「エーヴィリーベの実」〜わたくしのゲドゥルリーヒはヴィルフリート様です〜 作:ピースちゃん?
ツェルフリーナは馬車の中で北の離れに続くのを待っていた。馬車の中で、準備するようにふんわりと慣れた笑顔を顔に貼り付ける。すると、体が顔とは正反対に少し固くなります。
そして、やっと北の離れについた。外を見ると、わたくしと同じくらいの男の子と、ヴェローニカ様が立っています。
(・・・この方が、ヴィルフリート様ですか)
ヴィルフリートに初対面の挨拶をした時、口元に浮かぶ微笑とは裏腹に、ツェルフリーナは冷徹な瞳でヴィルフリートのことを観察していた。
ヴィルフリートの髪は薄い金髪で、ツェルフリーナと同じ緑色の瞳をしていた。しかし、ツェルフリーナとヴィルフリートでは雰囲気がかなり異なり、ツェルフリーナが水の女神フリュートレーネだとすれば、ヴィルフリートはまるで火の神ライデンシャフトだった。
ツェルフリーナとヴィルフリートはヴェローニカの監視付きのお茶会を始めた。
「なぁ、ツェルフリーナは何が好きなのだ?」
一番最初に質問してきたのは、ヴィルフリートの方だ。ワクワクとした感情を隠そうともせず、目をキラキラさせながら、ツェルフリーナに問いかけてくる。
ツェルフリーナは、咄嗟に、笑顔を深めた。
こういうときにヴィルフリート々の価値観とは合わない言葉を言えば、少し距離を置かれる可能性もあります。
いえ、ヴィルフリート様は面白い物が好きだから、もしかしたら逆に質問攻めをするかも知れません。しかし、それは珍しい趣味である場合のみ。
どこにでもある趣味・・・例えば、女らしい趣味などは「そうなのか」で終わってしまうでしょう。
しかし、無駄な情報もヴィルフリートに流したくはありません。いい感じに自分の答えを踏み込ませず、ヴィルフリートに好印象を与える答えは・・・
ツェルフリーナは頭をフル回転させながら、それを誤魔化すように、一口紅茶を飲みました。
「・・・そう、ですね・・・わたくし、は、人・・・と話す、ことが好き・・・ですわ。」
一度言葉を止めて、ヴィルフリート様の目を見つめ、恥ずかしそうに笑います。
「ヴィルフリート様、と喋っている、とき、は・・・とても、楽しく感じます」
「・・・そ、そうか・・・私も、ツェルフリーナと喋ることはとても好きだぞ!」
ヴィルフリートが恥ずかしそうな顔をしてから、子供らしい笑顔を向けた。
その顔を見て、そっとツェルフリーナは胸を撫で下ろす。
・・・良かった。これで、合っていたようですね
その後も、自分の考えはなるべく出さず、ヴィルフリートの質問を流してお茶会を過ごしていった。
「ところで、ツェルフリーナは、南の離れに住んでいるのであったな?」
ついに、あの話題に入りました。
わたくしは机の下で静かに拳を握ります。
「ええ・・・そう、ですわ。あそこは、ヴィルフリート様の、様な・・・楽しくなる、お方がいないので・・・とても、つまらない、のです・・・」
「ふむ。そうか・・・ならば、ツェルフリーナ。わたしの離れに来るか?」
思ったより、早く話が進みました。わたくしの方から遠回りに頼む予定でしたが、ここまで楽に進むと、逆に驚いてしまいます。
ヴェローニカ様はヴィルフリート様のいきなりの提案に目を開き、必死にヴィルフリート様を止め始めました。
「ヴィルフリート、そんなことはいけません!!ツェルフリーナと同じ場所に住むなんて!!エーヴィリーベをゲドゥルリーヒに近づけるようなものです!!!やめなさい、ヴィルフリート!!」
必死な顔でわたくしの移動を阻止するヴェローニカ様。しかし、そんな真剣さなど気にもとめていないように、ヴィルフリート様は首を傾げました。
「ツェルフリーナはわたしの妹だ。同じ離れに住むぐらいは良いだろう?それに、ツェルフリーナはわたしを裏切ったりなどせぬ。
・・・ああ、そうだ。ツェルフリーナも私のことは、お兄様と呼んでも良いぞ」
ヴェローニカ様に目もくれず、わたくしに輝く笑顔を見せるヴィルフリート様を見たとき、自分の計画が成功したのを感じました。
「・・・まぁ・・本当に、お優しいお方・・・ありがとう、存じます。お兄様」
そこでさらに笑顔を深めて、ヴィルフリート様に笑いかけて、お菓子を勧めれば、ヴィルフリート様はヴェローニカ様の話など、すぐ耳に入らなくなります。
・・・ここまで扱いやすい人は始めてです。フェルディナンド様はよくどんな相手でも注意せよとおっしゃっていましたから、わたくしは最大限の警戒を払ってこのお茶会に来たつもりでしたが、その必要もなかったようです。
そう、わたくしが思った時、ヴェローニカ様が思わぬことをおっしゃいました。
「・・・では、ヴィルフリート、あなたがツェルフリーナの『ゲドゥルリーヒ』におなりなさい」
「う?」
ヴィルフリート様は、少し小首を傾げました。おそらく(ruby:わたくし:エーヴィリーベの実)にとっての『ゲドゥルリーヒ』というものの意味を知らないのでしょう。
ヴェローニカ様の唇は先程の慌てた様子と違い、歪んだ形に曲がっています。
・・・そう、来ましたか
わたくしは、緩みかけた警戒心をもう一度きつく締め直しました。
それから、ヴィルフリート様の側仕えが、ヴィルフリート様に『ゲドゥルリーヒ』の意味をお伝えしました。
「ふむ・・・なるほど。・・・わたしは別に良いが、ツェルフリーナは良いのか?」
この場で無理だと答えれば、ヴェローニカ様に「ヴィルフリート様と敵対する」と言っていると思われてしまうかも知れません。
わたくしの答えなど、一つしかありませんでした。
わたくしは、まるで義務のようにふわりと微笑みます。
「ええ・・・身に余るほどの、願いです・・・わたくし、は、・・・ヴィル、フリート、様、に・・・わたくし、の『ゲドゥルリーヒ』を、捧げ、ようと、思い、ます」
「ああ!わたしは、それを受け入れるぞ!ツェルフリーナ!!」
ヴィルフリート様はわたくしの気持ちなど考えようとせず、さも嬉しそうに微笑みました。
ヴィルフリート様の後ろにいる側仕えたちも、「良かったですね、ヴィルフリート様、ツェルフリーナ様」などと言って、笑顔でわたくし達の事を祝福しています。
わたくしはいかにも幸せそうに、笑います。
「では、ツェルフリーナ。わたくしがあなたの荷物をここに移してあげましょう。もちろん、『ゲドゥルリーヒの誓い』の儀式の準備も整えて差し上げましょう」
準備には、おそらく1週間ほどかかると思いますわ。と、ヴェローニカ様は赤い口紅のついた唇を歪ませました。
・・・つまり、わたくしはその一週間は別のところで暮らさなければならないということですね
ヴェローニカ様らしい、嫌がらせです。しかし、わたくしならば、いざとなったら平民として止まることもできます。問題は、側仕えたちです。
「まぁ、ありがとう、存じます。ヴェローニカ様・・・しかし、わたくしの側仕えは一体どうすればよいの、でしょう・・・」
「あなたの側仕えは、一旦、わたくしの側仕えになってもらいます。部屋は十分ございます。安心なさって」
・・・ええ、わたくしは自分でなんとかしなければならないのですね。わかりました。
その後は、わたくしはヴィルフリート様とお話をして、そのお茶会を終わりました。
最後まで、ヴェローニカ様の笑顔が、頭から離れませんでした。