エピローグというかプロローグというか…
中央歴1639年4月5日
トルキナ連邦 園都
監査府本庁舎 監査人執務室 ジロー最高監査人席
ニムディスはジローの執務机の傍らに立ち、説明していた。
「つまりじゃな。わらわはあの時エルト殿にこう言ったのじゃ。『おお、ちょうど良かった。今アルタラス王国という国の話を聞いたところでな。紹介してはくれぬか?』とな」
「それが攻撃を受けた理由だとお考えなのですな?」
ジローの席の前に立つ男ニンゲンが尋ねてきた。
服装はちゃんとしているが、猫背気味のせいか全体がどことなくよれて見える。
「きっかけかもしれぬという話じゃ」
そんな気がしてならぬ。
「人質の皇女は何と言ってるんです?」
「盟主の地位を脅かすような国を許すわけにはゆかぬからと申しておった」
「それは違うとお考えで?」
「それは原因の一つかも知れぬが、攻撃のきっかけではなかろう」
男の眉が困ったとでも言うように垂れ下がった。
(なにを当惑しておる?)
「そういうわけだから、ジョン。アルタラス王国とはどんな国で、何があるのか? 調べてくれないか?」
ジローが頼むと、男は両腕の肘から先を前に出して、手を小さく広げ、肩をすくめた。
こやつ……勘弁してくれとでも言いたげじゃな…
「まだ国交も結んでいない国に行けとおっしゃるので? 行き方も分からないのに?」
「国交を結んでから調べるより、何かあるなら先に知っておきたいんだ」
男はため息をついた。
「なら急がないといけませんな」
「そうだ。期限は6月末日、待っても7月末日。必ずそれまでに報告して欲しい」
ニムディスも頷く。
「3ヶ月もあれば、充分じゃろう」
「それで、アルタラス王国について分かっていることはありますか?」
ジョンの表情が真剣になった。
覚悟を決めたようだ。
「ムーの大使によると、魔力鉱石の産出国として知られているらしい。あとクワ・トイネで雇った事務補助員の話をここに箇条書きにしてある。詳しく聞きたいなら、外務局に直接話を聞きに行くと良い」
「調査方法は任せていただけるので?」
「外交的にも政治的にも問題にならないならね」
ションは物問いたげな視線で二人を交互に見つめた後、表情を戻した。
「わかりました。やってみましょう」
「いやあ、いつも悪いね」
ジローが笑顔になった。
「うむ。よろしく頼むのじゃ」
ニムディスは真剣に頼んだ。
「では、失礼いたします」
連邦監査府管理局情報部のジョン・コールダー監査員は肩をやや丸めたまま、右腕だけはビシッと敬礼すると、いつものように体を揺らしながら衝立の向こうに消えていった。
「これで良いかい?」
「ああ、助かるのじゃ」
「それにしてもよく思い出したね。今朝までそんな話はしてなかったのに」
ニムディスはつい先ほど思いついたのである。
「ずっと気になっておったのじゃ。なぜ突然攻撃されたのかと」
ずっと考えていたからこそ、ふとそこに思い至ったのかも知れぬ。
「まあ気のせいかも知れぬのじゃが……」
(じゃが、アルタラス王国とやらに何かがある気がしてならぬ!)
「たとえ気のせいでも、ジョンなら手ぶらで帰ることはないよ」
ジローはジョンに全幅の信頼を寄せている。
「…そうじゃな」
ニムディスは夫ほどは確信を持てなかったが、自分に言い聞かせるようにゆっくりと頷いたのだった。
第三章 波紋 ~ 完 ~
という訳で第三章完結です。
今章はあくまでトルキナ登場の影響なので、話は大して進みませんでしたが、第四章はちゃんと話を進めたいと思います。
次の投稿はいつになるか判りませんが、また投稿を始めた時はよろしくお願いします。