トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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誤字報告ありがとうございます!

調子に乗って書いていたら、字数が1万を越えてしまいました……


20 連邦軍の攻勢 ―― 皇国海軍の失墜

同3月6日 午前 皇都エストシラント沖

 トルキナ連邦第13軍 海軍団

  (こう)艦隊 旗艦 輪空母艦《銀鷹(ぎんよう)》 司令室

 

 

「乙艦隊が40キロ圏内に入りました」

 

 坂本上級大将は頷いた。

 今回の遠征軍には第13軍海軍団から2個艦隊、甲艦隊と(おつ)艦隊が参加している。

 

「よし、では甲艦隊は圏外に向かうぞ」

『甲艦隊は現在、5キロ地点。圏外に向かいます』

 

 外務局長の要請ではあったが、3個艦隊全てを港から40㎞圏内にとどめて、約300隻の戦列艦の砲撃を躱しながら追いかけっこをするのは、やはり無理があった。

 そこで坂本は、入れ替わりながら常に1個艦隊は圏内に留まるという運用を思いつき、すぐさま実行したのである。

 

「15は砲撃を終えました」

 

 すでにあのノウブの団長から「砲弾の残りが少ない」と連絡を受けている。

 つまり弾切れである。

 

「では陸軍兵は甲板に出て銃撃せよ」

「各警備兵は甲板に出て銃撃せよ!」

 

(だが銃撃だと射程が短いな)

 

「飛竜の現在数は?」

「現在、飛竜はおよそ……20。増援が何度か来ていますが、退避した飛竜も多数いると思われます」

 

 あと少しか……

 飛竜をさっさと片付けたい。

 

“こちら《天甲(てんこう)》電探1班。飛竜の反応が再び出始めています! 既にその数20! まだ出てきます。母艦と陸から出てきていると思われます!”

 

 ちっ!

 

「当然弾切れを待っていたか…」

「なかなかやりますね」

 

 敵も大砲を持っている。弾切れを知っている。

 

“こちら《親潮(おやしお)》。当艦甲板で11(イチイチ)の陸兵が弓矢で飛竜を撃墜しています”

 

(はあ? 弓矢? 本当か?)

 

「《親潮》は11(イチイチ)がどうやって矢を命中させているのか、確認しろ」

“《親潮》了解!”

 

 返事はしばらくしてから来た。

 

“――ということです”

「わかった。報告ご苦労」

 

(なるほど……)

 

 飛竜は火弾を出す前に、減速して直進するのか。

 

「よし、では今の話を13(イチサン)の陸軍団に教えてやれ」

「は!」

「司令室より全艦へ。甲板の部隊に通達せよ。飛竜の火弾は射程が短く、飛竜は火弾発射直前に首を伸ばして大幅に減速し、目標に直進して接近する性質あり。その時を狙えば仕留めやすい」

“了解”

 

 しばらくして内線電話が鳴り、キャミジ中佐が取った。

 

「艦内の直轄軍からです。手伝っても良いか、と」

「直轄軍が手伝う?」

 

 連邦軍は多額の防衛予算を持つ。

 対して監査府直轄軍は連邦全土に総勢600名ほどしかいないと聞く。

 戦闘を手伝わせるなど、笑いものだ。

 現にそこまで窮してもいない。

 

(だが、向こうからの申し出だ。どうするか……)

 

「どう思う? だれか意見はあるか?」

 

 しばしの沈黙の後に、声を上げる者がいた。

 カイ・ジン大尉である。

 

「監査府の職員が乗艦している艦であれば、護衛のために戦闘することもあると思います」

 

 当艦と輸送艦には監査府の職員もいる。

 彼らの護衛は本来直轄軍の仕事だ。

 

 カイ大尉の言葉に坂本は頷いた。

 

「だな。おい、この席にかけさせろ!」

 

 すぐに司令官席の内線がなった。

 

「作戦司令官だ」

“監査府直轄軍所属、カラタルン・シェル=リョハン中将です。こちらに掛けるよう言われました”

 

 名前は森エルフのものだ。

 

(旧近衛兵だな)

 

「直轄軍は飛び道具を持って来ているのか?」

“はい、狙撃手が3名、銃使用者が5名、弓使用者が12名おります。どれもS級用の特別仕様の武器です。詳細は申し上げられませんが、特に狙撃銃は、射程も威力もかなりのものです”

 

 そうか。直轄軍にはS級がいるんだな。

 

「監査人はご存じなんだろうな」

 

 勝手にやらせるわけにはいかない。

 

“もちろんです”

 

「なら監査府職員が現在乗っている艦に限り、甲板から飛竜を撃つことを許可する」

“ありがとうございます。あと銃をお借りできれば手伝える者が3名おります”

「うちの銃を使えるのか?」

“はい、近装(きんそう)出身者です”

 

 近装、つまり近代装備群から転属になった者である。

 直轄軍の入隊資格はA級以上だ。

 近代装備兵でA級に達する者は滅多にいないが、ごく稀にいると聞く。

 

「種族は?」

“エルフ1名とニンゲン2名です。いずれもこの艦におります”

「そうか……シェル=リョハン中将、一つ教えてもらえないか?」

「何でしょう?」

 

 坂本には気になることがあった。

 

「貴官らは、なぜ両監査人の護衛につかずに、この艦にいるんだ?」

「それは……」

 

 受話器の声は一瞬言い淀むが、話しても問題ないと思ったのか、すぐに話し始めた。

 

「……現在、当方の司令官が待機処分中でありまして、その見張りに人員を割いているためです。一応、港に到着して72時間後、つまりおよそ3時間後には両監査人の護衛を増やすよう、予定が組まれております」

 

 そういえば、勝手に探知阻害を解除したマヌケがいたんだったな。

 しかもそのマヌケは稀少なSS級ときたもんだ。

 

(抑えるにはS級が最低でも10人、できればその3倍は欲しい…か)

 

 マヌケのせいで皆が苦労する。

 

「……そうか。おい、間身(かんしん)族用の銃3丁を借りたいそうだ。手配してやれ」

「は!」

「持っていかせる」

“ご配慮、痛み入ります。直ちに甲板に向かわせます。では失礼いたします”

 

 坂本は受話器を置くとすぐに指示を出す。

 

「監査府職員の搭乗艦に連絡だ。直轄軍が手伝いに甲板に出るとな」

「は!」

 

 

 その後しばしの時が過ぎ、坂本に待ちに待った報告が届く。

 

“こちら《天甲》電探1班。敵飛竜隊の反応すべて消えました”

 

 坂本和樹上級大将は拳を握るのを我慢して、冷静を装う。

 

 ――ずいぶんと時間が掛かってしまった!

 

(だが、これでなんとかなる!)

 

 艦隊に囲まれた状態で戦闘が始まったのがまずかったな。しかもあの飛竜は敵船から出てきた。

 

 接近されすぎて、重対空砲どころか軽対空砲も使えなかった。

 当初は15(イチゴー)の速射砲に助けられてしまったが、その後、砲弾の残りが少ないので援護は終了すると報告してきた。

 その後は陸軍団の弓と銃で対処できた。

 直轄軍も援護してくれた。

 

“こちら《天甲》観測班。目視でも飛竜は見当たりません!”

 

(よし! 第一段階終了だ!)

 

「では甲板の部隊は待機。各艦は反転して敵艦隊に向かえ。11に命令だ。距離5000を切った敵戦列艦から順に乗り込み制圧せよ。四肢を切り落とすのはなしだ。敵は銃火器を持っていると予想される。くれぐれも注意しろ。制圧困難と判断した時は、すぐに報告しろ」

「はっ」

 

 坂本は背もたれに寄りかかった。

 

 古典装備兵はB級。しかも対人類戦が専門だ。

 肉弾戦では圧倒的な力を発揮するはず。

 これであの戦列艦群を制圧できる。

 

「あんな横付き大砲は上空から近づけば躱せます。予想される銃器も防殻(ぼうかく)で対処できると思われます」

「機銃を持ってるとは思えませんからね」

「持ってたら、その時はうちの陸軍団の出番だ」

 

 ただ、そうなれば敵の死体が大量に出ることになる。

 ノーク隊員が突入して5センチ銃をぶっ放したら――

 

(どうなるかわからん!)

 

 弾薬に引火でもしたら船ごと吹き飛ぶんじゃないか?

 そんなことになれば最高監査人に何を言われるかわからない。

 できれば、いや、絶対に避けたい。

 

(うまく行ってくれるといいんだが…)

 

 坂本は成功を願った。

 

 

 

同日 午前

 同海域 皇国海軍

  竜母艦隊 旗艦 《ワーグナー》

 

 

 バーンは自分達の仕事を正しく理解していた。

 

「われわれの任務は、砲撃後に残った敵艦を確実に仕留めることである」

 

 これは戦闘開始前と同じセリフだが、同じ意味ではない。

 

「砲声鳴り止みました! 今度こそ弾切れに違いありません!」

 

 此度(こたび)は“敵艦の砲撃後に”という意味である。

 

「よし! 待機中の竜騎士は発艦を開始せよ!」

「は!」

「アモルの読みどおりだな。さすがは軍師だ」

「はい。魔導砲を猟銃のように使おうと、砲は砲です。弾薬が尽きればただの鉄の筒に過ぎません!」

 

 アモルの進言で、当艦隊の竜騎士を退避させたのだ。

 他の艦隊の竜騎士隊には、敵の弾薬を使い切らせるための囮になってもらった。

 味方には悪いが、これも皇国の敵を倒すため。

 

 しばらくすると報告があった。

 

「負傷者を除き、竜騎士はすべて発艦しました。陸に退避していた23騎も上がりました。敵艦隊に向かっています」

 

(これでようやく皇国海軍の威光を見せつけられる。しかもその勝利の立役者は我が竜母艦隊のものだ!)

 

 バーンは勝利を確信し、口元には自然と笑みが浮かぶ。

 

「フフフ。竜騎士96騎だ。弾切れの軍艦などただの(まと)。逆襲の始まりだ!」

「はい! 味方の戦列艦は一向に追いつけないようです。手柄はわれら竜母艦隊のものに……」

 

 そこに魔力探知員の声が響いた。

 

「な! 5騎の反応が消えました!」

「なんだと! どうなってる!」

 

 ダダダーン!

 

 遠くから乾いた破裂音が聞こえてくる。

 

「銃声です! 敵は船上から魔導銃を撃ってます!」

 

 すくざま報告の声が届いた。

 

「そんなバカな! 銃如きでワイバーンロードが……」

 

(やられるわけがないっ!)

 

「心配要りません。次の弾を込めている間に火炎弾を浴びせてやれば……」

 

 そんなアモルの話を、魔信からの声が遮る。

 

“こちら第2竜騎士隊。敵が船上から矢を放っています!”

 

「はあ? 弓矢? 本当か?」

 

(弓矢如きでワイバーンロードを倒せるとでも思っているのか?)

 

「魔導砲が撃てなくなって、敵も必死なのでしょう」

「ふふふ。血迷ったな」

 

(お前たちが殺した竜騎士達の仇だ! せいぜい足掻いて苦しむといい!)

 

 バーンは自分達の仕事を理解していた。

 だが――

 

「敵艦周辺の竜騎士の反応が次々と消えていきます!」

「なんだと! なら一旦距離を取って体制を立て直させろ!」

「はっ! 竜騎士隊は一旦距離を10キロほど取って体制を立て直せ!」

 

(なぜだ! なぜこうも簡単にやられるんだっ!)

 

「距離を取ったと思われる竜騎士の反応が……消えていきます!」

 

(そんな…ありえん…いったい何が…)

 

 そんな動揺をねじ伏せるようにバーンは怒鳴った。

 

「銃弾がそんなに飛んで溜まるかっ! アモルっ! どうなってるっ!」

「そんな…バカな…敵の魔導銃は射程10キロあるとでもいうのか……」

 

 軍師アモルの体が動揺で震えている。

 

(これはいかん!)

 

「竜騎士の反応、全て消えました!」

「なんだとおおおおおお!?!?」

 

 バーンは絶叫した。

 

「作戦……失敗であります……」

 

(くそっ! どうする? このまま突撃して乗り込むか?)

 

「第5艦隊から救援要請です!」

 

 通信隊員の声が響いた。

 

「敵兵が乗り込んできて、戦闘中とのことです」

「なに! では助けに……」

「それはできません!」

 

 参謀の一人が異議を唱えた。

 

「なぜだ! 救援要請だぞ!」

 

 救援要請を無視するのは、味方を作戦上の囮にするのとは訳が違うんだぞ!

 

「竜騎士のいない竜母艦隊にできることはありません。却って足手まといになるだけです」

「う……」

 

(た、確かに……)

 

「……そうか」

 

(我々にできることはもうないのか……)

 

 バーンは自分達の仕事を正しく理解していた。

 この仕事が終わったということも。

 そして――

 

 自分にはもう二度と、与えられないだろう、ということも。

 

 

 

同日午前 

 同海域 皇国海軍 第2艦隊

  超フィシャヌス級戦列艦《パール》

 

 

 ダルダは勝利を疑わなかった――という段階はとうに過ぎていた。

 

「上空の竜騎士はすべて反応が消えました!」

「……」

 

 その報告に艦長のダルダは言葉が出なかった。

 

「第5艦隊より通信!『敵兵が乗り込んできて現在戦闘中! 至急援軍を請う』とのことです」

 

(はあ? 乗りこんできた? 接舷した?)

 

「なぜ接近を許したんだ! なぜ砲撃しない!」

 

 ダルダは声を荒げた。

 

(接近されたなら、砲撃するチャンスではないかっ!)

 

「砲撃しても被害を与えられませんでしたので、それが理由ではないでしょうか」

 

(そうだった……)

 

 一斉砲撃して命中弾多数だったにも関わらず、敵艦は悠然と去って行った。

 

「なんてことだ。すぐに向かうと伝えろ」

 

 すぐに応援に行かなくては。

 すると声が響いてきた。

 

「敵兵多数! 飛んできます!」

 

 マストの見張り台からだ。

 

「なんだと! 魔力反応は?」

「魔力反応はありません!」

 

 ダルダの魔力探知員が答えた。

 

「ワイバーンか! 飛行機械か!」

「それが、兵士がそのまま飛んできます」

 

(はあ?)

 

「どういう意味だ! わかるように言え!」

「敵兵が何も使わずに飛んでます!」

「バカな!」

 

 ダルダが艦長室から甲板に出ると、兵士の一人が指を差した。

 

「あれです」

 

 見ると、鳥の群れのような、いや虫の大群のようなものがこちらに近づいてきている。

 

(なんだ、あれは!)

 

 急いで望遠鏡を覗くと、それは鎧を着た兵士だった。

 

(バカな! 空飛ぶ兵士だと!)

 

「敵兵が飛んできます!」

 

(な、なんてことだ……)

 

 やつらはワイバーンがなくても飛べるのか?

 魔道士の部隊なのか?

 あんなに上空では砲弾は届かない。

 こちらのワイバーンロードはもういない。

 

 ダルダはすぐに対処方法を考え出す。

 

「撃ち落とせ! 銃撃しろ!」

「はっ!」

 

 すぐに水兵20名が魔導銃を持って甲板に立った。

 空を覆いつつある敵兵の群れに向ける。

 

「射程に届いていません」

「そのまま待機!」

 

 兵士の一人が指を差した。

 

「あそこだ! 敵兵がこちらに向かってきます!」

 

 ダルダはその砲口に目をやる。

 敵兵が5人ほど、上空からみるみる近づいてきている。

 

「よし、あれを撃て!」

「狙いは前方左上空! 敵兵5! 撃て!」

 

 20丁の銃が一斉に火を噴いた。

 

 ババーン!

 

「命中ありません!」

「すぐに弾を込めろ!」

 

 兵士達が慌てて魔法火薬を詰め始める。

 

(なにをしている! さっさと次を撃て!)

 

 ダルダがそう言おうとしたとき、見張りの声が響いた。

 

「何か飛んで来るぞ! よけろおおお!」

 

 その言葉にダルダは周りを見回す。

 すると、何かがせまって来るのが目に入った。

 

(な、何だあれは!)

 

 何かの塊――

 

 形がよくわからないそれが、銃を持った兵士の隊列に襲いかかった。

 

 ザババババシャーン!!!

 

 大量の水が甲板に溢れた。

 兵士達が、少し流されてから、止まった。

 

「何だ?」

「水です!」

「海水だ!」

「冷てええっ!」

「海水が飛んできました!」

 

 口々に叫ぶ水兵達。

 銃が一つ、転んだ銃兵の手から滑り落ちて、海に落ちていく。

 

「銃が落ちた!」

「こっちのは水浸しだ」

「火皿がずぶ濡れです!」

 

 くそっ。

 海水を飛ばしてきたのかっ!

 魔道士どもめ!

 

「撃てるか?」

「撃てなくはありませんが・・・」

 

 ダルダの質問に銃兵の一人が応えを渋る。

 

(撃てないか……)

 

 すぐにまた誰かが叫んだ。

 

「敵兵接近!!」

 

 ど、どこだ?

 

 だが探す間もなく、それは現れた。

 

 タン! タン!

 

 鎧を着た大きな兵士が二人、甲板に降り立った。

 

(デカい!)

 

 身長は2メートルを優に超えている。

 青白い肌、夜のような黒い目。

 手には体格に見合う大きな剣と盾。

 軽装の鎧から除く肌は、まるで金属のような光沢を放ち、いかにも硬そうだ。

 

 ――に、人間じゃないのか!

 

「ば、化け物!!」

 

 誰かが叫んだ。

 

 化け物と呼ばれた大男達はすぐさま銃兵に襲いかかる。

 魔導銃を剣でたたき落とした。

 一人が発砲しようと銃を構えた。

 

 カチン!

 

 発砲しなかった。

 海水で燧石(すいせき)が濡れているのだ。

 

(くそ! 銃をダメにしやがった)

 

 兵士がたたき落とされた銃を拾い上げようとする。

 大男に盾で弾き飛ばされた。

 

「ぐあっ!」

 

 大男はそのまま銃を片足で踏み付けている。

 ダルダは叫んだ!

 

「あの化け物を倒せ!」

「は!! 掛かれ!!」

 

 水兵達がサーベルを手にして、一斉に斬りかかる。

 サーベルが化け物の一人の鎧に迫る。

 だが無情にもサーベルは弾き返された。

 

「な?!」

 

 すぐさま別の水兵達が斬りかかる。

 もう一人の大男が盾で受け止め、押し返すように払う。

 勢いよくはじけ飛ぶ水兵達。

 次々と甲板に体を投げ出され、倒される。

 兵士達はすぐに立ち上がり、再び斬りかかる。

 

 化け物二匹との戦闘が繰り広げられていた。

 

 ある者は失神して倒れた。

 ある者は腕の骨を折られた。

 一人、また一人と動けなくなっていく。

 

(ちくしょう! どうすれば……!)

 

 考える暇もなく、次々と銃が奪われていく。

 そのまま甲板に叩きつけられ、海に放り投げられる。

 あっという間に20丁の銃が全て奪われてしまった。

 

「おとなしく降伏しろ!! そうすれば痛い目を見ないで済むぞ!!」

 

 野太い声が響いた。

 

「銃はもうないのか!!」

「ありません。本艦は捕虜の輸送より砲の搭載を優先した艦であります」

 

(くそ! 自慢の兵装が(あだ)になるとは!)

 

 銃が使えない。

 サーベルも通じない。

 あの化け物を排除するにはどうすれば良いんだ?

 

 ダルダはふと思いついた。

 

(なら魔導砲しかない!)

 

「おい! 下から魔道砲を一つ持ってこい! あの化け物どもを吹き飛ばすんだ!」

「は! ですが時間が掛かります」

「艦長命令だ。皆で持って来い!」

 

「は!」

 

 命令を受けた兵士が走って行く。

 

 この艦には700人いるんだ。持ってこれる。

 

「何だ、その貧弱な攻撃は! もっと人数を増やしたらどうだ!」

「その程度で本当に兵士なのか!」

 

 化け物どもが水兵達を嘲笑っている。

 

「おのれえええ」

 

 ダルダは怒りに震えた。

 

 そうだ! 乗員700人だ!

 その人数で束になってかかれば、あの化け物どもを……

 

「艦長!!」

 

 先ほど下に行った兵が戻ってきた。

 

「砲兵が全員倒れています!」

 

(は?)

 

「なんだと!! いったいどうしたんだ!!」

「それが皆腹を押さえて、苦しそうにしています」

 

 腹痛か!

 

「食あたりか?」

「いえ、殴られたそうです。嘔吐している者もいます」

 

 腹をか?

 

「殴られた? 誰にだ?」

「我々だ!」

 

 鎧の金属音とともに、艦長室の屋上に影が現れた。

 小さな子どもだった。

 子ども用にしてはずっしりと重そうな鎧を纏っている。

 傍らにはその子より一回り大きな子どもが3人。

 だがダルダはすぐに分かった。

 

(子どもじゃない! ドワーフだ!)

 

「この船は連邦第11軍第2旅団4105小隊ランブル分隊が占拠した。無駄な抵抗を止めて降伏しろ!」

 

 意味不明な数字を並べた人物は子どもにしか見えない。

 だが、その声は大人のものだ。

 怒りも嘲りもない。ただ任務を遂行する者の声。

 

「下はすべて占拠した! あとはここだけだ!」

「いつの間に!!」

「これ以上抵抗する場合は、下の兵と同じ苦しみを味わうことになるぞ! 三日は起き上がれないぞ!」

 

 チビ兵士がそう叫んで、屋根から飛び降りた。

 

「ふざけやがって!!」

 

 兵士の一人がチビどもに斬りかかった。

 ダルダに報告していた兵士だ。

 すると、傍らにいたドワーフ兵の一人が素速く立ち塞がった。

 身構えてパンチを繰り出す。

 ドワーフの拳が腹にめり込んだ。

 

(は、速すぎる!)

 

 あれでは対応できまい。

 

「ゴフッ!」

 

 水兵が膝から落ちた。

 そのままうずくまる。

 腹を押さえてうめいている。

 苦しそうだ。

 ダルダは顔をしかめた。

 

「キサマらも剣を捨てろ!!」

 

 大男が怒鳴る!!

 

「今度は容赦しねえぞ!!!」

 

 水兵の一人が斬りかかる。

 だがすぐに盾で突き飛ばされて、海に落ちていった。

 

 ボチャン!

 

 甲板から海面までかなりの高さがある。

 無事で済まないかもしれない。

 

「容赦しないと言ったはずだ!」

 

 万事休すか。

 

「降伏しろ!」

 

 ダルダはもう打つ手がなかった。

 どのみち乗員のほとんどがすでに倒れているのだ。

 

(これまでか……我が艦の栄光が……だがこれ以上はもう無駄に部下を苦しめるだけ……)

 

 ダルダは、重く沈む気持ちを振り切り、声を張り上げた。

 

「わかった! 降伏する! 艦長命令だ! 投降しろ!」

 

 まだ立っていた水兵達がサーベルを手放した。

 

(捕虜がどう扱われるかはわからんが、少なくともいま倒れている水兵達は助けられるはずだ)

 

 小さな男が目の前にやってきた。

 本当に小さい。

 6歳児くらいの大きさだろうか。

 だが他の敵兵の態度からすると、隊長なのだろう。

 

「分隊長のサム・ランブル曹長です。艦長はどなたですか? 名前を教えてください」

「艦長はわたしだ。名はダルダ・モルトだ」

「この船の最上位ですか?」

「そうだ」

 

 すると小さなランブル曹長が敬礼した。

 

(な、敬礼だと!?)

 

 ダルダは息を呑んだ。

 明らかに異種族のチビが皇国軍兵士と同じ敬礼をしたのである。

 そして、それ以上に驚いたことがあった。

 

(降伏した艦長に…敬礼…だと?)

 

「では、ダルダ・モルト艦長とその指揮下の乗員を捕虜として扱います。全員を船室に監禁しますので、抵抗しないようお願いします。大人しくしていればこれ以上傷つけることはありません。ただし、抵抗すれば命の保証はありません」

 

(ほんとうに傷つけないんだな?)

 

 ダルダはそう口を開きかけたが、ランブル曹長がさらに言葉を続けた。

 

「なお、自沈しても我々は飛んで脱出できます。死ぬのはあなたたちだけであることを頭に入れておいてください」

 

(……自沈など考えてなかったが…)

 

 飛んで逃げられては、敵を減らすこともできず、無駄死にするだけ……か。

 

「わかった。ほかの艦はどうなった」

 

 他の艦はどうなっているのか?

 

「いま、順番に制圧しています。じきに全艦を制圧できますよ」

 

 じきに全艦制圧・・・やはりあの化け物には敵わないか。

 

「そうか。キサマはドワーフなのか?」

 

 ドワーフよりも小さいが。

 

「パント族です。見るのは初めてですか?」

「ああ。あのデカいヤツらは何という種族かな」

 

 化け物どもを指差す。

 

「ノーク族です。連邦で一番大きな人類ですね」

 

(人類…? あれが…?)

 

 質問が終わったと見るや、ランブル曹長が部下に命じた。

 

「海に落としたヤツを拾ってきて」

「はっ」

 

 ノーク族の兵士一人が飛んでいった。

 

「倒れている捕虜を船室に運んで」

 

「は!」

 

 ドワーフ兵とノーク兵が甲板に散らばると、先ほどのノーク兵が飛んで戻ってきた。

 傍らには、水兵が空中に……

 

(浮いてる! さっきの海水と同じか!)

 

 ずぶ濡れの水兵はすぐに甲板に降ろされた。

 顔が青い。

 海が冷たいせいか。

 

 こいつらは魔導士の軍隊なのか。

 小さなパント族。大きなノーク族。そしてドワーフ兵。

 こんなワケの分からん連中だったとは…

 

「なあ。キサマらは魔道砲は使うのに、銃は使わないのか?」

 

 魔道砲の音は響いていたし銃声も聞こえたような気もするが、こいつらは剣を持っている。

 ドワーフ兵にいたっては素手だ。

 

「現時点ではそのような質問には答えられません」

 

 回答は拒否された。

 

「そうか…」

 

 銃などなくともやられてしまったわけだが。

 

 ――こうもあっさりと制圧されるとは!

 

(実力が違いすぎる……負けて当然か……)

 

 ダルダはドワーフ兵の後に続き、トボトボと歩き始めた。

 

「旗を差替えろ!」

 

 背後から、小さな分隊長の声が響いた。

 

 

 

同日午前

 皇都エストシトラント 東南海岸

  皇国軍 海軍本部 司令室

 

 

(こ、これは…どういうことだ…?)

 

 海軍総司令官バルス海将は信じられなかった。

 

「竜騎士隊が全滅してから、艦隊が次々と制圧されている模様です!」

 

 混乱する司令室でバルスは狼狽していた。

 

「なぜだっ! 接近されたなら、なぜ砲撃しないっ!」

「それが、敵軍兵士が空を飛んでいると…」

「ワイバーンか! ま、魔力反応は?」

「相変わらず魔力反応はありません」

 

“トルキナ人は魔力反応を消す魔法を使っているとの情報がある”という話は聞いていたが、魔力が無いからだと思っていた。

 だが違った。

 

(魔力が無いからではなかった)

 

「目視ではどうだ?」

「今確認します」

 

 しばらくすると兵が司令室に駆け込んできた。

 

「海上では敵兵の大軍がそのまま空を飛び、次々とこちらの軍艦に乗り込んでいる模様であります」

「はあ? そのまま空を飛び?」

 

(どういうことだ?)

 

 そこに新たな報告が入った。

 

「第3艦隊アルカオン提督より連絡っ!『我、降伏せり!』」

 

(なんだと! 我が皇国海軍の艦隊が…こうもあっさりと……!)

 

「第1艦隊より『全艦制圧され、降伏した』との報ありっ!」

 

(なぜだ! なぜ降伏するのだ!)

 

「す、すぐに竜母艦隊を撤退させろっ」

「竜母艦隊、『我、余剰戦力無し』との連絡を最後に応答ありません!」

 

(なんてことだ……栄光ある皇国海軍が……)

 

 バルスは狼狽した。

 

(このままでは全艦制圧されてしまうではないか!)

 

「マータル! どうすればいい!」

 

 (すが)るような思いで、作戦参謀のマータルに尋ねる。

 

「こうなったら…」

「こうなったら?」

 

(な、何か方法が?)

 

 バルスは祈る思いで、マータルの言葉を待った。

 

「……陸軍に沿岸防衛を要請するしかありません」

 

 バルスはガクッと肩を落とした。

 マータルの口調にはもうできることは無いという諦めの響きしかなかった。

 バルスはすぐに気を取り直し、怒鳴りつける。

 

「なんだとっ! 貴様っ! 栄光ある皇国海軍が陸軍に助けを求めろと言うのかっ!」

「すでに皇都防衛隊の竜騎士団の支援を受けています。このまま全艦が制圧されてしまえば、ここも危ないでしょう。そうなれば…」

 

 だがバルスは耳を貸す気はなかった。

 

「敵が上陸してくる気配はあるのか?」

「いえ、今のところ、その様子はありません。ですが…」

「なら、連絡はまだで良い。上陸する動きを見せたら連絡する」

「間に合いますか? 確かに上陸には時間が掛かるでしょうが…」

 

 軍隊の上陸は簡単ではない。

 

「そうだ。特に敵は魔導砲を持っている。陸揚げするには時間が掛かるはずだ! まずはそこを我々海軍で叩く! いいな!」

 

(魔導砲を下ろしている隙に銃撃してやる!)

 

「空を飛んできたらどうします」

「それこそ銃撃で撃ち落としてやれば良い! 魔導砲を持って飛べるはずはないからな。大砲を陸揚げするならここかあそこだ」

 

 海軍本部か、港の波止場かだ。

 

「…わかりました。ではどちらに来るのか、しっかりと監視させます。陸軍には、いつでも動けるように準備だけはしておくように連絡します」

「今すぐ必要なのか?」

 

 上陸してこないなら、知らせずに済ませたいんだが……

 

(特にあいつには! “間諜が入り込んでいたのは海軍の落ち度だ”と抜かしやがったあのメイガには!)

 

 メイガ陸将は皇都の内陸側を守る皇都防衛基地司令である。

 陸軍は海岸側には配置していないため、間諜が海岸から入り込んだとしたらそれは海軍の責任であると主張してきたのである。

 それがバルスは気に入らなかった。

 

「はい。いくら身軽な陸軍といえども、準備なしには、大規模な軍事行動は取れないはずです」

「そうか。ならば最高司令に一任する。すぐにアルデ最高司令につなげ」

「はっ!」

 

 こうして、海軍総司令官のバルス海将は、吉報を待つアルデ最高司令に、遅すぎる敗戦報告をもらたすのだった。

 

 

 本来ならば、バルス海将の判断は致命的な失策となるはずだった。

 なぜなら、沿岸防衛の作戦司令部は海軍本部であり、陸軍への支援要請は本来、海軍本部が行うべきものだったからである。

 もしこの時に連邦側が――第13軍の陸軍団半個師団と海軍団陸戦部隊が、そして第11軍の陸軍団半個師団が――皇都への侵攻を始めていたら……

 バルス率いる海軍は瞬時に蹴散らされ、メイガ率いる陸軍は間に合わず、皇都は日が高いうちにあっけなく占領されただろう。

 連邦軍は、艦載機を出すまでもなく、わずかな物資の消費だけで、皇都を瞬く間に制圧していたに違いない。

 だが、連邦軍は上陸を望まなかった。

 このことが、後世の戦史研究家が指摘するまで、バルスの判断が “問題”とされなかった唯一の理由である。

 この奇妙な幸運によって、バルスは後日、この判断の責任を問われることのないまま、敗戦の責任だけを取って辞職するのであった。

 





次回の更新は明日の予定です。
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