしは口を差し挟むことにした。

 

「恐れながら、今のところ、それはないと思います」

 

 皇帝陛下がジロリと目を向けてくる。

 

「それはなぜだ? エルト」

「はい。彼らの話ではグラ・バルカス帝国には魔法がなく、魔道具もないそうです」

 

 ニムディスもその腰巾着(こしぎんちゃく)も簡単に魔法を使っていた。

 彼らの国が魔法を使わないなどあり得ない。

 

 すると皇帝陛下がジロリとアルデに視線を向けた。

 

「だが爆裂魔法を使ったのではないか?」

 

 するとアルデが神妙な表情になった。

 

「あれは火薬の爆発とのことです。捕らえた二人も所持しておりました。つまり間諜の自爆用爆弾です。トルキナの職員によれば、ピンを抜くと爆発するように作られたモノとのことで、魔法は使われていないそうであります」

 

 ピンを抜くだけで簡単に自爆できる自爆用爆弾!

 そんなものを作り出すなんて…

 それを懐に忍ばせて、捕まる前に自爆するなんて……

 

(……恐ろしい覚悟だわ)

 

「魔法火薬ではないのか?」

「いえ、火を付けずとも簡単に爆発するため、取扱いの難しいものだという話です。間違ってピンを外してしまうと、命はないと。実際、トルキナ連邦の職員に説明させようと演習場に連れて行ったところ、我が軍の兵士が説明を受ける前に『これは何だ?』とピンを抜いてしまい、それを見た連邦の職員が大慌てで取り上げて演習場に放り投げたところ、爆発したとのことです」

 

 兵士があやうく自爆するところだった!

 そんな危険なモノを皇都に持ち込んでいたなんて!

 

「おかげで死傷者は出ずに済みました。順に説明させるために、押収した銃を並べてあったのですが、それがすべて吹き飛び、バラバラになってしまったほどの威力だったとのことであります」

 

 しかも銃まで持ち込んでいた!

 

(危険な相手だわ…)

 

「そうか…魔法を知らぬ蛮族か」

 

 皇帝陛下が(あご)に手を当ててつぶやいた。

 魔法を知らぬということは文明を知らぬということ。ムーを除くけど。

 そして明らかにトルキナ連邦とは違う国。

 

 わたしは再び口を開く。

 

「はい。トルキナ人は魔法を使っています」

「浮遊魔法というヤツだな」

 

 午前の会談の一部始終は報告済。

 私の報告に、陛下は不機嫌になったり笑ったりしておられた。

 

「はい。それに魔力探知を阻害する魔法も使っています」

 

 彼らに魔力反応がないのはそのせい。

 

「厄介な…」

 

 そのとおり。

 厄介な魔法。

 皇都周辺には魔力探知を張り巡らせているのに、それが役に立たない。

 軍は対策を考えなくてはいけない。

 

「トルキナ連邦は…高度な魔導技術を持っている…と判断できるかもしれません…」

 

 そう言ったのはカイオスだった。

 その言葉に陛下が不満の表情を向ける。

 

「カイオスまで、奴らの言うことを()に受けているのか!」

 

 皇帝陛下に睨まれて、カイオスが半歩下がった。

 カイオスは報告の時からどうも歯切れが悪い。

 午前の会談をどう受け止めて良いのか、決めかねているのかもしれない。

 

(まずいわね…)

 

 わたしはここで、先ほどハンスから受けた新たな報告を切り出すことにした。

 

「実は、ムー大使館が、トルキナ連邦の外交使節に話を聞きたいと、仲介を依頼してきています」

 

 ちっ。

 

 陛下が舌打ちした。

 第三国の介入がお気に召さないようだ。

 

「ムーは何を聞くつもりか!」

「おそらく艦隊のことを聞きたいのでしょう」

 

 あの艦隊を見れば、ムーだって気になるに違いない。

 

「断れるか?」

「断ることはできますが、ムーの心証を損ねるべきではありません」

 

 わたしとしても断りたいけど、断るなんてできない。

 

 アルデたちは「われら皇国軍はムー軍すら倒せる」と日頃から豪語している。

 だから陛下もそうお考えなのかもしれない。

 でも、わたしは先進11カ国会議で、実際にムーの艦隊をこの目で見たのよ。

 あの巨大な軍艦、整然とした動き、そして何より――あの場にいた各国の代表が、誰一人、軽んじる素振りを見せなかった。

 ミリシアル帝国ですらそうだった。

 

 それに、あの時――

 

 

 わたしはこの話を、冗談めかして話題にしてみたの。

「うちの軍には『我が軍はムー軍すら倒せる』って豪語している者がいて、困ってしまいます」と。

 場が和むかと思ったのよ。けれど――

 ミリシアル外務省のシワルフ部長が、すっとわたしの正面に立って、顔を近づけてきた。

 

「そんなことは絶対に不可能ですぞ! 軍には、絶対にそんなことをやらせてはなりませぬ! それがきっかけで第3文明圏がムーの傘下に入ってしまうこともあり得るのです。もちろん、わが国としてはそんなことは望まないが、状況によっては、介入できるとは限らないのですぞ!」

 

 大真面目な顔で、そう言ったのよ。

 目は深刻で、声は低く、わたしに力強く釘を刺してきた。

 あの目は戦争の火種がすぐそこにあることを、確かに語っていたわ。

 冗談のつもりだったわたしは青くなってしまい、ただ頷くことしかできなかった――

 

 

「フン。仕方がない。なら宿泊先を教えてやるがいい。ただし!」

 

 陛下の不機嫌な声が響き、わたしはすぐさま我に返って返事をする。

 

「はっ」

「卑屈になるなよ! 皇国は決して下手に出てはならん! しっかりと恩に着せろ!」

「はっ」

 

 ふう。

 仲介じゃなくて、宿泊先の紹介だけ。

 

 それでも許可が得られて良かった。

 また陛下が無理難題をおっしゃったけど。

 

(これで恩に着せるなんて無理だわ。できるのは、ちょっと部屋で待たせることくらい)

 

 ムーを怒らせたらどうなるか……

 

 それに、トルキナ連邦も――

 

 

 





次回の更新は明日の予定です。
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