機動戦士ガンダム『亡国の獣たち』~The episode of Drowning Space~   作:明智庵

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毎週日曜日午前0時更新。原作と時期や機体は被っているものの、キャラや物語は完全オリジナルなのでなんでも許せる方向け。


第二話 勝者の冠羽、汗に濡れる

 ついに始まったガンダム試作0号機を交えた模擬戦が始まった。イザークの脳内は新型のMSでいっぱいだった。運よく彼の担当する守備範囲とショーンの担当する守備範囲は近かった。訓練が始まった瞬間、イザークはショーンの担当する陣地に真っ先に向かっていった。その姿はまるで、これからショッピングモールでおもちゃを買ってもらう子供のようだった。イザークのザクⅡは独自にリミットカットの改造を施しており、オーバーヒートギリギリまでバーニアを吹かせるようにしていた。他のジムとは違ったけたたましい音で草木をなびかせる。小隊長のアスガン中尉は彼を引きとめた。

「おい!イザーク!どこに行く!?そっちは…」

「こちらイザーク!ガンダムを発見!突撃を仕掛ける!」

「無茶だ!あれとお前のザクⅡじゃあ雲泥の差だ!ポイントを相手にくれてやるようなもんだぞ!」

その警告むなしく、イザークは一心不乱にショーンのガンダムに向かってゆく。彼にとって上官の警告はバーニアの排気音とさして変わらなかった。ザクマシンガンを撃ちながら縦横無尽に蒼穹を駆るものの、その弾丸はホワイトグリーンの鉄塊に当たることはない。

「…あれがガンダム試作0号機…!かっけぇ!…ブチのめしがいがありそうだッ!!…聞こえてるかショーン!最新機の調子はどーだい!?」

無線の周波数をショーンのガンダムに合わせるも反応はない。

「…おい!ショーン!ショーちゃん!?」

ガンダムの出力とザクⅡの出力の差は小隊長の警告以上だった。

「……。」

呼びかけるもその筐体の中から反応は無い。ただ荒い息遣いが耳を流れるだけだった。ガンダムのヘッドバルカンを左右上下によけながら(何発かは被弾していたが)イザークはマシンガンを撃ち続けた。弾切れになった瞬間、イザークはドラムマガジンを替えるでもなく、そのオーバーヒート寸前の赤熱したマシンガンをガンダムに投げつけ、左肩の装甲にぶつけた。一瞬ガンダムはよろめき、その瞬間にイザークはペイント手榴弾のピンを抜いたまま、右手にヒートホークを持ちガンダムに斬りかかった。

「喰らえええええええええええッ!!」

ペイント手榴弾の爆発は、両機の胸部を桃色に染めた。

 

 イザークの戦略は評価されなかったものの、戦果は多くの上官に評価された。しかしガンダムとショーンの能力に期待していたウエの人間、見下していたイザークに手柄を取られた士官候補生たち、小隊のメンバーはそれを快くは思わなかった。イザークの小隊長であった アサガン中尉は『戦果は認めるが、小隊の集団行動を乱すのは兵士としては好ましくない』と辛口評価であった。その評価はイザークの心の中に燻りを残した。

 

 訓練が無事終了し、夕食を終えたあとイザークはショーンを河川敷に呼び出した。二人は川辺に寝そべって春の星空を見上げた。キャンプファイヤーの周りで子供たちがじゃれあっている姿を逆さの森の切れ間に見ると、春の暖かさを予感させる柔らかな風を感じることができた。イザークは金色の暗黒の中に流星を探しながらショーンに質問した。

「今日、ガンダムの乗り心地どうだった!?」

「…うん。」

ショーンはあまり浮つかない表情で、心ここにあらずといったところだった。イザークにとってショーンは悔しさのあまりに落ち込んでいるように映った。

「…無線、聞こえなかったか?あの時。」

「無線…?一体なんのこと?俺はずっと逃げ回ってたし、お前には無線はおろか会ってさえいないぜ。」

「…?」

湿った空気と人工の星明りが彼らの一瞬の静寂を唄った。

「俺…あんまり覚えてないんだよね。なんか気づいたら終わってたっていうか…。なんかコックピットはめっちゃ暑くて、すげー汗かいて、気持ち悪くて、降りたら反応が悪いとかなんかぶつくさ言われて…。」

「なんだよそれ…。」

話題を変えたのはショーンだった。

「なんか、こうして二人で話すのも久々だな。」

「そうだな。ちっちゃいころはよく俺ら間違われたもんだけど、今じゃあすっかり追いつけなくなっちまったな…。」

「ねぇイザーク。」

「なに?」

「最近、お前喫茶店の女の子にお熱なんだってな。」

「…!どうしてそれを!?」

イザークの赤くなった顔は暗闇の中でもはっきりわかった。

「風の噂だよ。…でも、あの子はお前に脈ナシみたいだよ?」

「わかってるさ!それでも振り向かせるんだよ!それが男ってものさ!」

少年たちの奇妙なプラネタリウム観察会は幕を閉じた。

 

 迎えた土曜日、今日は士官候補生にとっての休日であった。イザークは例の如く自分のザクⅡの整備に取り掛かっていた。その日は天気も良く、鉄と油の匂いに春の新緑がよく映えた。傷や錆が目立つ装甲は、イザークにとっては相棒である証拠でもあった。水と石鹸で洗って、拭いて、研磨して、サーフェーサーを吹きかけ、塗装して。それを繰り返して完成したつぎはぎだらけのボディの艶は、彼の人生と性格を映していた。オイルと塗料と汗だらけの彼の身体を、オリーブドラブカラーの中のモノアイが見下ろす。そんなイザークたちのもとにやってきたのは、                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

「その改造、検査通るのか?」

軍人らしくない彼の華奢な身体が細々とした腕を振りながら話した。

「ええ、ダイジョブです。俺の棺桶でもあるんで、大事にしてるんです。もう、あんな独断での特攻はしませんよ。」

「ああ、頼んだぞ。」

バケツから捨てられた錆色の水が乾いた大地を濡らす。昨日の叱責を反省したイザークを懐柔するように私服姿の中尉はニヤリと彼に微笑んだ。

「この後、暇か?昼飯一緒にどーよ?」

「えっ…いいんですか?喜んで!」

「奢らんがね。それでもよければ。」

「構いませんよ!中尉は何にします?」

「あー、今日は俺は…」

二人は少し遠出をして少し寂れた洋食屋を訪れた。コーヒーから出る白い湯気を橙色に染めるランプの下で二人はカルボナーラを啜った。店内は洒落た具合に薄暗く、彼らの影は深く黒い深淵を作った。いくつかの沈黙を挟みながらも世間話に花を咲かせた。昨日はイザークに叱責はしたものの、アスガン中尉はよくイザークに共感した。

「中尉…地球出身なんですね。ええ…ええ…そうですか、お父さんが連邦軍少佐で…。ドイツってどんな国なんですか?俺、行ってみたいです。」

「ああ、今は面白いものはなんもないけど、機会があれば来てみるといい。…そういうお前の故郷はどこだ?地球のことあんま知らねぇってことは、お前、スペースノイドか?」

「…はい。」

一瞬の間があった。

「ああ…悪い。一年戦争の戦火に焼かれたのであれば、話さなくていいぞ。」

イザークの暗くなった目下を見て中尉は気を遣った。

「ええ…まぁ…そんなところです。」

イザークの胸には、紅い紅い亡国の血潮が燃え滾っていた。

 

To be continued…

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