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3月7日 国家戦略局 局長室
イノスは衝撃の知らせを受けていた。
「今…なんと…言った?」
めまいを覚えつつ、聞き返した。
「トルキナ連邦側は『慰謝料として、ロウリア王国に貸し付けた債権をすべてよこせ』と言ってきている」
「そ、そんな…」
カイオスの言葉にイノスは息が止まりそうになる。
ロウリア王国に貸し付けた債権。
それはつまり国家戦略局の債権である。
「悪いが、明日の昼までに回答しなければならない。先方が満足する代替案が見つからなければ、受けるしかない」
呆然とするイノス。
「ではわたしは忙しいから、これで失礼する」
カイオスは足早に立ち去っていった。
「お、終わりだ…」
イノスは頭を抱えた。
ロウリア王国を支援したのは、ロデニウス大陸の資源を手に入れるため。
独断で支援したのは『アルタラス王国魔石鉱山獲得計画』を横取りしたカイオスに、これ以上横取りされないため。
国家予算の1パーセントに膨らもうとしている支援も、手つかずの資源で何倍にもなって戻ってくるはずだった。
ロデニウス大陸は魔石の採掘が行われた形跡がない。
もしかするとクワ・トイネ公国あたりには巨大な鉱脈が見つかるかもしれない。
そう思っていたというのに…
(そ、それがすべて…トルキナ連邦に奪われてしまう…)
独断で資金を動かしたイノスは、全財産を支払ってでも弁済しなくてはならない。
そして、それでも足りない分は、命で支払わなくてはならないだろう。
(カイオスに一矢報い、あわよくば宰相の座を射止めるはずが…)
――これでは…破滅だ…
イノスはしばらく動けなくなっていた。
「ムー大使館から連絡です。ムーゲ大使が午後に第1外務局を訪れます。その時、イノス局長と面会して、お礼をしたいそうです」
そう知らせてきたのは、第1外務局の職員だった。
「分かった」
せっかく大使と知り合ったというのに、これでお別れかもしれないとは。
――最後の挨拶くらいはしておくか…
同3月7日 午後 第1外務局 小応接室
その日の午後、イノスが第一外務局の応接室の一つに入ると、ムーゲ大使が立ち上がった。
「イノス殿! 昨日はごちそうになりました。これはそのお礼です」
そう言って箱を開け、中身を見せてきた。
「これは?」
「双眼鏡です。ここをこうして回すとピントを合わせられる便利な物ですよ。きっと倍率も、お使いの望遠鏡より高いと思います」
イノスはそれを呆然と見つめることしかできなかった。
(今さらもらっても…どうしようもないな…)
「もしかして、余計な物でしたかな?」
ムーゲ大使が不安げな表情を向けてきたため、イノスはあわてて弁解する。
「いえ、そうではありません。ただ…わたしにこれを使う機会が訪れるのだろうか、と…」
するとムーゲ大使の眉が訝しげに動いた。
「どうかされたのですか?」
イノスは視線を落とし、再びムーゲ大使に向けた。
「実は…国家戦略局がロウリア王国に貸し付けている資金があるのですが、トルキナ連邦が慰謝料としてその債権の引き渡しを要求しているのです」
「なるほど」
イノスの声には悲痛さがにじんでいたはずだが、ムーゲ大使の声はあっさりしたものだ。
むしろ「ありそうな話だ」という納得の響きがある。
だが、それも次のイノスの言葉で消し飛ぶのだった。
「この資金が回収できないとなると、わたしは命で償わなくてはなりません」
「なんと!」
ムーゲ大使が驚きの声を上げた。
「命でとは…皇国とは…それほどに…」
その目が大きく、丸くなっている。
「明日までに連邦が満足できる代替案を示さなければ…わたしは…終わりなのです!」
イノスは悲痛な声でそう言い終えると、頭を抱え、椅子に座り込んだ。
「そうですか…それは…大変なお立場に立たされましたな…」
ムーゲ大使の声にも、深刻さが滲んでいた。
大使は腕を組み、首を傾ける。
何かを考え始めたようだ。
イノスは、しばらく頭を抱えたままであったが、ふと我に返る。
「も、申しわけ…」
“…ありません”と言おうとしたときだった。
しばらく黙っていたムーゲが、口を開いた
「わたしなら…」
ん?
何か?
手立てがある?
のだろうか?
「ムーゲ大使なら?」
イノスは頭から両手を降ろし、尋ねる。
「いえ、その…つまり外交官としての視点から、トルキナを満足させる案について、少し思いついたことがあるのですが…」
「ぜひ、教えてください!」
かすかな希望に縋る思いが、声に表れる。
「わかりました。まずトルキナ連邦ですが、彼らは三つの文明圏のことは知りません。その逆もそうです。三つの文明圏はトルキナを知りません」
そのとおりだ。
先月、ロウリア王国に現れるまで、我々は知らなかった。
「そのため、彼らは今回のように艦隊で押しかけて国交を求めているのでしょう」
確かに。艦隊で押しかけて、その軍事力を見せつけている。
そして攻撃を跳ね返している。
「ならばその手間を省いてあげれば、満足するのではありませんか?」
(へ? 軍事力の誇示の…?)
「…手間を省く? と言いますと?」
イノスには見当も付かない。
「そうですね。例えばですが、パーパルディア皇国政府から各国政府に通知文書を出すのです。内容は『皇国はトルキナ連邦と対等の関係を結んだ。貴国もこの事実を尊重されたし』とでもしましょうか」
通知文書を出す?
「はあ。おっしゃりたいことが…よくわからないのですが…」
むしろ、トルキナ側に嘲笑されないだろうか…
“アッハッハッハ! 対等じゃと? 身の程知らずもここまで来ると、哀れよのう!”
ニムディスの高笑いを思い浮かべてしまい、イノスはさらに困惑してしまう。
そんなイノスに、ムーゲはさらに説明を続けた。
「パーパルディア皇国は五大列強の一画です。その通知は大きな意味を持ちます」
(それはそうだ)
神聖ミリシアル帝国でさえ、皇国を軽んじることはない。
「通知を受け取った国は、いずれもトルキナ連邦を過小評価しなくなるでしょう。仮に過小評価するとしても“パーパルディア皇国を後ろ盾としている”と考えるはずです」
(確かに…。その力を知らなければ、そう考えるのが自然だ)
「そうなれば、少なくとも表向きは、軽んじるようなことはしないはずです。ましてや“襲撃しよう”などとは決して考えないでしょう」
イノスはムーゲの話のポイントが見えてきた。
確かにそれなら、他国は襲撃したくとも、二の足を踏むに違いない。
それどころか、むしろトルキナに気を使うようになる。
トルキナ側も話を早く進められるはずだ。
「そのことを充分に説明した上で、彼らの手間を省く対価として慰謝料の減額を求めるのです」
「なるほど…」
イノスは天井を見つめて考える。
(大使の言うように、あの艦隊が今後も各国に押しかけて、交渉していくつもりなら…)
――これは、あのエルフ女にとっても良い話なのでは?
そもそも船旅は快適なものではない。
その日々を短縮できるなら、あの傲慢なニムディスにとっても嬉しい話に違いない。
もしかすると“対等”という言葉も見逃すかもしれない。
(しかも、こちらの負担はわずかだ)
――これは名案だぞ!
「あとは皇国にとっては厳しいものではありますが…」
(まだ案をお持ちと!)
「…慰謝料の代わりに、関税を免除するとか、治外法権を認めるなどの方法もあります。まあ慰謝料の方がマシのような気もしますが、あまりにも多額で、どうしても減らしたいなら、それも一つの手ですな」
確かに、通知だけでは減額はできても、全額免除にはならない気がする。
だが、これなら全額を免除してもらえそうだ。
(自分の命が助かりそうな気がしてきたぞ!)
イノスは希望を見いだした。
ムーゲ大使が次々と出した案に。
(さすが、列強国に派遣されるほどのお方は違う!)
そして、イノスは感心した。
それを語るムーゲ大使の知恵に。
「ありがとうございます! なんとお礼を申し上げればいいのか…」
イノスは声の震えを抑えられない。
胸に右手を当て、深く頭を下げる。
「いえ、昨日は本当にいろいろとお話ししていただきましたので、そのお返しですよ」
顔を上げると、ムーゲ大使が優しく微笑んでいた。
――その笑顔のなんと神々しいことか!
救いの神の微笑みだった。
「このような素晴らしい物まで…」
(双眼鏡だ!)
ぜひムーから取り寄せたいと思っていたところだ。
「双眼鏡は昨日のシチューとワインのお礼です」
「なんと!」
話を聞き出すためだったが、食事にお誘いして良かった!
パルソには褒美を出しておこう。
あいつが手配してくれなければ、こうはならなかったのだから!
「外交とは国と国との利害関係の衝突です。今まさにパーパルディア皇国はそれに直面しています」
ムーゲ大使は優しくも力強い声で語った。
「ですが、同時に人と人とのつながりもまた大切なのです。どうか希望を捨てないでください」
その言葉は、誠意に満ちていた。
イノスの目は感激の涙でにじみ始めていた。
「…このことは…生涯…忘れませんっ! たとえ、どんな立場となろうとも…」
イノスは心からそう言った。
目をこすりながら。
「わたしはただ、あなたと会話しただけですよ。外交官としてというより、友人としてね。率直な友人というのは、何よりも得がたい宝ですから」
ムーゲは一度、片目を軽く閉じた。
(友人! なんと美しい響きだろうか――)
イノスは感動で胸が熱くなった。
(まさかムーゲ大使が…わたしを“友人”と呼んでくれるとは…)
話が終わり、ムーゲ大使がその場を後にすると、イノスはすぐに国家戦略局に戻った。
「カイオスに話さなくては…どう話すか…」
イノスは、急いで考えをまとめるのだった。
同日同刻 財務局 局長室
その頃カイオスは――
財務局長のムーリを訪れていた。
カイオスは連邦の要求を説明していた。
ただムーリも昨日あの場にいたので、用件は分かっていたようだ。
「現在エルトが、減額と分割払いを求めて交渉しているが、先方の要求は金塊約1万5千キログラム、つまり約15トンだ。最悪これだけ支払うことになる。そのつもりで覚悟しておいてほしい」
カイオスが言い終わると、ムーリの顔が真っ青になっていた。
「国家予算の7パーセントだが、軍事費だと思えば、払えない額ではないだろう」
確かに大金だが、あくまで一時的なことだ。
カイオスはそう考えていた。
ダン!
ムーリが机を叩いた。
「そういう問題ではない!
「ん? どういうことだ?」
ムーリが説明をはじめた。
「いいか! 皇国の銀行券は、中央金庫が保有する
(それが?)
カイオスは眉をひそめる。
「それに急激な陸海軍の増強と、急激に増えた属領の統治費用の担保で、実質的な自由準備金は120トンにも満たない。金の急激な流出は、すなわち通貨供給量の縮小を意味し、信用不安を招く恐れが…」
カイオスはすぐには理解できない。
普段使っている銀行券――
それを銀行がどうやって発行しているのか、考えたこともなかったのだ。
「だが120トン近くあるなら、15トンくらい問題あるまい?」
「大問題だ! 全てが皇都にあるわけではないのだぞ! すぐに動かせるのはせいぜい…」
カイオスは何度も何度も質問した。
「…ことに最近はなぜか、穀物業や木材業を始め、各種業者の海外取引が活発で、金の流出が著しい…」
ムーリは苛立ちながらもカイオスの質問に答えていった。
「…このまま短期的に不足すれば、最悪の場合、今月の支払いもできないということになりかねない。職員の給与が払えなくなるだけではない。我が国の通貨そのものが“ただの紙切れ”になる恐れがないとは言えないのだぞ!」
「なぜ紙切れになるんだ?」
「それは……つまり、裏付けとなる金が減れば、紙幣の“信用”が減る。短期間でもそれは起こる。政府の支払いが滞れば、額面上の金準備がただの額面に過ぎないと知られてしまう。商人達は紙幣を受け取らなくなり、誰も皇国の紙幣を信じなくなる。そうなれば極端な話、政府だけでなく、皇国全体で、臣民は紙幣では物が買えず、商人は売らず、国そのものが止まってしまうのだ」
言い終えてから、ムーリがわずかに息を呑んだ。
彼自身が最も口にしたくなかった未来だったようだ。
「金15トン……これは、皇国の弱点を見事なまでに巧妙に突いた要求なのだ…」
(これは思った以上に、とんでもない事態だ…)
カイオスは、少しずつだが理解し始めていた。
「誰かさんが、早くアルタラスの鉱山を手に入れていれば、事情はかなり好転していたと思うのだがな」
そう言ってカイオスに非難を含んだ視線を向けるムーリ。
イラッ!
「ミリシアルと話が付くまでは無理だっ!」
カイオスは苛立ちを声に出した。
(ミリシアルの同意なしに、そんなことできるわけがないだろ!)
(それに、支払わなくてはならない理由が、こちらにはある!)
「減額交渉が失敗した場合、金15トンをすぐに支払わなければ軍艦346隻と捕虜20万人を取り戻せない」
下手をすると、永遠に戻ってこない。
「すると、皇国近海に軍事的な空白が生まれてしまい、近隣諸国に間違いなくつけ込まれる。そうなれば、皇国の領海は脅かされ、第3文明圏の盟主の地位も危うくなるんだぞ!」
陸軍だけでは領海を護れない。
「いずれにしても皇国の危機ということか…」
そう言うムーリの声は小さくなっていき、そのまま口を噤んだ。
机の上で手を組み、考え込んでいる。
カイオスもまた、腕を組んで考える。
(停戦しても亡国の危機とは…いったいどうすれば…)
カイオスの顔が青くなり始めたその時――
イノスがやって来た。
「ああ、ここにいると聞いてね。実は…」
イノスがこちらの返事も待たずに説明を始めた。
(今、それどころじゃないんだが…)
だがカイオスは話を聞いた。
ムーリも聞いていた。
「…通知を出すことで、彼らが諸国を訪問する労力を軽減し…」
最初はしぶしぶと。
徐々に真剣に。
「…と、こうすれば“国家戦略局の債権”の引き渡しは、全額免除してもらえるのではないだろうか?」
反応を探るような表情のイノス。
(……)
イノスの話は腑に落ちるものだった。
それが、カイオスには腹立たしかった。
(…こいつ! 相変わらず良案を思いつきやがって……)
思わず睨み付けてしまう。
(しかも、相変わらず自分のことしか考えていない!)
カイオスはムーリに視線を向けた。
ムーリもまた視線を合わせて、意味ありげに頷いた。
カイオスも同じく頷いた。
二人とも考えることは同じだった。
(今回も、それを利用させてもらうぞ。イノス!)
「わかった。善処すると約束しよう」
カイオスはそう言ってイノスに笑顔を向けようとしたが、うまくできなかった。
それでもカイオスの目には、イノスが胸を撫で下ろしているように見えた。
翌3月8日夕方
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
第1外務局 応接会議室
両国の話し合いは二日に渡って行われ、次の内容で基本合意に達した。
――
両国は、両軍による
連邦は、皇女レミールを除く捕虜と、皇国海軍の軍艦の全てを、速やかに返還する。
連邦は、軍艦及び捕虜に係る身代金要求額を、当初の半分とし、かつ分割払いにも応じる。
皇国は、ロウリア王国に対する債権の半分を、連邦に譲り渡す。
皇国は、連邦に対する関税自主権を放棄し、連邦の治外法権を承認する。
皇国は、皇都の一区画を、連邦の公館用地として提供する。
皇国は、連邦と対等の外交関係を結んだ事を、関係を有する全ての国に速やかに通知する。
皇国は、初回の支払いとして、
皇国は、全ての支払いが完了するまでの間、連邦が定める金利を負担するほか、連邦に最恵国待遇を与える。
連邦は、皇国による支払い完了後、皇女レミールの身柄を、速やかに返還する。
皇国は、本合意の成立をもって、政府・個人の別なく、当該武力衝突に
両国は、通商条約に向けた実務者協議に入る。
なお、本合意の細部についても、実務者協議にて定める。
――
話し合いの途中、連邦側の一人が笑顔を見せた瞬間があった。
「この通知の件は素晴らしい提案だ。こちらの負担が大きく減るから、その分だけ要求額を減らしてもわたしたちの立場は悪くならないし、皇国は日常業務の経費に紛れる程度の負担で支払額を大きく減らせる。わたしならこれを思いついた人には賞与を出すよ」
ジローの思わぬ賞賛に、カイオスは苦虫をかみつぶしたような顔になってしまった。
(くそっ…あの男の自分本位の案がここまで評価されるとはな。実際、良案だから余計に気に食わん!)
ふと隣を見ると、エルトが熱心にジローの言葉を書き留めていた。
話し合いの終わりに、ニムディスが言い放った。
「これでもそなたらを“近代国家”と認めておるのじゃ。連邦法では“犯行現場が
(なんと勝手な言い分だ…)
カイオスは憮然とした。
こうして交わされた合意は、後に『エストシラントの和約』と呼ばれ、パーパルディア皇国の転換点として歴史に刻まれることとなる。
これにより皇国は分割払いを認められた一方、重い金利負担を強いられることになった。
その上、海軍力を大きく損なわずに済む代わりに関税自主権の放棄と、治外法権を認めることとなり、主権の一部を確実に削られたのである。
このうち、特に治外法権の承認は連邦の法が皇国の法を上回る場面を生み出すことを意味し、皇国の法的統治権に深刻な亀裂を生じさせることとなる。
一方で皇国は、この合意に基づき、“対等な関係の成立”を各国に通知した。
ここに、実質的には不平等であるにもかかわらず、対外的には“対等な関係”を謳うという“欺瞞に満ちた両国関係”が始まったのである。
この『対等な関係』は確かに、文明社会におけるトルキナ連邦の地位を高めることとなる。
だが同時に、その力を侮られる原因にもなろうとは、この時、誰一人として予想できなかった。
同日 夜 パラディス城 〈皇帝の間〉
「なにっ!? 治外法権を認めることが、近代国家の
「はい。譲るだけの主権を持つのは文明国だけだそうです」
カイオスは内心で苦笑しつつ、皇帝陛下に報告した。
「勝者の論理です。ですが対外的には“対等な関係”だと通知します。こちらは受け入れるしかありません」
「おのれえ…」
皇帝陛下は低く唸った後、拳を握りしめたまま歯を食いしばっていた。
(“近代国家”を“主権を譲る能力と資格を持つ国”と見なすとは――まったく。連邦の論理はよくできてることだ)
これまでほとんど見かけたことがなかった陛下の歯ぎしりを眺めつつ、カイオスは内心で苦笑した。
(トルキナ連邦か…)
強大な軍事力を持つくせに、その力を積極的に行使しようとせず、交渉したがる。
かといって甘い相手かと思えば、その要求は非常に厳しい。
こちらが減額と分割払いを求めても、簡単には首を縦に振らなかった。
通知の件は評価されたが、金2トン分の減額にしかならず、結局、皇国は主権の一部を譲り渡し、支払いが完了するまで人質を取られることになった。
(容赦が無い。だが同時に、寛大でもある)
連邦は今回の勝利を対外的に示すことにこだわらなかった。
(なぜだ? 理由がわからん。皇国ならむしろ高らかに喧伝するというのに)
勝利を誇示しないのは、自信の表れか?
それとも別の狙いがあるのか…?
だがおかげで、皇国は軍事力と、外交上の体面とを、これまでどおり保つことができる。
第3文明圏の盟主の地位は守られるのだ。
(一筋縄ではいかない相手であることは間違いない)
何をしたいのかがわからん。
――底が知れない。
“これでもそなたらを近代国家と認めておるのじゃ”
何をしてくるのかわからん。
――不気味な国だ。
翌3月9日 国家戦略局 局長室
「は、半分?…」
翌日、カイオスは合意内容をイノスに伝えた。
「ああ、ロウリア王国に対する債権の半分を引き渡すことになった」
その言葉に、イノスの目が丸くなった。
そのまま何度か口を動かそうとパクパクしていたが、それ以上何も言葉が出てこないようだった。
その顔は喜んでいるのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、はたまた安堵しているのか……
カイオスは判断が付かなかった。
ただ、黙っているならこれ幸いと、何か言われる前にさっさと退散したのだった。
次回の更新は、明日の予定です。