虹ヶ咲学園(共学)の御手洗君   作:どこかのSさん

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第9話

 ここ、虹ヶ咲学園は思ったよりも便利が良い。学校としての基本的な施設以外にも購買とは別にコンビニが入ってたり、漫画本やらの品揃えは一般的な店にやや劣るものの参考書等はかなりの品揃えな書店が入ってたりもする

 そんな虹ヶ咲の中にある書店へ珍しく足を運んで、ちょっとした買い物をしていたからだ

 

「──1,480円になります、お支払方法はどうなさいますか?」

 

「現金でお願いします」

 

 財布の中を確認して1,500円を支払っておつりと買ったレシピ本を受け取って店を出る

 

「さてと、そんじゃ部室に……って、果林さん?」

 

 丁度店から出たタイミングで部室まで向かってたであろう果林さんの姿が目に入る。せっかくだし一緒に部室まで向かおうかとも思ったが近づこうとしたタイミングで彼女のファンらしい生徒が近づいていたから、対応が終わるまで少し待つことにする

 

「果林先輩っ」

 

「?」

 

「あ、あの……サイン、お願いできますか?」

 

「いいわよ」

 

 元々モデルをやっていただけあって果林さんも慣れた対応をしている

 

「ありがとうございます!」

 

「ライブあった絶対行きますっ」

 

 ファンの子達が離れて行ってから果林さんの方へ近づくと、彼女もこっちの気配に気づいたようで視線を俺の方へと向けてきた

 

「あら、今日は同好会を休んでお買い物?」

 

「冗談は言わないでくれ、個人的な買い物なのは確かだけど同好会は休まないよ……それと、ファン対応お疲れ様です」

 

「あれくらい対応のうちにも入らないわよ」

 

「流石モデルさん、尊敬するよ」

 

「けど、モデルじゃなくてスクールアイドルのファンに会ったのは初めてだわ」

 

「地道な活動が実を結び始めたって事なんだろうね」

 

 二人でそんな話をしてからいざ部室へ向けて歩き始めようとしたところで向かいから凄い勢いでせつ菜がこちらへ向けて走ってきて果林さんの背中に顔を隠す

 

「せつ菜?」

 

「どうしたの?」

 

「着替えてる最中に他の生徒に見つかりそうになって」

 

「別に良いんじゃない? 生徒会長ってバレても」

 

「それは困りますっ、それに最近、正体を明かさないスクールアイドルって変身ヒーローみたいで良いかもと思えてきまして」

 

「それなら、マズは眼鏡を方がいいんじゃないのか?」

 

「はっ、そうでした」

 

「それにしても、なんか凄い視線を感じるな……主に二人に対して」

 

 あっちこっちに視線を向けてみるとどうにも果林さんもせつ菜も注目されているみたいだ

 

「そうね。けど、良い感じに上がってるみたいじゃない? 同好会の人気」

 

「だな……とりあえず、いつまでもここで喋ってる訳にはいかないし、さっさと部室に向かうか」

 

 

 

 

 

 そんなやり取りから少し時間が経ち、いつものように同好会のメンバーが部室に集まり話をしている傍らで、俺は今日の活動報告を執筆しているとパソコンの横に置いていたスマホが振動する

 

「……ん?」

 

 何の通知が来たのか確認をするために画面の方へ視線を向けるとどうやら弟からのメッセージのようだ。急な用件かはたまた今日は遅くなるとかの事務連絡なのかなんて考えつつメッセージアプリを開くと……想像より少し上のメッセージが来た

 

「すまん、少し出てくる」

 

「何か用事ですか?」

 

「あぁ、まぁそんなとこ……なんか弟がここに来たらしいから迎え行ってくる」

 

 何の用事かわからんがわざわざこっちまで来るって事はスクールアイドル関係の相談事でもあるんだろう

 

「それじゃ、さっさと行って────」

 

「あっ、待って紘陸くん。私もいくー」

 

「ん? 彼方もか?」

 

「うん、遥ちゃんも一緒に来てるみたいなんだー」

 

「そう言う事か、それじゃ迎え行ってくるわ」

 

「行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃい、彼方さん、紘陸先輩」

 

 彼方と一緒に同好会の部室を出て近江さんと実宙の二人を迎えに校門まで行くと東雲の制服を着た二人の姿が目に入る

 

「遥ちゃーん!」

 

「あっ、お姉ちゃん! わざわざ迎えに来てくれなくても良かったのに」

 

「そう言う訳にはいかないよー、それに、今回は紘陸くんの方が先に迎えに行くって言ったもーん」

 

「そうなんですか?」

 

「まぁね、俺も実宙から連絡来てたから……てっきり一人で来るもんだと思ってたのに、他に一緒に来てる奴がいるなら事前に伝えろよ」

 

「ごめん兄さん、けどまさか迎え来るとは思ってなくて」

 

「流石に迎えにくらい行くわ……それで、そちらの方は?」

 

 弟と話をしながら俺が目を向けたのは二人の横にいた東雲とも虹ヶ咲とも違う制服に身を包んだ女子生徒……あの制服は確か藤黄学園だったっけか

 

「初めまして、藤黄学園スクールアイドル部の綾小路姫乃と申します」

 

「これはご丁寧に、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の御手洗紘陸です」

 

「近江彼方だよー、よろしくねー」

 

「御手洗さんに近江さんですね、よろしくお願いいたします」

 

「私は彼方でいいよー、近江さんだと遥ちゃんと混ざっちゃうし」

 

「俺も紘陸で良いですよ、御手洗さんだと実宙と混ざるし」

 

「では、紘陸さん、彼方さんと呼ばせてもらいますね」

 

「さてと、それじゃ部室に案内しますよ」

 

 先頭を俺、隣を綾小路さん、少し後ろを実宙、彼方、近江さんと言った並びで部室に向かう

 

「あの、紘陸さんもスクールアイドルなんですか?」

 

「俺はスクールアイドルじゃなくて普通に裏方だよ……そもそも男でスクールアイドルは聞いたことないし」

 

「そうなんですね……けれど、少数ながら増えているらしいですよ」

 

「えっ? そうなの?」

 

「はい、と言っても私も実際にお会いしたことはありませんが……それにラブライブへの参加は認められていないようなのであくまでも個人活動……と言う形にはなっているみたいですね」

 

「成る程なぁ、故あってスクールアイドルってわけだ」

 

「故があるかどうかは分かりませんが……」

 

 そんな話をしながら同好会の部室までお客さん三人を連れて戻り、立たせたままなのも失礼だからソファの方へ案内する

 

「あの、今日はどんなご用件で……」

 

「要件に入る前に、突然の訪問になってしまい申し訳ありません」

 

「いえ、それは良いんですけど……」

 

「そう言ってもらえると助かります……では、さっそく本題に。今日は皆さんにライブのお誘いに来たんです」

 

「ほうほう、ライブのお誘い────へっ? ライブ?」

 

「はい、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆さん。私たちと一緒に、ライブに出ませんか?」

 

 おずおずと質問をしていた中須さん含め、ライブの誘いと言う言葉を聞いた同好会が大小色々な驚き方をしていた……まぁ、急に誘われたならそりゃそうか、俺もビビってる

 

「でも、ライブって言っても色々あるわけだが……それに、わざわざ綾小路さんと実宙たちが一緒に居るって事は、合同開催のイベントかなんかか?」

 

「あぁいえ、東雲と藤黄の二校ともこのイベントへの参加が決まってて」

 

 こっちの疑問に答える形で近江さんはスマホで今度やるらしいイベントのホームぺージを見せてくれた

 

「……ダイバーフェス?」

 

「毎年お台場で行われている音楽イベントよね」

 

「はい、いろんなジャンルのミュージシャンが参加するんです」

 

「今年はスクールアイドル枠に藤黄学園と東雲学園が呼ばれたんですけど。遥さんと相談して虹ヶ咲学園の皆さんを推薦させて頂いたんです」

 

「~~~~っ! 遥ちゃーんっ! ありがとーっ!」

 

「えへへ……」

 

 喜びで自分の妹に抱き着いた彼方は横に置いといて

 

「実宙、東雲の人たちもオッケーしたのか?」

 

「もちろん、虹ヶ咲の皆さんには近江さんの一件でお世話になったし、少しずつ注目されてるのも知ってるからね」

 

「そうか、なら良かった」

 

「でも、どうして綾小路さんが?」

 

 俺は俺で些細な疑問を解消したのと同じタイミングで、今度は桜坂さんが綾小路さんへと疑問を投げかけた

 

「ふふっ、この前の合同演劇祭で貴方の歌を聞いたのがきっかけです」

 

「っ!」

 

「みなさんがどんなライブをするのか、見たくなったんです。特に、朝香果林さんは雑誌でよく拝見していましたし、人気の読者モデルがスクールアイドルをするなんてすっごく魅力的じゃないですか」

 

「こここここれって、すっごくお客さん来るんですよね!?」

 

「はい、三千人くらい」

 

「三千っ!? ひょぇー……」

 

 流石の数字に度肝を抜かれたらしい中須さんだったが、すぐに気を取り直した様子で声を上げる

 

「出ましょうよ! こんなおっきなライブに出るチャンスなんて、早々ないですよっ!」

 

「そうだな。せっかく推薦してもらったんだし。今までより色んな人に知ってもらえるいい機会でもある」

 

「さすが紘陸先輩! いい事いいますね~!」

 

「でも、一つだけ問題があって」

 

「ほぇ?」

 

「私たちスクールアイドルが披露できるのは、全部で3曲だけなんです……東雲と藤黄はグループなので問題ないんですけど、虹ヶ咲のみなさんはソロアイドルですから」

 

「九人で、九曲……」

 

「なので、お誘いするか迷ったんですけど……」

 

「でも、出来たばかりの同好会にとっては悪い話ではないですよね?」

 

 

 

 

 

 その話を聞いた後、近江さんと実宙、綾小路さんが帰るのを見送り自分たちも練習を始めるという事になったんだが……

 

「メドレー形式はどうかな?」

 

「それなら一曲だよねっ」

 

 いざ練習を始める前に決めなければいけないのは、誰がステージに立つのか……だけど、これが思いの他難航してる

 

「九人でやったら、十分は軽く超えてしまいますよ?」

 

「……どうしたもんだろうね」

 

「アレコレ考えても無駄よ、今回のステージに立てるのはこの中の一人だけ。誰が出るか決めましょうよ」

 

 果林さんはそう言うと、全員が立候補をしようとして微妙に遠慮をしてるのがひしひしと感じ取れる

 

「く、くじ引きとかどうかな?」

 

「そ、それがいいかも……」

 

「互いに遠慮しあった結果運頼み、そんなのでいいわけ?」

 

「ですが、私たちは────」

 

「衝突を怖がるのは良いけど、それが足枷になるんじゃ意味ないわ……それで本当に、ソロアイドルとして成長したと言えるの?」

 

「っ……」

 

「遥ちゃんは兎も角、綾小路さんは好意だけで私たちを誘った訳じゃないでしょうね」

 

「えっ……?」

 

「そうなの?」

 

「……まぁ、少し含みがあったのも事実だしな。実宙も言ってたが東雲は近江さんの一件で色々あったから純粋な好意の方がデカいだろうけど、綾小路さんの方は違う。なのにわざわざ誘ったって事は、そうまでしたい確かめたい何かがあるってのは間違いないと思うぞ」

 

「いずれにしても、今回は同好会が試されるライブになる。だから、本気でそれに立ち向かえるメンバーを選ぶべきよ……今日は帰るわね」

 

「果林ちゃん……」

 

 それだけ言い残すと果林さんはその場を離れていってしまった……残ったメンバーも、この調子だと今日は辞めといたほうがよさそうだな

 

「高咲さん、今日は俺らも解散にしよう」

 

「えっ?」

 

「全員この調子じゃあ練習に身も入らないだろうし……変に気がそれて怪我したら元も子もないだろ?」

 

「……そう、ですね」

 

「それじゃあ今日は全員解散……ライブの件は、どうすべきか各々で整理しよう」

 

 

 

 

 

 そんなことがあった日の翌日、結局どうすべきかを決めあぐねたまま休日を迎えてしまった

 

「うーん……どうなんのかねぇ」

 

「兄さん、少し借りたいものが……って、どうしたの?」

 

「いや、お前らがわざわざ誘ってくれたライブ……誰が出るのかでちょっと詰まっててな」

 

「兄さんのところはソロだもんね」

 

「あぁ、全員出たいって気持ちはあんのは確かなんだが……変に遠慮しあっちまっててな、気持ちはわからんでもないんだが」

 

「ふぅーん」

 

「ふぅーんってお前なぁ、もうちょい真剣に聞いてくれてもいいんじゃねぇの?」

 

「だって、もう兄さんの中ではどうすべきか決まってる問題なんでしょ、それ。なら真剣に聞く必要ないでーす」

 

「まぁな、でも今考えてるのは俺じゃなくて────」

 

「それも、もうどうすべきかみんな決めてるんじゃないの? その証拠に……ほら」

 

 そう言った実宙が指をさしたのは机の上で充電していた俺のスマホ……俺は気づいてなかったがついさっきせつ菜からグループにメッセージが来てたらしい

 

「……実宙、悩み解決したわ」

 

「でしょ。それと兄さん、たぶん兄さんのソレは悩みじゃなくて不安だと思うよ?」

 

「……そうだな」

 

 せつ菜から送られてきたメッセージは、ダイバーフェスに誰が参加するかを決めるという旨のもの

 

「ずっと思ってたけど……兄さんってヘタレだよね」

 

「弟よ、温厚な俺でもそろそろ手が出るぞ?」

 

「わー、兄さんこわーい」

 

 弟とくだらない話をしながら、俺もグループに今回のイベントに参加するのは誰が良いかのメッセージを送っておいた

 

 

 

 

 

 誰が出るのかを決めてからイベント当日まで実際の時間以上にあっという間だった。そんで気が付けばイベント当日、俺とせつ菜は会場の熱気を感じながら果林さんが待機してるテントへ向かう

 

「それにしても凄い熱気ですね!」

 

「だな、流石は大規模なライブイベント……せつ菜、少し悔しそうだな」

 

「そりゃあ悔しいですよ、こんな大きいステージで自分の大好きを叫べたら……って考えない方が無理です」

 

 そりゃそうか、せつ菜の────同好会の立ってきたステージとは比較にならないほど大きいステージだ。そんなステージに立てたかも知れないのに今回はそれが出来ないってなると、俺が思っている以上に悔しいものがあるんだろう

 

「なら、俺も頑張らねぇとな」

 

「何をです?」

 

「決まってんだろ、ここまで……なんて言うつもりはねぇがお前らが自分の大好きをたくさんのファンに伝えられるステージに立てるようにだよ」

 

 俺も今は3年、就職にしろ進学にしろ最後まで同好会として過ごすのは難しい。だからせめて、俺がこうして同好会の一員としていられる間に彼女たちが自分の気持ちをファンへ伝えられる舞台に立つ手伝いはしてやりたい

 

「……それなら、私も今以上に頑張らないといけませんね!」

 

「おう、期待してるよ」

 

 そんな話をしている間にテントに到着したらしい

 

「そんじゃせつ菜、俺は外で待機してっから」

 

「えっ? 入らないんですか?」

 

「着替えとかもすんだからは入れるわけねぇだろ」

 

 そう言ってからテントの中にさっさとせつ菜を放りこんで外で待機していると少し離れた所から中須さんがテントまで駆けてくる

 

「あっ、紘陸先輩お疲れ様です!」

 

「おう、お疲れさん」

 

「……何してるんですか?」

 

「何って、日光浴?」

 

「先輩、熱中症なら医務室はあっちですよ」

 

「暑さで頭やられたわけじゃねぇわ」

 

 中須さんとそんな話をしてから彼女がテントの中に入っていくのを見送ってから、今後について少しだけ思考を巡らす……少し前から学校内での知名度は飛躍的に向上している。だがその知名度が校外まで及んでいるのかと聞かれたらその答えは否だ

 活動し始めの頃よりは有名になっただろうがあくまでもそれはまだ一部、実際東雲や藤黄、他の学校に比べると天と地ほどの差はあるし今回のイベントだってあの二校の推薦がなければ出ることはできなかった

 

「御手洗先輩?」

 

「ここで何してるんです?」

 

「ん? 日光浴?」

 

「わざわざここで!?」

 

「もしかして、着替えとかもあるから遠慮してここでずっと待つつもりなんじゃ……」

 

「そ、そんなわけないでしょ。俺は……ほら、これから少し会場を見て回ろうとしてた所だよ」

 

「そうなんですね」

 

「あっ! それじゃあせっかくだし御手洗さんも一緒に回りませんか!」

 

「えっ!?」

 

「せっかくのお誘いだけど遠慮しとくよ、二人で回ってきな」

 

「そうですか?」

 

「うん、そうしな」

 

「わかりました、じゃあ歩夢。行こ?」

 

「あっ、待ってよ侑ちゃん」

 

 一足先に歩き始めた高咲さんを上原さんも追っていく……少し前に彼女は俺の方にペコリと頭を下げてから再び高咲さんの後を追いかけていった

 

「律儀なんだか何なんだか……さてと、それじゃ俺も少し見て回りますかね」

 

 出来る限りあの二人とバッタリ遭遇しないように、気を付けながらだけど

 

「……一応彼方にはメッセージ入れとくか」

 

 スマホを操作してメッセージを彼方に送りながら俺も熱気あふれる会場へと繰り出した

 

 

 

 

 

 会場を回っている間にすっかり日も傾き始めた頃、そろそろテントの方へと向かおうかと考え始めたタイミングでポケットの中に入れていたスマホが振動する

 

「……彼方からメッセージ?」

 

 内容を確認するとそろそろ出番にも関わらず果林さんがテントに戻っていないとの事……何かトラブルでもあったならと探そうとしたが、案外あっさりと果林さんは見つかった

 

「よう、果林さん」

 

「……紘陸」

 

「ステージ衣装、似合ってんじゃん」

 

「そう? まさか貴方からそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ」

 

「俺だって褒める時は素直に褒めるさ」

 

 とりあえず他愛のない話をしてみたが、この感じ……やっぱりか

 

「果林さん、もしかして────」

 

「果林ちゃーん!」

 

 言葉を続けようとしたタイミングで、少し離れた場所から彼女の事を呼ぶ声が聞こえ、バタバタと複数人の足音がこちらへ近づいてきた

 

「紘陸くんも一緒だったんだ」

 

「俺もちょっと前に合流したばっかりだよ」

 

「どうしたんですか?」

 

「具合悪いの?」

 

 俺がエマさんと言葉を交わしてからすぐに、せつ菜と天王寺さんの二人が心配そうな声音で果林さんへ語りかける

 

「……ビビってるだけよ」

 

「「っ!」」

 

「我ながら情けないったらないわね。こんな土壇場でプレッシャー感じちゃうなんて……ホント、みっともない。あんな偉そうなこと言ったくせに────ごめんなさい」

 

 果林さんから出た言葉は、間違いなく彼女が今心から思っている本心……けど────

 

「そんな事ないですよっ」

 

「大丈夫だよ、果林ちゃん」

 

「でも、こんなんじゃ……」

 

「大丈夫」

 

「私たちがいるじゃん」

 

 ──そんな彼女を勇気づけられるのが、この同好会の仲間たちだ

 

「そうですよ。ソロアイドルだけど、一人じゃないんです」

 

「……なんで、そんなに優しいのよ……」

 

「わかるでしょ? そんなの聞かなくたってさ」

 

 ホント、お人よしばっかだな……でも、そんな彼女たちのお陰で果林さんももう一回立ち上がれたみたいだ

 

「はー……ふー……うん、大丈夫」

 

「果林先輩! ほら、タッチですよ。かすみんのエネルギー分けてあげます」

 

 その言葉のすぐ後、果林さんは中須さんたちとハイタッチをしていく

 

「ほぉら、紘陸くんもタッチタッチー」

 

「俺もか?」

 

「当たり前ですよ!」

 

「……そうか、じゃあ俺からも────頑張れ」

 

「えぇ、全力をぶつけてくるわ」

 

 パシンッ、と乾いた音が響く

 

「────行ってくる」

 

 少し前まではプレッシャーでつぶれそうになっていたけれど、みんなからエネルギーを分けて貰ってすっかり準備万端になった果林さんはステージへ向けて走っていく

 その姿を見送ってからすぐ、高咲さんも果林さんとは反対へ向けて走り出した

 

「侑ちゃんどこ行くの?」

 

「ちゃんと果林さんを応援したいんだっ!」

 

「そんじゃ、俺も応援行きますか!」

 

 高咲さんの後を追い、俺も観客席の方へと向かって走り出す。そうやって観客席に辿り着くのと同じタイミングで始まった果林さんのステージが圧巻の一言だった。スクールアイドルを知らなかった人も、今日のなかった人も魅了し、自分の色に染め上げる……そんなステージ

 

「すげぇな、やっぱ」

 

 かくいう俺もそんなステージに魅了された一人だけど

 

「あの、御手洗さん」

 

「どうしたの?」

 

「私、やってみたい事があるんです」

 

 高咲さんから、彼女のやってみたいこと……それは少し聞いただけで難しいものだと理解できた、けど

 

「……面白そうだね」

 

「ですよね!?」

 

「あぁ、それじゃ具体的にどうするかを考えながら、みんなに伝えようか」

 

「はい!」

 

 さてと、これからどんどん忙しくなりそうだ

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