「エーヴィリーベの実」〜わたくしのゲドゥルリーヒはヴィルフリート様です〜 作:ピースちゃん?
その日、わたしは朝早くから門のところへ向かった。
ルッツはもうギルベルタ商会でベンノさんとマルクさんと一緒に商談の準備をしている。
「マイン。来たぞー」
「うん。ちょうど計算も終わったとこだし、ギルベルタ商会に行こっか?」
「ああ」
シュウが門のところへ来て、わたしはシュウとギルベルタ商会へ向かった。
「シュウちゃん。ベンノさんには、ちゃんと敬語を使わなくちゃだめだよ?」
「・・・なんでだ?」
シュウちゃんは不思議そうに首を傾げた。
シュウちゃんはいつも年上の大人の人でも敬語は全く使わない。けど、今日は商談に行くのだ。商談では、まず第一印象が肝心だ。
「今日は商談で、相手のベンノさんはギルベルタ商会のオーナーだよ?それに、もしベンノさんが不機嫌になったら、シュウちゃんに髪飾りを売ってもらえないかもしれないでしょ?」
「・・・それは、困るな」
まだ洗礼式を終えたばかりのシュウちゃんと、もう何年も商人の世界でやってきたベンノさんとでは、立場が違う。
そこそこ大きい会社の見習いと、今成長中の若手社長では、どう考えても社長のほうが立場は上だ。
「だから、苦手でも、今日は敬語を使おう?ほら、わたしも、頑張って見ます!」
「・・・なるほど、わかっ・・・わかりました。やって、みます。」
「うん、シュウちゃんいい調子」
ギルベルタ商会について、その二階に上がると、いつも通りのベンノさんとマルクさん。それから、リンシャンで髪をツルツルにしてギルベルタ商会の見習い服を着たルッツがいた。
「紹介するね。こっちがギルベルタ商会のオーナーのベンノさんだよ」
「オマエが、マインの髪飾りを買いたいって言ったシュウだな?ベンノだ」
「あ、・・・えーと、は、はい。シュウ、です。よろしく、おねがいします、ベンノ・・・さん」
シュウちゃんは本当に敬語に慣れてないようで、たどたどしい敬語で挨拶した。ベンノさんの表情に不穏なところはない。おそらく、及第点をもらったのだろう。
「なら、早く本題に入るか」
丸いテーブルにベンノさんとわたし、それから反対側にシュウちゃんが座って、本題の商談が始まった。
「で、まず、どんな髪飾りが欲しい?」
「ベンノさん。もうそれは話し合いました。こんな感じの丸くて小さい花をたくさん真ん中につけて、いつもの花で囲ってほしいそうです。真ん中は青紫の糸で縫って、縁は金色の糸。いつもの花は薄い緑色で、糸はすべて最高級のものを使って・・・」
わたしが失敗作の髪を束ねたメモ帳を見ながらこの間シュウちゃんと話し合ったことをベンノさんに伝えると、ベンノさんは顔をくわっとさせて、怒鳴りたいのを我慢しているような顔になった。
・・・もしかして、なんかわたし、やっちゃいました?
マルクさんにこっそり小さな紙を渡されて、開いてみると、「黙れ」と書かれてある。
うん、これはなんかやっちゃったね。はーい。お口チャックします
「・・・シュウ、もう一度、話し合いたい。それによって、髪飾りの値段も大きく変わる」
「はい」
それから、シュウちゃんとベンノさんはまた髪飾りについて話し合った。
結局、わたしと話し合ったときとデザインはほぼ変わらなくて、すずらんの花が牡丹のような形になっただけだった。
お金は、わたしの想像の及ばないぐらい高くなって、小金貨3枚になった。
おもわず、ひぃっと喉の奥で悲鳴を上げた私に対して、シュウちゃんは少し顔をしかめながら、無言でベンノさんに3枚小金貨を渡した。
・・・さすが、お金持ち!けど、これを表情を変えずに受け取るベンノさんも大概だと思うよ!!
「・・・で、ここからが本題だ」
商談に一区切りがついた時、ベンノさんは真剣な顔で、シュウちゃんを射抜くように見た。
「オマエはなんだ?」
その質問は、まるでルッツが私にしたときの質問で、思わず手を固く握る。
シュウちゃんの場合は、いつもの笑顔で、「何、とはどういうことでしょう?」と言った。
「・・・平民にしては、所作が整いすぎている。まるで貴族のようだな」
「シュウの家は没落したといえども、一応は元貴族だからでしょう。家族はシュウの教育には厳しかったのです」
この時、初めてシュウちゃんの家が没落した貴族だと知った。どおりで、お金をいっぱい持ってて、「貴族と関わりがある」とか言っていたわけだ。
「他に、なにか質問はありますか?」
シュウちゃんが笑顔で首を傾げる。
ベンノさんはそれに表情を崩さず言った。
「・・・だが、いくら没落した貴族だとしても、オマエの妹は随分お金をかけてもらっているんだな?・・・たかが髪飾りに、小金貨を使わせてもいいぐらいに」
「妹はアーレンスバッハの下級貴族のもとへ愛 妾としていく予定なんです・・・そんな子にかけるお金ですよ?小金貨ぐらい、出してくれるに決まってるじゃないですか」
シュウちゃんはニッコリとマルクさんに似た凄みのある笑顔でそう言った。
ベンノさんもすごみのある笑顔でシュウちゃんを睨んだあと、いくら経っても口を割らないシュウちゃんにベンノさんが根負けしたように、ため息をついた。
「ところで、オマエ、髪を綺麗にする液、というのに興味はないか?」
ため息をついて、顔を上げたときは、ベンノさんは商人らしい利益を考えた笑顔になっていた。
シュウちゃんは顔を訝しげにした。私達が作った簡易ちゃんリンシャンのようなものは、どうやら貴族街にもなかったようだ。
シュウちゃんはわたしの方へ質問を求めるようにして顔を向けたところで、わたしの髪のツヤツヤ具合に気づき、目を少し見開いた。
「・・・もしかして、マインの髪が普通の平民とは比べ物にならないほど綺麗なのはそれを使っているからですか?もちろん、それはギルベルタ商会で売られているものなんですよね?」
「ああ。だが、違う」
「・・・はい?」
ベンノの含みのある言葉に、シュウちゃんは意味がわからない、と言ったふうに首を傾げた。
「これは、まだギルベルタ商会では売られてないものだ。けど、今回は特別に、早めに渡してやろう。もちろん、特別料金はかかるがな」
シュウちゃんは目を輝かせた。
この世界では7歳になると貴族は存在を発表することも少ないらしい。おそらく、シュウちゃんの妹がその貴族様に会うのも始めてだろう。つまり、第一印象が決まる大事な場面ということだ。
・・・なるほど、だからシュウちゃんは必死に妹さんの見た目を整えようとしてるんだね。
ベンノさんは多分それを察してわざとまだ商品にもなっていない簡易チャンリンシャンを話しに持ち出したのだ。
シュウちゃんからどれだけお金を搾り取るつもりなんだろうね・・・?
けど、そんなことにシュウちゃんは気づかない様子で、これでもっと妹を飾り立てることができます、と言って、笑顔を深めた。
それと同時に、頭の中にかかるモヤが、少し濃くなったような気がした。
「わかりました!買います!!」
「よし来た!!・・・ところで、マイン。あの液はまだ残っているのか?」
急にベンノさんがこっちに話を振ってきた。シュウちゃんもこっちを見る。
「え、えーっと、多分、2回分くらいは・・・」
「よし、十分だ。ルッツ。今すぐマインの家に行って取ってこい」
「はい。旦那様」
それから、ルッツが私の家から簡易ちゃんリンシャンを取ってきて、それをシュウちゃんに渡して、わたしがシュウちゃんに簡単な使い方を説明して今日の商談は終わった。
わたしの知らない間にとんでもない額のお金が行き交っているような気がしたけど、シュウちゃんが満面の笑みで帰っていったから・・・結果オーライ、だよね?