ふとしたきっかけで出会い、契約を交わし、共に支え合いながら駆け抜ける日々。
中高の学生時分で、ともすれば自分よりも自分のことを知り尽くす勢いで自分に献身を捧げる人と3年一緒にいるなんて、何も思わないはずも無いでしょう。
もしそんな日々が『無かった事』になったら?
もしそんな人が突然別の娘に献身する姿を見せつけられたら?
もしその娘が、自分の目標を阻む存在であったなら?
物書きの経験もほぼ無いですので拙い物ですみませんが、皆様の時間潰しの一助にでもなれたら幸いです。
タグはとりあえずで付けてる程度なので、不足あればご指摘お願いします。
彼女達は走り続ける。
瞳の先にある、ゴールだけを目指して……。
私が初めてあの人に会ったのは、確かトレセン学園近くの商店街……だったと思う。
あの頃は北海道から出てきたばかりで、トレセン学園周辺の地理も全然分かってなかった。
多分道に迷ったのを助けてくれた……んだった、そうだった。
それで歩きながらお話して、仲良くなって、次の日の選抜レースで私をスカウトしてくれたんだった。
だいぶ『昔』の事とはいえ、私も忘れっぽくなったなぁ。
それからはセイちゃんはグラスちゃん、エルちゃんやツルちゃん、オグリ先輩やスズカさん達と楽しい学園生活しながらトレーナーさんとトレーニングに明け暮れて。
最初のメイクデビューの時は、全てがキラキラ輝いて見えた。
けど3冠を獲って、天皇賞(春)、ジャパンカップ、有馬記念と獲っていく内にキラキラの正体はトレーナーさんだと分かった。
ああ懐かしい、『あの頃』は我ながら純粋だったなぁ。
URAファイナルズに優勝した後、お母ちゃん達にトレーナーさんを紹介しようとしたんだっけ。
「トレーナーさん、このまま実家に向かってお母ちゃんに挨拶して、そのままもう1人のお母ちゃんの墓参りも一緒にお願いしていいですか?」
「もちろん」
故郷の道を大好きなトレーナーさんと一緒に歩くのが嬉しくて。
お母ちゃんに大好きなトレーナーさんをどんな風に紹介しようか考えて。
「最初から私の夢を応援してくれたトレーナーさんにとって、今の私はどう映りますか?」
「スペは俺の誇りだ」
その言葉が嬉しくて、今この時が止まってしまうのもいいなぁなんて……。
「私も、そんな私が誇りd
考えたのが間違いだったのかもしれない。
「!?」
気がつくと栗東寮の自分とスズカさんの部屋、ベッドの上だった。
カレンダーの日付は
「ん……おはようスペちゃん、今日は早いわね」
「お、おはようございますスズカさん! なんだか妙な夢を見た気が……」
「ふふ、ご飯をお腹いっぱい食べる夢じゃなくて?」
「スズカさ〜ん……」
違う、アレは夢じゃない。
トレーニングに必死に食らいついていったあの日々も、レースの風の感触や足で土を蹴り芝を捲る感覚も、優勝の興奮も。
そして何より。
「……スペちゃん、その夢そんなにいい夢だったの?」
「え?」
「涙が流れてるのに、終わって寂しいって顔してるわ」
あの人との絆が、トレーナーさんとの日々が夢だったなんて信じない……!
あの日から、選抜レースに勝利してトレーナーさんにスカウトして貰えるように、必死になって自主トレーニングした。
外に息抜きに出る余裕なんてなく、スズカさんの心配そうな視線が背中に突き刺さっても分からないフリをした。
そして選抜レース当日、当然のように私は勝った。
脳裏にしっかり刻まれているトレーナーさんの教えを基に、身体の調子を崩さない程度に鍛え上げ、休憩の時間はひたすらレースの戦略を練って、それに加えて3年間分のレース勘もあるのだから、勝ちは譲らない。
『1着は堂々の4バ身差、スペシャルウィークでしたー!』
「はぁっ……はぁっ……よし、トレーナーさんは!?」
もちろん、選抜レースの時期にあるまじきレースをした私に、トレーナーさん達がどんどん詰め寄ってスカウトをかけて来る。
けれど、私がスカウトして欲しいのは1人だけ。
「すみません、すみません、ちょっと通してくださいすみません……」
結局トレーナーさんは見つからず、焦りに似た感情が湧き出しながらも教室へと帰るしかなかった。
そこで、私は絶望を知る。
「え……?」
なんで。
「よし、契約書類も出したし! 頑張ろうなマチタン!」
「よ〜し頑張るぞ〜! えいえいむん!」
なんで私じゃない子と一緒にそんなにニコニコ歩いてるのというか契約書類って専属契約もうその子と交わしたんですかというかマチタンちゃん昨日選抜レース一位じゃなかったような気がという事は選抜レースの結果とか割とどうでも良かったんですかなんでマチタンちゃんがそこにいるのその人の隣は私が歩いてたのにもう私は忘れ去られてしまったのかな多分そうかも時間が戻ってるくらいだものつまり私とあの人の思い出はもはや0……
「んーなんか物音がってスペシャルウィークさん!? うわっちょっと見ない間にこんなにボロボロに! すぐに保健室へ……」
気がつくと私は保健室にいて、側にはスズカさんがいた。
トプロさんが廊下で突然崩れ落ちた私を見つけ、引き継いだエルちゃんキングちゃん達が保健室まで運んできて、出くわした不審者を追い返してスズカさんに連絡をくれたらしい。
やっぱり持つべきは最高の
「……スペちゃんが悲しい顔をしているのは、以前の夢と関係があるの?」
「っ!? どっどうしてですか!!?」
「だってスペちゃん、あの日から少し様子が変わったもの。短い間とはいえ隣で寝てたのよ、少しは分かるようになってきたわ」
スズカさんにはなんでもお見通しらしい。
彼女の手が、最近手入れを怠ってボサボサになった私の頭を優しく撫でてくる。
その手の優しさになんだかあの人を思い出してしまって、私は泣きながらスズカさんに全部打ち明けたのだった。
「そう、そんな事が……」
「はい゛ぃ゛……」
全部話し終わる頃には夕暮れになっていた。
スズカさんをこんな所で引き止めて良いのだろうかとも思っていたけど、フジ寮長さんも私の変化を気にかけていたらしく、私と一緒に居られるように手を回してくれたみたい。
ひとまず泣き止む事ができた私の前で難しい顔をしているスズカさんを見ていると、彼女は不意にスッキリした顔で手を打った。
「ねぇスペちゃん、それならマチカネタンホイザさんのライバルになるのはどう?」
「へ……?」
スズカさんが考えた事は、『この3年ループがこれで終わらなかった場合』についてだった。
私の『ループ』を信じたとして、それが今回だけ突如起こったイレギュラーという見方もできるけど、何故か始まった現象の『始まり』が私だったのだ、と見る事もできるという。というか、『始まり』説の方がなんだか自然なんだとか。
で、私の現状を見るに、この『ループ』が発動すると3年間鍛え上げた肉体とあの人との絆が消去され、選抜レース前に戻されるみたい。
「でも、トレーナーさんとの繋がりはまだスペちゃんの中にあるわ」
「あっ! そうです、トレーニングのやり方やレース戦略論のスパルタ講義! うっ、思い出すと頭ががが……」
「そんなに厳しいトレーナーさんだったのね……」
そうだ。トレーニングの記憶やレースの記憶、あの人の教えはまだ鮮明に記憶に残っている。
伊達に色んな方法であの人に熱血指導されて来てないのだ。
スズカさんによると、今のうちに記録しておけるトレーニングの内容やレース戦略論など全てを記録しておき、それを参考にしてトレーニングに励めば、きっとこれからあの人と3年間を歩むマチタンちゃんとも張り合えるはずだとの事。
そしてこの心構えが、これから『ループ』が続くにせよ続かないにせよ、私にとって『あの日々』を忘れない為に大切になるのだと教えられた。
「どうせなら、スペちゃんをスカウトしなかった事を後悔させちゃいましょう?」
「スズカさん、私やります! マチタンちゃんのライバルになります! あの人を、後悔させてやります!」
「ようやくいつものスペちゃんに戻ったみたいで、良かったわ」
「ありがとうございます! よーっし、けっぱるべー!」
それからの私は、選抜レースの時に声をかけてきた人達の中からあまり厳格でなさそうなトレーナーと契約を結び、自分で考えたトレーニングの提案という体であの人と頑張ったトレーニングを取り入れたり、たまにグラスちゃんやセイちゃん達に並走を頼んだりして、みんなに加えてマチタンちゃんともレースを争うライバルとして3年間を過ごした。
あの人を見かけては少し寂しい気持ちになる事もあったけど、あの時私を選ばなかった事を後悔させてやるんだって思いで頑張った。
直接見てもらってた時よりは控えめな結果に終わったけど、それなりに満足できる3年間だった。
そして、
「ハッ!?」
気がつくと栗東寮の自分とスズカさんの部屋、ベッドの上だった。
カレンダーの日付は選抜レースの前の日、いつもだったらまだまだ寝ている時間帯。
スズカさんの考えは正しかった、『あの日々』は始まりに過ぎなかったのだ。
何が原因で、何が引き金になってコレが始まったのかは分からないけど、少なくとも私の記憶を残して時が巻き戻ってる!
スズカさんの助言に従うなら、こういう時はまたあの人の教えを真っ先にノートに書き写す作業に入るのが先決。
それから、
「記憶を共有してくれる人、ですか?」
「そう、スペちゃんは前の記憶を保持したまま2回目にいる訳でしょう? スペちゃんだけがこの現象に巻き込まれてる可能性もあるけど、もし他の子達も同じようになったら……抱えているものを話し合う事で、お互い楽になれるかもしれないわ」
そう、それなら話を聞きに行く候補はマチタンちゃん。
直前の『ループ』でだいぶ仲良くなったし、同じように仲良くしに行って聞いてみよう。
あっ、スズカさんが起きそうだ。
「あと、『ループ』が確定したとしても……私が巻き込まれたと確信するまでは、この事は私に話さないで」
「えっ、こうして私を信じてくれるスズカさんと同じようにお話ができればいいんですけど……」
「それはダメ。ここまで身を削った行動をして、短期間であんなに強くなって、ここまで憔悴したスペちゃんを見たからこそ、こんな話を信じられたのよ? 最初から全部話されちゃったら、多分私はスペちゃんが怖くなると思う」
「えっ……」
「お願い、私をスペちゃんのお友達でいさせて?」
「ん……おはようスペちゃん、今日は早いわね」
「おはようございますスズカさん! なんだか変な夢を見たんです!」
「そう……でも悪夢とかじゃなさそうで安心ね」
こうして、私達とトレーナーさんの『永遠の3年間』が始まったのだった。
彼女達は走り続ける。
瞳の先にある、
こんな拙い物でお目汚しをしてしまいましたが、最後まで読んで頂き、誠に有難うございます。
もともとは、同じくハーメルンに投稿されているとある方の『画面の向こうからこんにちは!』系小説をめっっちゃリピ読みしていました。
(許可を得ていないので具体名は挙げません)
しかし、そこにいるウマ娘達がみーんな、トレーナーに依存してトレーナーに心をグチャグチャにされている経験を持っていました。
しかもこっちにこんにちはして来てからの皆、ひたすらに幸せなご様子。
ちょっと違うと思うんだよなぁ!?
幸せとは!その前に強い不幸があるからこそ強く価値が見出せる物だ!
激しい挫折や絶望を味わって、心折れそうになって、そんな時にやっと手に入った幸せこそ尊く眩い輝きを見せる物だろう!?
彼女達の苦しみを!
終わりが見えないままに口元に運ばれ続ける毒のケーキを食べ続ける様を見せないでどうするのかと!
『終わりたい』(もうあの人が担当じゃないループを見続けるのがイヤ)
と
『終われない』(自分が担当じゃないループを最後にしたくない)
の板挟み。
喉元を掻き毟りながら心を蝕む毒のケーキを食べ続け、ほんの少し、ほんの時々口元に飛び込んでくる本物の甘い甘いケーキ(トレーナーとの3年間)を感動の涙を流して味わうんだ。
そうして、また不意に『甘いケーキ』が手元に来る事を願って、より苦々しく心を蝕む毒の味がするケーキを食べ続けるんだ。
そんな姿を、美しいとは思わないかい?
なに、思わない?
幸せだけ享受して欲しい?
でも俺達って、『そういう事』をしてるんだよ?
ふぅ、失礼しました。
この作品は、まあ十中八九続かないと思ってください。
なにぶん遅筆な上に文才もこの有様でして。
それでも、この心の内を全て解き放てるのは、少し良い物ですね。
少しずつでも自己満上等で書いてみるのもいいか…?