東方武神録   作:koth3

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武神と鬼の闘い 第二幕

 青い空。キラキラと光を反射する清流。優しい木漏れ日の差し込む森。何とも素晴らしい光景だ。……そこで行われていることを除けば。

 

 「死ぬ! 死ぬ死ぬ!」

 「この程度では死なん。それよりももっと感情を爆発させろ。唯焦るのではない。周りの世界そのものを感じ取れ」

 

 そう言って命は手に持った小石を投げる。但し、その威力はライフルすら超えるほどの勢いはあるが。

 

 「いやいや! そんなこと聞いたことないって! というより、さっき言っていた『動の気』って何!?」

 

 月夜見の叫びを一切無視して、命は月夜見の周りを円を描いて移動する。

 

 「余計な動きをすれば一撃が入るぞ。何時、私が石を放つかを感じ取るのだ。自分自身の感覚を信じろ」

 「信じろって言ったて! キャアアア!!」

 

 額に衝突した小石の衝撃に体を宙で三回転もしてから月夜見は体を地面に叩きつけられた。

 

 「ほら、寝ていると死ぬぞ?」

 「一寸待って、殺す気か!」

 

 上空から拳を構えて、月夜見の顔めがけて振り降ろしている最中の命と目があった月夜見は叫んでいた。

 

 「なら避けろ」

 「鬼~!」

 「私は人間だ」

 

 地面に叩きつけられた拳によって砂塵が巻き上げられる中、悲鳴と破砕音が山の中を響き続けていた。

 

 

 

 二つの拳が何度も衝突する。時には全てを貫く貫手。時には意表を突く裏拳。時には全てを粉砕する正拳。

 四つの足が縦横無尽に空間を引き裂いていく。槍のように鋭い前蹴り。三日月を思わせる回し蹴り。

 

 「はぁあああ!!」

 「せりゃああああああ!!」

 

 次々に繰り出される攻撃を二人は対処していく。

 命はその、一撃でも喰らってしまえば死ぬかもしれない攻撃を捌いていく。

 時には技で、時に体捌きで。それとは対照的なんは勇儀だ。彼女は攻撃を避けたりはしない。確かに時には命の一撃を打ち落とすなどをしているが、ほとんどは殴られてもそのまま。むしろ殴られながらも攻撃をしている余裕すらある。

 

 「っち! 分かってはいるが、それでも儘ならないものだ!」

 「はっ! 唯の人間がここまで戦えること自体私はおどいているよ!」

 

 この戦いはそもそもが圧倒的に命に不利なのだ。なぜなら、彼には一つの欠陥がある。

 

 「それにしても難儀な体だね! 霊力も、気も使えない体なんて!」

 

 長い間生きた勇儀だからこそ分かる。

 命は素晴らしい。肉体も技術も。そして何よりその精神が。だが、それでも彼には大妖怪相手に勝てる訳が無い。そう勇儀は考えていた。何故ならここまでの闘いに一切の術を使わなかったからだ。

 妖怪と戦う際人間は退治屋を雇う。なぜなら力の差などもあるが、霊術を退治屋は使えるからだ。術の効果は人間が出せる限界を簡単に超えられる。本格的に修行をした者ならば、指一本動かさないで河を割る事すら可能だ。だが、命はそれに当てはまらない。当てはまる事が決してできない。

 

 「元来こういう体だ。最初から諦めている」

 「そうかい! ならばこちらも手加減はしないよ!」

 

 命の体には霊力も気もない。彼が気と呼ぶものもあるが、それはあくまでも心の持ち方。身体能力を強化するようなものではない。つまり、彼は人間という脆弱な体で最強の鬼と戦っているのだ。

 

 「っつ!」

 

 勇儀が放った一撃。それは先ほどまでの一撃とは違う。力任せの一撃から質が変わった。

 今までは錘を入れたバッグを振り回していたようなものだが、今の勇儀の攻撃は鉄の棒で的確に相手を攻撃するような形に変わっている。

 

 「私たち鬼の中でも私は接近戦なら誰にも負けはしない。その理由は単純だ。私が最も接近戦をしてきたからだ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ぽつりと勇儀は呟いた。

 

 「萃香は能力で接近戦をする必要はない。茨木は私よりもはるかに妖術がうまい。他の奴もそうだ。自らの体で戦う以外の方法がある。だから最後に頼るのは結局術や能力。誰も自分自身でぶつかろうとはしない。

 だが私は違う。私の能力は訳の分からない力であっても、それで誰かを倒す事は出来やしない。唯単純な怪力としてしか使えない。

 だからこそ、鬼の中でも私はもっとも近づいて殴る必要があったんだ」

 

 言葉が進むごとに勇儀の攻撃は速く、精密になっていく。一直線だった軌道が曲線を描いたり、弧を描く。時には途中で引っ込んで、虚を突こうともする。

 

 「お前は私にそっくりだ。実直なまでに自分の舞台でしか戦えない。私は近づいて殴る。お前も近づいて殴る。唯それだけしか知らない愚か者さ」

 

 勇儀の一撃が命の受けを抜いて迫る。鬼の中でも最も強い力を持つ鬼の一撃だ。幾ら鍛え抜かれた命でもまともに喰らえば死ぬ。

 だからこそ、目の前で命がした行動に勇儀は驚愕した。

 

 「な! 自分から当たっただと(・・・・・・・・・・)!」

 

 拳に頭突きをかますかのように、命は自らの額を勇儀の拳に叩き付けた。その威力で勇儀の一撃の威力を弱くして。さらにはヒットポイントをずらして最大の一撃ではなく、最小の一撃へ変えて。

 

 「愚か者? 違うな。愚か者なら途中でこの道は諦めている。唯この道を突き進むことしか知らない莫迦者なだけさ!」

 

 トンと軽くおかれた指先の間隔にとっさに勇儀は身をひねった。自分が全力で放った一撃に近い何かを感じ取ったからだ。

 

 「無拍子!!!!!」

 

 前ならえのような構えから体重移動で全体重を前に。空手の引き手で全筋力を稼働させる。さらに筋肉のリミッターを外したかのように一直線に相手を貫く勢いで拳は勇儀の体に深々と突き刺さる!

 

 「がぁあ!!」

 

 それは屈強な鬼にも十分なダメージを与えるだけの力がある。

 今まで攻撃を喰らってもけろりとしていた勇儀が初めての苦悶の表情を浮かべたのだ。

 

 「……避けたか。私のこの一撃を避けたのは二人しかいない。いや、これで三人か」

 「三人? 避けそこなったんだ、二人で良いさ」

 

 ぺっ、と血の混じった痰を吐いた勇儀はそう軽く返す。

 

 (拙いね。今の一撃でアバラが折れた。折れたのが内臓に突き刺さっているかもしれないね。とはいえ、人間がこれほどまでの一撃を放ったんだ。鬼である私が倒れて如何する? 此処まで強い人間にそれは失礼すぎる)

 

 「いやはや、読み間違えた。霊力もなく、気も使えないお前にこの身には届かない。そう決めかかりなめていた!」

 

 豪快に笑う勇儀を見ながら、命は額からの流血をぬぐう。

 先ほどの勇儀の拳で額が割れたのだ。

 

 「これでも頭突きで岩一つ粉砕できるのだがな。お前の拳は大岩よりも硬いという事か」

 「その拳を受けて血が出る程度の人間が言うんじゃないよ」

 

 にやりと口元を歪めた二人はまた動き出した。

 

 「ぉおおおお!!」

 「つぁあああ!!」

 

 二人は動いていない筈なのに周りの地面ははじけ飛んでいく。樹木の幹には拳の跡が浮かんで吹き飛んでいく。岩は一瞬でバラバラに切り裂かれて砂になっていく。

 

 「胴回し十字蹴り!」

 

 勇儀の猛攻を捌く為に開いてしまった間合いを詰めるために、命はその体ごと突撃した。

 体を縦に一回転させての真上からのかかと落としと、かかと落としに使った足を軸足に後ろ回し蹴り気味の横蹴りを放つ。しかしそれは一撃は勇儀に避けられて二撃目は勇儀に受け止められてしまった。

 

 「失策だったね!」

 

 そのまま勇儀は掴んだ足を勢いよく振り下ろす。その結果は命が地面に叩きつけられるという結果だ。しかし勇儀の攻撃は、命が腕立て伏せのような姿勢で勢いを吸収して逃がすことで避けきる。

 

 「セイ!」

 

 掴んでいた腕を後ろ蹴りで外させて、命はさらに倒れ伏している姿勢からさらに技を繰り出す。

 

 「張果老!」

 

 倒れ伏していた状態から態勢を整えるのではなく、そこからさらに体勢を崩した。いや、体勢を崩したのではない。勢いを付けて体を投げ出すことによってその体を宙で一回転させる。さらにひねりを加えることで完全に体勢を戻す。ひねりの混じった裏拳のおまけ付きで。

 それに反応した勇儀はそれを止めようとその腕をつかみ、弾かれた。

 

 「なっ! がぁ!」

 

 裏拳は勇儀の肩を打ち付けた。

 普段の裏拳なら勇儀は止められただろう。だが、今回は違った。宙を回ることで得た遠心力に重力。さらに体ごと利用したひねりで強く弾く力(・・・)が生まれていた。それはいくら鬼の力とはいえ掴ませることは許さない。

 命の一撃を受けた勇儀は一瞬体をふら付かせた。それは僅かな隙。そしてその隙を見逃さないほど命は甘くはない。

 

 「ティー・カウ!!」

 

 そう言って繰り放たれたのは鋭い膝蹴り。余りの鋭さにたとえ大妖怪でも万全の状態ではないと対処できないほどの一撃。それを命は放った。

 その一撃はまっすぐ勇儀目掛けて突き進んでいってその直前に吹き飛ばされた(・・・・・・・)

 

 『■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■!!!!!!!!』

 

 勇儀が辺りを震わすほどの大声で叫んだために。そして命が隙を見逃さない程甘くはないのだとしたら、彼女もまたそうだ。

 膝蹴りを無理やり吹き飛ばされた彼は空中で決定的な隙をさらしてしまう。宙を浮いて身動きが出来ない命に、勇儀は貫手を放ちその宙を吹き飛ばされている体を貫通した。

 

 

 

  

 




張果老はケンイチで登場した際とは違い、倒れ伏して両腕を使っていた状態なので最初の突きは放たれていません。
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