トルキナ連邦召喚   作:mogatoku

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王太子も国王も原作には出てきませんのでオリキャラです。



9 祝宴

 

 

1639年2月8日 クイラ王国 王都バルラート

 

 

 クイラ王国とトルキナ連邦との話し合いは足かけ三日に及んだ。

 途中、王太子のザッツ王子が会談を申し出たため、中断が入ったが、その後は順調に進んだ。

 最終日には基本合意に達した。

 

 その内容は、

  王国にて産出する石炭は王国側が、石油は連邦側が採掘すること。

  両国は輸送のための道路や港湾の建設などを協力して進めていくこと。

  連邦監査府の出先機関を設置すること。

  連邦は冒険者組合を紹介すること。

  通商条約に向けて実務者協議に入ること等々。

 であった。

 これは港でのささやかな麦の売買を認めたクワ・トイネ公国との合意よりずっと踏み込んだものであったため、これを聞き付けたクワ・トイネ公国側はあわてて、ちょうど行われていた実務者協議の場にて同様のことを求めることになるのであった。

 

 

「では、国王陛下に謁見していただきますぞ」

 

 メッサルは最終日に、国王陛下への二人の謁見を手配しておいたのである。

 

 高窓から光が差し込む謁見の間で、臣下たちが両側に整列して二人を迎えた。

 ニムディス殿とジロー殿は配下を伴い、国王陛下の前に進み出ると、よどみない所作で一礼した。

 つづいて、連邦政府からの献上品として白磁の大皿と、聞いたこともない名の金属を鍛えた大剣が、配下の手によって恭しく差し出された。

 

「ジロー殿は角笛の名手でしてな。陛下も一度お聞きになるべきです」

「そうか。では祝宴の時に、披露せよ」

 

 2日前から準備が始まっていた祝宴は、盛大なものとなった。

 なごやかな雰囲気で祝宴が執り行われ、ニムディス殿は特に目を輝かせているように見えた。

 

 やがてメッサルが促すと、ジロー殿が黄金の角笛を吹き始めた。

 それは前の時と違い、軽やかに音が流れる上品なワルツだった。

 ザッツ王太子殿下夫妻が踊り始め、ちょっとした舞踏会になった。

 

 演奏が終わると陛下がジロー殿に尋ねた。

 

「いまの曲の名はなんというのか?」

「『舞踏会』という曲です、陛下」

 

 ジロー殿が嬉しそうに笑顔で答えた。

 その様子に陛下はなぜか笑いだし、褒美として銀の杯を与えると言われた。

 広間には拍手が広がり、ジロー殿が謝意を込めてお辞儀するのを見て、メッサルは祝宴の成功に胸をなで下ろしたのだった。

 

 

 

2月6日~12日 クイラ王国 東の港

 

 

 一方〈東の港〉では、このところちょっとした騒ぎが起きていた。

 

 交渉初日に「上陸許可が下りた」と艦隊に連絡が来たのである。このため最高監査人が〈東の港〉に戻ってくるまでの7日間、兵士達が交代で上陸して過ごした。

 その際、鋼鉄の台が置かれ、兵士達の種族別背筋力大会が開かれた。

 

 現地の民衆は様々な種族の連邦兵を珍しがった。

 特に長身族のノーク兵は評判となった。

 数トンから十数トンの重りを引っ張り上げる連邦軍兵士に、子ども達は跳びはね、商人達は口をあんぐり開けた。

 

「あの小さいヤツはうちのドワーフより馬鹿力だ!」

「あのエルフは獣人より力持ちなのか!」

「いや、あのノークとかいう巨人は化け物だ!」

 

 恐怖と憧れが入り混じった視線が、異国の兵士達に注がれていた。

 

「俺にもやらせてくれ」

 

 クイラ王国の獣人も何人か挑戦した。

 

「くそ! びくともしない!」

 

 獣人達は顔を歪ませて力一杯持ち上げようとしたが、誰も1トンの重りを持ち上げることはできなかった。

 

 

 メッサルが二人を見送るために港まで再びやって来た時も、それは行われていた。

 連邦軍兵士の馬鹿力はメッサルの想像を遥かに超えていた。

 

 この力がないとあの船を動かせないのか・・・

 

 攻めてくることはないだろうが、力の差は歴然だ。直接戦えば勝ち目はない。

 ならばこれからも続く交渉で少しでも優位を保たねばなるまい。

 あるいはロウリア王国への防波堤になるよう仕向けるか。

 

 メッサルの胸の内は不安を抱えつつも、その思考は未来の選択肢を探り続けていた。

 

 沖を見ると、鉄の船の数が倍になっていた。

 

 

 

2月8日 夜 クイラ王国 王都バルラート 王城内 客室

 

 

「大歓迎じゃったぞ!」

 

 ニムディスは祝宴から部屋に戻ると上機嫌にそう言い、笑みを浮かべる。

 未知の国への初めての訪問というのは、クワ・トイネ公国でもそうだったが、あまり歓迎されないことが多い。

 

「クワ・トイネ公国では特に元首との謁見もなかったし、歓迎の宴もなかった。まあ、いきなり押しかけたから仕方がない。対してクイラ王国は、急とは言え、ちゃんと外交経路を通じて伝えてあったから、対応が違ったんだろうね」

 

 そう肩をすくめるジローも、今宵は上機嫌にサックスを吹いておった。

 料理の味付けは素朴で、酒の味は粗かったが、あのように歓迎されると、それだけで美味しく感じるものじゃ。

 

 

 

「これまでのところは上々じゃな」

 

 ニムディスは椅子に腰掛けていた。

 この部屋には二人が寝るが、すぐ隣の部屋には護衛が二人控えている。他の職員も別室で休んでいることだろう。

 

「石油と石炭が対岸で手に入るのは、大いに助かるよ」

 

 ジローは携帯照明のつまみをイジっている。

 

「ターラの外邦ではあまり見つからなかったゆえな」

 

 見つからないと言うか、探すこともできなかったが。

 

「内陸の国々は排他的だったからね。言葉も通じない国も多かったし、調査なんかできなかった。翻訳魔法が生み出されたのは最近だったからね」

 

 ドラゴン戦争が始まってから完成したため、もう調査どころではなくなった。

 

「ここは通じるのじゃな。文字は違うのに不思議じゃ」

 

 いったいどういうことなのか・・・

 

「この世界は魔力に満ちておる」

 

 これだけでもあのドラゴンがいないのだと思える。

 

「クワ・トイネ公国もクイラ王国も人喰いドラゴンを知らないようだし、この辺りにいないのは間違いないみたいだ」

 

 良かった。当面は安心できる。

 

「翻訳魔法がこの辺り全体にかかっているみたいだよ。翻訳板の必要がない」

 

 翻訳魔法の魔法陣が刻まれた金属板。この世界では不要らしい。

 ジローがさらに続ける。

 

「ジョアンナの話では、文字の習得を担当しているノウブ連が報告してきたそうだよ。現地の言葉を聞こうと意識を集中すると、その言葉が聞こえる、とね」

 

 ジョアンナ・ボールドウィン監査官も熱心じゃな。

 ノウブ族は短命じゃが知能が高く、言語の習得が早い。彼らの能力なしにトルキナは生まれなかった。

 

「つまり習得もできるのか」

「そうみたいだ。それと録音した音声も、通常再生すれば翻訳して聞こえるけど、1秒ずつ停止しながら聞くと、集中しなくても現地の言葉が聞こえるらしい」

「ほう。それなら文字の習得もしやすいのう」

 

 相手の言葉を聞くこともできずに、どうやって文字を学べば良いのかと思うたが、どうにかなりそうじゃな。

 

「そうだね。通信傍受対策にも使えるかもしれない」

「傍受?」

「盗聴だよ」

 

 盗み聞きのことか。現地人が盗み聞きするのか。

 

「1秒ごとに周波数を切り替えていけば、相手が連邦公用語を知らない限り、一部だけ聞き取っても意味不明になるということだよ」

 

 ハッキリとはわからぬが、またジローが何事かに備えておるようじゃな。

 

「現地人は電波を使っておらぬようじゃが」

「極めて微弱だけど電波が飛んでることはすでに確認されてる。人工的なものだろうということも」

 

 そういえばそうじゃった。

 それもここが近代装備の世界と思うた理由のひとつじゃ。

 

 だがニムディスは他のことが気になっていた。

 

「そうか。ところで、クイラ王国には我らが異世界から転移してきたという話は特にしておらぬが、良いのか?」

 

 正面の椅子に座ったジローに顔を向けると、ジローは顎に手を当てた。

 

「その話は特にしなくてもいいんじゃないかな」

「なぜじゃ」

 

 ジローは何を考えておるのじゃろうか・・・

 

「説明が面倒だからというのが一番の理由かな」

 

 はあ?

 

「それでよいのか?」

 

 ちょっと呆れ気味の声が出てしまった。

 

「ターラと違って、ここの人たちは数千年前から暮らしているようだし、信じてもらえないような気がする」

 

 それはそうじゃが・・・

 

「じゃが事実であろう」

 

 ウソは辻褄を合わせるのが面倒じゃ。事実の方がラクじゃ。

 

「別にウソをつくわけじゃないさ。ただ、積極的に言わないだけだよ」

 

 そう言って肩をすくめる。大したことじゃないとでも言いたげに。

 

「言わぬということは、昔からおったような顔をして話すことになるであろう?」

「そうだね。いままで交流がなかったけどよろしく、という感じで進めるのが良いと思うよ。それに」

 

 それならできるか・・・ん?

 

「それに?」

 

 ニムディスが聞き返すとジローが真剣な表情を見せた。

 

「例の国のことがあるからね。全人類の敵だと思っていたドラゴンにすら、臣従する人類の勢力がいた。まして今回の相手は国だ。国が相手の場合、どこが敵になるのかはすぐにはわからない」

「なんと!」

 

 ニムディスは思わず声を上げる。

 

「例の国は全人類の敵ではないのか! わらわはすっかりそう思っておったぞ」

 

 ジローが『問いかけの間』から聞き出してきた「危機をもたらす」という例の国。

 となると前提が違ってくる。

 

「まだわからないんだよ。だから今は慎重になるべきだ」

「なるほど。納得したのじゃ」

 

 ニムディスは暖炉の火を見つめた。

 炎は携帯照明の明るさに負けまいとするかのように懸命に燃えている。

 それを眺めて、あることを思い出す。

 

「最初の訪問でいきなり軍事同盟を求められたときは驚いたな」

 

 異世界文明との初接触の日に、まさかのことであった。

 

「そうだね。いままでそんなことはなかったから」

 

 連邦と同盟したいなどと言ってきた国は一つも無かった。

 

「クワ・トイネ公国は保護国になると思うか?」

「どうかな。ただこちらは強大な敵を想定しないといけないから、むやみに守備範囲を広げるわけにはいかない。いままでもそうだったけど、せめて費用の一部は負担してもらわないと」

「確かにな」

 

 連邦軍はタダではない。莫大な費用が掛かっておる。そして大勢の兵士たちも命を掛けておる。

 

「だれもかれもと助けておったなら連邦軍は、いや連邦そのものがどこかの時点で破綻しておったことじゃろう。じゃが、見捨てるのはやはり心苦しいものじゃ」

 

 それゆえジローは冒険者組合の話をしたのじゃろうな。

 せめて隣国くらいははね返せるようにと。

 さすればわずかの間は、何年か、何十年か知らぬが、生き延びられる。

 

「冒険者を充分な人数、雇ってくれれば良いのじゃが」

 

 ニムディスが本心からそう言うと、意外な言葉が返ってきた。

 

「べつに戦いだけが解決策じゃないさ。要は攻めてこなければいいんだよ」

 

 ジローは柔らかい声でそう言い、再びつまみを回して携帯照明をさらに明るくしてから、テーブルに戻した。

 テーブルの表面の光沢がさらに強く照らし出され、輝きを放ち始める。

 

 ニムディスはなぜか、監査府設立の日のまぶしい陽光を思い出した。

 未来を知恵で守り抜く決意の光に包まれていたあの日を・・・

 

 ――そうじゃ。それが保守府たる監査府の、そして監査人の本分。

 

「次はジローに任せる事になる」

 

 ニンゲン至上主義の国。

 ニンゲン以外の種族をこの大陸から駆逐すると息巻いておるらしい。

 エルデンのわらわでは話ができぬ。

 トルキナ連邦は多種族国家。

 ジローにはトルキナ七種族を代表して、対峙してもらわねばならぬ。

 

「ああ、妻が駆逐されないようにしないとね」

 

 ジローが肩をすくめて笑う。

 ニムディスが視線を向けると、夫の目には静かな危機感が宿っていた。

 

 ――簡単ではなかろうな。

 

 二人の交渉の旅は、険しい道へと続くのであった。

 





次回の更新は明日の予定です。
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