注意 東方シリーズの二次ですがキャラクターを知らないという方にはおすすめできません。今作ではキャラクターを知っていることが大前提で書かれております。ですのでそれ以外の方は読まれることはやめておいた方が良いかと思います。
2013年11月7日 修正しました。
昔々、日ノ本には神々が暮らす都市があった。
広大な山脈を背に、前面には穏やかな波をしている海。さらには山から流れてくる川によって、肥沃な大地が出来、多くの穂が生い茂り風に揺れる。見るものを思わずはっとさせるほど美しい自然の光景が広がっている。そんな自然の中央に、神々が暮らす都市、高天原が存在していた。
高天原の周りにはそこ以外に発展した土地はなく、だだっ広い葦原が広がっている。さらに遠くを見ると、ようやく人らしき存在が獣を追いかけ狩猟していた。
周りと明らかに違う環境におかれているその都市は、人間業とは到底思えない優れた技術で建築され、平穏な世界を都市の内側にもたらしていた。その都市の中で最も高い建物の最上階に、三人の人影があった。円周状の机と、椅子が三つだけあるその部屋で、影たちは何やら言い争いをしていた。いや、正しく言うと二人だけが激しくお互いを否定し合い、それを一人の影が冷静にその行く末を見守っていた。
「何故です! 何故あなたはこの地を離れようとしないのですか!」
「何度も言っている! お前がこの地を穢れた地と考え、嫌っているのは知っている。お前にとって、もはやこの地は神々が暮らせる場所とは言えないのだろう。だがな、私は違う。私はこの世界が好きなのだ。この場所が、今立っているこの大地が! それに、私は神ではない。只の人間だ」
「そんなことはない! あなたが神でないとしたら、いったいどれだけの神が人間になると思いですか。神であるあなたにこの地はふさわしくない! ……ねえ、どれだけあなたは戦いましたか? どれだけの返り血を浴びましたか? その拳はどれだけ多くの妖怪と戦って振るい、血を吸いましたか? あなたはそんなことを望んでないでしょう! あなたはかつて私に言いました。武術は振るうためだけに使われるのが一番悲しい事だと!」
言い争いを繰り広げているのは二人の人物だった。一人は男で、もう一人は女。男は白い道着と赤い袴を穿き腰元に黒帯を巻き足袋を履いている。その手には手甲がつけられており、多種多様な武術の服装で動きやすさを追求した服を着ている。黒髪は短く刈り込み、今は険しいが、普段はなかなかの美丈夫と言えるだけの顔立ちをしている。
女性は白銀の布地に背中の中央に金色の真円がデザインされた、ゆったりとしたきらびやかな服を着ていた。一番近い服装は狩衣だろうか。動きやすさと同時に優雅さや気品を追求している逸品だ。さらにその白銀の布地を優しく写し取るように、金色の髪がたおやかに流れ落ちる様は、どんな絵師でも表現はできない。さらにはその髪すら霞むほどに、その器量は良く、とても美しい。いくら美辞麗句で言葉にしようとしても、言葉にはできない美しさがそこにはあった。
激論を交わし合っていた二人は、少しの間だけ止まった。お互いもう言いたいことは言いつくしたのだろう。だから、最後に口を開いた。
「わかってください。命兄さん」
「それはできない。月夜見」
すがる瞳を命と呼ばれた男は振り払った。それにかっとなった月夜見は、その琥珀色の瞳を赤々と燃やし、端麗な顔を醜く歪ませる。
「そこまでよ、二人とも。一旦落ち着きなさい」
また水掛け論が始まりそうになったとき、その場にいた最後の一人が二人を止めた。このままだと一向に話が進まない。そう判断したからだ。
「むっ! 私は! いや、すまん。八意。少し頭を冷やすべきか。」
「すまん、☓☓」
話を中断させたのは白銀の髪に、赤と青の色合いが交互に入れ替わる珍しい装飾の服を着た人物だった。その顔立ちは知性にあふれ、自身に対して絶対の自信を持っている面貌だ。彼女の名前であろう言葉はひどく発音が難しく、異国の言葉のようにしか理解できないほどだ。
彼ら三人がいる場所は高天原の中枢であり、高天原のすべてを決める意思決定機関の役割を持っていた。
月夜見は政治の長であり、この地の政治を担当している。命は軍部の長を担当しており、この都市の防衛をしている。そんな二人と話し合いができるだけの地位をもっている女性は研究開発の長として、この都市を発展させてきた。この三人による権力の分散は、誰かが暴走するのを止めるストッパーとしても機能している。今まで一度も使う必要はなかったが。
しかし今は違う。高天原の運営に命が口を挟んだのだ。命にとって、残る二人が推し進めていた計画は到底許せるものではなかった。それは高天原の移住計画だ。それもただの移住ではない。この星から月へ移住するという内容なのだ。
「私としても月夜見の意見に賛成よ。貴方以上に信用できるものはいないし、戦闘という一点では貴方を超えるものはこの都市にすらいないわ。貴方がいる。それだけでこの都市にいる人々の心のよりどころになるように、月で万が一のことが起きても貴方がいるだけで私たちは安心できるものよ」
「それは……」
「とはいえ、貴方のことだからきっと納得しないでしょうね。この場にいる中で最も頑固な人だから」
女性は大方自分の予想通りになったことに、内心舌打ちをしていた。実際予想はできてはいたが、それでもかすかな期待はどうしても消しきれなかった。それほど、命の力は大きく魅力的だった。
「貴方の能力は『衰えない程度の能力』。一度身に着けた技術だけではなく、肉体年齢も衰えない。つまり、疑似的な不老長寿であるわ。だからこそ、貴方がもしこの地を離れる必要性や離れたいと思えば月からすぐに迎えに来ればいい。それがあなたたちの話し合いを聞いていて私が導き出した妥協案よ」
「××! それでは遅すぎる! 不老かもしれないが不死ではないのだぞ! もし、最悪の事態がおきたら」
「私はその案になら賛成しよう。おそらくは、月に行くことはないだろうが」
「命兄さん!」
「悪いがここまでだ。これ以上は譲歩できない」
席を立ち男は背を向ける。それは事実上の拒絶。残された月夜見の表情には絶望すら浮かんでいた。命が扉をくぐり出ていき、しばらくしてから彼女は床に崩れ落ち、幾度もその拳を床に叩きつけた。あんまりな力の込めように、頑丈なはずの床はいとも簡単にひび割れていく。
「何故だ!? 何故わかってくれない!! ××、貴方だって知っているだろう! あの時のことを。八岐大蛇の襲撃の時のことを! 幼かった私とこの都市を助けるために兄さんが命をかけて戦ったのを!!」
かつてこの地は強大な力を持つ存在と交戦したことがある。
腹は血に染まり、八つの首が独自に動き獲物を喰らおうとすると神話において伝えられている蛇、いや龍の一種である邪神と。
その時月夜見はまだ幼く、そんな彼女と都市を守るために、たった一人で命は生命を
投げ捨てる覚悟で闘い、都市を救ったことがある。その時月夜見は恐怖したのだ。自身に様々なことを教えてくれていた彼が死にかけたことも、そして自身から彼を奪おうとした八岐大蛇をはじめとする妖怪を。
だからこそ、彼女は妖怪がいるこの地を穢れていると言い、彼を妖怪のいない世界に行かせようとしたのだ。結局都市の移転計画など、月夜見の我が儘でしか過ぎない。ほかにも彼女が大切としている者たちも連れて行こうとはしているが、その中で最も彼女の心の割合を占めているのは命だ。彼女が大切としている者たちは神として存在するものがほとんどだし、たとえそうではなくとも莫大な霊力や気を使うことができる。
「××、わかるか? 命兄さんは素の肉体でしか戦えないということを! 霊力や気、魔力でもいい。もしそれらであの人の力を底上げできるというなら私もここまでは言わない。だが、命兄さんはそれらの力が使えない!! 生身で戦うがゆえにその限界は、ほかのものよりはるかに多く、負担になる! 私にはそれが耐えられない」
体質的な問題なのかは分からないが、命は霊力も気も魔力も使うことができなかった。厳密に言うと気に関しては少し違うが、限界を簡単に、大幅に超えるなどという事はできないだろう。それでも日々その肉体を鍛え続け、いつしか命は肉体という器の限界を超えていった。それは邪神にすら敵うほどに。
だが、その一方でそれだけの力を振るう彼とて、魔法や霊術を使う人間より弱い部分があるのは事実なのだ。
「だからこそ私は月へ行こうとしているのだ。兄さんが傷つかないように、苦しまないように、戦わないように。なのに何故理解してくれない!!」
「きっと、彼はあなたの気持ちを理解しているわ。けどあなたも知っているでしょう? 月夜見。あの人は一度決めたことは決して覆さない。それは強さでもあり、弱さでもある。あの人は貴方の気持ちをわかっている。けど彼の心がそれを許さない。彼はここから離れられないのよ」
わかっている、本当はわかっているんだ。
そう月夜見の声が響く部屋の外で命は一人立ち尽くしていたが、また歩き出す。
「すまない。私にはお前の気持ちにこたえることができない。天照様からお前の面倒を頼まれていた。いまでもお前が進む道を見なければならない義務が私にはあるだろう。けれども、私は月に行くのだけは認められない。お前のような神はまだしも、私のような人間の器を持っているものは、地上でしか生きられないのだ」
建物の出口へと歩きながらその心情を吐露していく。
建物を出たところにいた名もなき神が頭を下げたのを横目に見ながら、命は出口を出ていった。
元ネタは素戔嗚尊です。二次小説なので原作を一部無視します。
月夜見が男か女かなんてわかりませんし、都市がそこまで月の前身の都市がそこまで巨大かもわかりません。また、主人公が人間では天岩戸は? と思われるかもしれませんが、一応ありました。理由は違いますが。
これからよろしくお願いします。