東方武神録   作:koth3

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武神と鬼の闘い

 早朝、草木も眠るころではないが太陽がまだ出ていないくらいの時間に命と月夜見は都市の外に出ていた。

 

 「ここ何処ですか!?」

 

 ふと起きたら目の前には天井の木目ではなく大自然の星空が出迎えたのだ。あまりの事に驚いた月夜見は敬語で叫んでしまう。

 

 「高天原の外だが?」

 

 それに簡単に答える命だが実際はそう簡単な話じゃない。高天原は夜になれば外に出る方法は不可能になる。外につながるもんは封鎖され塀の上から飛んで出るにしてもサーチされて出ることなどは不可能だ。なのになぜか今命と月夜見は出ている。

 

 「如何やって!!?」

 

 心の底から驚愕した月夜見が叫んだのを聞きながら命はそれに簡潔に答える。

 

 「何、塀の上から出てきたのだ」

 「塀からは出られないはずよ!」

 「いや、そうでもないぞ。塀の上数メートルはサーチされているが塀の上数メートルまでならサーチされないぞ?」

 

 だからと言ってそんな方法で外へ出る人間がいるなど考えられるはずがない。というより人間よりはるかに感覚の優れている神を一柱抱えてその神を起こさないように走れる人間がそもそもいない。

 

 「さあ、修行といこうか」

 「助けてぇ!!? 姉さま!!!」

 

 悲しいかな。太陽の神は今は眠っておりその言葉は決して届くことはない。そうして二人は夜の闇の中を消えていった。

 

 

 

 命が踏んだ石がじゃりと擦れ合う。その音に鬼の大群が一斉に顔を命に向けて笑い出す。

 

 「ホッ、きおったわい! 楽しみな人間じゃな!」

 

 一体の厳つい顔に赤い体に二本の角を伸ばした鬼が命を見て豪快に笑いだす。それを眺めながら命は静かに鬼達の前まで歩き正面から鬼達に向かい合う。

 そんな命を見た女の鬼は命を称えて一つの提案をする。

 

 「人間よ! 今回の戦いは我ら鬼が提案したもの。お前たち人間の望みを言え! ならば我ら鬼を打ち負かした時我らは必ずその望みを果たそうぞ!」

 

 それは鬼の戦いの前に挙げる決まり。鬼にとって人間との戦いはそういったもの。弱い存在でありながらも強者である鬼に打ち勝つこともできる勇敢な、そして強き者。だからこそ彼らは鬼に勝てた人間を褒め称え、望みをかなえる。強者たる鬼を打ち負かした人間への鬼からの最大の敬意だ。

 

 「いらん」

 「何?」

 

 だからこそ命の言葉に鬼は反応しそこなった。

 

 「私はあの村の者ではない。唯の旅人。あの村で何か欲しいものがあるわけでもなし、望みもない。だが一つだけ村の全員としてではなく私の提案を受け入れてもらえばよい」

 「そうか。ならその提案を言え。内容によっては拒絶させてもらうがお前の勇気に敬意を表してお前の提案に出来るだけ従おう」

 「ならば私からの提案は一つだけだ。私が勝ったらあの村には手を出すな」

 「……アハハハ! 自分の望みではなく何の関係もない村を救うって? 気に入ったよ、人間。名前を聞いて良いかい?」

 「素戔命。唯の素戔命だ」

 「そうかい、命。では私も名前を返そう。山の四天王が一人、力の星熊勇義だ」

 「勇儀、では始めるか」

 「ああ、始めよう」

 

 そう言って二人は構えだす。余りにも唐突にはじめられた事に周りの鬼が不穏に思う。何で戦うかも、ルールすら決めていないのになぜ二人はああやって戦う準備を始めているのだ? と。

 そしてその答えはすぐに分かった。

 最初に周りの鬼が見た戦いの軌跡は見えなかったこと(・・・・・・・・ )だ。

 

 「え?」

 

 目の前から対峙していた二人が消えている。今も樹木が宙を舞い、川は切り裂かれて二つに裂けている。あまりの高速の戦いにほかの鬼達には今何が起きているかが分からないのだ。

 

 彼らは顔を合わせた時からすでに戦っていた。命は冷静に相手の一挙一足に注意を払い癖を見抜き、考えを理解しようとしていた。逆に勇儀は勘で命の強さを知り、如何やれば勝てるか。如何すればより楽しく戦えるか。そう考えていた。

 だからこそ、あの時二人は同時に戦いを始めたのだ。

 最初は命が繰り出した前蹴り。くだらない槍よりはるかに鋭く、凡百の鎧では簡単に貫かれてしまう程の鋭い蹴りを勇儀は拳を叩きつけて力で止めた。そのまま勇儀は加速を利用して命の懐に入ることに成功すると顎をめがけて拳を振り上げる。まるで台風のような風切り音とともに繰り出された一撃はしかし、命がわずかに首をそらして周りの衝撃波すら完全に避けて繰り出されたカウンターとなって返される。

 

 「ハッ!」

 

 だが、それも鬼には温い。避けながらの一撃では鬼にはまともなダメージにはなりやしない。そう言わんばかりに打ち下ろされた拳を頭突きで迎え撃つ。

 だがそれもダメージとはならなかった。命は勇儀と違い拳を握りしめるのではなく指を僅かに湾曲させて伸ばしていた。勇儀の角は凄まじいまでの硬度を誇る。其れこそ唯力づくで角を突き刺せば大岩すら貫通するくらいに。しかしその一撃は命の貫手で止められる。

 

 「やはり、鬼というべきか」

 「いやいや、謙遜するべきではないだろうに。私の一撃を止められるのはそうそういないよ」

 

 両者は笑いながら拳を、蹴りを繰り出していく。外れた一撃は樹木を地面から根ごと剥がして吹き飛ばす。蹴りの衝撃で川の水が切り裂かれる。お互いが繰り出した攻撃で地面はあっという間にボコボコになり、まともな足場すらなくなってしまう。だがそれでも止まらない。

 

 「セイ!」

 

 此処で命が前に出る。まだ生えている樹木をバネにして使いさらに速度を加速させて上空から幾つもの突きを繰り出す。

 

 「千手観音!」

 

 あまりに早く繰り出された突きはまるで千本の手で繰り出されたかのように残像を残して勇儀に襲いかかる。上下左右目の前の空間がまさしく拳に埋め尽くされたその一撃。

 

 「甘いよ!」

 

 だが、それに勇儀もまた呼応するかのように速度を上げて打ち落としていく。余りの力の炸裂により命の体は浮き上がり、勇儀の足は地面にめり込んでいる。

 

 「さて」

 「ああ」

 「「全力を出すとするか」」

 

 勇儀が下から命を鋭くにらみ、命は上から勇儀を睨み返す。それと同時に二人が突きを放つのをやめる。そうすれば突きの反動で浮かび上がっていた命は地面に落ちてき、地面に着地すると同時に二人は大きく後ろに間合いを取る。

 静かに闘気を高める二人を見て鬼の群れたちも思わず息をのんでしまう。そして分かる。今までの戦いがあの二人には様子見の範疇だという事が。これから行われるのは今までの比ではないという事が。

 一匹の鬼がわずかに唾をごくりと飲み込む。その音を合図に二人は前に飛び出して再び衝突を始める。




次回には決着です。
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