「エーヴィリーベの実」〜わたくしのゲドゥルリーヒはヴィルフリート様です〜 作:ピースちゃん?
「おーい、マイン。いるのか?」
「シュウちゃん」に気をつけろとベンノさんに言われた次の日。今日もシュウちゃんは門にやってきた。昨日より明るくて、はつらつとしていたけど、わたしは緊張のせいかちょっと硬くなった返事をしてしまった。
「あ・・・あ、し、シュウ、ちゃん・・・?」
そんなわたしの様子を見たシュウちゃんはちょっとだけ目尻を下げて、すぐに、満面の笑顔になった。
ふわっと警戒心が解けて、霧散していく。代わりに、ほんの少し暖かいような安心感が包みこんで、さっきまで何を気にしていたのか、よくわからなくなりそうになった。
(だ・・・ダメダメ!!)
慌てて頭をブンブン振って安心感を吹き飛ばす。すぐに警戒心が戻ってきた。
昨日のベンノの声が頭に響き渡る。
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『アイツがどんなやつなのかは俺は知らん!けどな!少なくとも警戒しようとしてもできない相手ってことだ!それは警戒してもしきれないやつよりも数倍やばい!!
それを肝に銘じろ!!!』
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もしかしたら、植物紙の製造法を盗みに来たのかも知れない、とベンノに言われて、わたしは背筋が凍った。
植物紙の作り方はまだ洗礼式も終えてないわたし達にもできるぐらい簡単だ。作り方を盗まれたら終わりなのだ。
わたしはもう一度気合を入れ直した。
「なぁ、シュウ。マインに紹介したいやつが居るんだ!」
「そうなの?どんな人?」
「それはだな・・・」
シュウちゃんは満面の笑みのままでガサゴソとトートバッグをあさり始めた。
私はもうその笑顔だけで警戒心は消えちゃいそうだけど、なんとか奪われないよう、必死に警戒心のマントで体を囲む。
・・・よーし!もう、どこからでもかかってこーい!
「こいつだ!!」
シュウが私の作ったトートバッグから出したのは、小さな青紫の毛並みをした赤い瞳のウサギだった。
「わぁっ・・・・・・かわいいっ! なにその子!?」
さっきまでの警戒心はすぐさま消え去った。うさぎは小さなシュウちゃんの手の中にきれいにくるまっていて、こっちをキョロキョロと見ながら、「プヒプヒ」と鳴いている。
シュウはちょっと得意そうに胸を張った。
「こいつはロリーナ。シュウの家で飼ってるシュミルだ」
多分、シュミルっているのはこのうさぎ型の動物のことだろう。プヒプヒ鳴いていて、とても可愛い。
「・・・マイン、ロリーナ、持つか?」
「え!い、いいの!?」
「ああ。けど、こいつ、人懐っこいけど気分屋だから、気をつけろよ」
そう言って、シュウちゃんはロリーナをそっと私の手のひらに置いてくれる。
まるでお人形みたいに小さいけれど、確かに手のひらからホンワリとした温かみが感じられる。
「え、あ、ど、どうしよう、シュウちゃん!!こ、このままじゃロリーナを撫でられないよ!!」
「ぷっ・・・・・そ、そのままテーブルに下ろせばいいだろ?大丈夫、シュミルはおとなしいま・・・動物からな」
私はシュウちゃんの言う通りそっとシュミルをテーブルにおろした。
鼻をひくひくと鳴らして、「プヒ?」と一声鳴いたロリーナの背中をゆっくりと撫でる。ふわふわの毛が手に触れて、思わず顔が緩んでしまう。
「か、かわいい・・・」
「だろ?シュウの家族なんだ」
そう言って、本当に優しい笑顔でロリーナの背中を撫でて、自分の方に乗せる。ずっと慣れているのか、ロリーナは怯えた様子もなく、「プヒプヒ」と鳴いているだけだ
・・・そういえば、シュウちゃんの家族ってどんな仕事してるんだろ?
すっかり忘れていたけど、これもベンノさんからシュウちゃんに探ってこいと言われたことの一つだった。シュウちゃんの家族については、オットーさんも「貴族と関わりがある」としか聞いていない。
いつものオットーさんなら詳しく聞き出していたかも知れないけど、シュウちゃんは警戒心だけじゃなくて、商人の利益魂さえも綺麗サッパリ忘れさせてしまうらしい。
「あっ!!」
商人の利益魂、のところでベンノさんから預かった紹介状を思い出した。シュウちゃんと二人っきりで話したことで、ベンノさんにとんでもなく怒られて、もう一度話をしてこいと怒られたのだ。
「・・・マイン?どうしたんだ?」
「えーっと・・・昨日、シュウちゃんの妹ちゃんに渡す髪飾りを話し合ったでしょ?
けど、わたしはまだお店の仮登録のみだから、お金の関わることは保護者のベンノさんと一緒じゃないと商談ができなくて・・・それでベンノさんにすごく怒られて、これ、シュウちゃんに渡してこいって言われちゃったの」
わたしはベンノさんの達筆な字が書かれた木札をシュウちゃんに渡す。
もしかしてシュウちゃんは文字は読めないかも知れないと思ったけど、シュウちゃんは真面目な顔で、木札の文字を目で追っている。
「わかった。2日後の5の鐘で、ギルベルタ商会だな」
「ちょっと早まっちゃってごめんね?」
「・・・別に良い。シュウがマインの事情も考えてなかったのが悪いんだ」
シュウちゃんが木札を読み終えて、しばらく宙を見つめた時、はっとわたしの方を見た。
「・・・ん?そういえば、この、ベンノってのは誰だ?マインの父はギュンターだろ?」
「ああー・・・」
すっかり忘れていたけど、この世界では親とは全く違う職業につくのは極めて難しい。
ルッツのように親から猛反対を食らう場合もある。
シュウはわたしの父親がギュンターであることを知っていたから、多分わたしの母親のほうが商人であるとでも思っていたのだろう。
「ベンノさんは、その、オットーさんの異母兄弟で、わたしとはとくになんの関係がないんだけど・・・わたし、どうしても作りたいものがあって、だから、オットーさんにお願いして、ベンノさんを紹介してもらったんだ」
「・・・売りたいものって、その髪飾りのことか?」
わたしは首を振った。
「ううん。わたし、紙を作りたかったの」
「・・・紙?紙って、羊皮紙のことか?」
「違うよ。わたしの作った紙はね、植物からできるの。しかも、羊皮紙より簡単にできて、しかも安いんだよ?うふふん、すごいでしょ」
「すごい・・・!マイン、本当にすごいな!!すごい!!!」
思ったより本気で褒められた。シュウの頬は紅潮していて、いつもはあまり見えない緑色の目はちょっと色が変わっている。よっぽど興奮しているんだろう
「えへへ・・・それなら、シュウも紙が造られているとこ、見てみる?結構面白いよ?」
そう言うと、とたんにシュウの顔の温度が3度ぐらい下がって、急に真顔になった。
「だめだ、マイン。それ、見せちゃだめなやつだろ。マインの保護者のベンノってやつに怒られるぞ」
はっと目が覚めた。本当だ、さっきまでちゃんと考えてたはずなのに、うさぎショックですっかり消え去ってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「別にシュウは大丈夫だけど・・・マイン、そういうことは気をつけたほうが良いぞ。商人になるんだろ?」
「うう・・・そうなんだけどね。やっぱり、いきなり自分の常識を商人風に変えるのって難しいじゃない?」
「けどさ、普通は変えるのが難しいから、皆自分の親の職業につくんだろ?それに抗ったんだから、そういうことはちゃんと覚悟しといたほうがいいぞ」
「・・・ごめん。甘いこと言ったね」
そうだ。「常識がないから」なんて言ってる場合じゃない。その常識を捨てる決断をしたのはわたしなんだ。
そう、新たな決意をした3日後、あっという間にシュウちゃんとの商談の日がやってきた。